第41話 幕間(3)
ザビールは、テレムセンから王都へ向け逃げ帰る途中、何度も己の見通しの甘さを悔やんだ。
ナタリアから、田舎娘の出生の秘密と、王子からの婚約話を聞きだした時、ザビールは、ベンドアが暗殺の首謀者であることを直感で理解した。自らの血を引かぬ娘を王家に差し出したことが知られれば、国王の怒りを買って改易されかねないことは誰にでも想像がつく。
第3王子レリックの噂を知っていれば、事情を話して縁談を断れば終わる話ではないことも分かる。断ったところで、あの父親譲りの好色な王子が、はいそうですかと納得するはずがない。
レリックは、ベンドアに田舎娘を差し出させて愛妾とし、さらに難癖をつけてくることだろう。そうなる前に、田舎娘を自らの手で処分しようとしたのだろう。婚約する前に死んだのであれば、流石にどうこうすることもできないのだから。
更に本当の娘ナタリアを預かっているとなれば、田舎娘の秘密と合わせてベンドアを脅迫し、自分に協力させることは十分に可能と踏んだのだ。そうして、ベンドアと共にファラリスを殺し、テレムセンの騎士どもを使って田舎娘の付録の銀髪の悪魔を倒す。ザビールはこの線で動いた。
例え、田舎娘が多少悪あがきをしたとしても、結局は侯爵としての立場や権力がものを言うのだ。城兵に有無を言わさず逮捕させればそれでよいと判断してあの会議に臨んだ。実際、途中までは上手く行っていた。
しかし、その筋書きも、あの銀髪の悪魔が現れて台無しにされた。銀髪の悪魔はその存在感で、周囲はおろか侯爵までも圧倒し、場の空気を吞んでしまった。
挙句、騙し討ちの一撃を、予期していたかのように受け止めて見せた。至近距離から爆裂魔法を放ちはしたが、あれで仕留められたとは到底思えない。
今回は、自分の敗北だったと認めないわけにはいかなかった。だが、復讐を絶対に諦めるわけにはいかない。アイヴァーは自分を愛してくれた。口先だけではなく、心から大切にしてくれたのだ
あの日、アイヴァーは自分を庇ってあの銀髪の悪魔に切り裂かれ、そして、悪魔の追撃から逃げる間を与えるために、通信宝玉(水晶玉の魔道具)を爆破して、塵となって消えた。
——アイヴァー、アタシに力をかしてちょうだい! アタシにあんたの仇を討つ力を貸してよ!
ザビールは、アイヴァーの最後を思い出しながら心の中で叫ぶのだった。
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王都ヴォルビリスの宮廷にテレムセン侯爵ベンドア・バーラムより遣わされた内密の使者が訪れたのは、アステルとファラリスがテレムセンを出てから1週間後のことだった。
国王ファーガスに密かに謁見した使者は、ベンドアの言葉をファーガスに伝えた。
曰く、『ファラリスは、バーラム家の血を受け継がぬ、前妻の不義の子ゆえ、王家に輿入れさせることはできない。これまで、どの貴族とも縁談を持たなかったのは、それ故である。今回の申し出は、謹んでお断りするが、バーラム家の陛下に対する忠誠は些かも揺るぐものではない。よって、不義の子ファラリスをバーラム家から正式に離籍し、テレムセンより追放した。これによってレリック殿下を謀った罪をあがなわせることにした。陛下に置かれては、我が苦衷を慮り、何卒ご理解いただきたい』
ファーガスは、第3王子レリックを国王の居室に呼ぶと、ベンドアからの口上を息子に伝えた。レリックは、最初信じられないといった表情だったが、すぐに怒りを爆発させる。
「父上! 許せませぬ! たかが一地方領主が、王家に対しぬけぬけとそのような物言い、わが王家を愚弄しております。これは立派な謀反でありましょう!」
「・・・・そうかな。レリックよ、ベンドアが申してきたこと、余は既に密偵よりの報告で、真実であることを確かめておる。ファラリスは、テレムセンの騎士団長を解任され、今は行方知れずだとか。テレムセンは軍の支柱を失ったことになる。それを謀反とよべるかな・・・・」
「だとしても! いえ、例えベンドアが申す通り、ファラリスがバーラム家の血を引かぬ女であったとしても、ベンドアめは、大人しくファラリスを私に差し出さなければならなかったのです!」
話しながらレリックは、ファラリスの麗しい姿を思いだしていた。
数か月前、レリックは国王代理で使節団の団長になり、隣国ミドラールに向かう途中、テレムセンを訪れた。その時、侯爵の居城でファラリスと初めて出会い、衝撃を受けたのだ。
細く艶やかで、光輝く金髪。
気高さと優しさを放つアイスブルーの瞳。
セリスの白磁の如き白い肌。
それを包む白い男性用の貴族服ですら隠すことができない、豊かな胸。
そして悩ましくも麗しい線を描く肢体。
キスをせがむかのような濡れた唇。
そこから紡がれる、凛として涼やかな声。
全てが完璧だった。この女こそ、光神が自分に与えた恩寵とさえ思った。レリックは、いずれは兄たちを抑え、王位を狙う野心があった。今回の使節団の団長に無理を言って就いたのも、そのための実績作りの一つだった。だが、こうして、その役目でテレムセンに来たおかげで、この女を知った。父や兄たちより早く!
使節としての役目を果たし王都に戻ったレリックが、褒美としてせがんだのが他ならぬファラリスだった。
もはやレリックにとってファラリスは王位と不可分の必ずや手に入れねばならない存在だった。
——諦めることなどできない!
「父上! ベンドアのことについては父上にご判断をお任せするとして、私に獣騎兵をお貸しください。私が獣騎兵を率い、ファラリスを捜索したく存じます。必ずや見つけ出し、わが物と致します。宜しいですね父上!」
「・・・・よかろう。レリックよ、一月与える。一月でファラリスをみつけだせ。貴重な精兵を動かすのだ。出来ぬ時は、分かっておろうな」
それは、王位継承争いからの脱落を意味するものだった。本来なら、そのような分の悪い賭けを継承争いに持ち込むべきではない。それはレリックも十分わかっている。だが、レリックは
「承知しております陛下!」と強く言い放つのだった。
レリックはファーガスに礼をすると、踵を返して急いで退出した。寸暇を惜しんで出発するためだろう。
だが、そのようなレリックの姿を見て
——あれに、そこまで思わせるとは、余程の女に育ったのだろうな、母親に似て。
ファーガスは、暗い笑みを浮かべるのだった。
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もう一話 短い幕間を挟んでから3章を始めます。
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