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第40話 互いの評価



「・・・・それで、お前はいったい何者なのだ。ザビールが悪魔と呼ぶだけあって、こうして直近で見れば、恐ろしいほどの美しさだ。まるで人間離れしているな・・・・」


「侯爵閣下、俺は、ある目的のために旅をしている途中、先日のスタンピードに出くわし、偶然ファラリスと出会った。実を言うと出会ってまだ1週間しか経っていない」


「その目的とは何だ。偶然出会ったと言ったが、本当か? 儂には、お前の全てが作り物のように見えるが」


 ベンドアは、ジッとアステルを見つめ、アステルの中に隠された真実を探り出そうとした。アステルもそれに気付き、覚悟を決める。自分は目の前の侯爵から値打ちを測られているのだと。


「俺の旅の目的を話す前に、俺の気持ち、いや覚悟を話す。だから、あんたもそのつもりで聞いてほしい。・・・・さっき、俺はファラリスと出会って1週間しか経っていないと言った。だが、時間は関係ない。俺がファラリスを守りたいと思う気持ちは誰にも負けない。そう思ってこれまで一緒に行動してきた。だから、言わせてもらう」


 アステルは、ここまで言ってジッとベンドアを見つめた。ベンドアは沈黙を保ったまま、自然と先を促した。


「あんたが、過去にどんなことがあったにせよ、理由は関係ない、ファラリスの命を狙ったことは許さないし、次にまたファラリスを狙うなら、俺は、あんたを殺す。それこそ、どんな手段を使ってもな。だが、これから俺が話すことを聞き入れてくれるなら、俺は、あんたの代わりに、あんたの願いを叶えてやってもいい。それは、俺の旅の目的でもあるからな」


「・・・・何が言いたいのだ。もっとハッキリと言ってみたらどうだ」


 ベンドアもまた、アステルをの本質を見極めるべく、真剣に見つめるのだった。


「要求は、全部で3つだ。1つ目、これからのテレムセンのことは、ファラリスの意見を尊重して決めてくれ。2つ目、ファラリスが実子でないことを明らかにして侯爵家とは無縁の自由の身にしてくれ。3つ目、ナタリアにも本当のことを話してやること。もちろん、二日前の会議に参加した者には、情報を限定して、大事な部分だけ伝えることだ」


「・・・・お前の要求には、自分のことは何も入っていないが、それでどうなるというのだ。一体、何が狙いだ」

「簡単なことだ。俺は自分が一番欲しいものを貰っていく。今の3つの要求は、それを手に入れるための手段だ」


「・・・・・・」ベンドアはまたしても沈黙したが、目だけは先ほどより、鋭さが増した。アステルは、少しだけ微笑むと話をつづけた。


「俺はファラリスを貰っていく」


「ア、アステル!?」 ファラリスは、唐突に自分の名前が飛び出したことで驚きで声を裏返らせた。そして、一気に顔を上気させるのだった。


「俺の旅の目的を達成するためにも、ファラリスが欲しい。だが、ファラリスを俺が連れていくにしても、ファラリスに、このテレムセンの今後に心残りがあったらいけないだろ。だから、1つ目の要求だ。人事を含め、ファラリスの意見を最大限尊重してやってくれ」


 ファラリスは、アステルが切り出した話が分かりだしてきた。それは、自分が心の中に思っていた願望とぴたりと一致していたからだ。


「2つ目も同じだ。ファラリスが姫様のままだったら、テレムセンの人々は、ファラリスがみんなを捨てて出て行っちまったと思うだろ。何より、王子との結婚話もこれで終いになる。スッキリさせた方がいいぜ」


「ふむ。・・・・それで」ベンドアもようやくアステルの話が呑み込めてきた。だから、3つ目の目的が気になったのだ。


「今日ファラリスにしたように本当のことを洗いざらい話すことだ。そうしてナタリアをあんたの味方に付ける。これが、あんたが恐れる王家から、このテレムセンを守るための何よりの対策にもなる。重要なのは、むしろあんたの奥さんや息子の軽率な情報漏洩を防止することの方だろうがな」


「甘いな、ナタリアが儂の話を簡単に信じると思うのか。まして味方につけるなど、そんな希望的な話が罷り通るなら、誰も苦労などせん」


 ベンドアは、アステルの最後の発言には心底がっかりした表情を浮かべた。だが、アステルまったく怯むことなく、言葉を続ける。


「ナタリアが、欲しがっているのは、誇り(・・)だ。自分の価値と言ってもいい。ファラリスが皆から注目され、自分は日陰者の身、この鬱屈した気持ちが、王子との婚約話で吹き出してきた。あんたもさっき、そう分析していたじゃないか。なら、あんたが、それをハッキリ示してやればいい。お前には、相当な価値があるとな。認知を受けていない庶子であったとしても、王家の血を引く娘なんだ。それが、どんな意味を持つのか、あんたら貴族には計り知れない値打ちを持つだろ。現に、あんたもそれで対応に苦しんだはずだ。俺にはさっぱり分からんけどね。」


「・・・・なるほど、ナタリアには、それだけの利用価値があるというわけか。・・・・お前は口は達者のようだ。要求の目的については理解した。では、お前の要求を全て呑んだとして、引きかえに儂の願望を叶えるとはどういうことだ。いったい何をしようとしている」


「わざわざ言わなくても、あんたはもう、気づいているだろ。さっき俺たちに聞かせた自分の昔話から、あんたの願望は口に出しているのも同じだぜ」

「・・・・だが、お前の口からハッキリとそれを聞かん限り、この話はここまでだ」


「だから、あんたは肝が小さいって言うんだ。それこそさっきの自己分析の通りだぜ。まあいい、あんたの立場ではとても口に出せないだろうからな」

「・・・・ハッキリ言ってくれる。口の減らん奴だ。だが、これは一番重要な点だ。誤魔化さずに言ってもらうぞ、お前は何をしようとしているのか!」


 ベンドアは、これによってアステルを見極めようとした。そしてアステルは何事もないかのように


「国王ファーガスの首を取る」


と、その言葉を口にした。


「ふふふ、はっはっは! なるほど、確かに貴様は肝が据わっていると見える。これまでの行動からも貴様は、ただ大言壮語を吐くだけの愚か者ではない。・・・・だが、簡単ではないぞ! あの男(・・・)はただ色に狂っただけの愚かな暗君ではない。実に狡猾で陰湿な面を持っている。暗殺などが容易にできるなどと思わんことだ」


「らしいな。今日、あんたの話を聞いて、俺も少し考え方を改めたぜ。奴を倒すのは簡単ではないだろう。部下にも手練れが五万といるだろうしな。だが、止めるわけにはいかない。それが俺の旅の目的だからな」


 アステルの中に、自分と同じ転移者たちの顔が思い浮かんだ。恐らく、自分の存在を知った国王ファーガスなり、サーゲイル・ロードなりが、転移者を追っ手としてぶつけてくる日もそう遠くないだろう。逃げたザビールのことも気掛かりだった。


「いいだろう! その話、乗ろうではないか。貴様の要求は全てこの儂が受け入れる。・・・・さて、ファラリスよ。肝心のお前は、この者についていくのか? どうだ」


 ファラリスは、ここまでの話の展開で少し呆気に取られていたが、ベンドアの最後の問い掛けには、真っ直ぐな目でベンドアを見つめて


「先ほどの話が真実なら、ファーガスは私にとっても、親の仇。ならば、この身を賭してアステルに、どこまでもついていく所存です。侯爵閣下」


と真剣な表情で答えるのだった。





■■■■■■■■





 次の日の朝、アステルは西門付近でファラリスを待っていた。




 あの後、侯爵室を出たアステルは、借りていた貴族服を返そうとしたが、ファラリスから、「返さなくていいそうだ。だが、何なら侍女の服を着るか? とても似合っていたからな」と揶揄われた。これには、アステルが顔を真っ赤にする番だった。「二度と御免だぜ」と小声で言うのが精いっぱいだった。


 その後、ファラリスはこれからのことを決めるからといって、カーバインや歩兵隊長、侯爵の側近たちを集合させていった。アステルは、自分のこの城での役割が終わったことを感じた。城は、忙しなく破壊された大広間の復旧作業に追われていた。




 アステルは、三日ぶりに借りていた宿屋の女将と会った。女将は

「あんた、生きていたのかい! あたしゃ、てっきり城の爆発騒ぎで死んじまったのかと思ったよ! ほら、あんた、あの姫様とご一緒してただろ、それでさ」


 と、相変わらず、驚くべき情報収集力と想像力を働かせていた。一応、本日までが契約日だったため、部屋はそのままにしてあり、せっかく買った荷物を失わずに済んだ。女将にもう一泊だけ、延長をお願いすると、「あんた、三日間、食事をとってないだろ。飯代の分さ。半額でいいよ」と、まけてくれた。


 その後は、特注品の魔物の革製のリュックを受け取りに行き、その日を終えた。たった数日しかたっていないにもかかわらず、随分と時間が経過したような気がした。



 そして、次の日の朝を迎えたのである。城でファラリスと別れる前、出発は明日の夜明けから一刻後と約束をした。グズグズと出発を引き延ばすのは性に合わないのだ。しかし、予定された時刻を過ぎても、ファラリスは来なかった・・・・。


 アステルは、胸騒ぎがしたが、それは杞憂だった。


「アステル!!」


 ファラリスは肩章、徽章などを取り払った白の軍服の上から黒のフード付き外套を羽織り、腰に剣を吊り下げ、リュックを背負った姿で現れた。外套を目深に被ったおかげて、ファラリスの姿を見とがめられはしなかったようだ。


「待たせて済まない。あれこれと、気になることがあり最後まで手間取った。お前に置いて行かれるのではないかと気が気では無くて・・・・」

「いいさ。道すがら話を聞かせてくれ」





 二人は、西門をでて公路を進む。すると、そこに葦毛に跨る一騎の騎士が馬上にて待ち構えていた。



 その騎士はカーバインであった。



「ファラリス様、騎馬隊をお見捨てになるのですか・・・・。いや、もう、私は自分に嘘は吐きたくない。こんなことを言うためにここへ来たのではない! 

 私は貴女のことをファラリスと呼ばせていただきます。ファラリス、 私は、ずっと以前から、貴方を愛していた。・・・・この気持ち、貴方も気付いていたでしょう。

 貴方が、侯爵家の姫、主君の娘なればと、この思いを今まで自分の中に閉じ込めてきました。そして、貴方に縁談の噂がある度に、私は眠れぬ夜を過ごした。そして、貴方がそれを断ったと聞けば、喜びで打ち震えたのです。

 昨日、貴方が侯爵家の姫ではないと知り、私は心中、嬉しさで飛び上がらんばかりでした。これで、貴方にこの思いを打ち明けられる。ファラリスを自分のものにできると! それを・・・・それを、どうしてなのです!?」


「・・・・カーバイン。お前の気持ちはありがたい・・・・。だが、わ、私は——」


「聞きたくない! その男が、ファラリス、貴方を変えた。そうでなければ、貴方は全てを捨てて出ていこうとはしなかったはず! アステル! 貴様をこのままファラリスと行かすことはできん。私と、この場で勝負しろ! ファラリスをかけてな」


「カーバイン! 止めてくれ、そんな、私は——」


「ファラリス、大の男が、ここまで口にしたんだ、よっぽどのことだぜ。・・・・カーバイン、逆の立場だったら俺もそうしたかもしれない。だが、俺もファラリスが必要だ。ならその勝負、受けて立つ!」


 アステルは、リュックを下ろし、着ていた外套を脱ぐとファラリスから距離をとって身構えた。そして、いつでも来いと手招きする。


 カーバインは、馬上から剣を抜くと、葦毛を一気に襲歩ギャロップに加速させてアステルに迫る。そして馬上からアステルに斬りつけた。アステルは、振り下ろされる刃を見切り、ギリギリの所を最小限の動きで躱すとカーバインの腕を掴んで一本背負いのように前方へ投げ飛ばした。


 背中から地面に強かに叩きつけられ、カーバインは呼吸を失う。何とか起き上がろうとするところに、剣を拾ったアステルが剣先をカーバインの首に向ける。


「・・・・み、見事だ。到底、私の・・・・及ぶところでは・・・ない」


 アステルは、素早くカーバインを治療しながら、


「そんな、あんただからファラリスは騎士団長にあんたを推薦したんだろう。あんたなら、このテレムセンを守り通すことができると信じてな」


 そして、小声で「俺も、リアル宝塚が見られて結構満足したぜ」と独り言をいった。勝負の決着が着いたことが分かり、ファラリスが駆け寄ってきた。その表情は表現できない程ぐちゃぐちゃだった。


「ばか者、お前たちは本当にばか者だ! 私の気持ちも知らんで」


 回復したカーバインがファラリスを真っ直ぐに見つめ


「ファラリス、どうかご無事で・・・・。テレムセンは、貴方の愛した街は、私が命に代えてもお守り致します」


 そして、アステルの方を向き直ると、「アステル。ファラリスを、我らの姫様(・・・・・)を頼んだぞ」と言った。カーバインは走り去った葦毛を口笛で呼び戻すと、さっと跨り、西門を目指して去っていった。


 遠ざかるカーバインを見送りながら、アステルは、


「何だか、最後はキザな奴になったな」


 と思わずこぼすのだった。


「あの者は、あれがいい所なのだ。騎士のあるべき姿を真っ直ぐに体現している・・・・」

「なんだ、今だったら、まだ間に合うぜ、追いかけても——」

「――!? 本気で言っているのか!?」

「本気なわけないだろ! ファラリス、俺は勝負に勝ったんだぜ。お前はもう俺のものだ」

「わ、私は誰のものでもない! だ、だが、お、お前がそういうなら・・・・私は、お前の・・・・ものに・・・・」

 

 最後は聞こえないほどごにょごにょと小さな声で言うのだった。顔を真っ赤に染めて・・・・。




*いかがだったでしょうか。ここまでが2章ということになります。ここまで読んでくださった方、大変ありがとうございました。初めての執筆で、見苦しい点が多々あったと思います。できれば、ひとまずの評価の★を頂戴できれば、今後の励みになります。是非よろしくお願い致します。


 ブックマーク件数100 評価者数100人を目指すことが、執筆を続けるモチベーションとなっています。どうか、この作品にブックマークと評価ボタンを押して下さる方になってください。 


 さて、3章では、王都に連行された6人の転移者たちが動き始めます。視点をそちらに移す場面も多くなる予定です。引き続きお付き合いくだされば幸いです。

では、また3章にて・・・・。



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