第35話 突破口
アステルは、アイヴァーたちが引き起こした爆発や閃光を調べるために、警備の城兵が多数の松明の炎をかざして近づいてくるのを遠目に見ながら、素早く南側の城壁にとりつき、行くときに使った縄梯子を登って、城壁の内側に戻ることができた。
自分の体を見ると、爆発に巻き込まれたことによって、服がぼろ布と化している。またしても、立派な不審者に戻ったのだった。夜の帳が、姿を隠してくれていなければ、身動きが取れないところだった。
ようやく騎馬隊の隊舎に辿り着くと、出発するときファラリスから紹介された歩哨に伴われて、やっとのことでカーバインと合流した。
「城壁の外の騒ぎは、この騎馬隊にも報告が届いている。今は出動要請はまだないがな・・・・。まあ、その恰好や表情を見れば、相当なことがあったことは分かる。まず、姫様は無事なんだろうな」
当然だが、カーバインは一番にファラリスを気遣う。アステルは、自分の思考を整理するように、ゆっくりとこれまでの経緯をカーバインに説明するのだった。
この中で、ファラリスに関するナタリアの発言内容を話すべきか、ここに来るまでずっと悩んできたが、これを抜きにして、今回の躓きは説明できないので、そのまま話すことにした。
「・・・・馬鹿な! ありえん話だ! ナタリアは、自分のしでかした悪事を誤魔化すために姫様を愚弄したにすぎん!」
案の定、カーバインは感情的になった。普段のこの男の様子は知らないが、きっと優秀な副官として感情の抑制ができている筈であろう。それが、こんなに簡単に取り乱すとは、カーバインのファラリスに対する気持ちがそうさせたことがよく解る。
「もちろん俺だって同じ考えだぜ。しかし、本人が真に受けて、相当落ち込んでしまって、計画を続けられる状況では無くなった・・・・」
「・・・・そんな状況の姫様を、お前はお独りにして、引き返してきたのか」
「くっ、それを言われるとキツイがな。でも、もし俺があの部屋で一晩ファラリスと居て、それで、誰か別の奴に気付かれてしまったら、それこそ、ファラリスは姫様として終わってしまったんじゃないのか」
いかなる理由があるにせよ、結婚前の貴族の娘が、自室にて男と一夜を過ごしたとなれば、それはファラリスにとって致命傷だ。間違いがあったかどうかなど、関係ない。処女性を僅かでも疑われれば、貴族の娘としては終わりだった。
——まして、ファラリスは今、王子から求婚されている。これがバレたら、王家との関係も最悪になって侯爵家の危機か・・・・。まあ、いっそそうなった方が・・・・。
アステルの思考を遮るようにカーバインは語気を強める。
「それは私にもわかっている! たとえお前が姫様とどんなに親しかろうと、そんなことは絶対に許さん! ・・・・しかし、そうなると、肝心のナタリアを奪われたのは非常に拙いな」
「・・・・それは、俺も猛反省している。待ち伏せされたと言っても、逃げ切れなかったのは俺のミスだ」
アステルは、なぜナタリアを担いだまま逃げなかったのか、その部分は話をはぐらかした。自分の正体、神谷惣治の名前を知られた以上、追手を倒すしかなかった。結局それもできず、ナタリアも奪われた。今回は、完全な敗北だった。
「それで、これからどうするつもりだ。ナタリアを使って姫様の動向を監視していたその『お父様』という者が、今回の暗殺騒動の首謀者なら、暗殺者ギルドでもなんでも使って必ず第二、第三の矢を放ってくるぞ」
「分かってる。それなんだが、明日、カーバインは侯爵の居城に騎馬隊を数名を伴って出動して欲しい」
「どういうことだ。本来はナタリアが姫様によって捕縛され、その身柄を我々が引き取りに行くという名目で出動するはずだったではないか」
「明日、城に着いたら昨晩の城壁外での大規模な戦闘行為について、報告に来たってて言うんだ」
「なに!? どういうことだ。」
アステルの意図が分からずカーバインは困惑する。
「簡単なことさ、俺がさっき話したことを、あんたら騎馬隊が独自に調査したってことにして、報告に上がるんだ。それで、ファラリスやお偉方の前で、ナタリアもその一味だった可能性が高いっていうのさ」
「・・・・続きを話せ」
「今頃たぶん、城ではナタリアが居ないって騒ぎになっているかもしれない。一方、城壁の外では強力な魔法を使った戦闘があって、これも騒ぎになっている。この二つを結びつけ、消えたナタリアが真相を知っているに違いないって持っていくのさ」
「なるほど、お前が襲われたこと、ナタリアが奪われたことを逆手に取るのか。だが、その後はどうする」
「そこで、ファラリスが昼間、暗殺者ギルドに襲撃されたことも併せて報告し、この一件はファラリスの命を奪う陰謀ではないか、ならば、ファラリスには護衛を付けるべきだ。ナタリアはファラリス付きの侍女であった、城の中も危ないって持っていく」
「そうか、それであわよくばお前がファラリス様の護衛につくと?」
カーバインの表情が一瞬怒気を孕んだが、アステルはそれを無視して
「それより、これからが本題だ。今回の一件の首謀者を炙り出すため勝負にでるんだ。間違いなく、ナタリアの言う『お父様』って奴は、城の中にいる。それはナタリア自身が証言しているぜ、『どうやって、この城にいる私が暗殺者に連絡できるのか、不可能だ』『私は、頼まれてお父様に伝えていただけ』とな。なら、答えは城の中にいるお偉方の『お父様』が暗殺者ギルドに依頼したってことだ」
「それはそうだ。だが、その『お父様』が誰か分からんでは、これ以上どうにもならん! それとも、誰か心当たりでもあるのか」
「ある・・・・。あるから言ってるんだ。これはまだ話していなかったが、ナタリアは、ファラリスに向かって最後にこう言ったんだ『侯爵家と血のつながりのない娘がお姫様だなんて、笑っちゃうわ。わたしこそが』と」
「なんだと!! ・・・・つまり、つまりナタリアは自分こそが侯爵の・・・・」
ここまで、言ってカーバインは声を出せなくなった。侯爵家に仕える騎士団、騎馬隊の副長として、それ以上を口にできないのだ。
「そういうことだ。ナタリアは自分こそが、テレムセン侯爵の娘だと言いたいんだ! つまり『お父様』っていうのは、侯爵ベンドア・バーラム。ファラリスの父親のことだぜ」
カーバインは、驚きで声が出せない。そんな話は信じたくないと思った。しかし、それならば、話に辻褄があう。合ってしまうのだ。
「俺が勝負に出るっていうのも、これが理由だ。もし、俺の推理が当たっているなら、時間を浪費すれば、ファラリスはもう城から生きて出られないだろう。だがな、カーバイン。あんたが腹を括って明日城へ行き、お偉方の前で、ファラリス暗殺の陰謀について騒ぎ立てれば、おそらく、相手は動き出すはずだ。その混乱状態の中に、事実を炙り出すチャンスがある」
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初めての投稿作品で、緊張しながらも、ポイントが増えていくのが嬉しくて、毎晩仕事が終わってから遅くまで書いています。こういう表現は良くないかもしれませんが、今は「脱なろう底辺作家」を目指すことが、モチベーションとなっています。どうか、ブックマーク と ★★★★★ をよろしくお願いします。




