第34話 遭遇戦(2)
ザビールは、涙を呑んで逃げた。暗闇の中を逃げながら、悔やんだ。なぜ、あの時引き止めなかったのか、なぜ・・・・。
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昼間、アイヴァーたち三人の追跡者は、テレムセンの中にアジトとなる宿を取った。アイヴァーの『監視者』のスキルがあれば、どんな相手だろうと見失う心配はない。
監視者の特殊スキルは、標的にした対象が一定範囲内に入れば、レーダーのように反応し、ほぼ正確な位置を知ることができる。ほぼ、といったのは、それに3次元的な高さを知る力がないからで、高い建物の上の階か下の階までは分からない。しかし、それを除けば、街の地図などがあれば、それに重ねてかなり正確な場所を特定できる。
アイヴァーは、テレムセンの街の地図と照らし合わせ、ファラリスやアステルの存在をアジトにした部屋から、見つめていたのだ。
動きがあったのは、夜になってからで、ファラリスとアステルの二人が、城壁を越えて南へと移動し始めたのだ。この不審な動きに、アイヴァーは、疑問を持つ。
「動き出したぜ。しかし、妙だ。女が二人だけで夜に壁外にでるとは」
「はっ、きっと二人してお楽しみに出かけたのよ。噂の田舎娘は、大貴族のお姫様なのに槍を振り回すのがお好きってね、それはそういうご趣味をお持ちなのよ」
「壁の外で青姦ってやつか? 飛切りの美女二人の行為なら是非見てみてーぜ。これは後を付けるしかねーな」
「馬鹿言わないでよ!」
「ははっ、冗談はさて置き、後をつけるは本気だ。何にせよ、騎馬隊から離れて単独行動なのは有難い。あの恐ろしくつえー美人の正体を掴んでやる」
こうして、追跡者の三人はアステルたちを追って城壁南方の林へと向かったのだった。
しかし、その後、スキルを頼りにアステルたちを追跡したアイヴァーは混乱することになる。アステルたちが、再び城壁内へ移動し始めたからである。むろん、これはファラリスの案内で二人が秘密の地下道を通っていったからだが、アイヴァーの『監視者』の能力では、地下を進む二人を見つけることはできない。
アイヴァーは、仕方なく、二人の反応が逆方向になった林の中を調べることにした。この林の中に城へ続く秘密のルートが隠されている。そう考えたのだ。しかし、ハビタットの『斥候』のスキルをもってしても探索は、進まず、ザビールが帰還を言い出す。
「もう、帰りましょうよ。こんな薄気味悪い所で長居なんかしたくないわ」
「・・・・ちっ、空振りか。仕方ない、出直し・・・・ちょっと待て!」
「なによっ、今度は。何か見つけたの?」
「いや、あの謎の美人が一人でこっちに向かってくる。引き返してくるんだ!」
「一人で? なんでよ」
「俺が知るかよ。だが、絶好の機会だぜ。一人だけなら仕掛けるチャンスもある。この暗さだ。ハビタットの『斥候』の能力が発揮できるぜ」
「ここで、待ち伏せするのね。」
「そういうことだ」
林の出口付近に隠れた追跡者の三人は、息を潜めて謎の美人が通るのを待つ。すると謎の美人は、近づくことなく身構えた。
「・・・・拙い、気付かれた。ハビタット、気配を消してアイツの背後に回れ」
アイヴァーは、ハビタットに小声で指示を出し、ザビールと共にアステルから30マールほど距離を取る。すると監視対象のアステルから声が発せられた。
「出て来いよ! そこにいるのは分かっている!」
——男の声!? あの美人は、女じゃないのか? しかし、なぜ、こっちが待ち伏せていることが分かった? 分からん、あの美人のスキルか。
この時、アイヴァーには、迷いがあった。正体不明の美人は実は男だった。男!? 追跡中の転移者、神谷惣治の名前が瞬間浮かんだが、聞いていた特徴と全く違う。だが、確かめずにはいられない。しかし、相手の実力や隠された能力も知らぬまま、戦って勝てるのか。
「ザビール、どうする? やるか」
「もちろんよ、アイヴァー。とっとと、済ませて早く帰りましょ!」
アイヴァーはこれまで、判断をザビールに委ねたことは無かった。その迷いを断ち切ったのがザビールだった・・・・。
逃げるザビールを呼ぶ声がした。
「ザビール・・・・ここだ・・・・」
声は茂みから発せられていた。苦しみに堪え、必死に絞り出されたものだと気づく。
「ハビタット、ここにいたのね。待って、今手当てしてあげる。宿に戻れば上級回復薬があるわ。それまで、耐えるのよ」
「・・・・俺は、もう助からん。この女を・・・・アイヴァーのもとへ・・・・。アイヴァーに、俺は感謝していると・・・・つ、伝えてくれ・・・・。お、俺を・・・・仲間としてあつか・・・・・」
ハビタットは途中で事切れた。ハビタットの右手は、必死で逃げようと藻掻く女の体を縛る紐を掴んだままだった。
「・・・・さあ、あんたにはあの悪魔を殺す役に立ってもらうわ」
ザビールは、いつの間にか気が付き、目隠しの取れたナタリアを冷たい目で見降ろす。そして、ナタリアの口に填められた猿轡に手を掛けると耳元で、
「これを外してあげるけど、騒いだら殺すから」
そう囁くと、魔力を右手に集め、炎の球を作ってみせる。炎の熱がナタリアの髪をチリつかせ、髪の焦げる匂いが漂う。脅しの効果は十分だったようだ。ナタリアはブンブンと首を縦に振った。
猿轡を外されたナタリアは、咳き込むが、ザビールに睨まれて、必死に呼吸を整えた。
「さて、聞かせてもらおうかしら。なんで、あなたはあの悪魔から攫われていたのかしら。その恰好から見てあなたは、城の侍女でしょ。分かるように話しなさいな。始めに言っておくけど、私は、あの悪魔を倒すために情報が欲しいだけなの。嘘をついて逃げようとするんだったら、容赦なくあんたを殺すから」
ナタリアは、自分の置かれている状況にパニックを起こしかけたが、今はとにかくこの女になんでも話して、この場を切り抜けることにした。
「わ、私は、ナタリア。城で侯爵様に侍女として仕えています。・・・・悪魔というのは、私をここまで運んできた者のことですね。名前は、た、確か・・・・・、そう! アステル! アステルと言っていました。女の私から見ても恐ろしく綺麗な顔をしていて、それで若い男の声で話していました」
「・・・・そう、アステルというのね、あの悪魔の名前は。で、そのアステルはファラリスとどんな関係なの、なぜ城に出入りしているのよ」
「ファラリス!・・・・ファラリス様と、あのアステルの関係は分かりません! 私は長くファラリス様に仕えてきましたが、あのような者のことを一度も見聞きしたことはありませんでした」
ザビールは、ナタリアがファラリスの名前を口に出したときに、一瞬、顔を怒りに歪ませたのを見逃さなかった。
「じゃあ、なんであなたはアステルに攫われたの、それはファラリスの命令かしら」
「わ、分かりません! 私も何が何だか。ファラリス様の命令だと思いますが、私にも心当たりが——」
「ナタリア、・・・・正直に言いなさい。あなた、長く仕えてきたといったけど、本当はファラリスのことを憎んでいるでしょう。あなたがファラリスの名前を出すとき、怒りが滲むのよ。・・・・私を誤魔化すことはできないわ。全部、正直に話しなさい。話の内容によったら、助けてあげなくもないわ」
「・・・・・・」
ナタリアは、本当のことを話すべきか迷う。そんな迷いを見透かしたように、ザビールは語る。
「あのファラリスって田舎娘ねぇ、私は嫌いなのよ。大貴族の娘に生まれたってのに、男に混じって騎士の真似事をして。何が『姫将軍』よ、笑っちゃうわ。姫なら姫らしくお城でダンスでもしていたらいいのよ。あなたも、きっと大変だったでしょ、散々振り回されて・・・・。それで、挙句にアステルとかいう悪魔を連れ込んで、あなたは、訳も分からず酷い目にあわされて・・・・」
ナタリアは、ザビールの話を聞きながら、心の中でマグマのように憎しみが沸き上がるのを我慢できなくなった。そうなのだ。この女のようにファラリスの奇行を苦々しく見ているものは、市井にも多くいるはずなのだ。この女になら、自分の中の暗い怨念のような感情を吐き出しても構わない。
「あなた様の言うとおりです。あの女には本当に私は嫌と言うほど苦労させられました!『姫将軍』なんて御大層に呼ばれていますが、あの女は本当は、本当は!」
「本当は、どうしたのかしら、続きを聞かせなさいな」
ナタリアは、さっき城で押さえ込んできた秘密をぶち撒けてしまい、その心の鍵は開ききっていた。一旦口にすれば、もう止まらない。
「本当は、侯爵家の娘ではないんです! あの女は、お父様の娘でも何でもない、ただの淫売女の娘なんです!」
「・・・・・・面白そうね。もっと詳しく話しなさい。さっきも言ったけど、その話が、あの悪魔を倒すのに役にたつなら、アタシがあなたを助けてあげるわ」
復讐に燃えるザビールの妖艶な微笑みは、月明かりに照らされて妖しさを増し、同じく憎悪に蝕まれたナタリアを取り込んでいくのだった。
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