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第33話 遭遇戦(1)



 結局、アステルは一時撤退を決断し、城外に脱出することに決めた。秘密の地下通路を、来た時と逆に辿ることにしたのだ。ただし、今度はファラリスとではなく、ナタリアを担いで。


 ナタリアは運び出されるのを拒んで暴れたが、アステルは無理やり気絶させ、途中で目覚めた時を考え、念のため目隠しまでして担いで連れ去ることにした。同じような目に遭わされたことがあるアステルは、強く自己嫌悪したが、今は、ファラリスからこの女を引き離さねばと考え、無理に自分を納得させた。


 意気消沈したファラリスを置いて城から出ることは、それ以上の自己嫌悪を引き起こしたが、もしこの部屋に留まって、万が一でも城の誰かに自分の姿を見られれば、それこそファラリスを窮地に陥らせてしまう。


 暗殺の魔の手からファラリスを守るため、短期決着を狙ってのこれまでの行動だったが、予想だにしない展開で躓いてしまったことになる。





 地下通路を抜け、出発点のテレムセンの南方の林にでた。今は、一先ず騎馬隊の隊舎に戻り、カーバインと合流することを最優先に考えたのだ。そこで、このナタリアという侍女の尋問を行う。後は、その結果次第・・・・。


 アステルは夜目の能力を頼りに林を進み、木々の切れ目から、平原へ出ようとした。だが、その瞬間、


——!? アステルは突然、強い力をもった気配オーラを感じ、素早く身構える。夜目をもってしても姿は見えないが、確実に存在を感じるのだ。


——気配オーラは3つ、いや2つか。向うもこちらの存在に気付いている。


 アステルは仕掛けられる前に機先を制すことした。


「出て来いよ! そこにいるのは分かっている!」


 男と女が林の中から姿を現す。二人まで30マール(地球の距離で30メートルほど)の距離がある。出てきた二人のうち、男が語り掛けてくる。


「・・・・こんな夜更けに、美人が一人でお散歩かな? そいつはとっても危ないぜ」


 アステルは、この二人がなぜ、この場所で待ち伏せができたか、それを考える。


——ここに来るとき後をつけられたか? いや、ありえない。それなら俺の能力で察知できるはず。間違いなくここで待ち伏せられていた。しかし、どうやって!?


 女が両手を掲げ、魔力を高めると、頭上に大きな光源が浮かび上がる。光が男女の姿を僅かに照らす。男はアイヴァー、そして女はザビールだった。すぐに光源はスッと音もなく移動し、アステルの頭上に留まる。アイヴァーは、光に照らされたアステルを見て少しだけ驚く。


「おっと、何だその肩に担いでいるのは? ・・・・女だな。まさか人攫いのマネか。悪いことするね、神谷惣治・・・・クン」

「——!? なっ。」

「おおっと、その反応はなんだぁ! まさかビンゴかよ!! 言ってみるもんだぜ! 次から人に声を掛けるときは、女の声マネでもするんだな」

「・・・・・・」


——くそっ、しまった。待ち伏せされて動揺した隙をつかれた。


 アステルは、自分がついさっきこのナタリアに仕掛けた罠をもっと鮮やかにやられて、唖然となった。しかし、その名を知る以上、こいつらは間違いなく敵だ。そして、この姿と神谷惣治の名前を結びつけられた以上、生きて帰すわけにはいかない。


 アステルは、ナタリアを草むらに置くと、全力で(・・・)アイヴァーとザビールに突進する。「——!? ちょっと!!」この超スピードには、二人も驚愕する。


防御壁プロテクション!」


 ザビールが咄嗟に構えて両手を突き出し、短縮詠唱を行う。強い黄色の蛍光色とバシュッ! という激しい音を出し、アステルの突進は弾かれる(・・・・)


「なんて、スピードなの! 到底人間の出せる力じゃないわ」

「・・・・昼間の分析から、用心して距離を取っていて正解だったな。」


 魔法の防御壁に突進を阻まれ、数マール転がったアステルだったが、素早く起き上がるとアイヴァーに狙いを定めて超速の石を投げる。だが、石もアイヴァーの直前で防御壁プロテクションに阻まれ粉々に砕け散る。


「ちっ、綺麗な顔してオッかね~奴だな。その攻撃もすでに対処済みなんだよ」

「アタシの防御壁プロテクションを舐めないでほしいわ、下手な物理攻撃なんか効かないのよ!」


 直ぐにアイヴァーが逆に突進し、手にした剣を突き出してくる。アステルは体を逸らして最小限の動きで避けるが、突きから斬り上げ、袈裟切りと移る巧みな連続攻撃を、避けきることができずに服を切り裂かれる。アイヴァーも剣術の確かな腕前を持っていることが分かる。アステルが剣の間合いから距離を取ると、


 直後、ザビールから攻撃魔法が打ち出される。


爆炎魔法フラゴル!」


 中位の炎熱魔法がアステルに至近距離から発射されたのだ。ドゴン!という爆音と強烈な火炎が辺りを焦がす。


「——え!? なによ!」しかし、爆炎魔法フラゴルが炸裂した後にアステルの姿はない。アステルは、ザビールの放つ魔力・・に反応し、素早く距離を取っていた。


——こいつら戦い慣れしている。連携も上手い。


 昼間、戦った暗殺者アサシンたちの集団連携は意表を突かれはしたが、脅威は感じなかった。しかし、魔法を巧みに絡めるこの二人の連携は、十分に脅威だった。


「ザビール、殺すんじゃねぇぞ!」

「わかっているわ、そんなこと! でもらなきゃこっちが殺られるわ」


 今のアステルには接近戦以外に戦い方がない。亜種オーガすら切り裂いた必殺の手刀(ガリュウケン)をお見舞いすれば、勝負はつく。しかし、あの防御壁プロテクションが邪魔だ。そう考えていると次なる攻撃が来た。


 「火炎弾フレイムバレット!」


 ザビールから火炎の弾丸が散弾銃のように打ち出される。魔力の高まりを感じたアステルは超速の反射神経で、打ち出された大量の火炎弾をかわし、後方に飛んで更に距離を取る。


 反撃の機会を掴めずに、アステルに焦りが生じる。直後、ふいに背後から現れた第3の気配に驚き、振り返る。すると真後ろから黒ずくめの小男が突然現れ、短剣を突き出してきたのだ。短剣は必死に避けようとするアステルの脇腹を刺し貫く。


 男は更に短剣を深く突き込もうと踏み込むが、アステルは、後ろ蹴りで男を蹴り飛ばす。男は短剣を手放して激しく転がるが、何とか起き上がり距離を取る。


「うぐっ!」


 短剣を引き抜くと、ズキン、という鋭い痛みがアステルを襲い、たまらず片膝をつく。この小男は追跡者の一人、ハビタットだった。気配を殺し、ジッとチャンスが訪れるのを待っていたのだ。否、最初からこれはハビタットの『斥候スカウト』の能力を活かすための三人の追跡者の連携だった。


「ナイス! ハビタット。よくやってくれたぜ。上手いこと致命傷を避けて、ダウンを奪ってくれたな。これで、こっちのもんだ」

「待ってなさい、今から楽にしてあげるから。心配しないで頂戴、殺したりはしないから。ただ、チョットだけきつく(・・・)拘束魔法バインドをかけちゃうけど」


 アステルは、流れ出る|血を止めようと無意識に《・・・・・・・・・・・》傷口に手を当てる。すると、淡いエメラルドグリーンの発光が傷口を覆う。次の瞬間、傷口は綺麗に元通りの美しい褐色の肌に戻っていた。


「——!? 上級回復魔法ハイヒール! どういうことよ。この男の『聖者セイント』の能力に白魔法はなかったはずよ!?」

「俺が知るか! でも、これで俺たちの推理が結構いいセン行ってたってことが証明されたな。とにかくだ、その美人野郎を何としても連れ帰らなきゃならなくなったな」

「でも、どうやって!? あいつはとんでもなく早いわ、私の魔法じゃ捉えられない」

「・・・・やりたくはなかったが、しかたねぇ。ハビタット! そこに転がっている女を連れてずらかれ!」

「・・・・了解」


——拙い! 


 アステルは、草むらに寝かしたナタリアに向かうが、ハビタットの方が距離が短い。アステルを牽制する為、ザビールが射程の長い火炎弾フレイムバレットをばら撒くように放つ。


「くそっ!」


 ハビタットが素早くナタリアのもとに到達し、ナタリアを担ぎ上げる。が、その刹那、ハビタットの背中に短剣が突き刺さり、刃は貫通して胸から刃先が飛び出す。アステルが、先ほど自分が刺された短剣を拾い上げダーツのように投げたのだ。


「ぐぎゃっ」

「ハビタット!!」


 ハビタットは、よろめきながらもナタリアを担いだまま気配を消し、闇に紛れる。アステルは、必死に追ったがハビタットの気配だけでなくナタリアの気配も消えた。


「よくも、ハビタットをやってくれたな。だが、ハビタットの勝ちだぜ。これは俺たちの勝利でもある。おい、連れてかれた女が惜しいなら、お前自身と交換だ。大人しく、俺たちの拘束魔法バインドを受けて、ついてきてもらう。そうすりゃ、女は返す。どうだ」

「・・・・・・・」

「返事をしろ、美人野郎!」


「・・・・・うわぁ~、マジか!? 参った! 詰んだぁ~・・・・」


 アステルは大げさに頭を抱える。


「・・・・とでも言うと思ったか! あの女が惜しいならだと! 笑わせんな。あの女に人質の価値なんてないぜ! ゼロ! からめ手まで躊躇ちゅうちょなく使う賢い奴かと思ったが、俺のトンだ見込み違いだったな」

「何だと! ・・・・ちっ、まあいい。それが本当かどうかは後で分かることだ。今はハビタットのことが心配だ、見逃してやる」

「・・・・アイヴァー、なら急ごう。あの傷は急がないと拙いよ」


 直後にアステルに向けてザビールの爆炎魔法フラゴルが複数発放たれる。重ね掛けされた中位階魔法の圧倒的な爆発力が辺り一面を焼き払った。そんなことができるザビールの術師としての高い能力を示すものだった。


 しかし、それが失敗だった(・・・・・・・・)


 逃走の時間稼ぎのために、中位の魔法を放とうと魔力を高めたことで、アステルはおそらく次に放たれる魔法を爆炎魔法フラゴルだと感知し、全速力フルスピードで弧を描いて迂回したのだ。爆発の外側を迂回したアステルは、逃走をはかる二人に横方向から迫り、必殺の手刀(ガリュウケン)を斬りだす。


「——!? しまっ—」という声を残し、アイヴァーは切り裂かれる。アイヴァーは咄嗟にザビールを突き飛ばしていた。それが無ければ、二人ともその瞬間に切り刻まれていた。


「アイヴァー!!」

「に、逃げろ・・・・。逃げるん・・・だ」

「逃がすかよ!」


 アステルがザビールに止めを刺すため、ザビールに近づこうとした瞬間、アイヴァーは、手に持った球を破裂させた。砕けた球から白い閃光が放たれ、轟音と共に爆発が起こる。


 至近距離での爆発でアステルは吹き飛ばされる。視界が奪われキーンという耳鳴りで周囲の音が聞こえなくなるが、それでもこの魔神の体は爆発に耐えたのだ。



「いやっ、アイヴァー!!・・・・そんなっ!? あ、あの爆発でも死なない・・・・。悪魔め、覚えてなさい! このかたきは絶対にとるわ!」


 吹き飛ばされて倒れたままのアステルを睨みつけ、ザビールは暗闇の中に消える。やがてその気配は探知できなくなった。




 暫くして、アステルは起き上がる。全身から流れる血を止めるため傷口を押さえると、またしても淡いエメラルドグリーンの発光が傷口を癒す。傷は塞がり、美しい褐色の肌に戻るのだった。


 この魔神の体は、分からないことだらけだった・・・・。なぜ、回復魔法が使えるのか。なぜ、剣で切り裂かれるのは駄目で、爆発など魔法の攻撃には強いのか・・・・。


「一度じっくり考えて検証してみたいが、今はそれどころではないぜ。くそっ、今日は、全くついてない日だ」


 アステルは独り愚痴を吐く。しかし、ナタリアを奪われ、襲撃犯を二人逃した。襲撃犯と言えば、そもそもなぜ、この場所で待ち伏せることができたのか・・・・。この疑問に立ち返る。


 今夜この場所に来ることは、アステルにも分からなかったことだ。ファラリスは誰にも言わずにアステルをここへ案内したからだ。


——分からないことだらけで、頭が痛くなりそうだ。だが、今はともかく、早くこの場から逃げねーとヤバいな。


 繰り返された、大きな爆発音と閃光で、テレムセンの夜間の警備兵が気付き、こちらに向かってきているのが気配で分かったからだ。アステルもまた暗闇に消えた。


  

 ブックマークのお願いや★のお願いに反応して、ブックマーク数、★ともにカウントが増えました。有難うございます。本当に嬉しいです!

 とはいえ、作者のモチベーションが、そろそろ限界を迎えつつあるのは本当です。なんとか、毎日更新を続けていますが・・・・・。


 もし、もっと応援するから、続きを頑張って書けよ! て、思ってくれるなら、

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