第30話 監視者
「ハビタット、お前の月読は大当たりだぜ。こりゃあ、たしかに南に変事ありだ」
「アイヴァー、何が見えたの? 教えなさいよ」
「・・・・俺の『監視者』のスキル、今日は絶好調だ、視界良好だぜ」
「もったい付けてないで、教えなさいよ。いったい何が見えるの!」
「ザビール、おまえもテレムセンの『姫将軍』の噂は聞いたことがあるだろ」
「・・・・知ってるわよ。スケベな男どもが、東部の田舎で一番いい女とか噂している小娘のことでしょ。何、その小娘が見えるのね。それがどうしたっていうのよ」
本当は、国で一番のいい女だったが、ザビールはそれは大げさな噂話に過ぎないと思い、勝手に評価を下げていた。
「・・・・確かにいい女だ。極上のな。(——前に見た時より、もっとグッとくるほどいい女になってやがる)だがもう一人、恐ろしく強ぇー美人がいる! 暗殺者らしい集団から囲まれて、殆ど一人で片付けてしまいやがった」
アイヴァーは、自らの天職『監視者』の能力の一つ、遠視によって、2セルマール(地球の距離間で2キロほど)離れた場所から、アステルの戦闘の一部始終を見つめていた。
「何!? どういうことよ。東部の田舎娘が襲われてたっていうの? なんでよ」
「俺が知るか。だが、手がかりを見つけたかもしれないぜ。魔物大氾濫の噂を聞いて、はるばるテレムセンくんだりまでやってきた甲斐があったな」
——もう一人の褐色の美人の顔も覚えたぜ。あんな恐ろしく強ぇー美人が、今までこのテレムセンに居たなんて聞いたことないぜ。しかもお姫様と二人きりとはな・・・・。不自然すぎる。だが、今接触するのは得策じゃない。あの戦い方だ。相手の能力がハッキリしないうちに仕掛けるのはリスクしかないぜ。それに、俺たちにはこういうのに長けたハビタットがいる・・・・。
アイヴァーは、ようやくにして掴んだ手がかりを逃すまいと策を練るのだった。
三人の追跡者が、大森林を南へ迂回すると決めて旅立った後、直後に東部国境のテレムセンで魔物大氾濫発生の情報が入った。
追跡中のナスルと神谷惣治が大森林地帯へ消えた後、魔物がスタンピードを起こしたことになる。これには何かの繋がりを感じずにはいられない。手がかりを追って、三人は公路に沿って大森林地帯を南へ迂回し、東部のテレムセン領へ入ったのだった。
そして、テレムセンの街を目前にして、偶然にもアイヴァーの『監視者』の能力が、異変を捉えたのである。
『監視者』の視認範囲外までアステルたちを見届けた後、アイヴァーたち三人は、テレムセンへ向けて出発するのだった。
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アステルとファラリスは、暗殺者の遺体から、手掛かりになりそうなものを探したが、やはり何も見つからなかった。
まだ、午前中ではあったが、東門まで歩いて帰ることにした。第二の襲撃を警戒したのもあるが、ハーキュリの足元を心配したからだ。見た目は問題ないように見えるが、念のため城の馬丁(厩務員)に見せてみる必要があった。
あれ以来ファラリスはずっと無言だった。肩を落とした姿は、見ていて痛ましいほどだった。アステルは、暗殺者に情報を流した疑いのある者が、かなり近しい、あるいは信頼していた相手なのだろうと想像した。そうでなければ、戦場での命のやり取りに慣れたファラリスが、襲撃されたぐらいでここまで動揺するはずがない。
元の神谷惣治だった頃の乏しい恋愛経験では、こんな時にどんな声を掛ければいいかなんかわかるわけなかった。というか、想像通りだったとして、こういう状況の女に気の利いた言葉を掛けられる男がどれだけいるんだ・・・・。などと考えていた。
遠くに東門が見えてきた。このまま無言で別れるわけにはいかない。アステルは、こうなったらもう、あれこれ考えず自分の気持ちをぶつけるだけだと開き直った。
「なあ、想像だけど、暗殺者に情報を流した可能性のある奴、きっと親しい間柄なんだろ。俺に、どんな相手で、何を話したか教えてくれないか」
「・・・・気持ちはありがたいが、これは——」
「私の問題だ、とか言うなよ。襲われたのは俺だって同じだ。何より、ファラリス、俺はお前の悩みや苦しみを知ってしまった。ハッキリ言って、もう俺の問題でもあると思ってる! 今更、自分で何とかするから、お前は心配しなくていいなんてカッコいいこと言うのは無しだ」
「・・・・すまない」
ファラリスは、肩を振るわせ顔を伏せる・・・・。アステルは湧き上がる衝動を抑えることができなかった。ファラリスの肩を引き寄せ、強く抱きしめた。
「すまない、じゃない。こういう時、俺の国ではありがとうというんだ。それから、もう一人で悩むのは無しだ。ファラリスが俺を信じてくれるなら、俺は、全力でファラリスを助ける・・・・」
ファラリスはアステルの胸に顔を埋め、
「ありがとう、アステル・・・・」
と呟いた。
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