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第29話 襲撃



 アステルと会った次の日、ファラリスは、騎馬隊の隊舎の執務室で手紙を書いていた。亡くなった騎馬隊の隊員の家族に宛てた手紙である。


 騎馬隊に勤める隊員は、殆どが貴族身分の家の出か、それに連なる者、もしくは街の商家の出だった。つまり、一定以上の収入がある家の出身者である。理由は単純で、騎乗する馬や馬具、武装までを自分で用意する必要がるからだ。


 確かに騎馬隊に支払われる給料は高い。しかし、これらを入隊を志願する際に一遍に準備しなければならない決まりだった。よって、初期投資ができる家柄の出身者に限られる。


 一方で歩兵隊は、入隊が容易だ。体一つで入隊が可能。装備は支給されるからだ。戦のない平時は訓練と並行して街の治安維持や要地の警備を行う。それだけではなく、城壁の修理や街道の補修、はては下水路の掃除までする。


 それでも、そこそこの給与が与えられるため、入隊希望者は一定数必ずいる。侯爵家の軍は、歩兵隊約2千程。騎馬隊の約1千と合わせてこれが直属の戦力だった。残りは、侯爵配下の貴族が連れてくる兵で、戦の時に加勢される。


 テレムセン侯爵家の軍は、騎馬隊、歩兵隊に関わらず、戦死者の遺族には見舞金として金が支払われる。金額は、騎馬隊は僅か、歩兵は()()()僅かだが。それでも()()()()()()()()()。他の諸侯の軍では金は一切払われないのが普通だ。


 国境の守護を任されるテレムセン侯爵家は、東部最大の都市テレムセンを有し、東方からもたらされる珍しい品が多く流入する。また、北の大森林地帯から漏れ出た魔物を討伐して得た素材も高値で取引される。それらの富がこうしたことを可能にしてきた。テレムセン侯爵家が歴代、この金を惜しまず、兵を大切にする美徳によって、質の良い入隊者が一定数約束されていると言ってよい。


 ファラリスは、それだけでなく、自らが率いる騎馬隊に今回のように死者が出た場合、残された遺族に、見舞金と共に直筆の弔問の手紙を渡してきた。王国(ひろし)といえど貴族では稀有のことである。


 ようやくにして数十枚の手紙を書き終えると、ファラリスは改めて目を瞑り、亡くなった隊員たちのために光神ミスラに冥福を祈った。


 祈りが終わった後、タイミングを合わせたように、執務室がノックされた。ファラリスが入室を許可すると、30歳前後の長身で黒髪の騎士が入ってきて敬礼をする。ファラリスの副官を務めるカーバインだった。


「姫様、お手紙を預かりに上がりました」

「うん、いつもながら良いタイミングだな。丁度今、書き上げたところだ・・・・」


 手紙を受け取りながら、カーバインは美しい上官の愁いを見逃さず


「姫様、気を落とされますな。亡くなった部下も、姫様の下で戦うことができ、本望であったでしょう。それに、こう言っては何ですが、姫様の指揮がなければ、もっと死者は増えていたと推察いたします」

「・・・・。」


 ファラリスは返事をしなかった。付き合いの長いカーバインは、ファラリスの愁いが死者だけに向けられたものでは無いと想像する。


「他にも何かお悩み事がある様子。よければ、お話いただけませんか」

「・・・・心配させたようだな。大丈夫。だが、そうだな、明日は気分転換に遠乗りに出ようと思う。カーバイン、勝手を言ってすまないが、明日は——」

「了解しました。明日は姫様の代わりを務めさせていただきます」

「頼む・・・・」


 カーバインは敬礼をすると退出した。隠し事が苦手の上官が、明日、何をしたいのか想像したが、すぐに思い当たることがあった。遠乗りのことを言いだした時、姫様の表情は愁いから一瞬だけ弾んだのだ。もし、自分の予想が当たっているなら・・・・。

 

 カーバインは、あの日のことを思い出していた。そう、姫様があんな顔をするのを自分は今まで見たことがない。あの恐ろしく強い男が現れた日のことを。




■■■■■■■■




 アステルは、金策の手段を探すため、一日中テレムセンの街を探索した。異世界モノの定番、『冒険者ギルド』を探すのも目的の一つだった。結果は空振り。()()()()()()()()()それに似た組織はない。


——考えてみれば、権力者が、その存在を脅かす可能性のある武力集団を公認するなどあり得ない話かもしれない。ラノベなどでは、ギルドマスターが国王と対等に話し合ったりするシーンが良く描かれるが、やはりあれはフィクションなのか・・・・。


 しかし、なんか寂しい。討伐依頼された魔物を倒して、金を得る。これで金策はいけるかもと安易に考えてしまった自分が情けない・・・・。


 異世界でも金を得るのは難しいという現実を突きつけられたアステルだった。


 一日を空費して宿屋に戻ると、カウンターで鍵とともに女将から手紙を差し出された。女将は、今まで以上にアステルの顔をマジマジと見つめ


「これを持ってきた方、あれは・・・・。いや、止しとくよ。アタシは噂話が大好きで人の詮索も好きだけど、あの方は名前は伏せられたんだ。きっと事情がお有りになるんだろ。あんたも、なんの御用か知らないけど、あの方にわざわざ手紙を頂いたんだ。失礼があったら、この街のみんなが許さないよ」


 そう釘を刺された。部屋に戻って手紙を開けると、『明日また同じ場所で、夜明けから一刻後に』と書いていた。もし、別の誰かに手紙を読まれたとしても、二人以外、何のことか分からないようにしたのだ。






 次の日、アステルは予定の時間より早く着くように宿を出発した。東門は早くに東へと出発する商人たちを送り出した後、ようやくそれ以外の人の往来が始まり出していた。今日の門番の兵士は一昨日とは違っていて、声を掛けられることも無かった。


「アステル!」


 青鹿毛の立派な馬の手綱を引きながらファラリスが声を掛けてくる。アステルも思わず大声で呼び返そうとしたが、ハッとして手を振るだけに抑えた。


 オーガと戦った日の夜もこの馬を見た記憶があるが、太陽の下で見れば、なんとも美しい毛艶をしている。


「今日はお前と、遠乗りに出ようと思ってな。一緒に行ってくれるだろう」

「でも、俺は馬に乗ったことが無いし、何より馬は一頭しかいないけど」

「ハーキュリは、二人ぐらい何でもない。馬の乗り方なら私が教えてやる。さあ」


 そう言って手を伸ばす。一昨日会ったばかりの時のような不安そうな姿はない。ファラリスはとても溌剌としていて、元気いっぱいだ。今日という日を、精一杯楽しもうという思いが伝わってくる。



 ファラリスは、アステルを自分の後ろに座らせ腰を抱くように指示する。アステルが腰に手を回すと、ファラリスは、愛馬に足で扶助を与える。ハーキュリと名付けられたファラリスの愛馬は、二人を背にしても余裕があり、楽々と進む。




 テレムセンの北に広がる丘陵は遠乗りに格好の場所で、ファラリスがいつも好んで愛馬を走らせる場所だった。ファラリスは、これまでの愁いや迷いを振り払うように、楽しそうにハーキュリを走らせる。




 

二人と一頭が平原を横切り、西の公路へ出ようとしたとき、それは突然始まった。


「ファラリス、殺気だ! かなりの数に囲まれているぞ!」

「なに!?」 


 刹那、四方から一斉に強烈な矢が飛んでくる。避けがたいクロスファイヤだ。アステルは、瞬間に避けられないことを見抜き、咄嗟にファラリスの体を後ろから押さえ、前方左右から飛来する矢を右手で払う。直後に飛来する後方の二本の矢は、自分も身を屈めることで二人の頭上すれすれを交差しつつ過ぎ去る。


 ファラリスは、手綱を引こうとするが、アステルから、「そのまま駆けろ!」と指示され、頭を下げたまま包囲を突き抜けようとする。しかし、突如前方から全身黒ずくめで仮面を被った男たちが現れ、馬を止めるため投げ網を一斉に放つ。


 これは雄大な馬体のハーキュリには効果てき面で、ハーキュリは絡めとられて横転する。ファラリスは地面に叩きつけられることを覚悟したが、アステルが後ろから抱き上げて庇った。落馬による強烈な衝撃がアステルを襲う。しかし、魔神の体はこれくらいではダメージを受けない。


 素早く起き上がろうとする二人に、更に仮面の男たちから投げ網が放たれる。これもアステルの手刀が苦も無く切り裂く。立ち上がったファラリスも、腰の剣を抜き戦闘態勢に入る。


 襲い掛かった仮面の男たちに動揺が走ったのが分かる。必殺の連続攻撃をこれだけ周到に行ったのに、相手はほぼ無傷だから焦るのも無理はない。次の瞬間、アステルは、後方から次なる殺気を察知する。瞬時に飛ぶような速度で移動し、草むらに隠れる3名の暗殺者を連続で切り裂く。先程の狙撃手がクロスボウを再度ファラリスに向けようとしていたのだ。


 一人だけ別の場所に潜んでいた狙撃手の最後の1名が逃走を図ろうとすると、アステルは素早く投石する。石は逃走中の射手の背中を貫通する。


 これが、引き金だった。仮面の男たちは一斉に逃走を開始する。ファラリスは2名を切り倒し、アステルも投石で2名を倒した。最後の一人はファラリスによって足を斬られ制圧される。むろん、取り調べるためだ。


 ファラリスにが警戒しつつ、男の仮面を剥ぐと、男は含み針を吹く。予想された手口なので避けられて無駄に終わった。直後、男は泡を吹いて苦しがり、もがきながら死んだ。仕込んでいた毒をあおったのだろう。


「・・・・暗殺者アサシンギルド・・・・」


 ファラリスは、茫然として呟いた。


暗殺者アサシンギルド? あれか、大金で依頼を受けて標的を暗殺する秘密結社ってやつ」

「詳しいな・・・・。なぜ、そんなことを知っているのだ」

「まあ、ほら俺は各地を旅しているだろ。噂ぐらいはな。それより、ハーキュリを」


——しまったぜ。異世界のゲームで知りましたなんていえないからな。


 アステルは不用意な発言を後悔するのだった。

 

 ハーキュリは無事だった。網にからめとられてもがいてはいたが、幸いかすり傷を負っただけで、足は折れたり傷めたりしていない。ファラリスは、ハーキュリの額やたてがみを撫でながら本当に良かったと喜ぶ。


「すまない。動揺してしまって・・・・。私はだめだな。アステル、お前に助けられてばかりだ・・・・」

「らしくない。落ち込むなよ! まずは、暗殺者アサシンのことだ。こいつらから狙われる理由に心当たりはないのか?」

「あると言えば当然ある。私は、知っての通りテレムセンの騎士団長だ。私の存在を好ましく思わない者はそれなりにいるだろう。だが、それより——」

「なんで、ここを通るって知っていたか、だろ?」

「・・・・そうだ。私がこの場所を遠乗りをするのを知っていたのは——」

「まずは俺か・・・・」

「違う!アステルじゃないことだけははっきりしている。・・・・だから私はだめなのだ。一瞬だけでもお前を! 私のあい、あい・・・・あいしょうのよいお前を疑うなんて・・・・」


 ファラリスは耳まで真っ赤にし、声を落としていった。アステルはゴホンと咳払いしてから、


「俺以外に、今日の予定を話した奴はいないのか」


 と、当然の疑問をぶつける。ファラリスは、少しだけ考え込むと顔色を変える。


「・・・・!? しかし、いや、そんなはずは・・・・」

「誰か、心当たりがあるんだな。」

「・・・・」


 ファラリスは急速に色を失っていくのだった。







 この戦いの一部始終を見ている者がいた。



 遠方から注がれる視線は、アステルにもまったく察知できないのだった。



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