第27話 ファラリスの過去
宿屋の部屋で、アステルはベッドに横たわり、天井をぼーっと眺めていた。
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あの後、アステルはファラリスから、自分が騎士として戦う理由や、王子に縁談を申し込まれたことなどを打ち明けられた。詳しくは分からないことが多かったが、自分の中に彼女の気持ちが入り込んでくるような、そんな不思議な感覚だった。
やがて時間が訪れ、二人が別れるとき、どちらともなく、次はいつ会えるのかという話になった。アステルが少なくとも、あと5日はこの街にいると言うと、ファラリスは目に涙を浮かべて嬉しがった。泊っている宿屋の名前と今後の予定を聞いた後、ファラリスは何度か振り返り、東門にきえた。すこし時間をおいてからアステルも戻った。
アステルは、ファラリスの話の足りないピースを埋めるべく、夕食の時、食堂で昨日絡んできた自称兵士のガルゴを探した。隅に座ってガルゴは酒を飲んでいた。
声を掛けられ驚くガルゴに、アステルは酒と飯を追加で注文して、奢った。自称でも兵士と言い張るなら、ファラリスのことは当然知っているだろうと思ったからだ。これは、狙いが当たり、ガルゴは自分がすべてを見て来たかのように、雄弁にファラリスの軍歴について語りだした。
料理を運んできた女将が、「面白そうね」と加わってきた。ゴシップ好きの女将の話は、ファラリスの幼少の頃にまで及び、どうやって知ったのかと不思議にも思ったが、何にせよ、どうやらファラリスは、この街のみんなに愛されている存在のようだった。
部屋に戻ったアステルは、ベッドに横たわり、天井をぼーっと眺めていた。昼間ファラリスから打ち明けられた話と、先ほど聞いたことを考えていたのだ。
——無理やり異世界に落とされて、その異世界の女に、こんなに興味を持つなんて・・・・。俺は、あの女、ファラリスに魅かれているのかもしれない。
中身が異世界人のアステルにとって、ファラリスの過去はとても興味深く、そして悲しかった。
ファラリスは、テレムセン侯爵家の第一子として誕生したが、母のシグリーズはファラリスが幼少時に亡くなり記憶にない。以来、養育係や侍女によって育てられた。父のベンドアは、なぜかファラリスを遠ざけ、幼少時は遊んでもらった記憶がない。
ファラリスが4歳の時、父の再婚相手であるヴァレッタ夫人が弟ゼダンを産むと、父の関心は完全にゼダンへと向かった。
ファラリスを可愛がったのは、先代の侯爵家の騎士団長で、その影響からか、幼少から訓練用の木剣を振り回していた。そんなファラリスを父ベンドアは無関心から、養育係は怠慢から矯正したりはせず、放って置かれた。ファラリスは姫として育てられるのではなく、騎士団の見習いのように育っていった。
そんな状況に拍車が掛かったのが、10歳で行われる『判定の儀』だった。この儀式でファラリスは、非常に稀な天職『軍司令』を得た。これを誰よりも喜んだのは、先代の騎士団長だった。父ベンドアは例によって無反応だった。
成長するに伴い、生来の美貌が花開いていったファラリスは、その凛とした佇まいも加わり、一種近寄りがたい美しさを放つようになった。いつしか、ともに訓練に励む騎士や騎士見習いも、ファラリスを女神のごとくに慕うようになっていった。一方、本人は、周囲のそうした気持ちをまったく気にせず、騎士たちと厳しい訓練に明け暮れた。
初陣は14歳であった。付近に出没した盗賊団を討伐する任務に就き、先代の騎士団長の下で、勝利に貢献した。初陣で、人の命を絶つことに躊躇するものは多数いるが、ファラリスは、初の実戦で2人の盗賊を斬った。騎士団長は、その胆力を喜び、指揮官としての教育も始めた。
その後、何度か魔物討伐などで実戦経験を積み、17歳の若さで騎士団長を継ぎ、ついに軍勢を率いる立場に立った。その数か月後、テレムセンの西隣のジョベル伯爵が娘婿のクレイロン子爵と共に国王に反乱を起こした。その討伐軍の一軍として父ベンドアの代理で侯爵軍を率いたのだ。
女に大将など務まるものかと嘲笑ったのは、敵方だけではない。討伐軍に参加した他の諸侯もそれは同じだった。娘を代理で寄こしたベンドアを公然と非難する声もあったほどだ。しかし、その批判の声をファラリスは一蹴する。
騎馬隊を中心とした機動的な戦術を巧みに操り、反乱軍を短期間で打ち破ったのだ。騎馬隊の先頭に立って槍を振るうファラリスの雄姿は、味方のテレムセン軍の絶対的な信頼も同時に勝ち取ることになった。ファラリスは、その戦い以降テレムセンの誇る『姫将軍』と綽名されるようになった。
むろん、何度もその評判を聞きつけて縁組の申し出があった。しかし、ファラリス本人が固辞し、軍務でテレムセンに貢献する意思を示した。父ベンドアも娘の縁組には熱心ではなかった。
それが今回は違った。数日前の魔物大氾濫の後、凱旋したファラリスに、その場でベンドアは第3王子レリックとの縁談話を切り出した。余りのことでファラリスは、声も出せなかったという。もちろん、ファラリスはこの縁談を断りたい。しかし、相手が第3王子となれば、侯爵家として受けざるを得ない。
——そんな中、現れたのが俺か・・・・。
ラノベの鈍感系主人公ではないアステルは、ファラリスが自分に寄せている感情に気付いている。会ったばかりだとか、時間の問題ではない。今日、話してみて彼女が自分に寄せてくれている強い好意は、正直嬉しい。だが、どうすることもできない。それこそ、小説ではないがファラリスを奪って逃げるなんてできるわけがない。
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ちょうどその頃、テレムセン侯爵の居城の一室。そこは、歴代の当主しかその存在を知らない秘密の部屋だった。その部屋で一人思い悩む人物がいる。むろん当代のテレムセン侯爵ベンドア・バーラムその人だ。
ベンドアは、部屋に飾られた肖像画を食い入るように見ている。肖像画に描かれた美しい女性は、ファラリスによく似ていた。しかし、全く似ていないところがあった。肖像画の女性は悲しげで強い愁いを帯びた表情で描かれていた。
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