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第25話 それぞれの午前


 戦勝祝賀会の最中、テレムセン侯爵配下の大勢の騎士や街の有力者に次々に賞賛されながらも、ファラリスはどこか上の空だった。戦の働きに対する慰労でもあるので、ベンドア侯爵以下、家の面々は、接遇に努めなければならない。中でもファラリスの人気は凄まじく、引切り無しに相手をすることになる。


 ファラリス付の侍女ナタリアは、主の様子を見て心配し、一計を案じる。料理番に予定変更を告げ、魔猪ダークボアの丸焼きをその場にて捌いて客に提供する余興を繰り上げて開始させたのだ。参列者が旨そうな匂いを振りまく魔猪ダークボアの丸焼きに歓声をあげている隙に、ファラリスをそっと、部屋から退出させた。


「すまない、ナタリア。気を遣わせたようだな。」

「ファラリス様、戦に続いて今夜の祝宴、お疲れでございましょう。しかし、私には、それだけではないようにお見受けいたします。何かお悩み事があれば、何なりと仰ってください」

「・・・・何でもない。疲れが出ただけだ」

「それならば、良いのです・・・・。ファラリス様、このナタリアにお役に立てることがあれば何なりとお命じください」


 そう言うと、ナタリアは綺麗な侍女の礼をとってから、仕事に戻った。部屋に一人きりになると、ファラリスは昨日、帰還した時のことを思い出していた。




 昨夜遅く、軍を引き連れてテレムセンに帰還したファラリスは、深夜にも関わらず大勢から歓呼で迎え入れられた。兵士や住民が、ファラリスの帰りを今や遅しと待っていたのだ。


 居城に戻ると父ベンドアや弟のゼダン、そしてゼダンの母でファラリスにとっては義母になるヴァレッタ侯爵妃が広間にて迎えた。型通りの挨拶が交わされた後、父ベンドアから唐突に予期しない発言が飛び出した。


「ところで、お前に、縁談の申し出が来ている。これまで、多くの縁談をお前の意思もあって丁重に断ってきたが、今回ばかりはそうはいかん。陛下の第3子レリック王子がお前の噂を聞き、是非にと望まれたそうだ。近く正式に使者が訪れることになった。今回の魔物大氾濫スタンピードの討伐の指揮も、それ故、本当は任せたくはなかったのだがな・・・・」

「姉上、おめでとうございます! レリック王子と婚約がなれば、或いは将来の王妃も夢ではありませんよ」

「ゼダンの申す通りですわ。このテレムセン侯爵家と王家の縁が強まれば、ゼダンの将来にとっても大きな助けとなります」


 ファラリスは、余りの驚きで絶句してしまった。何も、このタイミングで言う必要があっただろうか。ゼダンと義母ヴァレッタの様子を見るに、二人はこのことを知っていたとしか思えない。ファラリスは、戦勝の喜びや興奮が一気に冷えていくのを感じていた。




 部屋の外で、ファラリスを探す声が聞こえ、ファラリスは現実に引き戻される。ファラリスは自分はこの家にとっていったい何なのだろうと思い、悲嘆にくれた。そんな中、アステルの顔が浮かんだ。あの女神を模った彫刻のような美しい容貌。そして、自分を窮地から颯爽と救い出した雄姿・・・・。ファラリスは心臓が早鐘のように高鳴っていくのがよくわかった。




■■■■■■■■




 翌日、ファラリスは侍女のナタルマに騎馬隊の隊舎に行くと言って居城をでた。一方で、騎馬隊の隊舎に寄ったファラリスは、兵たちを改めて労った後、今日は疲れがあるので城に帰ると告げるなど下手なアリバイ作りをした。今までこんなことをしたことがなかったから下手なのは仕方がない。だが、心は自分でも驚くぐらい軽やかだった。


 いつも着用する白の軍服は、街では自分の良く知られた外見と相まって目立ちすぎる。だからといって、庶民の着るような質素な服など持っていないし、第一、店で服を買ったことがない。


 貴族たちは普通、選ばれし御用達の商人が連れてくる仕立て職人が居城で採寸したオーダーメイドしか着ないのだ。ファラリスは、好みが特殊で、ドレスなどの女物は一切着ない。男装、中でも白いジャケットを好んで着用する。しかし、その貴族服で街中を歩くのは悪目立ちしかしないことは、流石のファラリスも分かる。そこで、ファラリスは騎馬隊の隊舎に寄ったのだ。


 騎馬隊の乗馬服なら、仕立ては良いが、見た目も地味で街中でも目立たない。後は、この長い金髪ブロンドを結び、全体に大きなつばのついた帽子を被って隠せば・・・・。鏡の前に立ったファラリスは、心の中で、よしっと自分を鼓舞する。


 昼までには、まだだいぶ時間があったが、ファラリスは東門に向けて街を進むのだった。





■■■■■■■■





 アステルは、午前中幾つかの店を回って服や日用品、寝袋や天幕テントを購入した。それらを入れて運ぶための大きなリュックサックを探したが、どこにもなかった。仕方ないので、皮袋を売っている店の店主に、簡単な設計図を書いて渡し、材質に丈夫な魔物の革を指定して作成を依頼した。店主に手付も込みで金貨1枚と銀貨10枚を要求され、かなり悩んだうえでの決断だった。あっという間に、残りの資金が不足してきた。


 

 今日の買い物は、昨夜、部屋で休みながらこれからのことを考えた上での行動だった。


——あの日、森の中で決意したことは揺るがない。勝手に俺たちを召喚して、挙句にこんな体にした奴らに、すべての借りを返す。しかし、いきなり王都に乗り込んだとして、どうする。王やサーゲイルを討つために周囲の無関係な住民まで巻き込んで大暴れするのか? この魔神の体の能力に、もしそれを可能にする力があったとしても、それをやってしまえば、あいつらと同レベルのクズになる。ただの虐殺者だ。


 あとは、暗殺か・・・・。殺すことを決めた以上、殺し方に正義感や倫理観を持ち込むほど俺はロマンチストじゃない。暗殺は、個人的な復讐としては、立派な選択肢だ。・・・・よし、機会を探るためにも王都を目指してみるか。


 そう決めて、その準備に時間を費やしたのだ。頼んだ革製のリュックができるのは5日後。それまでに旅の資金を増やす算段もしなければと思いながら、アステルは一先ず昨晩泊まった宿に戻った。連泊を条件に、宿代の値下げを言い出すと、女将の顔はかなり曇った。





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