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第24話 トラブル体質

*第23話の最後 明日の昼と書きましたが、二日後の昼に訂正しました。


 ファラリスの指示の下、テレムセンに帰還するための準備が始まった。犠牲となった仲間の遺体を持ち帰るための作業に多くの時間を割いた。


 アステルは、騎士たちに交じり作業を手伝いながら、これまでの顛末を聞いた。兵士に大勢犠牲が出たかと思うと、やるせなさで苦しかった。住民に被害が出なかったのがせめてもの救いだった。


 作業が終わりを迎えたころ、南方から、松明を煌々と照らしながら軍勢がやってくるのが見えた。魔物の主力を全滅させたテレムセン軍が、ファラリスの下へ駆けつけたのである。


 オーガの追撃に移った時、既に数騎の騎士を伝令に送ってファラリスの無事を知らせていたが、最高指揮官を出迎えるべく、軍の一部がやってきたのだ。アステルにも兵たちのファラリスを慕う気持ちがいかに強いのかが良く分かった。


 だが、このタイミングでこの場を去るのが良いと考え、闇に紛れようとしたところ、それに気づいた騎士の一人から声を掛けられた。


「アステル殿、ここまでして頂いて何もしないでは、姫様ではないが、それこそ騎士の名折れ。これを持たれよ」


 そういって袋を投げてよこした。受け取った瞬間「ジャラッ」と音がした。


「何も言われるな。オーガの遺骸は、素材としてそれなりに値が付く。その代金だと思われよ」


 アステルは、お礼の意味を込めてお辞儀をすると、今度こそ一人暗闇に消えた。




■■■■■■■■




 アステルがテレムセンに着いたのは、次の日の昼過ぎだった。街道沿いの西門周辺には、魔物の素材を売り買いする臨時の市が建てられ、多くの人々が押し寄せていた。兵士にかなりの犠牲がでたと聞いていたので、街はお通夜のようになっているかもと想像していたが、予想外の活況に驚いた。


———こういうところの倫理観、みたいなものはやっぱり日本とは全然違うな。現代日本だったら、街中が自粛ムードだっただろう。


 しかし、この活況は街に入るにはもってこいだった。西門は行きかう人や物でひっきりなしで、兵士は一応立ってはいるが、いちいち出入りを取り締まっていない。もしかしたら、異世界モノのお約束で通行料とか、身分証を出せとか言われるかもしれないと予想していたからだ。


 ここに来る途中、村に戻ろうとする住民から購入した大きな頭巾を被る。目立つこの容姿を隠すためである。すんなりと城門を通ることができ、ホッと一息つくと、そこには、西門の外の市を上回る活気を呈した街並みが広がっていた。


 アステルは、初めて目にする異世界の街並みにかなり興奮したが、すぐに街を探索する旅人になった。ともかく、早く宿をとって食事にありつきたかった。もう、何日もまともな食事を取っていなかった。白い大樹(リューカ・デンドロン)を旅立つとき、この服と一緒に、干し肉や乾燥木の実の携帯食を貰ったが、既に食べつくしていた。


 ようやく、宿屋を見つけると、カウンターの女将さんと思われる中年女性と値段の交渉を行う。一泊二食で銀貨1枚と銅貨20枚だと言う。この宿を探す途中、露店の品物を見て、大体の価値を計ってきていた。おそらく、

 

銀貨一枚は1万円ぐらい

銅貨一枚は200円ぐらい だろう。


———魔物の素材でも、オーガの素材だけが金貨を単位に売買されていただけで、それ以外金貨が流通で使用されていない。そのあたりを換算すると、おそらく金貨は1枚20万ぐらいの価値がある。そして、俺の手持ちは金貨3枚に銀貨19枚。この顔を隠すための頭巾に銀貨一枚払ったのか・・・・。ま、そもそも貰った金だし、良しとしよう。


 貧乏学生だった頃の経済観念が抜けないアステルは、基本的に倹約体質だ。だから、この宿代も当然値切るのだった。


 銀貨一枚と銅貨10枚に値切り、たらいにお湯を入れて届けてもらうことで手を打ち、部屋の鍵を受け取った。お釣りの銅貨を入念に数えている姿を見て、女将さんは、びっくりするほど綺麗な顔して、ホントしっかりしてるよ!と内心思った。



 届けられた()()()の湯を使って体を拭き髪を洗う。慣れない長い髪を洗うのに多少手間取ったが。そして、再び、服を着る。明日は、下着や服を買いに行こうと計画しつつ、ベッドに横になり仮眠をとった。


 夜になり、食事の準備が整ったと知らされ、食堂に顔を出す。飲み物はすべて別料金で、仕方なく銅貨5枚払って果実酒を頼む。出された料理は、素朴な味のシチューや固い黒パンだったが本当に美味かった。やはり空腹は最大の調味料なのだ。


 夢中で食べていると、アステルのテーブルの向かいの席に男が立った。


「なあ、あんた一人かい? 良かったら、相席させてもらってもいいか」


 男は、アステルの許可もなく、向かいの席に食事を乗せたトレーを置いて座る。周りには空席がかなりあるのにだ。


「あんた、名前はなんていうんだ。オレはガルゴていうんだ。侯爵様の招集に応じた騎士のマッチェム様のお伴でこの街に来たんだぜ。もちろん、昨日の魔物との戦でも、マッチェム様の配下として戦ったのよ。・・・・昨日の夜はすごかったぜ、みんな大勝利で盛り上がってよ。浴びるほど飲んだぜ。今日も、侯爵様の城でお偉方は大宴会よ。羨ましいぜって、なぁ、聞いてんのか? いいから名前ぐらい教えてくれよ」


 ガルゴと名乗った男は、一方的に自分のことを話した。アステルは、無視して食事を続けると食べ終わって席を立とうとした。


「別嬪さんだからって、お高くとまるなよ! なあ、俺と今晩付き合えよ。金なら、たんまりとあるぜ。恩賞を頂いたからな」

「あんた、勘違いしているぜ、()()()だ。こう見えてな。女が欲しいなら他所へ行ってナンパでもなんでもやってくれ」


 二人のやり取りを注目していた他の客にも驚きが広がる。みんなアステルを飛切り美しい女だと思い、気にしていたのだ。外見と不釣り合いだが、確かにアステルの声は若い男のものだ。


「なに!? そんな、嘘だろ・・・・。」

「よく分かっただろ。なら、男の名前なんか聞いてもしょうがないだろ。それじゃあな」


 アステルは、そう言うと足早に部屋に戻った。この容貌が、見るものを魅了するのは良くわかったが、トラブル体質なのには本当に勘弁してもらいたかった。



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