第22話 オーガとの戦い
魔物大氾濫発生の報にリューカの里が騒然となる中、アステルは、ドリュアス族の族長ベルワイドと共に、白い大樹の巨大なウロの内部に作られた祠に案内された。
アステルは、自分のせいで魔物の暴走が起こったのだと考え、一刻も早くその鎮圧に向かいたいと考えたが、ベルワイドから、今のアステルが魔物に接近した場合、ますます暴走に拍車がかかるかもしれないと嗜められ、まずは、アステルが撒き散らす魔神の気配を打ち消すことを優先させた。
祠に入ると、そこにはリューカから漏れ出た樹液が流れ込み、まるで池のように溜まっている場所があり、その爽やかな香りが当たりを包んでいた。ベルワイドは、樹液の池のそばにアステルを座らせる。
「これより、リューカの樹液を用いて、そなたの強すぎる気配を封じる秘術を行う。と言っても心配なさるな。リューカの樹液は、我らドリュアス族にとっては万病に効く妙薬であり、呪いや魔を払う力をもつ。そなたが邪悪なものなら、この祠に立ち入っただけでも、タダでは済まぬはず。今ここで、こうしておられるのなら何も問題はない。要するにじゃ、これよりそこのリューカの樹液をそなたは口にし、そしてその身に浴びていただく。リューカの助けを受けて、更に我が秘術を加えて、そなたの体から漏れ出る強すぎる気配を封じる。分かったかな」
アステルに否も応もない。言われた通りにするだけだ。
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儀式が終わり、与えられた真新しい服に袖を通すとき、アステルは、確かに自身の体が変化していることを確認する。鈍く輝いていた褐色の肌は、輝きが消え、美しさは残しつつ普通の見た目に落ち着いていた。
–––––よかった。これで悪目立ちも少しは減る。自分の出す気配なんて良くわからんが、抑えられたと思うしかない。
アステルは、これでようやく人間の領域に踏み込んでいけると喜んだ。そして、ベルワイドに、これから直ぐに魔物の暴走を鎮めに行く事を告げる。
「良いじゃろう。今からでも経つが良い。既に魔物どもは森を出て、南のテレムセンに向かっておるじゃろ。ラースを同行させる故、最短で森を抜ける道を教わるが良い」
「色々と、ありがとうございます。俺のせいで、このあたりの住民に犠牲が出るなんて・・・・」
「・・・・魔物どもがスタンピードを起こした原因じゃが、決して、そなただけが原因ではない。十日程前から、大森林の魔物どもは、異常に興奮しておった。我らも原因を探ってラースたちに森を見廻らせていたのじゃ。そなたの話によれば、そなたがその体に変じたのは二日前。そなたの出現は最後のダメ押しになったかもしれんが、それより前から異変は生じておったのじゃ。異変の原因が何か分からんがの。じゃが、今はそれを云々している場合ではない。ことは一刻を争う。早く向かうが良い」
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ラースに導かれ、休息をとる間を惜しんで急行したものの、森を抜けるのにまる一昼夜の時間を要した。アステルは、朝日を浴びて眼前に広がる平原に、やっと森を抜け出たことへの喜びを感じたが、ラースの言葉で気を引き締める。
「私が同行できるのはここまでだ。ここからは人間の領域。我らドリュアスは森の民、人の世界へは干渉しないのが掟だ。アステルよ、ここからは、お前一人で行くのだ。見ろ、魔物の大群が南下した跡が果てしなく続いている」
「分かった。ラース、ここまで案内してくれてありがとうな。ベルワイド様やあんたから受けたこの恩は必ず返す」
「うむ。魔物どもとの戦に加勢できず申し訳ないが、もし、魔物どもが森に逃げ戻ったなら必ず我らで退治しておく。それから、・・・・アステルよ・・・・いや、今は止そう。とにかく武運を祈る」
最後の言葉を飲み込んだラースの顔はなぜか赤かった。ラースと別れたアステルは、魔物の群れが残した足跡をたどって南へと急いだ。
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日が夕刻に迫る頃、前方で大勢の騎馬兵が魔物と死闘を演じているところに出くわした。ようやく目指す戦場に到達したのだ。アステルは、初めて目にする人と魔物の戦いに、一瞬だけ身を固くしたが、直ぐに落ち着きを取り戻した。
––––意外に緊張しない、これもこの体の能力か。しかし魔物の数が予想より、だいぶ少ないな。
鬼のような魔物の集団に取り囲まれる一人の騎士の姿が目に入る。その騎士を助けようとして他の騎士が魔物の群れに突っ込み、容赦なく薙ぎ払われるのだった。
––––くそっ、俺のせいで死人が出るとか、情けなくなるぜ! あの鬼みてーな魔物の親玉を早く処理しねーと、囲まれてる奴が長く持たねぇ。
アステルは、素早くオーガの群れに近づく。ようやくアステルの接近に近づいたオーガがこん棒を振り上げるが、それが振り下ろされることはない。アステルの手刀は瞬く間にオーガの上半身を袈裟切りにする。
これを皮切りに、魔神の力の一端が示されることになる。
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