第13話 悪魔召喚(1)
「うぅ・・・・」
意識を取り戻した惣治は、自分の置かれている状況を理解できず混乱する。
——どこだ、ここは!?今度は何を始める気だ!?
気が付くと、地下室から外に連れ出されているのだ。しかし、縛り付けられ、身動きが取れないのは同じだった。惣治は更なる虐待行為を警戒する。何か固い柱のようなものに後ろ手に縛られ、体を幾重にも固い紐で拘束されていることは分かる。
僅かに自由になる首を動かし、惣治は必死に周囲の状況を理解しようとする。すると、全身黒いローブに包まれ、錫杖のようなものを右手に携えた男が椅子に座っているのが姿が目に入った。惣治が意識を取り戻したことに気付くと、男は立ち上がり、こちらへ近づいてくる。
「やっと、お目覚めですか。1日半も意識が戻りませんでしたよ。不死身とはいえ、心臓へのダメージは、さすがに回復に手間取るようですね。まあ、おかげでここに運ぶのに手間がかからず助かりましたがね」
男は惣治に近づくと目深に被ったローブのフードを脱ぐ。
「・・・・クソ野郎!必ず殺してやる!」
「ほほぅ、あれだけ痛みと苦しみを与えても、まだ、恐怖に飲み込まれませんか。これもやはり、聖者のスキルの力のようですね。これまで、私がお世話してきた被験者は、みんな、再検査のために私が来ただけで、悲鳴を上げていましたよ。中にはお漏らしするものもいましたねぇ」
「ほざけ、このクソサイコ野郎が!何が、邪神から世界を救えだ!詐欺師どもが!お前らこそ邪悪の化身じゃねぇかよ!勝手に滅びろ!」
「クックック・・・。いいですねぇ、あなた。最高です。その聖者のスキルもね。ただ、あなたはどうも口が悪いようだ。まあしかし・・・・あなたのそのスキルに免じて許してあげます。それからもう少し、黙って私の話を聞きなさい。あなたにとって大切な話になりますから」
そう言うと、黒いローブに全身を包んだナスルは、フゥと大きく息を吐いてから、惣治を縛り付けた細長い石柱に目をやった。
石柱は、黒曜石のような材質でできた四角錐のオベリスクのような形状をしており、四面に縦方向の神代文字が刻みこまれている。
そして、俯瞰すれば、オベリスクが据え付けられた場所は、幾重もの木々に包まれた深い森の中に、そこだけ円形に切り取られたように開けた場所の中央だった。石柱を中心にして、同心円状に古代文字で描かれた魔方陣が白い塗料で描かれている。
「あなた、邪神の存在を嘘だと思っているようですが、・・・・世界の危機が近づいていることは確かですよ。まあ、ただ、詐欺師呼ばわりするのはサーゲイルだけにしてください。あの男は上に媚びるだけの能無し。異界からの召喚術も不完全。あれだけの生贄を差し出して、たったの7人とは——」
——生贄、生贄を差し出しただって・・・・。
惣治は、召喚術の秘密の一端に触れて慄然とする。
一方、魔方陣の外側に出たナスルは、そこに置かれたテーブルの上に並べられた儀式の道具のような怪しげな品々を見渡すと、その中から黄金に輝く瓶を取り上げて蓋をあけ、中の液体を魔方陣にむかって垂らす。
惣治は、この状況下でナスルが始めた儀式めいた行動に最大級の危険を感じる。
「クソ野郎!何しようとしている!妙な真似するんじゃねえ!」
「私はねぇ、異界からの召喚なんて回りくどいやり方には反対でした。調教した異界人を操って戦わせるなんて、時間と労力の無駄ですよ。もっとシンプルなものがいい。補充の効く即戦力が重要だと言ったんです。・・・・それを、それを頭の悪い王とその取り巻きは理解せず・・・・」
惣治の静止を無視して、独白を続けながら、ナスルは儀式のような行為を丁寧に進めていく。そこに迷いは一切無い。何度も何度も繰り返してきた手順だったからだ。
そして、すべての準備が整う。
「喜びなさい。あなたの奇跡の体に相応しい、高レベルの魂を用意して差し上げます。低レベルな魂のあなたには、その体は勿体ないですから。・・・・・今から始めるのは、いわゆる『悪魔召喚』です。ですが、単なる悪魔ではありませんよ。高位の、それこそ、魔王と呼ばれるような大物を召喚します。・・・・・えぇ、御心配には及びません。これまで何度も行ってきましたから、召喚自体の失敗はありません。御安心ください。ただ・・・・・今まではその依り代となる器がボロで、直ぐに壊れてしまい、折角、呼びした高位の存在も、元の次元に引き戻されてしましました。・・・・・そう、それだけが問題だったのです!ですが、今回は違う!・・・・あなたがその器となるからです。今回は、確実に成功へ至るでしょう。きっと、あなたのその口の悪さも治りますよ」
興奮と歓喜で、ナスルの顔が紅潮する。両手を広げたナスルの姿は悪魔そのものに見えた。惣治は、ナスルのことを初めて恐怖した。恐怖とは全く理解できない状況に遭遇した時に生まれるのだ。
「やめろ! やめろぉぉぉぉ!!」
惣治の叫びも空しく、ナスルは絶頂した表情で最後の呪文を唱える
「 Διάβολε, έλα!!」
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