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第10話 聖者の片鱗


——拙いな・・・・。


 小部屋に軟禁状態にされた惣治は、昨晩の自分の行動を振り返って、やらかしたと思った。まさか、本当に異世界へ召喚されたなんて思わずに、サーゲイルたちに色々と挑発的な態度を取ってしまったことへの後悔だ。


 しかし、と惣治は考える。昨日のやり取りで、全員がおそらく何らかの超常現象を体験してこの世界に落ちてきたと推測される。しかし、それでも、いとも簡単にサーゲイルや兵士どもの言いなりになってしまったのには納得いかない。


——少なくとも、アダムの奴は、軽く脅されたぐらいで黙るタマには見えない。その証拠に、俺がアダムをちょっと突いただけで、あの怒りようだ。プライドの高さでは、サーゲイルに負けていないだろう。なのにだ。あっさりと主導権を握られすぎだ。


 あれこれと考えるが、答えは出ない。


 惣治は、その部屋で軟禁状態のまま数日を過ごすことになった。





■■■■■






「出ろ!」


 食事を届ける時以外、開けられることが無かった扉が、バンッと音をたてて開けられ、中に入ってきた兵士が威圧的に命令した。ベッドに寝ていた惣治は、


「この世界を救う救世主様に対して、随分な対応だな」


 言ってやろうと思って準備していた言葉を、皮肉たっぷりにぶつけた。


「黙れ!その余裕が続くのも今のうちだ。あのお方が来られたのだからな」

「あのお方って誰だよ。サーゲイル・ロードじゃ無いのか」

「フフッ、今に分かる。黙って歩け」


 兵士は不気味な笑みを浮かべると、手にした短槍を惣治に向け、先を歩くよう促した。部屋の外に立っていたもう一人の兵士が先導し、惣治は二人に前後を挟まれながら神殿の中を暫く進んだ。


 後ろの兵士から槍で促されて地下に続く階段を降りると、一気に薄暗くなり、湿気とともにかび臭い匂いが立ち込めてきた。これには流石に惣治も不安が強くなってきた。明らかにこれまでと違う、悪意や害意をまとった地下の雰囲気に、身の危険を感じたからだ。惣治はこのまま奥に進むのは拙いと考え、逃げ出すことを考えた。


 数歩進んだところで意を決し、前を進む兵士の持つ槍を奪おうとして、惣治が槍の柄を握ると、奪われまいとする兵士と揉みあいになる。壁に兵士をぶつけ、上手く槍を引っ手繰ったところで、後ろの兵士が助けに入り、惣治の足元に向けて槍を突き出してくる。惣治はその穂先を必死に躱し、奪った槍をガムシャラに振り回す。兵士には惣治を傷つけずに連行しようとして、ためらいがあり、ど素人の振り回す槍を容易に制圧できない。


 そうして二人の兵士を振り切り、降りてきた階段を上ろうとしたとき、惣治の左腿をズン——という衝撃が走った。


 惣治を逃すまいとして、兵士が咄嗟に投げた槍が、左腿の裏を貫いたのである。一瞬の間の後、焼けるような激烈な痛みが惣治を襲い、脂汗が全身から噴き出す。うめき声をあげて惣治は階段を転げ落ちた。


「馬鹿野郎、死んだらどうするんだ!」「うるさい、逃がすわけにはいかんだろうが!」


 二人の兵士の怒鳴り声が地下にこだます。近づいた兵士の一人が、もがき苦しむ惣治から槍を奪い返すと、もう一人の兵士が、「お前が悪いんだぜ」といってから、槍を引き抜いた。


「うがぁぁぁ!!」


 今まで、かろうじて悲鳴を上げるのを耐えていた惣治も、槍を引き抜かれる際の激痛に叫び声をあげる。傷口からは大量の血が溢れ出た。



「——おやおや、何の騒ぎかと思えば、誰に断って大切な被験者を壊しているのですか?これだから頭の悪い者は困るのですよ。」


 兵士たちが声のした方を向く。黒髪の長髪を後ろで無造作に結び、頬のコケた顔色の悪い、まるで幽霊のような男がそこに立っていた。


「こ、これは、ナスル様!申し訳ありません!この男が逃亡しようとし——」


 槍を投げた兵士が最後まで言う前に、ナスルと呼ばれた幽霊のような男は、鋭い刃物で兵士の首を掻いた。


「あぐぅ!・・あ・・・」


 切り裂かれた喉を抑えながら兵士は絶命する。辺りはあっという間に血の海だ。もう一人の兵士は、ひぃっ、と声にならない悲鳴を上げる。外科手術に使うメスのような形状をした刃物を振りながらナスルは続ける。


「言い訳はいらないのですよ。被験者をただ運んでくる、こんな簡単な命令も守れない頭の悪い者はいらないのです。わかりますか?」


 ナスルは、殺処分する実験動物を見るような眼をする。生き残った兵士はブンブンと首を縦に振る。


「よろしい。では、その被験者を私の研究室に運びなさい。それから、後で転がっているゴミも片付けるように」


 兵士は、慌てて倒れている惣治を起こすと、奥の部屋へと引きずっていった。


——ん、なんです?


 ナスルは、引きずられていく惣治の変化に気付く。流れ出る血液の量が徐々に少なくなっているのだ。地下の廊下を引きずられていくときにできた盛大な血の染みが段々と薄くなり、やがて点々と血を垂らしたようになって、最後は無くなっていた。まさか、こんな短時間で出血多量で血液が無くなるはずはない。だからといって、逆にあれだけの怪我で何の処置もせず血が止まるはずもない。


——楽しみな被験者ですね。


 幽霊のようなナスルの顔に、禍々しい笑みが浮かんだ。

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