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「まだよ!まだ、終わってないわ!」
月の乙女は、いままでの取り繕った可愛らしさを投げ捨て、喚く。
「もう無理だ。あきらめよう」
「うるさい!」
やさしく肩に手を置こうとした王子の手を、月の乙女は振り払う。
「そいつは悪役令嬢なんだ。悪役令嬢として閉じ込めて、国の外に出しちゃ駄目なんだ。思い出した。私、夜道で襲われました。そのとき、犯人の顔をはっきりと見た。そいつだ。私を襲ったのはカーレット侯爵令嬢だ。だから、そいつは、カーレット侯爵令嬢は、悪役令嬢なんだ」
王子も裁判長も陪審員も、無残なあがきをする月の乙女に対して、何も言えない。
私は口枷のせいで何も言えない。
私の妹エルルが、月の乙女の正面に立つ。
「メイさん。あなたは、私の姉が襲い掛かってくるのを見たと言いましたが、どんなクソダサい格好をしてましたか?」
「なんですって?」
「夜道で人を襲うなら、普段通りの格好をしているわけないですよね。当然、クソダサい姉が選んだコスチュームをしていたはずです。さあ、答えてください。姉はどんなクソダサい格好をしてましたか?」
「そ、それは、人を襲うのだから、上下が黒一色で・・・」
「それはおしゃれな格好ですね」
「いえ、そうじゃなくて、そうだ、花柄のスカーフをつけてて、人を襲うのに花柄ってわけわかんないですよね」
「全身を統一したところに小物でアクセントをつける。すごくセンスがいいですね」
「そうじゃなくて、そうじゃなくて、ああっ、勘違いしてました。いままでのは間違い。紫とかピンクが混ざり合って、うまく言えないけど、そう、そうよ、言葉では言い表せないほどダサい格好でした」
「では、実際に描いてください」
月の乙女は、画材を渡され襲撃者の服装を描かされる。
ファッション界の第一人者であるバードレック・サルデド氏が、その服を鑑定する。
「素晴らしいセンスです。奇抜なようにみえて、要所の基本を押さえた配色。独自性を前面に出しつつ、大衆に受け入れられる部分を織り込んでます。このまま商品化すれば、トップクラスの売り上げになるはずです」
「あなたのようにセンスがいい人は、どうあがいても、姉のようなクソダサいセンスを真似できないのです」
月の乙女はその場に崩れ落ち絶叫する。
「メイさん。どうしてこんなことをしたんですか?」
妹の問いに、敗北した月の乙女はうつむいたまま答える。
「そんなのわかりきったことじゃないですか」
「姉の命を守るため」
「その通り・・・です」
月の乙女は懐から灰色の便箋を取り出した。




