表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】「神様のバディ、はじめました」━裏公務員の神様事件簿━  作者: 只深
裏公務員はじめました

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/125

15名もなき山寺6

「ほほー、上手くいきましたね。これはいい結界ですよ」


「よかった……ちゃんとできてます?」


「はいはい、実践も問題ないでしょう。しかし不思議ですね、ここまで身体に密着するとは。芦屋さんがやると教えた事が一風変わりますな」


「うっ……何かすいません」


「いやいや、褒めてるんです。才覚のあるなしはこう言う所ですから。あなたは間違いなく才能あり、です!」



 真さんは俺の肩を叩いてにっこり微笑む。体にピッタリ俺の結界を纏って親指をグッと立てた。

真正面から褒められてしまった。照れるじゃないか……。



「個性が発揮できるのは潜在能力の高さを示すんですから、素晴らしき事です。結界のイメージは、シャボン玉でしたね?」


「はい。薄い透明な膜って感じです」


「面白い発想ですね。結界の構造を見るのでお待ちください」


「はい!」




 現時刻 もう直ぐ日暮れの時間だな。

 真さんと俺は、結界張りの練習中。

颯人は子供たちを膝に乗せて縁側からその様子を眺めている。


 戦闘時は祝詞を言う暇がないから、瞬時に張れる瞬間結界を習ってるんだ。

結界の仕組みは……とどのつまり、隠し神の神隠しに少しだけ似ていた。


 現世と結界の中を分ける事で、中身を守るのが目的の結界術。

時空の壁で隔てて物理的な干渉ができないようにする。だから、うまくいけば簡単な攻撃や毒、瘴気の悪影響を受け難い。



 颯人が言う『イメージによって術を成す』のがイマイチピンとこなくて、二人の結界イメージを聞いてみた。

颯人は『瑠璃・玻璃』と答えた。

ガラスみたいに向こう側が見えるし、触れば体温も伝わるけど隔てられていて〝越えられない物〟だと。


 真さんは対象の物体に沿って纏う不織布のようなもの、と言ってる。


 

 術は想像すりゃいいって物じゃなくて、ちゃんと理屈があるんだ。

自分の霊力だけで結界を作っても、上手く作れない。

結界だけでなく陰陽術の全ては自然の力も借りた方が良い、と真さんに教われたのは大収穫だと思う。



 

 自分の中を駆け巡る血を霊力だとイメージして、その流れを感じる事が正確な操作に繋がる。

手のひらから水が湧き出る感じでその力を放出させて、術へ変換して行く。


 柏手の場合は、その霊力が音波となって穢れを浄化させるという仕組みだった。



 霊力と自然を触れ合わせると、呼水(よびみず)のように体から放出するのが楽になる。

地面や木、草を触ってもいいし、空に手をかざすと風に乗って自分の力が引き出される。


 俺はその引き出した霊力をシャボン玉の石鹸液みたいなイメージで、膜を張る感じで結界として定着させた。

大道芸人がやる、巨大シャボン玉に人を入れるパフォーマンスがあるだろ?

それを思い浮かべると思いのほかうまく出来たんだ。




「芦屋さん、結界を壊してみてもらえますか?」

「はい」


 真さんに施した結界を突くと、一瞬にして膜が破裂し、消失する。

颯人や真さんがやるとガラスのカケラみたいに壊れるんだが、俺のはパチンと消えてしまう。……大丈夫なのかな。



「これは使えますね」


「えっ?使える?」


「はいはい。結界は内側と外側の空気が変わります。結界の世を隔てる膜が硬いので通り抜けません。例えば……」


 真さんが俺の腕をまくり、腕の内側にだけ結界を張った。

彼の手が触れると、シーツに包まれたような感覚が腕に伝わってくる。




「普通は、攻撃を受けると……」

「なっ!?物騒な物持ち歩いてますね!?」


「まぁまぁ。お怪我はさせませんよ」


 真さんが小さなトンカチを構えてるんだが。どこに持ってたんだそんなの。

トンカチの先でコンコン、と結界を叩くとそれがカシャンと音を立てて割れた。



「ね?」

「……ね?と言われましても」


「芦屋さんの結界は、原子のくっつきと同じです。原子の球体が繋がって分子になり、それが物体を形作ると言うのが世の原理です。

 今は原子同士のくっつきに粗があります。これはもう少し修行すべきでしょうが、とても珍しい利点が備わっています」

「ほほぉ……?」




 真さんに促され、俺はもう一度彼の腕に結界を張る。そこに間髪入れず振り下ろされるトンカチ。

背筋がヒヤリとするが、獲物の先が肌に触れると、バイン!とトンカチが弾かれる。腕は……無傷だ。


 

「ねっ!?」


「いや、マジで分かりませんって!!いきなりそんな物騒なもので叩こうとしないで下さいよ!」


「大丈夫ですよ、強い衝撃に耐えうるのは頑丈さではなく柔軟性ですから。あなたの結界は隙間があるから柔らかいんです。

原子の結びつきが強ければ物は硬くなりますが、硬い物同士がぶつかれば衝撃で割れますよね?これは柔らかいので、物を弾くんですよ!」


「……つ、つまり??」


 腕をさすりながら鼻息をふんっ、と吐いた真さんはニヤリと嗤う。

時々やるこの顔、悪役にしか見えない。




「今のままでは毛羽毛現(けうけげん)の毛のように細いものは通してしまいますが、怪我を負うような強い力は跳ね返します。

結界が攻撃を受けても壊れないんですよ!弱いからこその強さ、ってやつですね」


「うーん……強いんだか弱いんだか分かりませんね、それ」


「これがうまく出来るようになれば、強くなります!間違いなく。再利用できる結界など見たことがありませんからね。

芦屋さんのように理屈っぽい人が作ると、こうなるんですな」


「うぐ、理屈っぽい……」



「隙間を狭めればよい。それにはまだ、真幸の霊力が足りぬだろうが」


「颯人様のおっしゃる通りですねぇ。この柔軟性を維持できるように、ものすごく細かな隙間を作れるといいかもしれません。これは新しい発見ですよ」


 颯人が正太郎を抱えてやって来た。

他の子達は、いつの間にかみんな座布団の上ですやすや寝てる。子供ってよく寝るんだよな。




「真幸、抱いてやってくれ。其方ではないと嫌だと駄々を捏ねるのだ」


「ん、はいよー。おいでー」


 颯人の腕の中で目を真っ赤にして、鼻水を垂らして泣く正太郎が手を伸ばしてくる。

お尻を抱え、背中をトントン叩いて揺らしてやると……すぐに寝息を立て出した。胸元でしっかり俺の服を掴んだ、小さい手がたまらなく可愛い。




「さっきも一人だけ山菜採りについて来てたし、眠いのに寝れなかったのか。可哀想な事したな」


「本当に懐かれてしまいましたねぇ」

「ふふ、嬉しいですね。こんな可愛い子が懐いてくれるなんて」


「…………」


 またもや正太郎が落っことした目玉を拾って、真さんがそれをじっと眺めている。複雑そうな顔色を浮かべて。




「先ほど伏見から連絡がありました。夕方には到着するそうですよ」


「おっ、ホントですか?ようやくお仕事復帰かな」


「まだここに来て二日目なんですがねぇ。中毒も治ってしまいましたし、山の神力との調和が良いせいで傷もほとんど塞がってしまいましたしねぇ……」


「真さん、俺たちが帰ったら寂しいですか?」

「…………」




 沈黙してしまった真さんは背を向けて、小さく頷く。

ちょっ、耳まで真っ赤になってる。この人もやっぱり可愛い人だった!


「あなたも、颯人様も優しすぎます。

体の一部がこんな風に腐り落ちている姿を見て、躊躇せず当たり前に触れて、笑顔で迎え入れる。

……そんな事をできる人が、嫌いになれる筈もありません。明日からの暮らしが寂しくなるのは当然です」


「へへ……俺も楽しかったから帰るのが寂しいですよ。

でも、必ずまた来ます。子供達にも真さんにも会いたいですし」

「えぇ、あなたなら。あなたと颯人様なら、いつでも道を開きましょう」


「道を……?」


 真さんの返答に微かな違和感を覚えた。

道を開くって何だろう。参道は一本道だったし、ここに来るのに扉はなかったが。

 首を傾げていると颯人に肩を叩かれた。





「真幸、迎えが来るまで子供らを少しでも癒してやろう」

「うん。ここに来られてよかったな。体も心も癒されたし、真さんに出会えたし」


「わ、私に出会えて、良かったですか?」


「はい。真さんみたいな人も居るんだと思うと仕事が頑張れます。どうやって恩返ししたらいいか、悩んでます」



 そうですか、と背中越しに小さく呟いた真さんはこちらに振り向かず、本堂に向かっていく。

あの人は恥ずかしがり屋さんなんだな。

 俺と颯人は縁側に腰掛けて、夕暮れに染まる空を眺めながら子供達の頭を撫でた。


━━━━━━



「じゃあ、お世話になりました!正太郎、大丈夫ですかね」


「えぇ。起こしたら大変な事になりますから今の内に行ってください。また、いらして下さるのでしょう?」


「はい!必ず。真さん、ありがとうございました。また、お邪魔します」


「はいはい、首を長くしてお待ちしてます」


 眠ったままの子供達を呪物に戻し、下山した俺たちは握手を交わして真さんと別れた。


 


「あぁ、伏見が来たな」

「お、いつもの黒塗り高級車だ」


 田んぼの間の道路に黒塗りの車がキキーッ!と音を立てて止まる。

……何か運転が荒っぽいけど大丈夫か?



「芦屋さん!!ご無事でしたか!?」

「へ?」


「お世話になるはずのお寺さんに現れず、どこを探しても見つからずで本当に肝が冷えましたよ!!!」



 ……えっ?何言ってるんだ?


 車から慌てて出て来た伏見さんは、俺の体を触って確認した後、ほっとしたように大きな溜息をついた。

目の下にクマができてるけど、何かあったのかな。




「俺、たらふくご飯食べて、浄真さんによくしてもらって元気いっぱいですけど。何かあったんですか?」


「……颯人様?」


「うむ、移動の車中で説明しよう。伏見に連絡するのを忘れていた。すまなかったな」

「はぁぁぁ……わかりました」




 颯人は含み笑いしながらさっさと車に乗って、伏見さんはしょんぼりしながら運転席に戻る。


 えっ、マジでなにが起きた?訳がわからんのだが。 

颯人に手招きされて車に乗り、伏見さんが車を動かして俺はお世話になった山へと振り返る。


………アレッ??




「は、颯人!!俺達あの山にいたんだよな?」

「あぁ、そうだ」


「待って、おかしい。あんな切り立った岩山じゃなかっただろ?自然豊かな山だったよな?」


「そうだな。我らが訪れたのは山神の庭。神が自ら招き入れた住まいだ。浄真は生身地蔵の元へ参った元裏公務員で、もう人ではない」


「………え?」


「そういう事ですか。だから急にGPSが回復したんですね。

芦屋さん、ここは栃木県の岩船山です。山頂のお寺さんに逗留できるよう手配しましたが、何日経ってもあなた達が現れず方々探し回っていたんですよ」


「え?!え???」


「念通話も通じず、神隠しにでもあったのかと思っていました」



 

「な、なにそれ!?マジで意味わからん。真さんは人間だろ?伏見さんと同期って言ってたし!」


「私の同期には、確かに浄真という方がいました。彼はもともと陰陽師の家系で裏公務員に参加して下さり、指導する立場でしたが……岩船山へ向かった後生死不明、行方不明になっています」


「ええっ!?ど、どういう事???」



「憶測ではありますが、山神に魅入られたのではと言う話になっています。

 神に魅入られた人は眷属となり、魂を神に囚われる。山神は盲目であるとされていますが、浄真殿は元々盲目でしたから馴染みやすかったのでしょう」


「山神に……?馴染むって……真さんは裏公務員自分から辞めたってこと?」


「おそらくは、ですが。彼は呪術に優れてはいましたが、あまりにも苛烈な指導をするので……ついて行ける人がいなかったんです。

指導の途中で任務が増えて教育をしている暇もなくなり、そのまま裏公務員として仕事をされていたんですよ。

 山神に気に入られてしまったとしても、彼の力量でそれを逃れられない筈もなく。現在『自主離脱』扱いとなっています」


「苛烈な指導って……嘘だろ……あんなに優しい人なのに。は、颯人、どういう事?」


 車の座席に深く座り、腕を組んだ颯人はちらっとこちらに目線をよこす。

この顔、最初からわかってたな。




「伏見の言うとおり、浄真は囚われたのではない。岩船山の寺に祀られた生身地蔵に頼まれ、承諾して山神の代わりになったのだ。

あの山は山神が不在だった」


「…………」



 呆然としたまま颯人の話を聞く。……真相はこうだ。


 裏公務員として岩船山にやって来た真さんは、初期の裏公務員達に相当嫌われていた。

修行の指導で呼ばれた筈が、厳しくしすぎたせいで一人ぼっちになり、逆に指導者のため依代とはなれず。

自らの力だけで各地を巡って任務をこなしていた。



 栃木県の霊山と言われる岩船山は『生身地蔵』が本尊として祀られるお寺がある。

生身地蔵は仏の一種であり、死者を抱いて癒やし、子を授けるなどの生死にまつわる伝説を持つ。


 そして、岩船山自体にも山神がいたものの、死者が集まるという性質上地元の方には『心霊スポット』として伝わってしまい……信仰する人々も心の中では畏れを抱く対象だった。



 

 岩船山の近くにあったレストランが閉店した後、建物を壊そうとしたら作業員が怪我して作業が中止のままになったり。


診療所ができれば死者が訪れてお医者さんが逃げてしまったり。


怖い場所として認識されるような出来事が続いた。




 山神は各地の山に必ず存在している。

山に居なきゃならない存在で、産土神(うぶすながみ)とも呼ばれる。

土地から生まれた土地神様の分類で、生まれた土地を守る役割なんだが……地元の人に怖がられるから、元々いた山神が『もうヤダ』と失踪。


 その後やって来た力ある陰陽師の真さんが盲目である事から、祀られていた生身地蔵に『これは運命だ!新しく山神になってくれ!』と言われた。


 真さんは真さんで『裏公務員に嫌われてるし、人の間で働くの向いてないからそう言ってくれるならやるか』と承諾して……人の姿を捨てた。

人はいきなり神様になる訳じゃなくて仙人になるのが始まりだ。だから、今現在は仙人として次世代の山神修行中……という事らしい。




「最初は単純に裏公務員である真幸に興味があったのだろう。我の神気にも気づき、神隠しをされた後お互い様子を窺っていた。

そうしたら、蕨をつみだしたではないか。我は山の幸が好きだ。真幸の治癒にも役に立つ故、真相を黙っていようと決めた」

「もっともな事言ってるけど、蕨に釣られたんだな」


「そうだ。あのように美味なものを食し、神の庭で療養すれば傷はたちどころに癒える。

寺で休むよりも日数は少なく、浄真には其方を害する目的もなかった」


「確かにそうだな。おかしいとは思ってたよ。結構深い傷の腕でさえもうツルッツルだもん」



「そんな……あの傷がですか?神経の一歩手前まで達していたんですよ?」


「うん、毛羽毛現の毛が残ってて、それが原因で起きた神中毒も一晩で治ってたし」

「確かに顔色もいいですし、ツヤツヤしてますね。いや、しかし……よく帰してくれましたね。その様子では相当気に入られたでしょうに」




「気に入られてはいたが、らいばる心が強く作用していたのだ。

 結界を教えればさっさと覚えてみせ、死者の癒しを短期で行い、怨霊を成仏させたのだからな。

コトリバコの中身にまで気に入られていたのだ。あれは悔しかっただろう」


「何とも物騒な呪物の名が出て来ましたね。でも、そうですか。浄真殿はまだ、人を助けているのですね」


「あぁ、あれはよき山神になる。人から嫌われようが構わぬという覚悟を持っているのだから、山神を辞めることはない。

 元々の力が強いのだ、呪物がいくつ持ち込まれても問題なかろう。奥多摩の姫巫女とも繋がっており、仕事を回していると言っていた」


「まさかそんな事になっているとは思いませんでした。

それならそうと颯人様がご連絡してくださいよ。私達がどれだけ必死で探していたのか、分かりますよね?」




 澄まし顔の颯人とは対照に、運転してる伏見さんは目に見えて不機嫌そうな顔をしてる。

……そう言えば、一泊二日のはずだけど、何日経っても現れないって言ってたな。


「伏見さん、ちなみに俺たちが山に行ってから何日経ってる?」


「一週間です」


「…………わ、わー。そうかぁ。そんなに経ってたのかぁ」


「神の庭では時間が歪むからな、そこまで経っているとは思わなんだ。

我も山菜に夢中であったし、真幸が幼子を抱くのが愛おしくてな。伏見のことを忘れていた」


「そうでしょうとも。今回の事は仕方ないですが、次回からちゃんと連絡してください。……芦屋さんは全回復されたって事でいいですね?」


「ハイ」



 

 うん、すごく嫌な予感がする。


伏見さんは懐から俺のスマホを取り出して、手渡して来た。久しぶりに触って画面を開くと……わぁ、何これ。



「アプリの通知数がヤバいんだが。100件て何?もしかしてこれ、全部俺の仕事???」


「はい。一週間分溜まってますから。早速これから現場に向かいましょう」


「ヒェッ……」


「巻きで行きましょう、巻きで。

大丈夫ですよ、習った結界の実地訓練だと思えばいいんですから。鬼軍曹に優しく教えていただける芦屋さんなら、あっという間に遅れを取り戻します。

 私は一生懸命他の方に差配し直したんですよ?芦屋さんを探しながら、大変な思いをした苦労にきっと報いて下さいますよね?」


「ハイ、ガンバリマス」


 任務の依頼が山のようになっていて、内容を見てるだけで頭痛がする。

こりゃ何日か徹夜かも知れん。



  

「伏見さんの方が鬼軍曹だろ……」

「何か仰いましたか?」


「いえ、なにも!!元気になったし、お仕事頑張りまーす!!!!!!」


「そうしてください。私もしばらくつきっきりで運転手をしますから」


「へーい、よろしくおねがしまーす」




 苦笑いで返答し、颯人と同じく車のシートに背を預け……真さんの顔を思い浮かべる。


 彼とは、今度いつ会えるかな。

正太郎達とも別れたばかりなのに、もうこんなに恋しい。安らかで愛おしい山寺での出会いは、きっとずっと俺の心を癒してくれるだろう。


 物思いに耽る俺の頭を撫でて、颯人が小さく呟いた。



「浄真は我らだけはいつでも招き入れてくれる。さぼるのにはちょうど良い場所を得た」


「んふっ……颯人、また美味しいご飯もらいに行こうな」


「応」




「聞こえないふりをして差し上げます。……浄真殿は、お元気でしたか?」


「うん、山生活満喫してたよ。仲良くなったから、帰る時に寂しそうにしてくれてさ。真さんは本当にいい人だったし、優しくてかっこいい。俺の二人目の師匠だな」



「そうですか、芦屋さんは仙人と神が師匠なんですね。……お元気なら、良かったです。サボるのも程々にしてくださいよ?」

「はいはい。伏見さんも大概俺に甘いな。しっかりお仕事で返します」



「……ふっ、あの口癖もご健在でしたか。本当に彼に会ったんですね。

次は私にも会わせてください。もう、亡くなったのだと思っていたんです」


「真さんがいいって言ったらね」

「はい」




 伏見さんは目を少しだけ開き、沈んでいく夕日に向かって車を走らせる。

その瞳には、キラキラした雫が滲んでいた。

伏見さんと真さんの話も、今度聞いてみようかな。ちょっとした楽しみができて、思わず鼻歌が出てしまう。




 ご機嫌な俺は裏公務員の任務アプリを開き、地図に新しくポイントを書き入れた。


『名もなき山寺、俺の癒しスポット』と。


2024.11.02改稿

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ