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【完結】「神様のバディ、はじめました」━裏公務員の神様事件簿━  作者: 只深
裏公務員はじめました

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11 名もなき山寺2


 キッチンで山菜たちを洗いつつ、作務衣姿に着替えた俺たちを出迎え房主さんが微笑む。手招きされて、用意してくれていたキッチン用のサンダルに履き替えた。

 

「作務衣もお似合いですよ。では、そちらの山菜を洗ってもらえますか?」


「はい!……そういえば、自己紹介がまだでした。俺は芦屋真幸。颯人は……颯人です。すみません、なんと言ったらいいか……」


「はいはい、颯人様の事は存じておりますよ。お気遣いなく。

私は浄真(じょうしん)と申します。本名・法名が同じです。呼び難いでしょうから、(しん)とお呼びください」


「法名ってことは浄土真宗ですか?」


「えぇ、元はですが。私の寺は宗派に属しませんのでな」

「へえぇ、そういう事もあるんですね」


「はいはい、色々とございます」




 よし、房主さんの名前をやっと聞けたぞ。順番はめちゃくちゃになってしまったけど、気にしてないみたいだ。優しい人だな。


 仏門では実名と、お坊さんとしての法名がある。『浄真』も正式名ではもう少し長い名前になるんだろう。

法名は浄土真宗という宗派での呼び方で、他では戒名や法号と言うらしい。

これらは総合して『仏名』と呼ばれる。仏の弟子になった証として授かる物だ。


一般の人は亡くなった後頂く事が多いけど、お坊さんたちは仏門に入って生きてる間に頂くんだ。




「颯人、その布巾で水気を拭いてくれ。傷つかないようにね」

「あぁ、承知した」


 颯人に洗った山菜を渡し、水気を布巾で拭いて、鉄のバットに並べていく。

今日採ったばかりの山菜たちはツヤツヤしていて綺麗な緑色だ。

颯人と俺の作業を見て、真さんが「ううむ」と唸った。


「神様に食事の準備を手伝って頂くと言うのも、不思議な心地ですな」


「働かざるもの食うべからずですよ。あっ、蕨はそれでアクが抜けるんですか?」


「えぇ、山菜のアクは余分なことをせずとも簡単に抜けます。蕨は柔らかい植物ですから、粗塩を振り、熱湯をかけて一晩おけば美味しくいただけます。」


「へえぇ、簡単でいいですね!あとは、何をしましょう?」


「あぁ、卵をもらって来たので卵焼きをお願いできますか。そこに出汁と、砂糖と塩があります。卵焼き用のフライパンは壁にかかってますから」


「はーい」


 壁にかかった立派な鉄のフライパンをコンロにかけて、ガス管を捻る。

颯人が指先で火花を散らし、ぼわっと火がついた。



「便利ですなぁ。マッチ要らずですか」


「一家に一柱、颯人がいればなんでも出来ますねぇ」

「便利道具のような言い方は引っかかるが、まぁ良い」


「んふ。颯人、フライパンに油引いて、よくあっためてくれ」

「応」




 颯人にフライパンを手渡し、その横で卵を割って太い菜箸でかき混ぜる。

殻も硬いし、中の黄身がオレンジ色でぷりぷりしてる美味しそうな卵だ。

顆粒だしと水、塩と砂糖を少し入れてさらに混ぜておく。


 ここの水は湧き水らしく、水道の蛇口から水が出しっぱなしになっている。

都内でも見たことがあるんだが、湧き水は止められない。こうしないと水道管が破裂してしまうんだ。

澄んだ水はとても冷たくて、風呂上がりにも美味しいだろうなぁ。


「よし、いいぞーありがとな」

「ああ。今日は甘めか?」


「あ……ごめん、砂糖多くしちゃった」


「この程度なら問題なかろう」

「ぬーん」


 かき混ぜているうちに泡立つ卵液を見て、なんともいえない気持ちになる。

中毒って怖いな、無意識で甘くしてる。




 温まったフライパンに卵液を少しずつ入れて、火が通ったら手前に折りたたむ。

自宅のガスコンロとは違って火力が強いから、あっという間に焼けるな。砂糖が多いから焦げ付かないように注意しないと。


 フライパンに卵液を入れた時の『ジュワッ』という音を聞くたびに笑顔が深くなる颯人は、卵焼きも好物だ。




「そう言えば、芦屋さんは神様中毒だそうですね」


「そうなんです、甘いものばっかり欲してしまう感じで。卵焼きにも砂糖が多めになっちゃいました。

真さんは甘いの大丈夫ですか?」


「えぇ、大好物です。横でお肉を焼きますね」


「おぉ?豚肉にしては脂が多いような」

「フフフ……」



 卵焼きの焼ける甘い匂いと、お肉の焼ける香ばしい匂いが混じって……涎が出て来た。


 じゅうじゅう音を立てて焼けていくお肉は、豚肉にしては脂部分がやけに多いし、どこの部位かわからない。

味醂と、醤油と、お砂糖、ニンニクと生姜が入っていて、食欲がそそられる香りだ。




「そろそろ正解を教えましょう。これはイノシシ肉です。先週仕留めて冷凍してあったので」


「イノシシ!?仕留めた!?真さん猟銃使えるんですか!?」


「はいはい、自給自足が基本ですから。

湧き水は水量が豊富ですし、ガスは地元の業者さんが善意で寄付してくださいます。

ありがたい境遇ですから、地域にも貢献せねばと思いまして。熊退治にもよく参加します」


「はー、なるほど。お味噌汁の大根は畑で作るんですか?」


「いいえ、私は植物を枯らすのが得意でして。これも寄進していただいたものです。供物のお下がりですよ」


「なるほど……俺も植物は苦手です。水をやりすぎてしまって」


「芦屋さんは世話焼きなんでしょう。私は逆に水やりを忘れます。山菜なら勝手に育ちますし、生える場所を覚えれば良いだけですからねぇ」


「山ならではの良いところですね」

「ええ。猟銃免許があれば無敵ですぞ」




 二人して思わず笑って、それぞれ焼き上がった物をお皿に盛り付ける。

それに加えて、真さんが戸棚からたくさんの常備菜を追加してくれた。


伽羅蕗(きゃらぶき)()()のお浸しと、()()()はマヨネーズで食べましょうか。白米ではなく混ぜご飯にしましょうね」


「はいっ!これも山菜ですか?」


「ええ、これはコシアブラと言いましてな。独特の香りと旨味がクセになりますぞ」

「へえぇ……」


 ボウルの中には刻まれた青い山菜とカリカリ梅、炒った白胡麻、胡麻油が入っている。

色鮮やかで美味しそうな組み合わせだ。


 真さんが持ってきた大きな土鍋の蓋を開けると、ほこほこと白い湯気が漂う。

炊き立てご飯の良い匂いが漂い、湯気を纏った白飯がボウルに入れられて、具材を合わせていく。

お米の熱によって胡麻の匂いとタラの芽に似た、ほろ苦くて爽やかな香りが立ち上った。




「すごく良い匂いですね。タラの芽に似てるような気がします」


「ご名答、タラの芽とコシ油の匂いは似てます。コシアブラの方が苦味が強く香りも味も濃いですかな。

これは天ぷらもいいですが、白米に混ぜますと恐ろしいほどの美味になります」


「恐ろしいほどの美味!」

「我も初めて聞いた山菜だ。コシアブラか……」


「これは山菜の女王とも言われます。山の中でも希少なので、市場にはまず出回りません。山に入る人が見つけたら『飛び上がって喜ぶ』物ですな」


 颯人と揃って生唾をゴクリ、としてしまう。珍しい山菜、しかも飛び上がって喜ぶほど美味しいのか。

晩御飯の期待値がギュンギュンに上がっていく。




 大きなお盆にご飯と豪華なおかずたちを乗せて、廊下を渡る。

 本堂の前にある窓を開け放ち、縁側に腰を下ろすと蚊取り線香の懐かしい香りがした。

縁側の磨き抜かれた床は冷たくて気持ちいい。庭が一望でき、山の緑に囲まれて月の穏やかな光に満ちている、特別な食卓だ。


「ここに腰掛けて、足を下ろすと本堂の下から風が冷やしてくれますよ。早速いただきましょう」


「いただきます!」

「ありがたくいただこう」




 全員揃って縁側に腰を下ろし、夜風の中でまずはご飯をほうばる。カリカリした梅の食感、胡麻のプチプチにコシアブラのシャキシャキ感。ご飯の甘さが引き立つ塩だけが絶妙だ。

噛むたびにごま油の香りといっしょにいろんな香りが鼻に抜けて……これは!!


「うおぉ……美味すぎる!!噛むたびに旨みが出てくる。お米が美味しいのもあるけど、こんなの初めて食べた!」


「むむ……これは確かに美味だ。油に馴染む苦味がたまらぬな。梅の酸味が良く合う」

「伽羅蕗も美味しい!このくにゅくにゅ食感がクセになるし、良い匂いだな」


「焼いた肉も美味いぞ、猪の肉だが臭みがない。油が甘く、肉の味が濃い」


「お二方とも、褒めすぎですぞ。……もっとお食べなさい」


「はいっ!」

「うむ」


 


 颯人と俺はあれがうまい、これがうまいと褒め口が止まらない。

珍しい山菜の珍味に夢中になってしまって、箸も止まらなくなった。


「ん?あぁ、フクロウが鳴いている」

「えっ……すごい!生の声なんて初めて聞いたぞ」


「ここはなんでも居ますよ。フクロウも、山鳩も、季節が狂っていますから鶯も鳴きます」


「へぇぇ……」


 フクロウの鳴き声、虫の音が生演奏なんて贅沢な食卓だな。


 夏の終わりみたいなじめっとした空気の中、本堂の下から冷たい風が吹いて縁側から投げ出した足が冷やされて、すごく涼しい。

作務衣一枚だと少し寒いくらいだ。




 俺たちはコシアブラの混ぜご飯を3回もおかわりして、おかずを食べ尽くし、膨れたお腹をさする。


 甘いものばっかり食べてて、ご飯を食べる喜びを忘れてたな。

こんなにちゃんとした夕食は久しぶりで、満腹感と共にじわじわと幸せな気持ちが広がってきた。


「沢山食べたな。良い事だ」


「うん……食べすぎた気もするけど。本当においしかった。夢中で食べて、気がついたら無くなってたよ」


「そうか」


 空になった俺の茶碗を眺めて、颯人がゆるい微笑みを浮かべた。

心配させてたんだと改めて実感して、胸がちくりと痛む。




「天変地異は人を困らせますが、山奥では僥倖(ぎょうこう)ともなります。季節がいっぺんに来ているようで騒がしい毎日ですよ」

「確かにそうですね、こんなに美味しいものが毎日食べられるなら」

 

「そう……豊かな生活になりすぎて、元に戻るのが少し寂しいような気もしますな。一年分の山菜が取り放題なのですから」

「たしかに自然が豊かな場所では、あまり悪くないのかもしれませんね。

奥多摩でもそうでした。まるで、温室の中にいるように暖かかったんです」



「あぁ、奥多摩ですか。あそこも騒がしいでしょうな。少々小耳に挟んではおりましたよ」

「もしかして姫巫女の話ですか?」


「えぇ、私からも仕事をいくつかお願いしました。少しでも足しになると良いのですが」



「そうなんですか!?……嬉しいです、ありがとうございます」

「こちらこそ。最近忙しかったので、助かっておりますよ。おかげで山歩きも出来ますしな」




 微笑みながら、真さんが緑茶のはいった急須を差し出す。お茶碗でそれを受けると、沢庵が追加で渡された。



 ……確か、こうするのがマナーだったな。 

ご飯茶碗に残ったペトペトを拭うように沢庵で擦り、綺麗になったところで沢庵を齧ってお茶を飲む。


「お、よくご存知ですね。今時は知っている人はあまりいませんよ」


「颯人が毎日やってまして」

「昔の人間から習ったのだ。洗い物が楽になると聞いた」


「はいはい、そうです。昔は綺麗な水は貴重でしたから。これは風習として地方に残っている物です。洗い物は本当に楽になりますよ」


 

 もう一杯ずつ熱い緑茶をいただいて『ごちそうさまでした』と手を合わせる。

食器を重ねてお盆を持とうとすると、颯人にまとめて抱え上げられた。




「それくらい持てるぞ」

「よい。片付けは我に任せ、そなたは浄真に怪我を診てもらえ」


「はいはいそうしましょう、入浴前に診たいのです。傷に効く薬湯にしますからね。颯人様、流しに水を張って食器を付け込んでおいていただけますか?」


「あぁ、任されよう。真幸、駄々をこねずにきちんと診てもらうのだぞ」

「むむ、そんな大怪我じゃないのに」


 颯人が大きなお盆を重ねて軽々と運んでいく。

大股でのしのし歩いてるのに、手に持ってるのはお盆……ちょっと面白い。





「はいはい、では包帯をほどきましょうね」

「すみません、よろしくお願いします」


 真さんに腕を差し出すと、包帯を解いて傷をまじまじと眺められる。

目が見えないというのを忘れてしまいそうな仕草だけど、どうやって見てるんだろう?




「ふむ、これはカマイタチですな」

「えっ!?……わかるんですか!?」


「私は山寺に住んでいますから、妖怪や怨霊には詳しいのです。次は足を見せてください。

こっちは海の産土神ですか。それから、こちらは戦国時代の怨霊でしょうか」


「はい、説得するのにそれぞれ怪我しまして……」

「ふむ。次は上着を脱いでください」


 作務衣の上着を脱いで、シャツの裾を持ち上げる。お腹の包帯を解くと彼は低く唸った。




「芦屋さんはわざと傷を受けてますな。腹の切り傷も含め、避けた痕跡がありません」

「……ハイ」


「超常相手に鎮魂を施すというのは、かように過酷なのですね。祓うよりも大変なようだ。

あぁ、脇腹に妖怪の毛がまだ残っています。毛抜きを持って来ますから、お待ちください」


「えっ!?……はい」


 ど、どこに残ってるんだ???

自分のお腹を掴んで引っ張ってみるけど、何にもないように見える。


 真さん自身が『物理が見えないと、心理的なものがよく見える』って言ってたけど、超常的な物も見えるのか。




 腹のど真ん中にある切り傷は荒神から受けたんだけど、脇腹の毛はこの前見た妖怪の『毛羽毛現』のだと思う。

すごく珍しい妖怪さんだったし、もふもふしてて可愛くて、テンションが上がって後ろから声をかけてしまったんだ。

そしたら、びっくりしてハリネズミみたいにこう……シャキーン!と身体中の毛が逆立って。


 それがもろに刺さったからこうなった。仕事でできた怪我じゃないからちょっと恥ずかしい。

伏見さんと颯人、お医者さんにも診てもらったけどまだ残ってたか。

だからお腹がチクチクしてたのかなぁ。




「――痛みがあるのを黙っていたのか」

「ギクゥ!?颯人、おかえり……」


「なぜ言わなかった」

「あの、その、ええと」


 いつの間にかキッチンから戻って来てた颯人がぎろり、と鋭い目つきをよこして俺の腹を眺めている。

目を細めて、どんどんしかめ面になってるんだが。



「伏見も我もしつこく痛みはないかと聞いただろう」


「あ、はい。ソウデスネ」

「なぜ誤魔化したのだ」


「誤魔化したつもりはないけど……俺は痛いって言うのがどの程度とか、そう言うのが良くわからないんだよ。

我慢できるなら、わざわざ言わなくても良いだろ?」


「我慢している時点で『痛い』ということだ。

妖怪の毛が腹に入っているなら、神中毒を進行させた原因の一つになりうる。しつこく聞いたのは、何かしらの影響があるからだ」


「あ……そう言うこと?」


「あぁ。男としてうるさく言うのは確かに褒められはせぬが、超常による怪我は別物。『痛みがあるか否か』と聞くのは理由がある。

其方は我慢するべき物と、そうでない物の見極めができておらぬ」


「うーん……うーーん、難しいこと言うなぁ」




「お待たせしました!早く抜きましょう!妖怪の毛が体内に溶け出していますから!」


 パタパタ走って戻ってきた真さんが毛抜きを片手に近づいてくる。こっちもなんだか怖い顔なんだが。


「芦屋さん、横になってください」

「は、はい」


「我の膝に頭を乗せれば良い。枕をしてやろう」

「ええー?うーん、わかった」




 有無を言わさぬ怖い顔達に従って、颯人の膝に自分の頭を乗せ、仰向けで寝っ転がる。


 真さんが俺のお腹のお肉をむにーっと引っ張り、顔を限界まで近づけてきた。颯人も俺の腹の上に顔を寄せてる。

まな板の上の鯉ってこんな気持ちなのかもしれない。なんか、こう、如何ともし難い気恥ずかしさがあるぞ。


 

「なるほど、このようにすれば皮膚から出てくるのか」


「えぇ、トゲと同じですから皮膚を引っ張り、中から自然に押し出てくるようにすれば良いのです。

毛羽毛現の毛は、このように色を変えて同一化しようとするので、本来は早めに抜くべきでしょうな。神中毒を引き起こした原因は間違いなくこれですよ」


「やはりそうか。今まで何ともなかったのだが、突然症状が出たのだ。

飯の食い出が悪く、このように骨が出てしまった」


「なるほど……こんなに刺さっていたら激痛のはずですよ。甘いものしか食べられなかったのは、痛みもあったでしょうに」



「真幸は痛みを主張するのが下手なのだ。どうしたら良いものか……」


「うーん、なんとなく理由はわかりますけどねぇ」

「我も理解してはいるが、どうしたら良いのだ。後からこのように気づくのではいつか手遅れになる」


「…………うぅ」





 俺の腹の上で会議が始まってしまった。

ピンピン皮膚を引っ張られてチクチクする痛みを感じるけどさ。普通に動けていれば痛い、って言わなくないか?

そう言ったら心配するだろうし……男としてはあんまり言いたくない。


 なんか、真さんは伏見さんに似てるような気がする。颯人も馴染んでるし。



「芦屋さんは、我慢することが癖になっていますね。普段からあまり泣き言を言わないのではありませんか?」


「そうだ。疲れて動けなくなるまで言わぬし、動けなくなっても言わぬ」


「それは困りますねぇ。芦屋さんは自身に傷を負う事で、相手の心理状況を理解しようとしています。

自分の体がナマモノだと忘れてしまうのでしょう」


「そう言う事か」


「はい、まるでお釈迦様のようです。あのお方もお体に傷を受け、刃を向けた相手の心を紐解き、苦しみから解放されていらしたのです」

「困った心構えだ。我の胃が痛くなるばかりではないか」




「こればっかりはご本人に言っても治りませんよ。ケガを隠すのが上手くなるだけです。

霊力が足りればわずかな傷や毒は受け付けなくなる筈。鍛錬するのが一番です。焦らずやるしかありません」


「ふむ……」



「あとは、颯人様が最後の砦になってあげてください。信頼関係は出来上がっているように思います。

お心のままに接されていれば、芦屋さんはいつしかご自身を顧みる筈です」


「あいわかった。心のままに、慈しめばよいのだな」


「えぇ、芦屋さんもきっと颯人様への気遣いでそうしてしまうのでしょう。依代と神との間柄がこのようにあたたかいとは思いませんでした。私はお二人の心持ちを真に感じ入っております」


「うむ、真幸はかけがえのない〝ばでぃ〟なのだ。今後はより一層愛おしむとしよう」





 ……俺は……俺は、どうしたらいいんだ。

顔が熱くなって来て、思わず両手で覆ってしまった。これは良くない。すごく良くない。



「どうした、真幸。痛むのか?手を握ってやろう」

「そ、そう言うのは良いから!恥ずか死ぬからやめてくれ!!」


「何故だ。其方の痛みに寄り添いたい」


「寄り添わんでくれっ!くっそ、怪我しないように努力する!!」



「……ふ、そうしてくれ。すぐに中毒は治るだろう。傷を癒やし、少々休んで英気を養うのだ。

山で育ったものや湧き水も力をくれる。たんと食して肉を増やそう」


「それが良いですよ。伏見の意向通り、散々甘やかして差し上げます」


「くっ、うぅ……こう言うの慣れてないのに。どうしたら良いのかわからん!」




 顔を覆ったままで叫ぶと、二人がくつくつと笑いをこぼす。


 足の裏から背中までくすぐったいような気分になって、俺はお腹を出したまま唸るしかなくなった。



追加新話です

2024.07.21加筆修正

2024.11.02改稿

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