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グールムーンワールド  作者: 神坂セイ
8/28

第8話 初勝利

「ウウオオオオォォ!」


 オレは鉄の棒を思いっきり振り回し、さらに数体のグールを倒した。


「佐々木さん!?」


 オレの奮闘にユウナが驚きの声を上げた。

 オレが見るとユウナはグールを燃やしまくっている。

 アオイの方はデカグールが6体は群がっていた。


(アオイがヤバい!)


 彼女は6体の攻撃を何とかしのいでいるが、もうすぐに捌ききれなくなるだろう。すぐに助けないと。


 オレはアオイに駆け寄った。


ぐぅうう!


 アオイの真後ろにいるグールが腕を上げた。

 グールのゴツい指には凶悪な爪が生えていた。


「アオイ!!」


 ユウナが悲痛な叫びをあげた。アオイは爪を振りかざすグールにまでは意識が向いていない。


「オオォラァ!!」


 オレは全速力で走りながら、そのグールを横殴りにした。

 なんとグールが6、7メートルほどぶっ飛んだ。


「佐々木!?」


 アオイが一瞬驚きの表情を出すが、直ぐに眼前のグールとの戦いに集中した。


(お、オレも驚いたな! なんでこんなに吹き飛ぶんだ!? グールってのはデカいだけで体重は軽いのか? それとも火事場のバカ力ってやつか? と、とにかく他のグールも……!)


「オオオオォ!!」


 オレも周りのグールをドンドン殴り、叩き潰していく。


「佐々木! ここはもう大丈夫だ! ユウナの方へ!」


 今度はユウナを見るとこちらもグールに完全に囲まれていた。ユウナの姿は見えないが炎が上がったしてるのでまだ戦闘中のようだ。


「分かった! あっちもヤバい!!」


 オレは直ぐにユウナのいる方へと駆け寄り、飛び上がってまずはデカいグールを叩く。ユウナからもオレが見えただろう。


「オラァ!!」


 更に数発を叩き込んでグールの動きを止めた。

 ユウナの周りのグールの何体かがオレに向かってきた。


「かかってこいや!」


 オレはドンドンとグールを倒していく。

 今さらだが体が軽い。いつもよりも力も出せているような気もする。


(な、なんでこんなに調子がいいんだ!? でも今は好都合だな!)


「佐々木さん!」


 オレが目の前のグールを叩き倒して、ユウナの方を振り返った。

 ユウナの周りのグールはほぼ倒れていた。アオイももうユウナの隣にいる。


「はぁ、はぁ……、な、なんとか助かったんですか?」


「はい。佐々木さんのおかげです……」


 ユウナが感無量と言った顔で言う。

 ユウナもアオイも血と泥でかなり汚れてしまっている。


(汚れててもかわいい……ってそれどころじゃないよな)


「グールに襲われたのは元はと言えば佐々木のせいだけどな」


 不謹慎なことを考えているとアオイがまた毒つく。


「アオイー!」


「ははっ、まぁ助かったよ。ありがとな、佐々木」


「えっ? いや、それほどでも?」

 

 急にお礼を言われたので返答に焦ってしまう。


 さっきまで憎悪と言ってもいいほどの感情をぶつけられていたアオイから少女らしい可憐な笑顔でお礼を言われたのだ。


「なんだそりゃ」


 アオイとユウナが笑った。

 

 オレたちは力を合わせて生き残った、共に困難を乗り越えた共感のようなものを強く感じた。


(なんだ……、アオイって女の子もいきなり笑顔なんか見せちゃって。少しドキドキするぞ)


「とにかく、他のグールが来る前に班長たちに追い付くぞ」


 アオイがオレの内心を見透かして気を引き締めるように言う。


「ああ」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「班長! 後ろから来てます!」


 チバが大量の冷や汗を浮かべて叫んだ。


「分かってる! チバ! 炸裂弾はあるか!」


「あと3個で終わりです……!」


「全部行け! ユウダイの負担を減らせ!」


「り、了解!」


 槍使いであるユウダイは1人、グールの群れの中で戦っていた。

 銃使いの菅原と魔法使いのチバはグールとは距離を取って戦う為、ユウダイが潰れ役を引き受けていた。


 チバが手榴弾を投擲した。激しい爆音わん立て、ユウダイを囲むグールたちを蹴散らした。だが、まだ吹き飛ばしたグールの数より、ユウダイを襲うグールの方が多い。


「くそっ!#火炎球__フレイムボール__#!」


ドォン!


 炎がはぜる。

 だがそれでも包囲を崩す程ではなかった。


「ユウダイ!」


 菅原も青白く光る銃弾を放つ。

 ユウダイの援護をする菅原とチバにも新たなグールが迫っていた。


 チバはユウダイの援護で必死で、死角から近付くグールに気付けていなかった。


「#火炎槍__フレイムランス__#!」


ズン!


 チバに迫ったグールに突然、炎の槍が突き刺さった。


「これは……」


「菅原班長! みんな! ユウナ以下3名到着しました!」


「ユウナ!! アオイ!!」


 チバが血だらけの顔で喜んだ。


「まさか応援に来てくれるとは!向こうのグールは倒したんだな! 助かったぞ! アオイ、ユウダイを援護! ユウナはチバと魔術攻撃を展開してくれ! 直ぐに立て直すぞ!」


「「了解!」」


 オレも手近にいたグールに駆け寄る。


「うおらっ!」


ガンッ!


「次だ!」


ゴン!


 オレはなるべく敵の数を減らそうと鉄の棒を名バッターのように振って回った。


「佐々木くん? 何を!?」


 菅原がオレに言った。オレが急にグールに向かっていったので驚いたようだ。


「班長! 彼も戦えます! わたしたちも助けられました!」


「なんだと? 本当にそんなことが……」


 菅原が驚いてオレの奮闘を見ている。


「い、いや、分かった! 引き続き戦闘を続行だ!」


「はい!」


 オレは菅原の声に大きく返事をした。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「はぁ、はぁ、はぁ」


 息が苦しい。オレは肩で息をして、体力の回復に努める。

 顔を上げて周りを見るとみな、同じような状況だった。全員、菅原もユウナ、アオイ、ユウダイ、チバも血だらけだ。そしてオレも身体中がグールの血か体液でベトベトだった。

 本当に気持ち悪い。


「班長……、敵性反応……ゼロです」


「わ、分かった。良くやった。お前ら。」


 チバの報告になんとか菅原が答える。


「E級が30って、実際はその3倍はいたんじゃねぇの?」


 アオイがチバに尋ねる。どこか非難するような口調だ。確かにオレたちが倒したグールは30体なんかではとてもきかない数だった。


「い、いや。次から次に現れたんだ。本当にギリギリだった」


「でも生き残れたね。良かった」


 ユウナも喜びの表情でチバを労う。


(汗で輝いてる! ユウナはどうなってもかわいいなー)


「ところで佐々木くん」


「は、はい?」


 菅原班長が話しかけて来て、オレは何故か何かを責められるのかと身構えてしまう。


「君は肉体活性状態になったんだな。よくあのグールたちと戦ってくれた。おかげで助かったよ。礼を言う」


 菅原が頭を下げた。


(え!?)


「い、いやそんな! オレも無我夢中で! ユウナさんとアオイがグールにやられそうで、それで!」


 慌てて言い訳のような言葉を話してしまう。たけど、本音だ。


「だが、君のおかげだよ」


 菅原が微笑んだ。

 オレは何か、一歩進んだような達成感を感じた。


「ところで佐々木、ユウナはさん付けでわたしは呼び捨てかよ?」


 アオイがここで口を挟んできた。


「えっ、お前は最初から失礼なヤツだったからな。ユウナさんは、ほら優しいし、……可愛いし」


「えっ」


(や、やべ。キモいと思われたかな?)


 ユウナが照れた様子で顔を下げた。

 斜め上にこちらを見ながら赤い顔をして言った。


「ありがとうございます、佐々木さん。嬉しいです」


(ウォ! う、上目遣いってやつだ! なんかグールに殴られた以上の衝撃が!)


「いいいいや!? そんなそんな!」


 皆がその様子を見て笑った。


 オレは今自分が置かれている状況はまだまるで分かっていない。

 だがオレは共にグールと戦い死線を越えて、みんなと少し打ち解けることができた。

 そんな実感と満足感を感じていた。


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