第28話 送別会
「皆はなんでオレと一緒に来てくれるんです?」
式典の後。
菅原班、山崎班のメンバーと食事を囲むことになった。
オレ、ユウナ、アオイ、セイヤが新トウキョウ都市に向かうことが決まり、親睦を深める意味もあった。
そこでオレはセイヤ達に率直な疑問をぶつけた。
ユウナとアオイはまだ少しは分かるが、セイヤとは一度任務を一緒に行動しただけだ。
「オレはね、もっと強くなりたいんだ」
「は、はあ」
(それが東京に行く理由?)
「オレはこの都市ではトップクラスとか言われることもあったが、今回の戦争でオレは弱いという、その事実を心底から思い知ったよ」
「そうですか? セイヤさんは相当な実力があると思いますけど」
掛け値なしの本音だ。
「だが、相当な実力程度では仲間は守りきれなかった」
「……」
(そうか……司令型の討伐で山崎班以外は全滅…)
「壁外で共に司令型グールと戦ったみんなは、一緒に訓練をしたり、任務に行ったりした仲間だったよ。そして、これからもそれが続くと、オレは無根拠に思い込んでいた」
みんな、言葉に詰まりセイヤの話を聞く。それぞれが自分の大切な人を失った喪失感を思い出しているのだろう。
「目の前で仲間を失ったのは、オレの実力不足だ。オレがもっと強ければこんなことにはならなかった」
「そんなことはないわ!」
鈴子が声をあげる。
「そう、だ! オレたちももっと強ければ!」
「私だって同じよ!」
南、高野も続く。
「そうかもしれない。確かにこれからも努力を続ければもっと強くなれるだろう。だが、この都市であれだけの敵に囲まれることは稀だ」
「どういう意味だ?」
南が尋ねる。
「この都市では、あんな強敵とはいつ会えるかわからない。強敵と戦うことでオレたちは強くなっていくだろう? だから最前線である新トウキョウ都市に行き、腕を磨きたい。そして強力な隊員になり、この都市へと戻ってくる」
ここで班長である山崎が話しに加わってきた。
「……だが、同じことではないか? 例え前線に行っても、また更に強いグールと戦うことになり、自分の実力不足に頭を抱えることになるんじゃないか? トウキョウ行きの動機はみんなの前で話すと言っていたが、そういうことだったんだな」
山崎がセイヤに問う。
「山崎班長。大河内市長と譲原さんの働きは山崎班長も聞きましたでしょう。グールが都市の中央部まで攻め行った時、ゲリラ戦闘において2人で1000体以上グールを仕留め、犠牲になる都市の隊員の数を大幅に減らした。だから、オレもどこまでも強くなれば、いつかグールに仲間を奪われることもなくなるでしょう」
(大河内さんと譲原さんはそんなに敵を倒してたのか……)
「今までその理由は何故話さなかったんだ?」
山崎がセイヤにさらに疑問をぶつけた。
「早い段階でこの理由を話せば、南とユメあたりはオレに着いてくると言うと思いました。まだ2人には山崎班としてこの都市で活躍してもらわなければならないからです」
「な!」
「そんなの勝手よ!」
南と高野がセイヤの言葉に反応した。当然だろう。
「済まないと思っている。だが、オレがこの都市に帰って来た時には、オレを見送って良かったと、必ず、絶対に思ってもらう」
「……」
皆がセイヤの言葉を聞いて沈黙する。
セイヤの強固な意思をひしひしと感じたからだ。
「そうか、分かったよ。まあ、辞令も出てるもう決定事項だしな」
「山崎班長……」
鈴子が山崎を見つめる。
おそらくだが、寂しいのだろう。
「そうか、それで、菅原班の君たちは?」
気持ちを紛らわせるように山崎がユウナとアオイに聞いた。
「私ですか……私は知りたいだけなんです」
「知りたい?」
山崎がおうむ返しに聞いた。
「はい、どうしてグールという生物がこの世に現れたのか、どうしてお父さんとお母さんは殺されなければならなかったのか……」
「……」
「それに、佐々木さんから色々と聞きました。100年前のグールのいない時代のことを。資料や映像ではなく、実体験のある話としてです。私はその時代を取り戻したいという気持ちも強くあります」
「ユウナ、それは……」
菅原が声を掛ける。
「分かっています。無茶なことは。だけど、私にはできなくても私たちより後の世代、そこに繋げる何かが残せればと思っているんです」
「そうか……」
今まで親代わりのようにユウナを見守ってきた菅原が息を吐いた。
「わたしはそんなに大層なことは考えてない。ただ、わたしとユウナはな、幼馴染みだ。それで9年前に家族も揃って殺された。ユウナとはいつも一緒だし戦うときも一緒だ。だから、いまさら離れることはできねー。ユウナが主都で戦うならわたしも付いていくだけだ」
アオイも強い決意を秘めた表情で話す。
「分かった……」
菅原は2人の成長が嬉しいような、寂しいような気持ちなのだろう。オレも妹たちに同じような気持ちを抱いたことがあるので何となく察しがついた。
「……」
場が沈黙に支配された。
「でも、A級グールも倒せるメンバーでトウキョウに行くんです。オレたちもまあまあ精鋭なんじゃないですか?」
オレは場を和ませようと軽口を叩いた。
「佐々木……確かにお前たちならA級グールも倒せるだろうし、トウキョウまでは辿り着けると思う。だがな、もっと凶悪なグールもいるんだ」
菅原がやや苦笑いを含みながらもオレを少し叱咤するように話した。
「え?」
「S級グールだ」
(やっぱ、S級ってあるんだ……)
「そ、それはあの司令型ですか?」
「いや、あいつはA級に分類されるらしい。それにあれはS級にしては弱すぎた」
「弱すぎ!? あいつが?」
「S級はな、A級隊員数人で掛からないと倒せないらしい。まあ、私も直接見たことはないが」
「……」
(そんなのがいるのか……)
「だけど、これも知らないだろう」
「な、なんですか?」
「新トウキョウ都市にはな、S級隊員もいる」
「えっ、それは……もしかして譲原さんよりも強いってことですか?」
「ああ」
(信じられない……)
「確か、3人だったか?」
「4人だ。ギルドマスターを忘れているだろう、菅原」
菅原の言葉を山崎が補正する。
「4人もいるんですか!? あ、ギルドマスターは市長が会ってみろって言っていた人ですね」
「市長がそんなことを?」
「え? ええ」
山崎がオレに尋ねる。
「そういえば、山崎さんは新トウキョウ都市にも行ったことがあるんですよね?」
菅原が山崎に聞いた。
「ああ、阿倍野ギルドマスターにも少しだけ会ったよ」
「へえ、どんな人なんですか?」
(阿倍野さんっていうのか)
「まあ、人外だな」
(人外って……)
「阿倍野マスターは4人のS級戦力の中でも最強、もはや我々の理解のできないような行動を取る。一度、彼の訓練を受けたんだが、その内容はB級の私たち1000人と阿倍野マスターとの模擬戦だ」
「1000人!?」
「ああ、始まるまではさすがにこれはどうなんだと思っていたがな、オレたちはまるで相手にならなかった」
「ええ? B級隊員が1000人ですよね? その、マスターは 一体どうやって戦ったんですか?」
「増えたんだ」
「え?」
「だから、阿倍野マスターが増えた。分身とか言ってたな。100人くらいになって、全方位から攻撃をはじめてきた」
「……」
「空も飛んでたし、地面にも潜ってた」
「……」
オレは言葉が出ない。
「彼は自分のことを、忍者って言ってたよ」
(あ、そういうのもあるんだ)
そのあとはみんなで食事を囲み楽しい時間を過ごした。誰かが酒を持って来たようで、だいぶ騒がしい食卓になった。
驚いたのは山崎班の高野が酒乱だったことと、セイヤが下戸だったことだ。
これは送別会だ。
オレは命を預けあった仲間たちとの確かな絆を感じることができた。