第23話 年防衛戦争①
都市防衛システムは、いくつかあるがメインは遠距離砲撃が可能な魔法の大砲だ。大型の魔素チャージストレージが備えられていて、1発に防衛隊員10人分の魔素を吸い込み、砲を放つ。
システムと言う機械的な名称だが、この時代は機械設備はごく簡単なものしか存在していない。
『第1陣、撃て!』
市長の号令で高い威力と射程を持つ防衛システムの主砲が発射された。
ドドドドドドン!!!
もはや雨のような数の弾丸が宙を飛んでいき、一気に大量のグールが吹き飛ぶ。
だが、グールの数が多過ぎて、そこまで減っている実感はない。
『第2陣、続け!』
『了解です!!』
防壁からの砲弾の雨は続くが、もちろん、砲撃だけで都市防衛を担っている訳ではない。都市から離れた場所に設置された遠隔操作小型砲台、地雷魔術、弱体化装置などもグールへの迎撃を始めていた。
地雷魔術は遠隔操作可能の爆弾、弱体化装置はある範囲にいるグールの体内の魔素にに作用して、運動能力や体の頑強さを弱めることができる装置だ。
『敵撃破数は1000を越えました! 距離は900!』
『手を緩めるな。第4陣まで砲は打ち切ったな? 防壁砲台の再充填を急げ』
『はっ、第1陣の再充填までの残り時間、2分です!』
さらに激しい砲撃音が響く。まだまだグールまでの距離がかなり離れているはずだが、都市内部の作戦室にいるオレでも振動すら感じる。
『さて、討伐隊員の諸君、聞こえるか』
「はっ!」
隊員の装備している通信装置のインカムから大河内の声が届き、皆が返事を返す。
大河内が何年も掛けて築いた防衛システムの屈強さを知っており、さらに絶対にグールから都市を守るという大河内の心情を理解している隊員達の士気は上々といったところだ。
『今回の大規模群体だが、9年前と同じく司令タイプのグールがいるはずだ』
(司令タイプ、サガくんが言っていたやつだな……)
『その司令タイプグールを討伐すれば、この戦争は勝利したと言っても過言ではないだろう。そしてその目標の位置は最後部、守りが一番固い場所にいると推測される』
皆が市長の言葉を聞いている。
『よって、グール大規模群体が都市の防壁に達した時点で、目標を討伐する特別部隊を派遣するつもりだ』
「……」
(そ、それは壁の外に出て戦えってことか? それはさすがに……)
『賢しいものはもう分かっていたと思うが、その討伐部隊がこの戦争の要だ。だが、危険度は通常の防衛戦闘の比ではない』
防衛戦闘とは壁内から都市に近付くグールを殲滅する役目の者達、防衛隊員が行う仕事のことだ。逆に壁の外に出てグールを殲滅させる仕事は討伐戦闘と呼ばれる。
オレたち菅原班もその討伐戦闘を行う討伐隊員の一員だ。
『その最重要任務は、我が都市最強の部隊、山崎班に担当してもらう』
「はっ!」
オレたちの近くにいた山崎が力強く返事をした。
『そして、山崎班をサポートするため、加賀班、吉村班、伊集院班も同行してくれ』
『はっ! 了解です!』
『頼んだぞ』
『『了解です!』』
名前を呼ばれた山崎班とサポート班の一員であろう人たちが作戦部屋の外へ移動を始める。
山崎班のエース、セイヤは元々B級だが先日の任務でB+という準A級の階級になったらしい。そして鈴子も戦績を認められてB級に昇級、高野がDからC級となっていた。
隊員5名中3名がB級の山崎班はこの都市では一番の部隊となっていた。サポート役に選ばれた各班もB級隊員が1名以上いる強部隊だ。
オレはここで生活をしてそんなに時間は経っていないが、ほとんどみんな顔見知りの人たちだった。
「セイヤさん!」
オレはつい、声を掛けてしまった。
「どうした、セイ」
「生きて、戻ってきてくださいね」
セイヤは笑ってオレに返した。
「市長も言っていただろう、すぐに終わらせて帰ってくるよ」
「佐々木、オレたちも防壁の上に移動する命令が出ている、行くぞ」
セイヤの後ろ姿を見つめて立ち尽くすオレに菅原が移動を促した。もう人の心配ばかりしていられる状況ではない。
「分かりました……!」
言葉にできない気持ちだ。
昨日まで顔を合わせていた人たちが明日、会えるか分からない。
また、みんなで食事をしたい、またみんなで訓練をしたい、またみんなで任務に出て、苦労を分かち合いたい。
オレは心からそう強く願っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『敵撃破数は、3000!! 距離250!!』
オレたち討伐隊員は防壁の上に上り、全方位から群がってくるグールを見下ろしていた。
敵の数も万を越える軍勢だが、オレたち討伐隊員も万に迫る数だ。防壁の上部は隊員で溢れていた。
『設置型魔術を発動! そして討伐隊員も攻撃開始だ!』
インカムから市長の指示が飛ぶ。
「「オオオオオ!!」」
隊員達の怒号とともに激しい爆炎が至る所で上がった。
オレも銃を連射してグールを狙い撃った。この高度からであれば、離れたグールを一方的に攻撃出来る。
ドドドン!
防壁の離れた場所で爆発が起こった。
「先行してきたB級グールだ! 討伐を優先しろ!」
どこかの部隊の司令が聞こえたきた。
B級グールが光の弾丸を離れた場所から壁に向かって撃ってきているようだ。
以前の任務でも見たがB級は魔術のような攻撃もしてくる。その光の玉が何十という数で防壁を揺らしていた。
「あそこだ!! オレたちもB級に攻撃だ!!」
菅原が指示した方向には数体のB級グールがいた。
「ウオオオ!!」
オレたちが攻撃を続けると、直ぐに先頭のグールを倒すことが出来た。
「やった!」
「まだまだ、気を緩めるな!」
オレの言葉に菅原が叱責を返す。戦塵の向こうでは数えきれない眼光が光っていた。
「あ、あんなにいるのか!」
「こちらも何百人もいるぞ! 撃て!」
「りょ、了解です!」
オレたちは次々とグール達を殲滅していく。だが、グール達はもう防壁の足元近くまで来ていた。
「敵撃破数7000! 距離は80!」
(ヤバい! もう壁に辿り着かれるぞ!)
「A級です!」
防衛隊員の悲鳴が届いた。
目を向けると、グールの群れの先頭には一際巨大な化け物が立っていた。
(な……んだ!? あれ!? 10メートルはあるぞ!)
巨体のグールは細身で手足が長い。肩と頭からは長い角のようなものが生えていた。
(あれはもうただの怪物だ! 銃で倒せるのか!?)
その怪物がおもむろに頭の角をオレたちの方に向けた。
「来るぞ! チバ、障壁を!」
「了解です!!」
カッ!
A級グールの角の先が光ったかと思うと激しい爆音がした。
「うおおお!?」
(レーザーだ! チバのバリアと射角でなんとかなった!)
「みんな無事か!」
「「はい!」」
「よし、A級を迎撃だ!!」
「「了解!」」
「お父さんとお母さんの敵、#火炎風嵐球__フレイムストームボール__#!!」
「見てくれ!みんな!#飛斬散弾剣__ストラッシュショット__#!!」
ユウナとアオイが憎しみの籠った言葉と共に激しい攻撃を繰り出した。
(A級の話はしたくないって……そういうことか……ユウナとアオイの家族はA級に殺されたんだな……)
ユウナ達の事情を少し理解したオレも攻撃に参加する。
あのA級グールが家族を殺した訳ではないだろう。
ただ、敵を討ちたい、家族に報いたいというその気持ちはわかるような気がした。
オレたちの周りにいる隊員達も一緒に総攻撃を仕掛ける。何十人もの攻撃を受けた巨大なグールは程なくして地面に伏した。
「やった! A級を倒した!」
アオイが喜びの声を上げる。
だが、倒れたグールの後ろには大群のグールが控えていた。