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グールムーンワールド  作者: 神坂セイ
21/28

第21話 前兆

「事態は火急です」


 都市に帰ったあと、治療をするためということで神田兄、サガに呼び出された。

 そして一通りの治療と検査を済ませたその後に、休憩場所のような場所に座るとサガが言った。


「佐々木さん。今回殲滅した点滅型は約200です。そして、同じ規模の群体がいくつも都市近郊に潜んでいることが予想されます」


「そうですね、また警らと討伐の任務に行かないといけませんよね」


「いいえ、もう行かないで下さい」


「え?」


 サガは座り直すとこちらを向いた。


「いいですか、佐々木さん。グール群体同士は連携していて、点滅型が起きると索敵外から上級グールが寄ってきます。今回もB級3体、C級11体が確認されてます」


「!? そんなにいたんですか!」


「はい、譲原くんがだいたい倒してくれましたが、次はそう簡単にはいかないでしょう」


「えっと、なんでですか?」


「次はグールによる同時多発的な攻撃が予想されます」


「?」


「佐々木さん、グールはこの都市への侵攻、そして人類の壊滅を目指しています。そして今までの一連の連携を考慮すると、指揮を取っているグールがいると考えられます」


「指揮? グールにですか?」


「ええ。まあ、女王蟻のようなイメージ、で分かりますか。ヤツらの中には指示を出す個体がいるんです。そして今回、前回と佐々木さんは点滅型群体を二度、倒しました」


「はい」


「よって、敵は点滅型による小規模な奇襲はもう通用しないと考えたでしょう。潜伏させている尖兵であるグールを減らされる前に一斉攻撃に出ると思われます」


「え! 一斉攻撃!? でも、なんで分かるんです? そんなこと」


「……それは、前にも同じようなことがあったんですよ……」


「そ、そうですか……」


 オレは何かの実感の籠ったサガの言葉に思わずたじろいでしまう。


「……とにかく、佐々木さんは菅原班に戻って迎撃の準備を進めて下さい。討伐隊員である佐々木さんたちには追って本営からも指示が出るでしょう」


「りょ、了解しました」


 オレはまだ半信半疑だが、サガの言葉を菅原にも確認してみようと思い、その場を離れた。


「もう、戦争の前兆は以前からあったんですよ……9年前の再来だ……今回のきっかけは……佐々木くん、あなたです……」


神田が誰もいない場所で1人、呟いた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 オレは兵宿舎へと戻り、菅原班のみんなはどこだろうと歩いていると、前にユウナの姿を見つけた。


「佐々木さん! 戻りましたか!」


 ユウナが焦ったような顔でオレに声を掛けてきた。


「ユウナ。何かあったの?」


「はい、 都市周囲に突然グールが現れているんです。すごい大群みたいです……」


「な! とにかく、み、みんなのところへ行こう!」


「はい!」


(そんな! やっぱりサガくんの言った通りなのか!? でもいきなりだ、それにグールはどれくらいいるんだ?)


 オレはいきなりの事態を飲み込むことができない。

 いきなりグールの大群がこの都市を攻めてきたようだ。


 オレはこの世界の隊員としてまだ最初の一歩を踏み出しただけなのに立て続けに想定外のことが起こっているような気がする。

 

 オレはこの時代に放り出されたこと、グールが襲いかかってくる現実、剣や魔法が発達している人間たち、これらが何なのかという疑問も含めて頭の中は疑問符だらけだった。


 だが、誰もオレの問いへ答えを返せる者はいなかった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「菅原班長!」


「佐々木、ユウナ。戻ったか」


 オレたち菅原班は、6人全員が揃ったところで兵舎の中の作戦室と呼ばれる大部屋に集まった。

 この部屋は各班の任務の作戦会議やミーティングなどいろいろなことに使われる。

 オレたちの他にも大勢の隊員がおり、そこには山崎班の姿も見えたいた。


「はい、今はどういった状況なんでしょうか」


「……佐々木さん、現在都市を囲うようにおよそ3000のグールが出現しています」


「3000……!!?」


 チバの報告にオレは耳を疑った。


「反応に出ていない点滅型、増援を含めると想定敵数は約10000と予想されています」


「ええ!? 10000……!?」


 本当にそんなにも多くのグールがいるのかとオレは驚きを隠せない。数百のグールで言葉を失った経験のあるオレはその何十倍の数のグールがいる。そのことがとても信じられなかった。


「つい先ほど、本都市の本営より通達がありました。グールが一定以上、都市に近付いたら都市迎撃装置によりグールに対して攻撃を始めるそうです」


「……」


「私たちに出た命令はこのまま兵宿舎で待機し、敵が防壁に近付いてきたら、出撃命令が出すということだ」


 絶句したオレに菅原が今後の行動を指示する。

 冷静に指示を出してはいるが、緊張が伝わってくる。


「だが、本営の報告によるとまだしばらく先だろうと言うことだ。現在グールは集合行動をしており、明日くらいまでは大丈夫だと言われている。今日は任務もあったし、まずはゆっくり休んでくれ。兵宿舎にいれば何かあっても問題はない」


「菅原さん。もしかして、これはオレが点滅型を……」


「佐々木、点滅型の討伐は私の提案だし、指示は市長が出した。点滅型をあのまま放っておく訳にもいかなかった」


 菅原が続けた。


「……来るべき時が来た。それだけだ……戦争が本格的に始まる前に部屋に戻って休め」


「……そう、ですか。了解しました。ありがとうございます」


 オレは菅原に頭を下げて、部屋に戻った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「来たな……」


 1人で市長室に佇む大河内は、窓から外を見ながら呟いた。 外はもうすでに暗く、遠く離れた場所にいるグールの群れは大河内からは見えない。

 

 大河内は今回は9年前の様には決してさせないと、強く思いながら今後の方策を思案していた。


 9年前。

 同時すでに新ツクバ都市の市長だった大河内は当時都市を囲んだグールの大群を討伐するため、前線で指揮をとっていた。

 そして、防壁の外周で新ツクバ都市の隊員たちとグールとの激しい戦闘となったが、最終的にグールには防壁の中への侵入を許してしまった。

 大量のグールが市街になだれ込み、都市内部は地獄と化した。壁内には生産員、総務員など戦えない市民が大勢居たのだ。

 市民たちにはその時自宅待機命令が出されており、防壁を越えて近づくグールになかなか気付けなかった。

 都市全域に連絡するための通信装置もその時は無かったのだ。

 そして、とうとう大河内の自宅にもグールは侵入してしまった。

 自宅には、大河内の妻、娘、母がいた。

 そして全員がその犠牲となった。


「見ていてくれ……みんな……」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 オレたち菅原班はいったん別れ、それぞれが部屋にと戻った。

 これからグールとの戦争になる。オレは戦争というものは言葉でしか知らない。グールとの戦争というものがどうなるのか予測もつかない。

 100年前の世界でも戦争というものは遠い世界の出来事、そんな風に感じていた。多分、オレのまわりにいたほとんどの人がそうだろう。

 これから始まる大群の怪物との戦い、殺し合いがどうなるか、犠牲者を出さずに済むのか、まるで分からない。

 ただ、今を一緒に過ごしている仲間たちには死んでほしくない。この都市の平和が続いて欲しい、強くそう願いながら横になっていた。

 都市で過ごした時間、まだまだ短い期間だが、食事や衣服、装備品を準備してくれる人たち。訓練のときに一緒に並んで練兵場で汗を流した名前も知らない隊員たち。

 色々な人たちの顔が浮かんだ。


 オレはもう既にこの都市の一員だ。誰も死なせたくない。

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