第18話 任務完了
「不味い! 迎撃しろ!」
菅原が叫んだ。すぐに遠距離攻撃持ちのオレたちが新たに現れたB級グールに攻撃を開始した。
ガゥオオオォォォォォ!!
B級グールが激しい叫びを上げてこちらへ光弾を放つ。
「うおおおっ!」
オレはスゴいスピードで向かってくる光弾を何とかかわした。
その横を走り抜けてユウダイと南が攻撃を仕掛けた。
「#貫通槍__ペネトレイション__#!!」
「#衝撃剣__インパクト__#!!」
ズドン!ドン!!
(当たった!)
土煙が立って視界が遮られると、その中から突然長い腕が飛び出て来て、二人を襲った。
「ユウダイさん! 南さん!」
2人は吹き飛ばされ、そのまま崖から落ちてしまった。
(ヤバい! ヤバい! 二人は大丈夫か!? 山崎さんは!? セイヤさんは!??)
「怖じ気つくな! 佐々木!」
菅原が吠えた。
「攻撃を続行するぞ!オレたちでB級を討伐する!!」
「りょ、了解です!」
オレと菅原の銃弾、ユウナと高野の魔術がグールに炸裂した。それなりにダメージは与えているようだが、倒すのは程遠い様に感じた。
ふと気がつくと、B級グールの後ろにアオイとチバがいた。なにやらチバがアオイに黒いキューブの様なものを渡しているようだ。
『班長、そのまま陽動を続けて!』
『アオイ!? 何する気だ? 無茶はするなよ!』
『ちょっとくらい、無茶しないとこいつは倒せねー!』
そう言ってアオイはB級グールに突っ込んだ。
(おいおい! 大丈夫かよ!)
「おらぁ! #爆発剣__エクスプロージョン__#!!」
ドン!
(決まった!!)
土煙が立ちこめ、さっきと同じ光景が広がった。アオイがユウダイ達と同じ攻撃を受けないよう、長い腕を警戒して後ろに後退すると、今度は上から光弾が降ってきた。
「!?」
ドォーン!
「アオイ!!」
ユウナが叫び声を上げる。
グールはアオイの攻撃を受けた後、上空へ飛び上がっていたみたいだ。空中からアオイに光の玉をぶつけたグールは、着地すると今度は素早くユウナに光弾を放った。
「ユウナ!!」
オレも叫ぶ。
轟音が響き、ユウナとその隣にいた高野を吹き飛ばした。
『アオイ! ユウナ! 生きてるか!? くそっ、設置型魔術を発動!!』
チバの声が通信装置のインカムから届いた。
ドドドドドンン!!!
グールから物凄い衝撃が起こった。
(これは!? アオイがグールに着けたのか!?)
オレはチバが渡していたキューブを思い出した。相当な数の設置型魔術をグールの体に直接取り付けたのだろう。
ガウアアアアァァァ!!!
グールの苦しみの声が轟いた。つまり、まだ生きている。
「くそーっ!!」
オレはグールに銃撃を続けた。
(くそっ! くそっ! もっと威力があれば! もっとオレが強ければ!!)
土煙からグールが飛び出して来る。
片腕と片足がない。だが、器用に残った片手片足で移動をしている。
(だけど、速度はさっきまでよりかなり遅い!)
オレはグールが放った光弾をかわして銃弾を叩き込む。菅原もかなりの近距離で銃を撃っている。
(もう少しで倒せる! 早くみんなを手当てしないと!)
その時。グールが激しく吠えた。
(何だ!? 断末魔か!?)
「佐々木、警戒しろ!!」
菅原の注意にグールを注視すると、頭の上に巨大な光弾が生まれていた。
(ヤバいぞ! あれは! さっきまでの何倍あるんだ!?)
巨大な光弾が突然弾け、無数の光の粒となって周囲に降り注いだ。
(な! マジかよ!?)
ズズズズズドドドドーーー!!
いつまでも続くような衝撃が辺り一帯の崖地を大きく崩した。
土砂崩れと一緒になってオレたちは崖の下へと落ちてしまった。
「う、ううう……」
力を振り絞って、身を起こす。
激しい土砂の煙の中に光る眼が見えた。グールだ。
(ホント、いい加減にしやがれ!!)
オレは力が入らなくなってきた右腕を左手で支え、ガレキに背を預けて銃撃を再開した。
「うあああああああああああああああー!!!!」
銃撃を続けるオレの前にグールが現れた。
もう両足もなく、一本残った腕もおかしな方向を向いている。それでもオレに向かって這いずってくる。
(なんでそんなになってまで人間を襲うんだよ!)
オレは敵の執念に怯えながらも、攻撃を続けていた。
カチン!
なんとそこで、銃弾が切れた。いや、銃が撃てなくなった。
(な!? 何で? ストレージの魔素はまだあるはず!)
急いで別のストレージに交換するが、やはり銃弾は発射できない。まさかだか、ここでオレの銃が壊れたようだ。
「くそっ、なんてことだ! これじゃあオレは、結局やられる! オレは! みんなの元には帰れねーのか!」
グールが巨大な口をオレに向けて開いた。
(トドメを刺す気か。ダメだ……もう、動けない……)
「ごめんな……ナナ、ラク、ユキ……兄ちゃんは……」
オレは胸の中でみんなに謝った。
兄の役目を果たし終わる前に居なくなってしまったこと。
みんなのもとへ帰れないこと。
父と母が亡くなった時に誓った妹弟をもう悲しませないという誓いにも似た思い。
色々な思いが一瞬の内に心の中に広がった。
「謝らなくていい。君はよくやった」
(え!?)
「セイヤさん!!」
振り返ると、オレのすぐ後ろに長髪とコートをはためかせたセイヤが剣を大上段に構え、立っていた。
「#王級衝撃剣__ギガインパクト__#!!」
ズドォオオン!!!
セイヤの一撃でグールは粉々に吹き飛んだ。
「雑魚のクセにオレに楯突いたからだ」
(さ、さすがイケメン、そこにシビレる、憧れるぅ……)
オレはそのまま気を失った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「はっ!」
バッと身を起こした。
「グッ!」
体が激しく痛んだ。
(そうだ。オレは気を失って、みんなは!?)
気力を絞って辺りを確認する。
「佐々木、目が覚めたか!」
菅原がオレに駆け寄ってくる。
「は、班長……! みんなは、ユウナはどうなったんですか……!?」
「……佐々木、山崎班の鈴子さんはな、援術の達人なんだ」
「……はあ??」
オレの質問に対して、検討ハズレな答えが返ってきて、困惑する。
「援術というのは、索敵術、強化術、障壁術などと呼ばれる援護魔術のほかに、傷を癒すものもあるんだ」
「……」
「つまり、鈴子さんが戦闘中にみんなに遠隔の障壁を着けてくれていたんだ。凄い早業だよ。今はみんなを治療をしてくれている。全員生きているよ? ほら、見てみろ」
そう言って菅原は首で方向を指示する。
その方向に目をやると横になっているユウナ、アオイ、ユウダイのほかに、山崎、高野、南がいた。
オレは無理矢理体を起こして、みんなの無事を確かめた。
鈴子とチバが忙しそう働いていて、その横ではヒマそうにセイヤが座っていた。
「よ、よかったぁ……」
思わずへたり込み、大きく息を吐く。
全員生きている。生きてグールに勝った。
腰が抜けるような安堵だった。
「ああ、セイ。起きたか。ちょっと寝すぎだ。1時間は寝てたぞ」
ようやく話相手ができたなという様子で、セイヤがこちらへ歩いてきた。
「ん? 泣いてるのか?」
「え?」
そう言われてオレの頬が濡れていたことに気がついた。生き残った安堵のためなのか、その理由はオレにもは分からない。
「セイ、君はよくやったよ。君がいなかったらどうなっていたか分からない」
セイヤがオレを誉めた。
「ああ、結城の言う通りだ。よくやったな。私たちは満身創痍だが、全員生き残った。この任務は想定外のことも多々あったがな」
菅原もセイヤに続いてオレを称賛した。
「そう、ですね……」
「佐々木、これで任務完了だ。あとは無事に帰還するのみ。お前は本当に良くやってくれた」
オレは涙を拭うことも出来ずに、言葉に出来ない喜びを噛み締めていた。