第16話 激闘
「セイヤさん、この辺りで気配を感じます」
オレとセイヤは菅原たちが戦闘を繰り広げる場所から大分走った場所で立ち止まった。
このあたりは山の斜面で過去にも建物は無かったのだろう、自然のままの姿が残っている。
さっきの崖地上までグールが到達したら、ここを通り抜けて後退する手筈だった。
セイヤは周りを警戒する。
「どこか分かるのか?」
「ハッキリとは……この周囲だとは思うんですが」
「そうか。では、確かめてみよう。#飛斬散弾剣__ストラッシュショット__#」
ドドドドド!!
「うおっううう!!」
突然セイヤが宙に剣を振るうと光る斬撃の雨が周囲に降り注いだ。すごい威力と数だ。
激しく土埃が舞う中から、唸り声が聞こえた。
「セイヤさん!」
「ああ、起こしたようだな」
(何でそんなに余裕なの? イケメンだから!?)
ぐぅぅううぅ!!
(あちこちから聞こえる! かなり数は多そうだ!)
「チバくん! 聞こえるか! やはりグールがいた! 点滅型ってやつだ! 確認できるか!?」
オレは耳に装着した小型インカム装置で通信を試みる。
『佐々木さん! 今、佐々木さんの索敵装置と連携して確認できました! だけど、本当にいるとは……!』
「敵の数はわかるか!?」
『……F、E、D級混合で、およそ150体……』
「150……」
(そ、そんな……ここにはオレとセイヤさんしかいないのに……)
『……さらにこちらでもE、D級点滅タイプを確認……およそ80体! ヤバい! セイヤ! 早くこっちへ戻ってきてくれ!』
(え! 向こうにもいたのか!? マズイ、これじゃ……!)
「#衝撃剣__インパクト__#!」
ドォーン!
爆音のした方を向くと、セイヤがすでにグールとの戦闘を始めていた。
『セイヤ! 佐々木くんも聞こえるか! こちら山崎だ! 今の話は聞いていた! 現在オレたちから見て、前後からの挟撃を受ける形になってしまった!』
(山崎班長……! どうすれば……)
『オレたちの方は後退しながらの迎撃はできなくなった! こもうこで決めるぞ!』
『了解、班長も踏ん張って下さいよ。あとついでにチバもな』
『なんだよ、分かったよ、クソ!』
チバがセイヤに悪態をついた。
『こっちはオレとセイに任せてくれ』
(やだ、カッコいい! さすがイケメン! で、でもオレも入ってるの!?)
「セイ、迎撃しろ!」
「りょ、了解です!!」
もう、やるしかない。この人とみんなを信じて。
とことん撃ちまくってやる。
ドン!ドン!ドン!
オレは秘蔵のデバイス型弾丸を3発を一気に発射した。
オレの弾丸は木々の間から姿を見せたグールの群れを吹き飛ばした。だがすぐにその後に何体ものグールが現れた。
(あれはE級だ!)
ドドドドド!
さらに、射程を絞り高威力に再調整した銃を連発する。さらに何体かのグールを倒すことができた。
(よし! このままいけば……!)
ガンッ!
突然、オレは後ろから衝撃を受けた。
吹き飛ばされてしまった。
オレは木にぶつかって地面を転がった。
「グッ、ガハッ! グ、グールか!」
痛みを堪えてさっきオレがいた場所を見た。大型のグールがオレを凶悪な顔をして見据えていた。
C級ほどじゃないが、E級よりはデカイ。これがD級グールだろう。3メートルほどの巨体だ。
グールがオレに向かってくるのを見て、心臓が激しく脈打つのを感じる。
恐怖だ。だけど、なにもしないでただやられる訳にはいかない。
「うおおおお!」
オレはD級グールに向けて銃を連発する。
木々が邪魔をするのと、グールがジグザグに走って来ているためほとんど当たらない。
すぐにオレの目の前まで迫られてしまった。
「クソ! でもここからなら……!」
グールの大きい体に向けて銃を放った。同時にオレも上から激しい衝撃を受けた。死角から殴り付けられたようだ。
オレはそのままの連発の銃撃でグールを吹き飛ばしたが同時にオレもグールに攻撃を受けたていた。
オレは地面に突っしてしまった。
「が、がふっ……、いてえ! だけど、ま、まだだ」
視線を前に向けると、グールはもう立ち上がろうとしていた。
オレはそのまま銃を前に向けた。
「おおおお!!」
オレの渾身の銃撃をさらに何発も受けたD級グールがようやく倒れた。
「やった……! でもまだまだいる……」
周りを見回すとまた、こちらへ向かってくるD級グールがいた。
「や、ヤバい。もう来るぞ……態勢を……」
ズバン!
突如、オレに向かっていたD級グールが垂直に真っ二つに分かれた。
「セイ、大丈夫か?」
「セ、セイヤさん! 助かりました」
「……D級を1体倒したのか。なかなかやるね」
「あ、ありがとうごさいます」
オレはセイヤと話しながら銃の弾倉である魔素ストレージを交換し、空のストレージに魔素を込めた。
「まだまだこれからだぞ、セイ。気合い入れろよ」
「はぁ、はぁ、はい!」
「行くぞ! #上級飛斬剣__メガストラッシュ__#!」
ズバァン!
「うおお!」
オレはさらに向かってくるグールに銃を向けた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そうしてオレたちはグールとの激戦を続けた。
オレはE級はもう20体以上は倒しているし、D級もあのあと2体倒した。
何度かグールの攻撃は受けたが、今のところ何とか動けている。
「本当に、キリがない……!」
また空になってしまったストレージに魔素を込めながら銃撃を続けた。
ドドドドド!
「セイヤさん……」
また、セイヤが大技を使ったのだろう。激しい衝撃が拡がった。彼もずっと激しい戦闘を続けている。絶妙にオレに向かうグールを倒してくれていて、オレの負担を減らしてくれているようだ。
「さすが、B級隊員……ちょっと人間離れしてるわ」
セイヤは軽々と10メートルはジャンプして空中から斬撃を飛ばしたり、残像が見えそうな速さでグールの側に駆け寄り斬り伏せたりしている。
オレはいつまでも晴れない土埃の中にまたグールの影を見つけた。
「また、D級だな……! これはヤバい!!」
すでにかなり近付かれてしまっている。もうすぐそこだ。この距離からD級との戦闘は危険だ。すぐに弾丸型デバイスをセットした。
グールが狂暴に叫びをあげながらオレに走りよってくる。 チーターみたいなスピードで3メートル以上ある怪物が迫った。
「おおおおお!!」
オレはグールが腕を振り下ろす瞬間を狙い、右手で銃を発射、左手でグールの攻撃を防御した。
ドゥウン!
「がはっ、……グールは……?」
グールの攻撃を受けて膝をつくが何とかまだ生きている。
すぐに震える腕でグールに銃を向ける。
いた。
仰向けに倒れているが、まだ動いている。
グオオオオオオォ!
グールが怒りの咆哮をあげた。オレはグールが立ち上がる前にと焦りながら銃撃を撃った。
すぐにグールは起き上がりこちらへ向って走り出すが、もう一度オレに攻撃をする距離に近付く前に倒すことができた。
「はぁ、はぁ、はぁ、……」
ヤ、ヤバい。意識が飛びそうだ。
集中しなければ。
限界が近い。
なんとか気を強く保ち、当たりを警戒する。
「……?」
「あれ? グールが……」
「セイ」
すぐそばにセイヤが着地する。
緑色の長髪とロングコートがはためいていた。
(どこから降ってきたの、この人?)
さすがのセイヤも敵の攻撃を受けたようだ。
衣服が汚れ、顔に血がついている。
「セイヤさん!」
「よく、生き残ったな。ここのグールは殲滅できたようだ。みんなのところへ戻ろう」
(殲滅できたのか! オレは30体も倒してないと思うけど……セイヤさんが100体以上倒したってことか? ホントにスゴいな)
「りょ、了解です」
(本当はもうこのまま都市に帰りたいけど、ユウナは無事か?)
「セイ、まだ終わってないぞ。気を引き締めろ」
セイヤは厳しい顔をして言った。
「向こうが敵の本隊だ」