第14話 初任務
オレが菅原班に加入して、一週間が過ぎた。
オレはまず、この世界の知識も、軍隊の知識もない素人ということで座学を含めた基礎訓練を行っていた。教官役は菅原だ。
以前に、筋トレならいくらでもできると考えていたが、大甘だった。
「佐々木! へばるな! あと、10セットはやるぞ!」
菅原にどやされる。
オレは今は負傷した仲間を背負いながら、グールを撃退しつつ退却をするという想定の訓練をしている。その工程は1セットで5キロを全力で走る。体力は強化されているようだがとにかくキツイ。
そしてみんなが着ている軍服だが、これがとにかく重かった。魔素を取り込む特殊な生地、染料などで作られた服に銃、弾薬、道具などの装備を加えると、なんと20kgになるそうだ。
さらに負傷した仲間ということで、ユウダイを背負っている。
ユウダイに体重を聞いたけど、秘密とか言って教えてくれなかった。
さらに、オレには銃が支給されたが、これの扱いがまた難しかった。
弾を込め、引き金を引く。そういう動作だが、弾はオレの体の魔素、つまりウイルスを使う。銃に魔素を込め、撃ち出す。それが出来るようにになるのに3日ほど掛かった。
今日も基礎の体力訓練で1日が終了した。
「佐々木さん、お疲れ様です」
ユウナが飲み物をくれた。
この都市に所属する隊員たちは生産員が作ってくれた食事や飲み物を口にしている。
家族や共に暮らす人がいる隊員はそうとは限らないが、オレは毎日宿舎の食堂で3食を済ませていた。
そして、その食堂の外へ飲み物を持ち出すには水筒が必要だが、オレはそれを持っていなかった。
訓練で汗をかき、水筒を持っていないことまで察したユウナがオレに飲み物を差し出してくれていた。
「ああ、ありがとう。ユウナ」
床にへたりこんだまま、ユウナに礼を言う。
この1週間でかなりみんなとも打ち解けたように感じる。やはり一度一緒に戦ったのが大きいのだろう。
ユウナやアオイ、チバなんかとはもう敬語も使っていない。
この1週間でオレはこの世界の常識というのも少しずつ理解してきた。
現代との違いはいろいろあるが、まず特筆すべきは月だ。この世界には月が3つあるが、その内の2つは、人工衛星だ。なんと、過去にパンデミックから逃げ惑った大国のお偉いさんが莫大な金と人命を使い捨てにして、宇宙に打ち上げたそうだ。それもひとつではない。各国からいくつもだ。
世界の全部をあわせると20を越える人工衛星があったそうだが、衛星のコンピューターはすでにウイルスにやられていたらしい。その後、衛星に無理矢理乗った多くの人員ごと逃げ場のない地獄と化したとのことだ。その犠牲になった人間の数は数千から数万と言う。
そしてその後に衛星同士がぶつかり合い、なんと合体したそうだ。もちろんそれだけでは肉眼で見えるほど巨大ではないのだが、衛星がふたつだけにまとまった後に肥大化を始め、グングンと巨大になり、最終的に今の形にまとまったそうだ。
グールウイルスというものが何なのかはハッキリ分からないが、オレの時代の常識とはかけ離れている。
「全員集合!」
菅原が召集を掛けた。
「明日の予定について報告がある」
(なんだろう?)
「本営からの指示が出た。明日は討伐任務にあたる。今回は日帰りの任務だ」
「……」
皆、黙って菅原の話を聞いている。
やはり、グールとの戦いに向かうとなると緊張する。
「都市近郊にグールの群れが確認された。数は数百」
「数百!?」
ユウダイが驚いて声をあげる。
「班長、それは無茶じゃないですか?」
「わたしも同意見。頑張っても200ちょいじゃない?」
アオイもユウダイに賛同した。
「ああ、その通りだ。だから今回は、山崎班と合同任務になる」
(山崎班?)
「ああ、なるほど。じゃあ何とかなりそうだ」
ユウダイは安心した様子だ。
「佐々木、山崎班は俺たちより格上になる、頼りになる人達だよ」
「そうですか」
「では、明日8:00に準備を出発準備を済ませここに集合!」
「「了解!」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次の日、オレは早くに目が覚め、結構早い時間に練兵場に着いてしまった。
最近はあまり睡眠を取らなくても、疲れがしっかり取れる気がする。これも肉体活性の一部とのことだ。
オレはさてどうしようかと手持ち無沙汰にしていた。
「おはよう、早いね」
振り返ると、大きな剣を腰に携えた青年が立っていた。
(やだ、イケメン!)
髪はさらさらの長髪でなんと緑色だ。
なぜか、膝下まで丈のあるコートを着ていて、よく似合っている。
もの凄く整った目鼻立ちで、身長も180は余裕で越えているようだ。
「おはようございます、あ、オレは菅原班の……」
「佐々木セイくんだろ? 知ってるよ。ちょっと話題になっていたからね」
「そ、そうですか」
(どんな話題なんだろ? 変なやつが来たとか言われてんのかな?)
「オレは結城セイヤ、山崎班のエースだ」
(エースって自分で言うのか……)
「よ、宜しくお願いします。結城さん」
「同じ名前同士、セイヤでいい。宜しく。セイ」
「そ、そうですか。では、セイヤさん。今日はお世話になります」
「ああ」
セイヤそう言って微笑んだ。
そうしているうちに幾人かの足音が聞こえて来た。
(これは、菅原班のみんなと、他にもいるな。)
「早いね、おはようごさいます」
「おはよ」
「おはようございます」
ユウナ、アオイ、チバそれと初めて見る隊員が訓練場に入ってきた。女性が2人と男性が1人だ。
「チバ」
「お、セイヤ。おはよう」
(ん? ふたりは仲よさそうだな)
「ああ、佐々木くん。セイヤは幼なじみなんだよ」
「そうなんですか。あの、こちらの人たちは……」
チバがオレに声をかけてくれたので山崎班であろう隊員のことを聞く。
「山崎班のメンバーだよ」
「あなたが佐々木くんね。わたしは鈴子スズというの。宜しくね」
女性の1人が挨拶をしてくれた。黒髪のショートカットで優しい雰囲気を感じる。
横にいるもう1人の女性は金髪ギャルの出で立ちだ。ウェーブのかかった長い髪をしていて、渋谷にでもいそうな雰囲気だが、杖を持っている。
そしてもう1人の男性は黒髪短髪で、こちらは剣を持っている。
「わたしは高野ユメ、宜しくお願いします。」
「オレは南ユウジだ」
2人もオレに簡単な自己紹介をしてくれた。
金髪ギャルは意外と礼儀正しそうな印象だ。偏見はもってはいけない。
「オレは佐々木セイです。今日は宜しくお願いします」
「みんな、おはよう」
菅原だ。まだ来ていなかったユウダイともう1人屈強そうな男性が入ってきた。
この人が山崎班長だろう。
「よし、集合」
菅原班、山崎班で総勢11名がひとところに集まる。
「本日の指揮をとる山崎班班長の山崎セイゲンだ。と言っても彼以外はみんな知ってるな」
「そうですね。山崎さん、彼が佐々木です」
菅原がオレを紹介してくれる。
「佐々木くん、宜しくな」
「はい、佐々木です。宜しくお願いします」
「では、みんな今日は宜しく頼む。知っての通り、都市近郊にグール群体を確認。こちらへ侵攻を続けているため、これを迎撃する」
皆、気を引き締めて話を聞く。
「現在確認されている総数はおよそ500。C級も確認されたそうだ」
(C級……この前見たデカイのがE級って言ってたからもっとでかかったりするのかな……)
少し手が湿っているのを感じる。
「我々はこのまま徒歩で壁外に向かい、戦闘にあたる。いいな!」
「「はい!」」
「では、出発!」
皆が隊列を組み、行進を始める。
オレは激しくなる心臓の鼓動を落ち着けるために、大きく息を吸った。
この前、覚悟は決めたはずだ。
オレは妹弟のもとへ帰るため、グールを銃で撃ち倒す。
そう決意を固めた。