第13話 再会
オレは市長たちに連れられ、オレは壁の内側の街へと入った。太陽が眩しく、風が冷たく感じた。久しぶりに外の空気を吸い、気持ちがいい。
街並みは都市の外縁部だからか、まばらに低層の建物が建っているだけで、人影は無かった。
遠くの方を見ると、高層の建造物もいくつか見てとることができる。おそらくあの辺りがこの街の中心部だろう。
「これに乗って下さい」
神田が案内してくれた乗り物は、剥き出しの土の上に置いてあった。
なんというか、楕円形のソファー。カラオケのボックス席のような見た目で、黒い革のようなゴムのような質感の物体だった。
けっこう大きく、ちょっとしたバスくらいの大きさはあるだろう。
「これは? 動くんですか?」
「はい。魔導ホバークラフトという乗り物です」
(ホバークラフト! なるほど!)
楕円形の一端の方に、前を向くように椅子が固定されている。何やら計器みたいな器具も備わっているのでそこが運転席だろう。そこに神田が座ると、市長たちもホバークラフトに乗り込んだ。
オレも続けて大河内と譲原の二人の近くに座った。
「では、出発します」
キィィィン
運転席にあるキューブが光ると高い音が鳴り、ホバークラフトが地面から離れた。
「おお! すごい!」
大河内と譲原はオレのリアクションを見て笑っている。
そのまま動き出すと、少しずつスピードを上げていった。速さはまあ、自転車を頑張って漕いだくらいだろう。
そのまま10分も走ると、人が歩いているのが見えた。市長に気付くと、ペコリと一礼をしていた。
だんだんと建物と人影が多くなり、ホバークラフトも安全のためにスピードをやや落として徐行運転となった。
おそらくこの都市で生産を担当しているであろう人々が行き交っていた。みなグレーやブルーの軍服に似た服を着ていた。上着やマフラー、帽子など着こなしはいろいろだが、基本的に同じ服を渡されているのだろう。
野菜を抱えていたり、建材を運んでいたり、確かに都市に息づく人間の営みを感じる。
あと、大勢を見て分かったが、彼らは黒髪でないものが多くいた。赤、青、金、銀とカラフルな頭をしている。アオイやユウダイ、チバが特別という訳ではなかったようだ。
黒髪の一息が半分ちょっと、他がカラフルな頭髪の人と言った割合だろう。
それと皆、とても自然な発色をしているように感じ、オレは不思議に思った。
「なぜ、髪の毛の色を染色している人があんなに多いんでしょう?」
「染色? いや、頭髪の色は自然だよ。生まれつきだったり、後天的に色が変わったりだな」
「後天的? へえ……そうなんですね」
オレの口にした疑問に大河内が答えてくれた。
「ん? 君の常識だとどうなんだ?」
「え? 常識というか、日本人はみんな黒髪ですよね?」
「そうか……」
(なんだ? そんなにおかしなことは言ってないよな?)
なんとなくオレはこの時代は髪の色なんて気にする人はいないのかもしれないなと思った。まあ、考えても分からない。
「市長! お疲れ様です!」
「市長! こんにちは!」
低速で進むオレたち、というか大河内に向かって声を掛ける人が増えた。
街の活気も段々と溢れてきて、露店なども出ているのが見える。
オレはここが中心部かなと、高層の建物を見上げて思った。
オレたちはさらにしばらく進むと、外壁材がコンクリートの板でできたような大きな建物の中に入った。
ホバークラフトごと建物の中に進むと、そこはどうやら駐車場のようだった。同じホバークラフトが4台ほど止まっている。神田はその並びに停車した。
乗り物を降りるとそのまま神田が案内してくれた。
「では、こちらに」
(ここは何の施設なんだ?)
「ここは兵宿舎だよ、佐々木くん。身寄りの無い人や事情のある兵はここで暮らしている。まあ、そういう人間は多いからね」
オレの心を読んだように譲原が答える。
「じゃあ、オレは……」
「ああ、ここで暮らすことになる。ちなみに隣部屋の住人はオレだ!」
(ええ、マジかよ……)
「このまま、練兵場へ」
神田が先導をして建物の中を進み、右へヒダリヘと通路を歩くと、開けた場所に出た。そこは天井もなく、かなり開けた広場だ。その場所をぐるりと階段のような大きな段差が囲むように何段もある。
なんとなくコロシアムみたいな印象を受ける場所だ。
「!」
そこには5人、見知った兵隊がいた。
「ユウナさん! 菅原さん!」
「また会えましたね。佐々木さん」
ユウナがそう言って嬉しそうに微笑む。
(おおお! 火属性の天使、再臨!)
「では、佐々木くん、こちらへ」
オレはユウナたち5人に対面する位置に立たされた。
オレとユウナたちの間に大河内が立った。
「みんな。忙しいところ無理をさせたな。では、早速始めよう」
(ん? 何を始めるんだ?)
大河内が少し息を吸い、大きめの声をあげた。
「本日を持って、佐々木セイを本新ツクバ都市の討伐隊員として加入することを認める! そして、特別F級戦闘員に任命する!」
(ああ。なるほど、いわゆる任命式かな。これは市長の仕事の一環なのかな?)
「さらに特別F級戦闘員、佐々木セイに辞令を伝える!」
「はい!」
オレも思わず大声で返事をしてしまう。
「辞令、佐々木セイ特別F級戦闘員は、菅原ジュンC級戦闘員の率いる菅原班に、特別補助隊員として入隊するものとする!」
(やった! 天使と同じ班にしてくれたのか!)
「はい! ありがとうございます!」
菅原班のみんながパチパチと拍手を送ってくれた。
「ふう。では、私はこれで失礼するよ。細かいことは神田か菅原に聞いてくれ」
「はい、わかりました」
大河内は来た道に身を翻した。
「あの、大河内さん!」
「ん? なんだね」
「いろいろとありがとうございました」
オレはペコリと頭を下げた。
「ははは、構わんさ。C級隊員になったら、また会おうじゃないか」
「はい!」
そうして、大河内は小さく手を振りながら去っていった。
「さて、佐々木くん」
菅原がそろそろいいかと口を開く。
「はい、菅原さん」
オレはみんなの方を振り返って返事をする。
菅原がニヤリと笑った。
「菅原班長、と呼べ」
(おおっ、軍隊っぽいな)
「了解です! 菅原班長」
ユウナが微笑んで俺たちのやり取りを眺めている。
「まあ、話すことはまだまだいろいろあるが。まずは、自己紹介からだ」
「え?」
(今さら?)
「まあ、こういう機会だからな」
「オホン、ではオレから。菅原ジュン、31歳、C級隊員、銃術士だ。そして菅原班の班長を務めている。次」
若干気恥ずかしそうにユウナを見る。
(菅原班長は実はけっこうお茶目なのかな?)
「はい。私は月城ユウナ、19歳です。D級隊員で、魔術士です。じゃあ、アオイ」
「え、面倒クセーな」
ユウナが叱るような顔をするが、かわいいだけだ。
「ハイハイ。安城アオイ、19、D級、剣術士、よろしく」
「えっと、じゃあ、オレも。大原ユウダイ、D級、28歳、槍術士だよ」
ユウダイがチバを見る。
「はい。神田チバ。D級隊員、25歳、援術士をやっています。佐々木さん、兄がお世話になりましたね」
(ん? 兄って何だろう?)
「神田サガという研究員はボクの兄です」
「ああ!」
(佐賀とか千葉とか、きっとご両親は地理好きだな。でもサガさんは黒髪なんだな。)
「じゃあ、佐々木くんも」
「あ、オレもですか」
みんながオレを見ている。ちょっと照れる。
「ええと、オレは佐々木セイ、27歳、ええと、F級隊員です、100年前から来ました。宜しくお願いします!」
菅原班のみんながわらってオレを迎えてくれた。
こうして、オレはまた新たな一歩を踏み出した。