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グールムーンワールド  作者: 神坂セイ
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第11話 市長

 部屋に軟禁されて2日がたった。特にやることもなく、暇だ。


 色々とオレが今置かれている状況を考えていたが、やっぱり1人で悩むだけで分かることは少ない。


 オレは気を失って起きたら100年後の未来にいた。

 そして未来はゾンビになる病気が蔓延していて、世界中が崩壊、滅亡してしまった。

 そんな混乱の中で、ゾンビと戦う力を得た生き残りたちが街を築き上げ、必死に毎日を生きている。

 そこまでは一応理解できた。これは夢でも何でもないようだ。

 ただ、何故オレがこの時代にいるのか。それはいくら考えても何も分からない。


 オレは他に筋トレなんかをやってみたりして、自分の体が強化されているのを実感していた。腕立て伏せや腹筋なんか何回でもできるし、ベッドの木材を力一杯握り絞めるとべきッと潰すこともできた。


(この感覚も、これが現実だって言ってるみたいだな……)


 今日も夜になり、オレは窓から外を見た。どうやら夜目も効く様でかなり遠くまで見てとることができた。


 オレはこの世界で不思議なことにまたひとつ気付いた。空に浮かぶ月がなんと3つある。ひとつは見慣れたものなのだが、その周りに2つの一回り小さい月が浮かんでいる。

 見つけたときはこれは何だろうと思慮を深めたのだが、今は誰かに聞かないと分からない、なんて匙を投げている。


(やっぱりオレは異世界にでも転移してるんじゃないか?ここが未来って言われてもなあ……)


 オレは細かいところをひとつひとつ気にしていたら身が持たないとある意味、楽観的に考えていた。


 食事は1日3回、世話係の軍服姿の女性が運んでくれる。ちなみにこの女性には何を聞いても会話は許可されていませんの一点張りだった。今では食事や日用品を運んでくれたときに一応お礼を言う程度だ。


(食事も済んだし今日ももう寝ちゃうか、ん?)


 ベッドに横になり、ボーッとしていると足音が聞こえてきた。この部屋に向かってきているようだ。


(これは世話係の人じゃないな、足音が違う。それに……3人いるな)


 強化されたらしい聴覚で来訪者の推測を立ててみた。

 その来訪者たちはすぐに扉の前まで来た。


トントン


「はい」


「失礼するよ」


 ノックの音に返事をすると、年配の男の声が返ってきた。

 ガチャンと鍵を外した音がする。ギイと木製の扉がきしんだ音を立てて開かれると、3人の男が部屋に入ってきた。

 声を掛けて来た年配の男性だろう、50代くらいだろうか。服装はグレーのスーツのような服装だ。やはり、この時代も現代の文化が残っていると実感する。

 それと軍服の青年、白衣の男性だ。軍服の青年は腰のホルダーにゴツい剣を装着していた。一目見て、ただ者ではない気配を感じる。

 白衣の男性は何やら資料の紙をたくさん持っている。研究者とか医者の類いだろう。


 年配の男性は遠慮のない様子でオレを見ながら椅子に座ると、その後に軍服と白衣が直立で控えた。

 彼の身分が高いことが窺える。


「はじめまして、佐々木くん」


 オレも空いている方の椅子にかけ、挨拶をする。


「はい。はじめまして」


「私はこの都市の市長をしている、大河内コウジュンという」


 相対して分かったが、圧が凄い。

 さすがはこれだけの都市をまとめている人だ。

 急に背中に汗が出てくるのを感じた。


「お、オレは佐々木セイと言います。宜しくお願いします」


「ああ、宜しく。それと、後ろにいるのは譲原ハジメ、それと神田サガという」


 譲原というのが軍服、神田というのが白衣の男性だ。

 オレは2人を見て軽く頭を下げる。


「さて、君の話は菅原からいろいろと聞いたよ。またずいぶん珍しい体験をしたんだってね」


「そ、そうですね。まあ、珍しい体験をした……というか、現在進行形で体験中ですね」


「はっは! そうだな。君からしたらこの世界の全てが不思議なことばかりだろう」


(おお? 結構気さくな感じだ)


「はい、本当に何から聞いていいか分からないくらいです」


「そうかそうか、ところで君は菅原班と行動を共にして、彼らと一緒にグールと戦ったんだって?」


「あ、はい。無我夢中でしたが」


(さっと要点に触れた話に変えたな)


「そうか、グールというものに直に触れて君はどう思ったね?」


「……」


(何が聞きたいんだ?この人)


「いや、そんなに構えなくていい! これからの君の身の振り方を考えたいんだ。君にはまずこの神田くんに血液検査などの身体検査を受けてもらう。まあ、私たちからしたら君は未知の世界からきた人間ということになるからね。念のためだよ」


(伝染病とか、感染症とかのことかな?)


「そのあと、君に問題がなければこの都市に住んでもらおうと思ってね。この都市の住人は全員何かしらの役割がある。生産員だったり、総務員、戦闘員などいろいろだな」


「はあ……」


「君がどの役割につくかの要望確認のヒアリングだよ。グールに対する姿勢によって、配属が決まることが多いんだ。君がこの都市から出ていこうと考えているわけじゃなければだが」


「ああ、なるほど」


(確かに、グールが怖いと言ってる人に戦闘員は務まらないだろうしな。オレの人事のための聞き取りか。でもそれだけじゃないだろうな)


「そういうことでしたら、まずオレの前提の目的を聞いて欲しいです」


「君の目的?」


 大河内の眼光が鋭く光った。


「は、はい。いや、オレはどうやら100年前から転移したようなんです」


「それは菅原から聞いたよ。まあ真偽はともかくだが」


(やっぱ全然信じてないな)


「だからオレは100年前に戻りたいんです。それが、それだけが目的です」


「……」


 大河内が黙って腕を組む。


「その目的から、配属先を考えると……」


「戦闘員でしょう。市長」


「ハジメ?」


 急に後ろにいた軍服が声を掛けて来た。


「一目見て分かりました。彼は戦闘員ですよ、素養も資質もあるようだし」


「なぜ解るんだ?」


「逆に市長はなぜ分からないんですか? 彼はこんなに強者の雰囲気を出しているのに」


「……」


(なんか誉められてるのかな? 市長と一緒に行動してるし。若く見えるけどけっこう偉い人かな?)


「戦闘員が希望だろ? 佐々木くん」


 急に話を振られた。


「えっ? いや、なんというか、オレの目的に近ければって感じですけど……」


「……」


 譲原がオレを不思議そうに見た。


(なんだなんだ? オレが戦闘員を熱望しないのが不思議なのか?)


「まあ、今日のところは。血液検査もこれからですし。そんなに性急に話を進めなくともいいでしょう?まずは今日の出会いを喜ぶということで!」


 今度は話を変えようと神田が明るい声をあげた。


「まあ、そうだな。わたしも考えておくよ。佐々木くん」


「あ、はい。ありがとうございます」


 市長が話を保留にして、オレの配属先の決定は見送られた。

 その後、神田から問診や採血を受けたり、大河内からいくつか質問を受けたりした。


 話の途中で、この世界の現状はどうなっているのかと聞いてみたが、彼らも詳しくは分からないと答えられた。

 当たり前のようにあったネットや電話は今は無く、短距離通信装置しかないために海外のような遠方の状況は把握しようがないらしい。


「では、今日はこれで終了になります」


「それじゃあ、また数日後に来るよ」


「佐々木くん、オレは君とグール狩りをするのを楽しみにしてるから」


 神田、大河内、譲原がそれぞらオレに一声かけて、部屋を出ていった。


(やっぱり、なるなら戦闘員だろうな。この世界ならどこかに転移魔法陣、とかありそうだし。ユウナにもまた会えるだろうし)


 オレは今後の目標を考え、どうすれば家に帰れるのか。その事を考えながら、眠りについた。

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