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グールムーンワールド  作者: 神坂セイ
10/28

第10話 都市

 オレたちは山あいの道を歩き続けていたので、開けた場所であれば眼下に平野を見渡すことができた。


 チバはそういった場所に立ち、ホームへの帰りを喜んでいた。


「おお、見えたか」


「やっとかー、今回もなんとか無事に帰れそうだな」


「やっぱり安心しますね」


 菅原、アオイ、ユウナが次々に感想をこぼす。

 オレもみんなの横に立ち眼下を見た。


「……え?」


「どうしたの?」


 ユウダイが声をかけてくる。


「いや、基地とか、街とかがあると思ったんだけど……廃墟以外は何もないよね?」


 オレが見下ろした風景はかつての文明の残雫とでも言うか、コンクリートの瓦礫の山と、雄大に生い茂る木々だけだった。

 どこにも街らしきものは見えない。


「あ! 佐々木くんは視覚にロックが掛かった状態だったか。そんな人に会ったことないから忘れてた」


「今度はなんでしょう?」


 ユウダイが申し訳ないという顔でオレに説明をしてくれた。


「都市は目立つからね。都市に住む大勢の人間の魔素を集めて外からグールが視認できないように認識阻害障壁を張っているんだ」


(そ、そんなこともできるのか?)


「……ええと、バリアみたいなものですか?」


「うん、オレたちはあそこで生まれ育ったからね。物心つく前に認識阻害の解除魔術を受けてるんだよ」


「ああ、だからそんな人には会ったことがないと」


「そうそう、チバ。佐々木さんにも解除お願いできる?」


 ユウダイがチバに声を掛ける。


「ええ、構いませんよね。班長」


「ああ、勿論だ」


 チバが頷いてオレの前に来た。

 杖をオレに向けた。


「#解錠__アンロック__#」


 パァと光が輝いた。

 そして視線を先ほどの方向に向けてみた。


 確かにさっきは何もなかった場所に建物が乱立しているのが遠目に見えた。


 街だ。かなり大きい。

 建物がひしめく周りには壁がぐるりと囲っている。いびつだが大きな円形を描いているようだ。壁に囲まれた街、中世ヨーロッパの都市のようだが規模はこちらがはるかに大きいだろう。

 城壁の近くには畑や河も見える。そして壁の中の建物は低層の木造とコンクリートの建物のため、また斬新な風景に感じた。

 オレの感覚だと、コンクリートの廃墟を木材などで補強し続けて、何十年も経っている感じだ。

 街の中心部には高層の建物もいくつかあるようだ。


「すごい……こんなに人がいるんですか……」


 オレはこの世界は文明が崩壊して、人間たちはちょっとした集落で生活しているくらいではないかとも考えていた。

 だが、確かに菅原たちの持つ装備、銃や爆弾、軍服を生産するには一つの都市が無ければ難しいだろう。


「ああ、大したものだろう。ここにはおよそ20万の人間が生活している」


「20万!?」


 菅原が笑った。


「ようこそ、新ツクバ都市へ」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「うわー、壁が高い」


 オレたちは程無くして都市の壁の前にたどり着いた。

 菅原たちとオレはケガはしたが、無事に帰還に成功したことになる。

 壁の何ヵ所かは出入り口として門になっているようだ。関所のようなものだと思う。今はその関所を目指して壁に沿って歩いていた。


「佐々木さん、そんなに珍しいですか?壁ばかり見つめて」


 ユウナが子供を見るように微笑んで話す。


「ユウナさん、いや、これ高さは何メートルくらいあるんでしょう?それにこれは土?いや何だろう?」


 オレは元々建築関係の仕事に携わっていたため、この壁の素材が見たことがないものだということに気付いた。


「高さはだいたい35メートルくらいですよ。それにその壁は魔術で作られています。土の属性と水の属性を合成させているんです」


「属性? 合成?」


「ええ、分かりませんよね。説明しますね。佐々木さんは私が火の魔術を使うのは見ましたよね?」


「ああ、はい」


「私は火属性、火の魔術が得意なんです」


(天使は火属性。ファイヤーエンジェル。属性ってのはゲームでよくあるヤツだな。火とか風とか水とかだろうな。)


「属性は火、水、風、土、雷、光があります。そして高度な術士、もしくは何人かの術士が連携すれば属性を組み合わせることができるんです」


(うんうん、だいたい予想通りだな。)


「その他の特性もありますが……この壁はその合成魔術で作られています。コンクリートとレンガの中間みたいな質感ですよね」


「そうですねー、珍しい。オレのいた時代で例えると硬い漆喰とかかな」


「そうなんですね」


 そんな他愛もない話しをしている内にオレたちは関所に到着した。

 菅原が関所にいる人と何やら話している。みんなと同じ黒い軍服を着た男が何人か見えた。

 どこか難しい顔をしているようだ。


(なんかチラチラ見られてるな、オレのことを報告しているんだろう、とりあえずなんか食べさせて欲しいな)


 しばらくして菅原がこちらに戻ってきた。


「佐々木くん、悪いがここで一旦お別れだ」


「えっと?どういうことですか?」


「本営に掛け合ったが、君を街に入れる許可が降りなかった」


「え! そ、それじゃオレは!? ここで放り出されるんですか?」


「いや、落ち着け。この門所にある一室に待機してもらう。……つまりここで軟禁されることになる」


「軟禁……」


「もちろん、君が我々と共に戦っていたくれたことも報告した。食事などの身の回りものは提供する」


「それじゃあ、ここにいてオレは何をすれば……」


「まずは市長に会ってくれ」


「市長?」


「ああ、この新ツクバ都市のトップだ、君が敵じゃないと行動で示したことは、理解してくれたようだ。悪いようにはしないはずだ」


「そうですか……いや、ありがとうございます。オレは従いますよ。向こうからしたらオレは得体が知れないでしょうしね」


「そう言っても貰えて助かる」


 その後、オレは防壁の中の一室に案内された。

 ユウナや他のみんなは自宅に帰ってたんだろう。また会いましょうと挨拶をして別れた。


 オレは関所の隊員に連れられて防壁の中へと入った。中は何階建てかの建物のような構造になっていて、その一室へと通された。


(なんか、一人暮らしのワンルームみたいだな。ここが軟禁場所か……)


 壁と天井は城壁の白い素材だが、部屋の中にあるバスルームとトイレの仕切りは木製だ。

 ベッドがあり、テーブルと椅子も備え付けられている。

 驚いたのがトイレは現代と同じものだった。配水管がどこかへ繋がっているんだろう。水はトイレタンクの中のキューブみたいなものから供給されていて、天井の照明も夜になるとキューブが光るということだった。

 バスルームもシャワーのみだったが、ボタンを押すとお湯が出てきた。ボタンとシャワーヘッドが繋がっているおり、どこかにお湯を出す魔術道具があるのだろう。つまみがあって温度も調節できる。一定量お湯が出ると自動で止まる。現代文明の残滓プラス魔術文明といった感じだ。


 窓もあるが、鉄格子が嵌まっていた。結構高い場所にある部屋なので外を見渡すことはできる。ただ、殺風景な廃墟が見えるだけなので特に面白みはなかった。


 部屋に案内された時に食事ももらったが、米と魚とスープだった。

 田畑や川も広大な大きさのものが見えたのでそこの収穫で20万人の胃袋を支えているのだろう。


 食事と風呂を済まし、ベッドに横たわるとすぐに睡魔が襲ってきた。


(みんなは元気なのかな? オレはちゃんと家に帰れるのか? 訳の分からないことばかりだよな。ここは本当に100年後の未来なのか?みんな心配しているだろうなあ。なるべく早く市長さんが会ってくれるといいけど……)


 オレはベッドの中でこの先の不安を抱えきれなくなる前に、眠りに落ちた。

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