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魔法世界の探偵物語  作者: エヌ氏
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第一章 ②

「それでは、探偵さん。調査をして頂けるんでしたら、何でも協力します!」

アリスはさっそく張り切っている様子だ。

「そうだね……。まずは現場の調査からさせてもらおうかな。アリス、詳しい話を聞きたいので、キミも同行してくれないか?」

「分かりました!」

話が一区切りしたのを見計らったように、控えめに応接室のドアがノックされた。

アリスがはぁい、と答えて振り返ると、ロドスが入ってきた。

「失礼します、お嬢様」

「あ、爺や。丁度良いところに。さっそく、こちらの探偵さんのお部屋を用意してあげて欲しいの。ね、探偵さん、荷物とかそちらに置いていってください」

「ありがとう、助かるよ」

アリスはまだ子供ながら気の利く性格のようだ。

「畏まりました。それから、お嬢様、お客様がお見えでございます」

「お客さん……、誰かしら?」

ハイドに応接室で少し待つよう言い残して、アリスはロドスと共に部屋を出た。

しかし、中々戻ってこない。

ハイドは気になって、玄関ホールに向かうことにした。

毛足の長い絨毯が敷き詰められた廊下を渡り、玄関ホールに差し掛かったところで、

「帰ってください!」

アリスの大声が響き渡った。

見ると、玄関のところでアリスと男たちが押し問答をしているようだ。

トラブルかと思い、アリスに駆け寄る。

「どうかしたのかい?」

「あ、探偵さん……」

「探偵……?」

男の一人が探偵という単語に反応した。

「大の大人がこんな子供に寄ってたかって……。ちょっとは礼儀というものを弁えたらどうだい?」

ハイドがアリスと男たちの間に割って入った。

「部外者は黙っていろ」

先頭の長身の男が高圧的にハイドを押しのけようとする。

「部外者とは失礼だね。ボクはハイド、このアリス嬢に雇われた探偵だよ!」

ハイドは毅然とした態度で男の手を払いのけた。

男は舌打ちをすると、アリスに詰問した。

「アリス女史。君はこんな輩を使って、あの事故を調べるつもりなのか?」

「こんな輩とは、重ねて失礼だねキミたち。そういうキミたちこそ、どこのどなたなんだい?」

長身の男が頬を一瞬引きつらせて、苛立ったのが分かった。

だが、すぐに表情を引き締めると、身元を明かした。

「我々は《魔法大学院アカデミィ》研究部門の調査団だ」

「《魔法大学院アカデミィ》研究部門調査団……?」

「そうだ。アリス女史の御父上、ウェルガルド氏の研究成果について、《魔法大学院アカデミィ》として調査を行うためにやって来たのだ。それでアリス女史には、ここにある研究資料を提供するように『お願い』に上がったのだが……」

長身の男が鋭くアリスを睨みつける。

魔法研究の最高学府である《魔法大学院アカデミィ》。

そこの調査団ということは、魔法に関して言えば、この国最高の調査機関である。

しかし、彼らの上から目線や態度が、ハイドは気に食わず、つい反抗的になっていた。

「ハッ、そんな大層な肩書きをかざして、やっていることは子供を虐めることかい? そいつは恐れ入った」

ハイドの皮肉に、またしても男は頬を歪める。

「……あたし、お養父とうさまの遺してくれたものを、荒らされたりしたくないんです……。だから、調査なんて止めて欲しいって」

それで、先の押し問答になったというわけか。

「ウェルガルド氏とやらの遺産は遺族であるアリスに相続されているんだろう? つまり、今はアリスの所有物だ。それを本人の意向を無視してまで持っていこうとするのは、横暴だと思うがね」

ハイドが畳みかけるように弁論をまくしたてる。

ここで、長身の男の脇に控えていた赤い髪の男がニヤついた顔で反駁した。

「ところが、だ。ウェルガルドのおっさんは《大学院アカデミィ》から研究費を援助してもらって魔法研究を進めていたんだよ。だったら、出資者である《大学院アカデミィ》にも、当然よォ、出資した費用の対価を請求したり、成果物を貰う権利ぐらいはあるんじゃねェか?」

見事に反論されてしまい、ハイドは黙るしかなかった。

正当な権利主張では向こうの言い分が正しい。

ハイドは助け船を出したつもりだったが、相手の反論の余地を与えたに過ぎなかった。

アリスの顔をちらと見ると、沈んだ表情をしていた。

「……分かりました。調査を許可します」

長身の男はそれを聞くと口許に笑みを浮かべた。

「宜しい。では、ここの研究室並びに研究資料の調査は我々が立ち入って行う。それで構わないな?」

アリスは力無く頷いた。

「では、時間が惜しい。さっそくだが、取り掛からせてもらおう」

男たちが館に雪崩れ込む。

調査団のメンバーは長身の男を含めて四人だった。

赤髪の男がアリスとすれ違いざまに文句を吐いた。

「ったく、手間取らせやがって。最初から素直に言うこと聞いてりゃいいんだョ」

アリスは俯き、言われるがままだった。

彼らが去った後、ハイドはアリスに声を掛けた。

「何だい、あの横柄な輩は? 《魔法大学院アカデミィ》とやらはそんなに偉いものかい!?」

言い負かされた私怨も入って、つい口調が荒くなる。

「探偵さん……。《魔法大学院アカデミィ》を知らないんですか?」

「ん、あ、ま、まぁ、聞いたことぐらいはある……かな」

「その態度、ほとんど知らないんですね……。探偵さん、《魔法大学院アカデミィ》というのはこの国が設立した魔法を学び、研究するための学校なんです。魔法を研究する魔法使いなら誰もが憧れる、最高の研究機関と言っても過言じゃありません」

「そんな凄いところなのか」

「そうですね。研究者にとっては夢のような場所だ、とお養父とうさまは仰ってました……」

「キミのお養父とうさまも、そこで何か研究していたんだね?」

「はい。といっても、あたしには詳しいことは教えてくれませんでした。研究室を覗いたときには、魔法を使った薬の研究をしてたみたいですけど……」

「ふぅん、薬ねぇ」

ウェルガルドの死に何か関係があるのかもしれない。

ハイドはその研究が少し気になってきた。

「それじゃあ、後で研究室にも案内してくれたまえ。もしかしたら、手掛かりが見つかるかもしれない」

「あ、それなら一緒に案内できます。あの塔自体がお養父とうさまの研究室でしたから」

研究室のある塔から飛び降りたということか。

「ん、待てよ……。ってことは、さっきの奴らが現場を踏み荒らしてるってことじゃないのか!?」

慌てて駆け出すハイド。

しかし、すぐに立ち止まってアリスを呼んだ。

「すまない、塔はどうやって行けばいいんだい!? アリス、キミが先導してくれ!」

「あっ、はい!」

アリスを先頭に、二人は館の中を疾走した。

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