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メッセージ  作者: 幸森丈二
第七章
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佳苗

 ベッドの脇に座って竜次からの手紙を読み終えた佳苗は、手に握るブレスレットを胸の前で眺めた。

 二重の輪になった銀の粒は揺れ動く心に共鳴するように、繊細な煌めきで輝いている。

 佳苗は何度も手の向きを変えながら、飽きることなく手の中の銀の光を見つめている時、フォン、とメ-ル着信の軽い音がスマホから聞こえた。佳苗は枕の横に一瞬目を向けたが、再びブレスレットに視線を戻した。そして金具を外して手首に巻き付け、頭上にかざした。シ-リングライトの明かりに反射して、ブレスレットは瞬くように輝きを放った。

 暫く繊細な光に見入っていた佳苗は、ふと手を降ろして膝に置いた手紙を再び広げた。

[佳苗先生。先ずはお礼を言わせてください。ありがとうございます。

 私一人では、沙紀をここまで育てる事は出来なかった。親馬鹿ですが、沙紀は立派な子に育っていると思います。

 恥ずかしながら、何度もくじけ、何度も泣いて、色んな物に至らなさをぶつけて来ました。それでも何とかここまで来れた。全て佳苗先生のお陰です。心の底から感謝しております。

 それと、毎日毎晩遅くまで待たせてしまって、本当に申し訳ございません。

 諸々、このような陳腐な言葉では言い表せないのですが、佳苗先生に出会う事が出来て、沙紀も私も最高の幸せ者です。

 今まで先生が尽くして下さった数々の事を、こんな品物でごまかすつもりはありません。ただ、何をどうしたらいいのかさえ分からない、無知で世間知らずな父親の気持ちとして受け取って頂きたい。

 沙紀の保育園での生活はあと半年を切りましたが、これからもお世話をお掛けする事、どうかお許し下さい。

 そしてまたいつか佳苗先生と沙紀と三人で、食事をしたり、色々なお話しが出来る事を願っております。

 加藤竜次]

 読み終える前から、また感情が込み上げて来た。加藤竜次という実直な男性からの、心のこもったメッセ-ジと佳苗は感じ取った。

 佳苗はブレスレットに手をあて、胸に押し当てた。そして目を閉じた。

 竜次が園長に頭を下げる姿、申し訳なさそうに目を細めた顔、玄関で沙紀を迎えた嬉しそうな顔、にこやかに笑う顔、そして神妙な表情で紙袋を手渡した顔、沙紀と手を繋いで歩く姿、沙紀を抱きかかえる姿、自転車で立ち去る二人の影。色々な場面の竜次と二人の親子の姿が、無作為に切り替わるフォトフレ-ムの映像のように、佳苗の脳裏に映っては消えた。

 心の中で(ありがとうございます。加藤さん。竜次さん)と強く思った。

 そして佳苗は体を倒して仰向けに寝そべった。涙が目尻から耳に流れた。

 左手を顔にかざし、ブレスレットを見つめた。シ-リングライトに照らされた銀のブレスレットは、眩しいほど煌めいていた。


 部屋の隅で見ていた紺色のセ-タ-を着た白髪の老人が、横たわる佳苗の隣にそっと座った。

 愛しい目でブレスレットを見ている佳苗の頭をさすりながら、優しい表情で声を掛けた。

(カナちゃん、今度は幸せになるんだよ。これからはおじいちゃんが、ずっと見ててあげるからね)



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