深夜の公園
膨らみ始めた三日月が高架の隙間に見えていた。橋を渡る車の音も、周囲の住宅街からの生活音も聞こえない、暗く静かな公園のベンチに佐知子は座っていた。何を見るでもなく、何をするでもなく、両手を腿の上に添えて無表情に座っていた。風が周囲の木の葉をかさかさと揺らせた。
佐知子の前にふわっと作蔵が現れた。作蔵はベンチの横に座って話しかけた。
「今日も来んかい」
「ええ」
「申し訳なかったね、子供たちの行動はよく分からんで」
「いえ、大丈夫です。待ちますから」
佐知子がそう話した途端、ジャングルジムから子供たちの笑い声が聞こえた。
「ユミちゃ~ん、待ってぇ~」
佐知子は咄嗟に立ち上がって、歩き出した。
ジャングルジムで、二人の姉妹が追いかけっこをしている姿が現れた。
「待ってぇ~、ユミちゃん」
二人はケラケラと笑いながら、鉄の枠の中を入ったり出たりしている。妹が姉を追い駆け、姉は掴まらないように妹から逃げる。姉が外に抜け出し今度は周りを走り出した。
「リカちゃん、こっちだよ」
妹も追いかけた。
「ユミちゃん、リカちゃん」佐知子は二人の姉妹に近寄り、動き回るそれぞれの手を握った。
「ママ~」
「ママ~」
二人は佐知子の腰を抱いて、満面の笑顔でママを繰り返した。
佐知子は腰を落として二人を強く抱きしめ「ごめんね~迷子になっちゃったんだね~。ごめんね~ユミちゃん、リカちゃん」と言いながら二人の顔を自分の頬に押し付けた。
作蔵は頷きながら母子の様子を見守った。
「さぁ、帰ろうね。ママと一緒に帰ろうね~」
佐知子は二人と手を繋いで立ち上がり、作蔵に向かってお辞儀をした。
「一緒に行こうか?」作蔵が尋ねると、佐知子は首を横に振って「大丈夫です」と答えた。
「そうか、じゃあ気を付けて行くんだよ。決して二人を話さないようにな」
「はいっ」
佐知子は強く頷いた。
二人の姉妹は母親の手をしっかりと握って、互いにゲラゲラと楽しそうに話している。
佐知子は二人の顔を優しく見守りながら、後ろを向いた。そして我が子を連れて灯りの届かない闇の中に消えて行った。
暫くベンチに座っていた作蔵も、安心した表情を浮かべてすうっと消えた。
公園内には葉を揺らす風の音だけが聞こえていた。




