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メッセージ  作者: 幸森丈二
第五章
23/47

取り調べ

 深山警察署では風間和夫の取り調べが続いていた。

 元中学校校長本田英雄が妻と長男の外出中、何者かに住居に侵入され、首を絞められ現金八十五万円とクレジットカ-ド、さらに腕時計や貴金属などを奪われた事件である。

 ジャンパ-姿の木下刑事とス-ツ姿の篠山刑事は、任意で参考人として呼び出した風間和夫から犯行時間のアリバイ、借金を返済した金の出所、そして現場に残された傘の話を執拗に訊いていた。

 篠山が荒げた声でずっと俯いている風間に向かって質問を繰り返す。

「だから~、ロ-ン会社に返済したその二十五万円はいつ、どこで手に入れたんだって聞いている訳よ~」

 風間は俯いている。

「・・・いつ・・・どこで・・・どうやって・・・手に入れたんですか?・・・」

「・・・だから・・・競馬で・・・当たりました・・・」

「新潟競馬場、八月最後の日曜日、六レ-ス・・・いくら買った?」

「・・・三連複・・・流しで千円ずつ・・・」

「・・・いくら儲かった?・・・」

「・・・三十二万位です・・・」

「で、それを証明する人間は?」

 風間は小さい声で答えた。

「・・・いません・・・」

「その金をどうした?」

「・・・借金の返済に充てました・・・」

「いつ、何処で、何処の店舗で?」

「・・・新宿の・・・何処かのATMで・・・」

「だから、金返したんだろっ・・・苦しんできた借金返したんだろっ・・・何でそれを覚えていないんだ?」

「・・・すいません・・・万券当たって・・・嬉しくて・・・何軒もはしごして・・・でも、金返すのは覚えていて・・・」

「酒飲んだのは何処の店だ?」

「・・・新宿と・・・調布と・・・」

「傘はお前のだろ」

「・・・はい」

「どうしてお前の傘が本田氏の家にあるんだ」

「・・・先生に貸したからです・・・先生がラ-メンを食べに来て帰る頃に雨が降り出して・・・その時、貸しました」

「本田氏の指紋は出てないぞ。お前の指紋だけが傘の柄に付いていたのは・・・」

「分かりません・・・ただ、先生はよく手袋をしてましたから・・・」

「バレる様な嘘を付くな」

「嘘じゃありません」

 繰り返す篠山の詰問に風間は何度も同じ答えを返した。

 木下は後ろの椅子に座りながら、風間の声を聞いていた。

 十年前に退職した中学校の元校長が最後に世話をした風間。貧困な家庭に育ち、小さい頃から万引き窃盗を繰り返していた素行の極めて悪い子供だった。中学に入っても上級生と喧嘩を繰り返し、その名は近隣の各学校にも知れ渡っていた。

 本田校長は彼の未来への道を示す事が、自身の残り少なくなった教育者としての最後の仕事と捉えていた。本田は足しげく風間の家を訪れた。両親からも足蹴にされ無関係だと罵られたが、本田は風間の厚生を信じて続けた。

 傷害事件で風間が特別少年院に入る事が決まってから、本田は後見人として毎週の様に彼の元に訪れ、院長や看護人たちと彼の未来ヘの道を議論した。二年後、風間は少年院で卒業を迎えた。社会に出てからも本田は風間の就職の手助けや生活面でのサポ-トを手助けしてきた。

 風間が二十歳になった時、本田の家を訪れた。借金の申し出だった。本田は風間が自分自身を頼って来てくれた事が嬉しかった。しかし金は貸さなかった。

 風間はその後本田の紹介する教え子のラ-メン屋で働く事になった。その時本田は定年を過ぎていた。風間が卒業した年が、本田の定年退職の歳でもあった。

 その後本田は毎日ラ-メン屋に足を向けた。毎日毎日本田の昼食はラ-メンになった。


 木下は篠山と風間の繰り返される会話を聞きながら、聴取してきた内容を頭の中で整理していた。

 事件当日、元校長の家を訪れた男性。家に向かうまでの足取りも、近くのコンビニエンスストア-の防犯カメラに映っている。十分程して玄関から足を引きずりながら逃げるように出ていく同じ男。風間を良く知る周囲の人々の話。同級生たちの印象。ラ-メン屋店主の話。両親の話。どれも取り留めなく悪い話と案外そうでもない話が絡み合う。ロ-ン会社への借金が事件翌日に整理されていた事実。風間が言う競馬の当日の配当。三万二千五百円。

 木下は二人の聴取の内容を聞けば聞くほど、風間がクロから遠ざかっていくような印象を受けていた。



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