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ブレイブスキルワールド  作者: むねしろ
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クローズドイベント

『プレイヤーの皆さん!楽しんでますか?クローズド記念のイベント開始まで、残り一時間となりました!上位成績を収めたパーティー100組限定で、メインキャラのデータが後継ゲームへまるごとコンバート、さらにサブキャラのデータもコンバートされちゃうスペシャルなイベントがもうすぐ始まります!頑張って下さいね!』


 ゲーム世界では30分おきに、このアナウンスが流されていた。

 新型OSへの対応のため、VRMMO『ブレイブスキルオンライン』がサービス終了と後継ゲームのサービス開始日を発表したのが一ヶ月前のことである。


 長時間拘束型のオンラインゲームが下火になる中で、ブレイブスキルオンラインだけは卓越した運営手腕を発揮し、常にプレイヤーの心情を掴むことで不動の人気を誇っていた。

 しかしながら数年ごとに訪れるOSの更新に対応してしてきたものの、サービス開始から10年目についにその限界を迎え、幕を引かざるを得ない状況を迎えていた。


 そこで運営側はプレイヤーの流出を防止するために、新規コンテンツを加えた後継ゲーム『ブレイブスキルオンラインRe』を発表し、同時にサービス終了を記念したイベントの開催告知を出していた。





 イベント会場となる古代遺跡の一角に、その始まりを待つ二人のプレイヤーの姿があった。

 ローブ姿の男子キャラと弓を背負った女子キャラは、闘技場を模した場所の観客席に並んで座っていた。


「エスカって、サブキャラ持ってるの?」

「キャラは作ったけど、育てる時間が無くて放置してる」

「そっか、そうだよね。平日はそんなに遊べないから余裕ないもんね」

「でもサブ用の装備とかスキルブックはひと通り揃えたし、レベリングは次のゲームが始まってからのんびりやろうかと思ってるんだ」

「へぇ、なるほどね」

「あくまで上位に入れたらの話だけどね、じゃないと意味が無くなるし……。サキはサブキャラ持ってたっけ?」

「持ってない。けど、私もサブ用の装備とか用意しておこうかな。今更だけど」

「委託販売できるドロップ限定のスキルブックがすごい勢いで売れ始めているから、欲しいものがあるんだったら今のうちに抑えておいたほうがいいよ。イベントが終われば委託販売所はかなり混むだろうし」

「まじか、イベントって午後九時開始だよね?じゃあそれまで買い物行ってくる」

「九時から一時間。用事が済んだら声をかけてくれればここへ召喚するよ」

「その手があったか。んじゃ行ってくる」


 サービス終了日の午後八時。

 日付が変わると同時に、このゲーム世界は終焉を迎える。

 

 エスカと言う名の魔導士キャラクターでプレイすること十年。

 彼は大学への入学を機に、ブレイブスキルオンラインを始めていた。

 社会人となってからも、他のゲームに興味を示すことなく続けられたのは、相性が良かったからだろう。


 ゲーム内での知り合いも数多くいたが、長い年月の間にほとんどが引退しており、残ったのはサキを含めてわずか3名だった。

 実際に現実世界で会うことは一度もなく、お互いのリアルな事情も未だに知らないままだったが、ゲーム仲間としての絆は深かった。


 イベントは、一時間だけ登場する巨大なモンスターに攻撃を加え、与えたダメージ量によってランキングが決まるというシンプルなものだ。

 パーティーでのランキング戦は、プレイヤー同士の連携が鍵を握る。

 出現地点に集うプレイヤー達は時間が経つにつれ増え始め、その時を待っていた。


「ありゃ、ずいぶん多いな」

「今日限りの復活組も結構いるからね、三千人はいるんじゃないかな。アレス、いつもより来るのが遅くない?心配してたけど」

「ああ、仕事帰りが酷くてな。夕方から落雷が頻発したおかげで電車が止まりやがって、どうにかバスで家まで戻ったところだ」


 両手斧を背負った褐色の大男がエスカの左隣に腰を下ろした。


「他の連中は?」

「サキは委託販売所に行ってる。ネルは……」


 とエスカが言ったところで、二人の背後から声が聞こえた。


「はああ、なんとか間に合いました。もう土砂降りで大変な目に遭っちゃいました。さっそくですが今からシャワー浴びてカプラってきます」

「そっちも大変だったんだな。んじゃ俺もちょっとばかし飯食ってくるわ。コンビニ弁当だけどな」

「二人ともいってらっしゃい」

「おうまたな」

「でわまた、なのです」


 エスカの右隣に座った小柄な神官は、ちょこんと腰を下ろすとすぐに姿を消した。

 それを追うように大男の姿も消えていた。

 ちなみに“カプラってくる”は、カップラーメンを食べるという意味だ。


「そうだ、復活ポイントに登録しておかないと」


 二人が消えた後、エスカは立ち上がると、闘技場の観客席中央にある女神像へと向かった。

 全長20メートルほどの像の台座には、文字が彫られたプレートがあり。そこに触れることで復活ポイントにすることが出来る。

 登録しておかなければ、キャラクターのHPが0になった場合、近くの町の女神像まで飛ばされ復活することになるため、再び戦地まで移動する手間が増えてしまうのだ。

 ダメージレースは時間との戦いである。復活ポイントへの登録は必須だった。


 エスカに習うかのように、他のプレイヤー達も続々とプレートに触れ始める。

 登録を終えたエスカは元居た場所に戻ると腰を下ろし、仲間の帰りを待った。


『もう間もなくクローズド記念のラストイベントが開催されます。皆さんに楽しんでいただくために、何と何と奥義スキルのクールタイムが0、MP消費0、さらにデスペナルティが0になっちゃいます。それから、皆さんには内緒にしておりましたが、Reで使用出来る奥義スキルがイベント開催時のみ限定解放されちゃいますよ。今のうちにスキルリストから確認しておいてくださいね!ちなみに奥義スキルはひとつとは限りませんよ!』


『買い物終了!エスカ様、そっちまで召喚プリーズ!』


 チャットでサキがエスカに呼びかける。

 遠く離れた場所にいる仲間を召喚出来るスキルは、魔導士特有のものであり、重宝していた。

 召喚呪文を唱えたエスカの目の前には魔法陣が出現し、そこにサキの姿が現れた。


「おいおい今更スキル追加かよ」


 戻ったアレスは慌てて指を振り、スキルリストを確認し始めた。


「うわーん!復活登録してませんでした、今から行って来ます」

「やべっ俺もだ。何だか慌ただしいな」

「サンキューエスカ、私も登録して来なきゃ」


 ネルとアレス、サキはこぞって復活ポイントである女神像に向かって駆けだした。

 

『プレイヤーの皆様、大変長らくお待たせ致しました。ただいまからラストイベントを開催致します。クローズドを記念して、最後に運営からスペシャルな贈り物をさせていただきます。なんとそれは、飛行が可能になるアイテム“未来への翼”です。サブキャラクターでも使用出来るように、お一人様につき2つ配布させていただきます。ああ、なんという大盤振る舞い!オラオラてめーら!Reが始まる前に他ゲーに浮気すんじゃねーぞ!ってことで、これよりイベント開始です!!』


 当然のことだが、会場には大きなどよめきが起こった。

 サービス終了直前のアイテム配布など、誰も予想などしていなかったからだ。

 プレイヤー達は、文句を言うより先にステータス画面を開き、装備リストに追加された翼の詳細を確認していた。


 アナウンスが終わってから数分後、闘技場の上空が漆黒の暗雲に覆われ、雲間に発生した無数の雷が地上へと降り注いだ。

 ほどなく暗雲の中央には大きな渦が巻き始め、中からは巨人が姿を現した。

 身長百メートルにも達しようかというその姿は、黒いローブを纏っていたので魔人と呼ぶのが相応しかった。

 禍々しい黒翼を広げると、滞空したまま両手を大きく伸ばし雄叫びを上げた。


『我ハ悪シキ力ヲ統ベル者ナリ。下等ナ羽虫共ヨ、真ノ恐怖ヲ味ワウガヨイ』


 お決まりのベタなセリフを言った魔人の指先からは、矢継ぎ早に光の玉が放たれ、観客席へと次々落とされた。

 瞬く間に数百人のプレイヤーの姿が消し飛んでいく。


「最後に空中戦ってふざけてるな」


 アレスが愚痴を零す。


「初めは攻撃範囲の外側にいて、飛行に慣れたほうがいいかもね」

「私とエスカで注意を引くから、アレスとネルは巨人の背後に回って様子見しながらの攻撃がベターとみた」

「りょうかいなのです」

「やれやれだな、まったく」


 四人は翼を広げると、空へと舞い上がった。

 画面の右上にはイベントの残り時間と、リアルタイムでの計測が行われているのか順位が表示され、数値が目まぐるしく変化し続ける。

 魔人とそれに立ち向かうプレイヤー達の姿は、神話の最終戦争を彷彿とさせた。

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