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色ソメタクテ  作者: 律稀
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俺はいつも一番だった。身体能力は高かったし、頭だってキレる。何もしなくても人は寄ってきた。でもそれは「外」の話。


家の中だと一人のようで、俺はあまり家に居たくなかった。二組の双子はいつもそこで一緒に居る。割って入って行こうとも思わねえけどな。極めつけはあいつらだ。いつも二人で、離れようとしねえ。


だからこれがチャンスだった。目障りだった「紫陽兄」が居なくなった青蘭は。だから興味なんてさらさら無かったコマンダーの最高幹部にもなった。最高幹部と最高幹部補佐。仕事を一緒にやる機会だって、一緒に過ごす時間だって誰よりも長い。一年間それを見せつけられ続けたから知っている。ここで上手くやるつもりだったんだよ。


だから、何なんだよお前。


俺の希望を打ち砕く野郎を黒華に押し付けてたなんて思わなかった。へまをしたのは俺だって分かってても苛立ちは押さえきれない。何でこうも、俺はタイミングが悪いんだよ。いつもそうだ、ムカつく。あん時も、な。




俺は保育園に入ることになった。親に頼み倒して、ばあちゃんやじいちゃんもなんとか説得して。俺の望みだったし、先が見通せる奴なんて居るはずねえから仕方なかったのかもしれねえけど、その選択肢が良くなかったんだろう。いつも一人で、拗ねてた部分もあるんだろ。俺は末っ子じゃねぇから、茜ほど甘えるのが上手くない。逆に言えば、茜は甘えるのが上手いから俺みたいに家で一人にならなかった。皮肉なもんだ、境遇的には俺と茜は一番近くても、性格が正反対だったから結果も反対だとよ。


保育園に入ったのは、四歳から。年少から入るのは少なくない。俺以外にも五人程居た。外で遊べる時に知り合った奴はもともと保育園に居た子供の中にも居た。俺は簡単に、その保育園の「一番」の座を手に入れた。何をして遊ぶのか決めるのも俺、誰と遊ぶのか決めるのも俺だった。


最初は楽しくて仕方なかった。そりゃそうだろ、だって俺は保育園の「一番」で誰からも好かれていた。一人になんてならなかった。悪戯をしてもみんな笑って許してくれた。家に帰りたくないと駄々をこねたことだってあった。みんな俺と仲良くなりたがったんだからな、本当にたいしたもんだ。


でも、心のどこかでここに黒華が居ればいいのにと思った。俺に群がる奴らの中に黒華が居ればいいのにと望んだ。でも、それは叶わない。そりゃ黒華は保育園に居ないから当然のことだって、今は思うけどな。


俺を迎えに来るのは大抵その日の子供当番の大人だった。親父にお袋、結奈さんか碧さん。それかじいちゃんかばあちゃん。たまに兄弟が来たりするくらいだった。保育園なんて、縁の無いものだったし興味はあったんだろ。でも行かなくていいってことだったんだろうよ。俺には必要なもんだったけどな。


タイミングが悪かったとしか言い様がねえんだよな、黒華が俺を嫌うようになったのって。でもそうなる可能性があったのが分からなかった俺がガキだったって話だ。


今でもよく覚えてる。あの日に子供当番だったのは結奈さんだった。買い物帰りらしく、珍しく黒華だけが俺の迎えについてきた日。いつもより少し早い時間の迎えだったから、まだまだ迎えが来てない家が多かった。


まだ俺の家の事情を把握しきっていない職員に説明をしに行った結奈さんに待っていてと言われたから、黒華も保育園の玄関にある椅子に大人しく座っていた。時々これは何かと黒華に聞かれて答えると、黒華が目を輝かせるのが嬉しくて、俺は得意になっていた。


結奈さんが俺らの所を離れて、しばらくすると俺のよく悪戯を一緒にする、悪友のような男友達がやって来た。


「はくー、遊ぼうって……そいつ誰?」

「たく、俺もう迎え来たからすぐ帰っちゃうけど。これ? 俺のいとこ」


たくと呼んで、よく遊んでいた。そいつは黒華を上から下までじろじろ見て、もの珍しそうな顔をしていた。もの珍しいのも仕方ないだろ。黒華は保育園に通っていないし、外に遊びに行きたがらないから近所の子供と遊ぶなんてことが滅多に無かったしな。黒華を友達に見せびらかしたいような気持ちもあった。


「見たことねえ! いとこって何だ?」

「母ちゃんの兄弟のこどものことだって! 一緒にすんでるんだぜ!」

「それだったら、俺もいとこ居る! でも、いとこって一緒にすまないだろ? 変なのー!」


あいつに悪気は無かっただろう。でも、その言葉は俺に深く刺さった。変。誰が? 俺。俺が変?やめろふざけるなその言葉を言うんじゃねぇ。変ってことは普通じゃないってことだ。普通じゃないと笑われるんだ。現にこいつは笑ってる。俺は笑われるような奴になりたくねえんだよ! さっきまであった黒華を見せびらかしたい気持ちはすぐに無くなっていった。逆に、隠さなければいけないような気がして俺は必死だった。


仕方なかったかもしれねえ。俺は自分を守ることだけで精一杯だった。だから、黒華のことを考えてる余裕なんて無かったんだからな。だからこんなこと言ったんだろ? 心にも無いこと言った俺。


「俺は変じゃねえ! 変なのは家なんだから、家が悪いんだよ! 俺、あんな家嫌いだかんな!!」


俺は変じゃねえ。変なのは俺の家族だから俺じゃねえ。だから変っていうのは俺に言うな。だから俺は馬鹿にするな。馬鹿にしてもいいのは俺じゃねえんだよ。


この言葉が全部壊した。拗れさせた。もとととあった溝を深くさせた。生憎、俺はこの時の黒華の顔を見ていない。どんな顔をしていたのか、俺が思う通りなのか、全く別の色を浮かべていたのか。俺は知らない。


これを言ってすぐに結奈さんが帰って来た。たくに他の奴らに言わないように釘を刺してから帰った。今思えば、それは黒華の存在をどうしても隠したいように思えたかもしれない。だとしても、もう覆せない。


あの時、たくが来なければ。もっと早く結奈さんが帰って来ていたら。たくともっと違った、誰も傷付かないような話をしていたら。帰り道に弁解するような知恵があったら。俺がもっと大人のような考え方が出来るようになっていたら。タイミングが悪すぎた。俺は望んでいたことを自分から離したのに気付かなかった。

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