表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金魚と祭りと君と僕  作者: クロリマ
第一章
2/2

第一話:死せる者どもよ、選ぶが良い。

「う、ううん……」

 切れ目の無い濃紺の暗がりの中、青年は目を覚ました。

「な……なんだ……?」

 青年は絞り出すように嗄れた声を出すと、困惑と共に辺りを見渡した。が、一寸先どころか自らの身体すら視認できないほどの闇に、本当は自分はまだ目を開けていないのではないかという錯覚に陥ってしまう。


「──全員目が覚めたようだな」


 丁度、青年が頼りない足取りでふらふらと立ち上ろうとした時、幼くもはっきりとした少女の声が暗闇に響き渡った。

「……っ!」

 瞬間、純白の光によって突然に闇が払われた。

 前触れも無く照らし出された世界の全貌に必死に目を慣らした青年は、眼前に広がる光景に再び困惑してしまう。

 そこは異様な空間だった。依然として広がる暗闇の中に浮かぶ七つの光球と、それに照らし出され、眩しそうに目を細める、人種のまちまちな数十名の男女。そして、おうぎ形に広がった、青年を含めたそれら男女数十名の前で光球を背にふんぞり返る白髪の少女──。

「あー、よし。良い感じに皆注目してくれたな。今回は行儀の良い連中で助かったよ」

 その場の全員が言葉を失って呆然としているのを満足そうに見やり、少女は仰々しく話し出した。腰の辺りまで伸びた髪を軽くかきあげて、更に淡々と続ける。

「私は死者の案内人だ。まあ、貴様ら人間に分かりやすいように『神』だと認識してもらって構わない。色々あって同時刻に死んだ世界中の人間がここに集められた訳だが……こちら側の事情をいくら説明した所で貴様らには理解できるはずもないので取り敢えずこの七つの世界から好きな世界を選んで転移してくれって事でひとつ宜しく頼む」

 少女……改め神が一息に言い終わると、神の背後に控えていた七つの光球がトンネルのような形に変形し、その中にぼんやりと、ここではないどこかの風景が映し出された。

「ちなみに、別に定員とかは無いので他人との被りは気にせず選んじゃってく──」

「おい! ちょっと待てよ」

 神の独壇場を遮る声が響いた。微かな苛立ちの混ざった声を上げたのは、青年だった。

「──なんだね。私は今、話している最中なのだが?」

「なんだね、じゃない。もうちょっと詳しく説明してくれ! 何の説明も無く、神とか名乗りやがる胡散臭い子供の指示に「はいそうですか」と従って、得体の知れない光の中に飛び込めるほど俺は脳筋じゃねえんだよ」

 呆れたような視線を向ける神に、噛みつくように声を荒げる青年。しかし、当の神はどこ吹く風でつまらなそうに自らの髪を弄りだした。

「はあ……。やーっぱりお前みたいなヤツは必ずいるんだな。……まあ、良い。嫌なら転移しなくても。その場合、あと数分で貴様は消滅してしまうがな」

「はあ? なに訳の分からん事言って……」

 突拍子もない神の発言に怪訝な表情を浮かべる青年に、神は事も無げに続ける。

「いや。ほんと。ほら、その証拠に貴様の腕、先の方から消えていってるだろう?」

「なっ……!?」

 青年が慌てて腕に視線を移すと、確かにそこには徐々に薄れていく自分の腕があった。

「だからほら──急がなきゃなあ?」

 神が酷薄な笑みを浮かべるのと同時に、青年以外の人間全員が、悲鳴と共に弾かれるように光へと走り出した。

「ほれ。どうした。お前も早く行かないと、今度は本当に存在が消えてしまうぞ?」

「くっそ……!」

 他の人間が全員光の中へ飛び込んでもなお、青年は暫く神を睨み付けていたが、観念したように光へと走り出した。

 青年は七つの光の前で少し逡巡した後、一番手近にあった光に飛び込んだ。

 ──青年が飛び込んだ光に映っていた光景は、満月を背に宙空を泳ぐ巨大な金魚。そしてそれの下で賑わいを見せる、夏祭りの屋台たちだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ