97 サーナタルエに戻って
怪我をしてしまいました。
いつもの事ではありますが、私もよく怪我をすると思っています。ですが今回は、武器防具が全て借り物だったせいもあり、修理が一つもないのが救いでしょうか?
しかしその借り物の武器や防具は、とてもでは無いが戦える代物ではありませんでした。
最初にそれを渡された時
「これって儀式用ですか?」
と聞いてしまった位です、少し力を入れたら折れそうな細身の刀と、服、鎧じゃなくて服です防具の意味がありません、防具と言うよりも制服です、こんなのでどうやって何十人の人達を相手にすればいいのでしょうか?
その貧相な武器防具のせいで、左手の手首から先が無くなってしまいました。いつもの癖で『収納』から盾を取り出そうとしてしまったのですが、盾は持って来ていなかったのでそのまま腕を切り取られてしまいました。
盾の事は私が悪いのですが、その時籠手が付いていたら切り飛ばされる事は無かったでしょう、ですが、籠手も付いていない服だったのでどうしようもありません
リテア様をヒェーブスまで無事に守る事が出来てから、お医者さんに左手を見せたところ
「なんでこんないい加減な処置をするんだ!」
怒られてしまいました。
私がした訳ではないのですが、本来なら縛って止血しその口を塞ぐように『氷』魔法で軽く塞ぐように蓋をするのが正解なのです、ですが細い氷が何十と肉に食い込むように深く刺さり、魔力に戻すにも細かすぎて戻しきれないとお医者さんに言われました。
その結果、腕をもう10センチ程切らなくてはならなくなり、『癒し』魔法を掛けながら腕を切断したのですが、痛みは痒いくらいでほとんどありませんでした。
ですが、目の前で自分の腕が切断されるのは、あまり気持ちのいいものではありませんでした。
それでも地球だったらそのまま手が無くなってしまうか、あるいは義手になっていたでしょう、そういった意味ではまだましだと感じます、いえ‥‥十分有難いですね
骨まで無くなったので、本来なら3週間コースでしょうか? しかし、色々ゴタゴタがあった為、治療する時間が取れませんでした。なので手は完全に完治しておりません。この後、私はまたマシェルモビアの砦を落とす為に前線に戻るのですが
「タクティア、今回私は休暇は必要ないので、そのまま前線に戻りますよ」
「‥‥いつまでその話し方なんですかハヤト隊長」
タクティアが若干不機嫌です
そうでしたね、私はハヤトでした。暫くフェルドとして生活をしていたので、この話し方が中々抜けないんです、この話し方はタクティアを参考にしているので、自分とキャラが被るから嫌なのでしょうか? あまりいい顔はしません
「フェルド生活が長かったです‥‥からな」
「いいんですか? その左手もまだ時間がかかるでしょうし」
「手の事だったらあっちでエクレールに直してもらうよ、最近治すのが上手くなってるし、それよりもあの砦の事なんだけどな、俺が攻略する」
「‥‥え? ええ!!、本気で言っているんですか?」
「ああ、本気も本気、マジ本気だ。もう一度言うぞ、俺が攻略する」
「魔法が一切通用しないんですよ? あっ! 今のが大事な事だから2回言いましたってやつですね?」
「そうだ、それは置いといて‥‥俺が使うのは魔法じゃない、女神の力を使う、実際に試して成功しているし」
試した結果、犠牲が2人程出てしまったが、裏で悪い事をしている人で、館の襲撃にも関わっていたみたいだったから結果オーライだろう、あの時バレるかと思ってドキドキしていたが‥‥‥‥
「ハヤト隊長! 女神の力って何ですか!」
「おっとぉ、予想どうり食いついてきたね、なら今日はこれを「今日のお話」としようか?」
うんうんと高速で頷くタクティア
「絶対に誰にも言うなよ、実はね標高の高い山とかで見かける女神の魔法とされている『雷』はね‥‥‥‥」
◆◇
「かなり大変だったみたいですね、それでもあの子を守ってくれて本当にありがとう」
ハルツール国の主席イディ・アンドリナは深く頭を下げる。
俺は結果の報告を兼ねて主席とお茶を飲んでいた。今回主席は俺の好みを調べてくれて目の前にはトロン茶が入れてある
「自分の不注意で館の人達全てを救えませんでしたが」
「それは仕方のない事だと思いますよ、相手はマシェルモビアにつながるような魔道具を持っていたと報告も受けています、今後あなたが持ち帰った魔道具の調査をすることになるでしょうが、それでどうやってそれを手に入れたか‥‥分かれば今回どうマシェルモビアと繋がっていたか分かるかもしれませんから」
「そう‥‥ですね、自分もリテア様を守れた事で少しだけ、ホッとしています」
今回の護衛の件でよく分からない事がある、俺が気を失い、目が覚めるとリテア様が蹴られそうになっていたり、知らない場所にいたり、俺の部下(?)が助けてくれたりと色々あったらしいが、記録用の魔道具を直ぐに渡してしまった為、俺が倒れている間の事がどうなっていたのか知らないのだ。
館を襲った襲撃者と、俺が目が覚めた時にリテア様に襲い掛かろうとしていた者達の間には、繋がりが薄い気がした。
俺がグースだと分かっていたのなら、もしかしたら追撃を諦めていたのかもしれないが、奴らはリテア様を追って来た。
俺がグースだという事を知らなかったのだろう、もしかしたらわざと知らせなかったのかもしれない
結果としてリテア様を守れたから良かったものの・・・・
「あら、リテア様と呼んでいるのね」
「ええ、中々癖が抜けなくて、本来なら次期代表候補と呼ぶべきなのでしょうが」
「ふふ、それで? あの子はどうだった?」
「そうですね‥‥」
リテア・ネジェンの事を思い出してみると不思議と笑みが浮かんでくる
「年上の女性のこう例えるのは失礼に当たると思うのですが、一言でいうと、お転婆でしょうか?」
「そう、それで? どういった所がかしら?」
主席は何かを期待するように、キラキラした目をしている
「そうですね、あれは雨が降った次の日の事でしたが、庭に溜まった水が泥のようになっていたのです、それをじっと見ているんです、多分泥遊びをしたかったんでしょうが、私がいる事でそれも出来なくて少し悔しそうでした」
「ぷっ! ふふふふ、あはは‥‥‥‥」
どうやら主席の笑いのツボに入ったようだ、この人は一旦ツボに入ると暫くは笑っている、笑い終えるまで大人しく待とう
・・・・
・・・・
結構長い事笑ってられましたよ、途中でお腹が痛くなったのか、急に真顔になられましたけど、これ以上笑いを取ろうとしたら
「マジでもうやめて」
とか言いそうなので、もうやめておく、その代わりに‥‥
「主席、よろしかったらコレをどうぞ」
椅子の横に置いておいた包みを渡す、さっきからチラチラと主席は見ていたから気にはなっていたようだ。
「コレはなにかしら?」
「中身はチョコレートという物です」
チョコレートという言葉に主席は反応した。知っていたみたい
チョコレートは未だに生産が追い付いておらず、出回っている数が少ない、以前工場に行った際
「工場の規模からしてこの数が限界です」
オヤスの長男で工場長のモランが言っていた。従業員の負担も製造ラインの回転具合も限界らしい。
そして迷惑だとは思ったけど、新しいチョコレートの考えをオヤスにこっそりと教え、それをオヤスに手作業で開発してもらい、完成した物がここにある
昨日、工場の方に少し顔を出したところ
「親父が新しいチョコレートを作るから、ラインを空けろと言って来たんですが‥‥‥」
憔悴しきった顔で、俺の事を死んだ目で見ていた
「へ、へぇーそうなんだ」
としか返せなかった。余計な事をしたと思うけれど、思いついてしまった物は仕方ない、一応顧問として働かないといけないと思ったんです
「まだ市場に出回っていない新作で、中にお酒が入っているんです、よろしかったら‥‥」
主席の方に包みを移動させる
「ありがとう、このチョコレートは中々手に入らないのよね、でもあなたはまだ出てない商品を何故持っているの?」
「私、この商品を出している会社の顧問をしていますから」
「あら! あらあら、そうなの?」
「それとこちらも‥‥こっちは普通のチョコレートです、天使ネクターが好きな方です」
普通のチョコレートも主席に渡した。
元々機嫌がよかった主席だったが、2つもお土産を貰い嬉しそうな顔をしていた。その後も主席とは楽しく話をした。
主席との話も終わった後、ついでにゴルジア首相にも会いに行った。
首相にも酒の入った新作を渡したうえで
「普通のチョコレートもありまして、こっちがネクターが宣伝していた奴で、こっちが俺が宣伝していた奴です、どちらかお好きな方を‥‥‥‥」
「そうか何やら済まないな、ワシも結構気に入っているんじゃが、手に入りずらくてのぉ」
そう言ってネクターが宣伝している方に手を伸ばし‥‥‥た腕を、ガッ! と抑える
「ん、んん!?」
「首相、もう一度言いますよ? こっちがネクターで、こっちが俺です」
「お、おお‥‥‥分かっとる」
一度引っ込めた手をまたネクターの方に伸ばし‥‥‥また、ガッ! と伸ばした手を俺に掴まれる
「首相もう一度言いますよ? こっちがネクターで、こっちが俺です、こっちが俺です、俺が宣伝しているのはこっちです」
暫く首相の目を見つめていると
「そう‥‥‥じゃったな、こっちだった‥‥‥‥」
残念そうに俺が宣伝している方に手を伸ばした。
ベルフ達へのお土産の分もあるので、ネクターが宣伝した方は取って置きたかったんです。
じゃあ何で出したって? 何となくやって見たかったから
その後も少しだけしょんぼりした首相と、色々と話をした。首相は今回俺がタスブランカに行って来たを知らされておらず、ほんの少しだけ主席と軍に対し怒っていた。
散々愚痴を言ってきた後
「やっぱり軍に籍を置いておくと、危険な事ばかりやらされる様じゃな」
「それが仕事ですから」
「ふむ‥‥どうじゃハヤト、儂の元に帰ってこないか?」
首相にそう誘われたが、俺も自分の名の付いた部隊を持ち、それに伴い部下も持ち、それに色々と思う所があるので首相の誘いは丁重に断った。
用事も全て済ませ家に帰ると、そこには現タスブランカ代表の印が押された封筒があった。
中に入っていたのは、召喚獣契約のための許可証
『ご当地召喚獣』というのがある、勝手に俺がそう呼んでいるだけだけれど、ハルツールにしかない魔法『耐壁』があるように、マシェルモビアにしかない魔法『潜伏・隠蔽』もある。
これは魔法だけに限った事では無く、召喚獣もその地にしかない召喚獣がある。その中でもタスブランカは召喚獣の魔法陣を2つ所有していて、俺はずっとそれを申請していたのだけど、中々許可が下りなかった。
理由としては俺がハルツールの生まれではないから、そのせいで今まで許可されなかったのが、タスブランカにいる時、リテア様に泣きついて口添えしてもらい、そしてようやく許可が下りたのだ
意外と早かったな
「ありがとうございますリテア様!」
タスブランカの方角に向かい、パンパンと手を叩き合掌する
契約は敵の砦を落とした後になるだろうけど、今から楽しみで仕方がない




