95 リテア・ネジェン ⑥
「かんぱーい!」
館を襲撃されてから丸1日経った。フェルドは相変わらず意識が戻る気配がない
今日何度目の乾杯だろう? ノーム達は酒盛りをしている、時々フェルドの口に酒を流し込んで様子を見ている。
強い光に目をやられた私が、視力を回復してから気づいたことがある
3人共同じ顔なのね‥‥
自分達をノームと言っていた男たちは、三つ子なのか3人共同じ顔をしていた。名前が1号・2号・3号と変わった名前を名乗っていたが、これは軍などで使う特殊な名前の事だろう、ノームというのも部隊の名前か何かだろうと納得した
それとノームは何故か1号と呼ばれた者だけしか喋らない、2号・3号は話をしないのだ。これも不思議に感じたが、変わった服装をしていているしどう見ても軍人の様なので、何か軍人にしか分からない取り決めがあるのだろう
コンコン
ノックが2回
「ただいま戻りました」
ドアが開き、私の元護衛だった男が入ってくる
「言われた通り情報を集めてきました」
私達は追手から身を隠す為、たまたま見つけた空き家でフェルドを休ませるために身を潜めている、売り出し中の家らしく、食料などは無いが多少の家具が残っており、水も出るようになっていた。
そこでフェルドを休ませている間、元護衛が外で情報を集めて来てくれていた。
「容体はどうですか?」
「相変わらずだな、ほれまずは一杯どうだ?」
ノームが酒を進めるが横に首を振る
「なら、外がどうなっているか聞こうか、おっと! その前につまみ買って来てくれたか!?」
「買ってきた」
はよ出せ! と急かし自分達の分の食料を奪い取る
「悪いな、買ってきて貰ってよ、いつもなら大将の『収納』からちょろまかすんだが、今大将の『収納』がからっぽでよ」
がはは! と笑い酒盛りを開始する‥‥外の情報を聞くんじゃないの?
「それで、どうなっているのかしら?」
「はい、まず館の人間の事なのですが‥‥」
私は息を呑んだ、もしかしたらと可能性を信じていたのだが
「全員の死亡が確認されました‥‥‥‥」
「そんな‥‥」
分かってはいた。分かってはいたが‥‥ずっと一緒に暮らしていた人達が死亡したと聞き、目の前が真っ暗になる、私が邪険に扱っていたとはいえ、皆私の為、そしてタスブランカの未来の為に一生懸命尽くしてくれたのに‥‥‥‥
「うっ‥‥うう…みんな‥‥‥‥どうして‥‥‥‥」
そう思うと涙が溢れ止まらなくなってしまった
みんな‥‥‥死んで
いままで鬱陶しいと感じていた館の者達だったが、『死んだ』と聞くとこれまでの自分の行いに後悔する
「リテア様‥‥」
私は悲しみの最中だが、元護衛はそのまま話を続ける。
「次期代表は誘拐され、その主犯格が今の護衛のそちらの方になっています」
「え?」
「そして共犯者が4人存在していると」
「ひい・ふう・みい‥‥‥おい、俺らは3人しかいないんだがな」
「私も中に入っているようだ」
「なるほどな、俺らの仲間入りって事か」
「ただ‥‥‥私は死亡したことになっている」
「そりゃどういう事だよ」
「最初から順を追って話をすると、主犯格のえー‥‥‥フェルドと、私を含む共犯者の4人が次期代表を誘拐、その時館の住人全てを殺害し、その逃走の際、たまたま私の会社の人間と鉢会い、私はその場で殺害され、フェルド含む残りの3名は逃走‥‥と、なっていました」
「ほぉ~、そうなるとアンタは捕まることは無いって事か」
「そうだな、捕まえられる事は無く、発見され次第殺されるという事だろう」
「大変だなアンタも」
「そうだな‥‥‥‥」
ノームと元護衛が話をしている最中、私は殺された館の人達の事を考えていた。私がめんどくさそうにしても根気よく教えてくれた人、いつも美味しい食事を作ってくれた調理担当、健気に私の身の回りの世話をしてくれたマルロン
何故私はそんな皆に優しく出来なかったのか?
そして最後は私を逃がす為に犠牲になった‥‥マルロンなんか戦う力すらないのに、それを‥‥
椅子に座り、酒を飲みながら元護衛と話していたノームだが、何気に窓の外を見た時
「おっとぉ!!」
椅子に座っていたノームが、いきなり滑り落ちるようにしゃがんだ。
「どうした?」
「おい、あんた付けられてたな?」
「ええ!? そんな! 私は周りを確認していた、それに━━」
ノームは元護衛の話を手で制す
「違うな、アンタは注意を払って来たんだろう、おい、外を見て見な、ゆっくりだぞ」
元護衛は窓枠ギリギリの所から少しだけ顔を出し確認する
「あの白い建物の横にいつ奴が見えるか? アンタの目じゃ見えないだろうが、アイツの額に小さいながらも人工魔石が付いてある、アイツは『探知』持ちだ」
「何で分かる?」
「ぼーっと突っ立っているだろ? 魔石を使った『探知』に慣れてない奴てのは、他の事に考えを向けてられないんだよ、俺らの大将なら戦いながらでも『探知』は出来るが、最初の内は皆ああなるんだ、しかもその人工魔石で範囲を増幅している。
あんたが見つかったのか、それとも最初からいたのかは知らないが、『探知』持ちがいるとなると‥‥‥‥姐さん!」
「何?」
「姐さんの『探知』魔法でこの周りを調べてくだせぇ」
私はノームに返事をせず、『探知』を掛けてみる
「‥‥この家の周りを取り囲むように沢山いるわ、人数は‥‥30はいるかしら」
「ふむ‥‥もう囲まれていたって事かい、多分あいつらは6人いなければいけない反応が、3人しかいないから戸惑っているんだろうな、別の場所に逃げられたんじゃ? ってな、俺達は『探知』反応しないからなぁ」
本来、ノームに言われなくても『探知』が出来る私が常にしていなければならない事、常に周囲に気を使っていなければならないのに。
ノームは敵がどこに配置されているか私に確認し、元護衛とこの家から出る方法を考えていた。
「周りは全部囲まれている、脱出しようにも」
「なーに、囲まれているんならかえって好都合だろう、全員が脱出方向にいるわけじゃないんだ、まずはあの『探知』持ちを確実に潰して‥‥‥‥」
本当にここから出れるのかしら? もういっそのことここから出ないで‥‥‥‥
「よしっ! 姐さん、ここから出ますよ、なーに俺達の後ろを付いてくれば簡単に脱出できまさあ!」
「‥‥あなた達だけで逃げなさい」
「リテア様何を!」
「狙われているのは私だけでしょう? 私がいたら足手まといになるわ、私がここにいたら相手も私を狙うでしょう、その隙に貴方たちは逃げなさい」
もういいのよ、もう十分なの‥‥大事な人達が死んでいくのは
「冗談はやめて下さい!」
元護衛は怒った様な顔で声を荒げる、以前もこの顔を見た事があったわね、彼は私の為に怒ってくれている、あの時も私の事を思って怒ってくれてたのね‥‥‥‥
「ほんっとにめんどくさいな姐さんは」
一方、ノームは心底めんどくさそうな顔をしている
「こう言っちゃなんですがね、姐さんが来ても来なくても、この男とウチの大将は捕まったら殺されるんですよ、なにせ姐さんを誘拐したことになっているんですから、その誘拐犯がその後普通に暮らせると思いますか? ずっと逃げ続けなければならないんですよ、しかも証明してくれるだろう姐さんはその時は既に殺されている、だから姐さんも一緒に逃げないと意味が無いんですよ。‥‥‥‥それと、この場でのありきたりな言葉を言わせてもらいますよ」
ノームは私の目を見つめ
「死んでいった館の者達の命を、無駄にするんですかい?」
◆◇◆
タン タン タン
乾いたような音が辺りに響く、魔法が飛び交い建物や街路樹に当たり炎上、もしくは爆発をする
「きゃぁぁぁ!」
「うわぁぁぁ!」
タスブランカの都市の中での戦闘、辺りには一般人もいる中、突然始まった戦闘にたまたま周りにいただけの住人はパニックに陥っていた。
「姐さん! 生きてますか!」
「生きてるわよ! どうするのよこれ! 逃げ切れるの!? 周りの被害はどうするの?」
「被害を出しているのは追ってくる奴らのせいですよ、俺達のせいじゃありません」
人々が逃げまどい、火の手が上がる中、多分すぐにでもタスブランカの防衛部隊も出てくるだろう、タスブランカの防衛部隊にも襲撃に関わった者がいると聞いている、来るかどうかも分からないし、来たら来たで危険かもしれない、ならば早くこの場から移動しないと
「思ってた以上にきっついすねえ、大将だったら難なく逃げ切れると思うんですが‥‥」
ノームが予想していたよりもまずい状況らしい、それは私でも分かる事だった。
「仕方ない、大将には負担を余りかけたく無いんだがね‥‥3号! 後は頼むぜ!」
3号と呼ばれたノームは頷く
「何? 何をする気なの!?」
「3号はこう言っているんですよ、この場は俺に任せて先に行けってね!」
「何を言っているの! 仲間、兄弟なんでしょ!?」
ノームは兄弟の一人を見捨てると言い出した。
「なーに、それが俺らの仕事なんでね、姐さんは気にする事ないですよぉ、よいしょっと!」
ノームは私を担ぎ走り出す
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
「喋っていると舌噛みますよ」
・・・・
・・・・
敵の追跡は凄まじく、それを振り切る為に2号も足止めの為、自信を犠牲にした。
そして‥‥
「タスブランカの北の防衛都市、ヒェーブスにむかってくだせぇ、以前大将がそこに駐留していて、信頼できる仲間がいるんでさあ、そこまで行ったらもう追われる事は無いでしょうからね、じゃ、姐さんお元気で」
「なっ! お元気でって、貴方も行く気なの!?」
ノームは自分も足止めの為に残ると言い出した。私の声には答えず元護衛に対し
「大将ももうじき目が覚めるでしょう、大将と姐さんの事宜しくお願いしやす」
「‥‥‥‥分かった」
ノームは私が止めるのも聞かず、敵の目を引き付ける為、その場から駆けだす
「リテア様、急ぎましょう」
「まって、まって、ノームが‥‥また、私の為に」
体が自然とノームの後を追おうとしてしまい
「リテア様!!」
「痛っ‥‥!」
元護衛は声を荒げ、思いきり私の手を引っ張った。
その反動で倒れそうになる
「今は逃げなければいけないんです」
元護衛はフェルドを背負い、無理やり私の手を引き走る
「この方はあの竜騎士だったんですね、私も子供の頃竜騎士に憧れていましたよ」
元護衛は後ろを見る事無く、前だけを見ている
「物語に出てくる竜騎士の様にはいかないと思いますが‥‥私はこれでも元、リテア様の護衛なんです、正直護衛を外されたのはいまだに心残りでした。ずっと悩んで不貞腐れていました。‥‥‥自分でも不本意な形で護衛の人を外されてしまいましたが‥‥今は必ずリテア様をお守りします! 必ずリテア様をヒューブスにお連れします」
私は元護衛の言葉に頷き、ついて行くことしかできなかった。
ヒューブスにさえたどり着き逃げ切れば助かると、殺された者達に報いることが出来ると
「ごめんなさい‥‥みんな、ごめんなさい‥‥‥」
元護衛に手を引かれ、泣きながら‥
でも現実はそう甘くなかった
・・・・
・・・・
「リ、リテア様ご無事ですか?‥‥‥‥ゴホッ!!」
元護衛の腹には大きな穴が開いていた。彼の口からは大量の血が溢れ出る
それでも追撃を止めない襲撃者に襲われ、私を狙った魔法から庇う為、元護衛は魔法の直撃を受けてしまった。
「気を確かに持ちなさい!」
私は彼の手を握る、今の私にはそれしか出来ない
「申し訳ございませんリテア様‥‥‥約束を守れま‥‥」
「し、しっかりしなさい! サム!」
「は、はは、名前を‥‥‥憶えていてくれたんですね」
「当たり前じゃない! あの館に一緒にいた者の名前なら全員覚えているわよ!」
「良かった‥‥初めて名を呼んで貰えました」
サムの目はゆっくりと閉じられ
「サム! 目を閉じないで!!」
サムの目からは涙が溢れていた
「約束を守れず‥‥申し訳ございませ」
最後まで言葉を言い切る間もなく、彼の手からは力が抜けた。
「サム‥‥嫌‥‥」
サムの腕はとても重く、子供の体の私には十分に支えることすら出来ず、地面にサムの手が落ちる
そして私が嘆いている暇など相手は与えてくれなかった。あれだけ逃げたにも関わらず完全に追いつかれていた。
「やっと捕まえたか、さぁ、次期代表候補私達と一緒に来てもらいましょうか、その後どうなるかは私たちは知らないのですが、連れてくるのが私たちの仕事なので‥‥おっと、そっちの倒れている男は始末しておかないと、おい! そいつも始末しておけ」
そう言って今度はフェルドの方に向かおうとする数名の男
フェルド!
「待ちなさい!」
フェルドに向かっていく男に向けて魔法を放つ、すると運よく足に直撃した。
「痛ってぇ!」
そのまま悶絶し直撃した足を抑え倒れ込む、脛あてに当たったが、痛みを与える事しか出来なかった。
「ぎゃははは、子供の魔法に当たってんじゃねーよ」
私の魔法で大恥をかいた男は私を睨みつける
「このクソガキが!」
私はフェルドの元に駆け付け、倒れているフェルドを持ち上げようとするが、子供の体ではどうしようもない
何とか引きずっててもフェルドを助けないと
力の限りを引っ張るが、フェルドの体はびくとも動かなかった
「おい! このガキ殺してしまってもいいんだろ!?」
「別に生かして連れてこいとは言われてないからな‥‥」
「ちょっと待てよシジ、一応はタスブランカの代表になる方だったんだ、あまりそういうのは・・」
「俺達は連れてこいと言われたんだ。どうせ殺されるとはいえ、とりあえず連れてこうぜ」
男たちは私の生死について話していた。一方私は何とかフェルドを連れて逃げる方法を考えたが、もうこの状況では‥‥‥
「分かったよ、でも一発ぐらい蹴っても問題ないだろ! このままじゃ腹の虫がおさまらねぇよ」
「はいはい、一発だけだぞ、死なすなよ」
私に魔法を当てられた男は
「一発は一発だからな、お前が最初当てたんだぞ、やられて当然だと思えよ」
ニタニタ笑いながら近づき、そして軽く助走を付け、右足で私に向かって蹴り上げた。
うっ!
私は来るであろう衝撃に身構えたが
「うわぁっ!」
ドスン
男は空振りしてそのまま尻もちをつく、しかし男は本当に空振りした訳ではない
「あ、あ、足が~!!、足が!」
倒れた男には左足が膝から下が無かった。
「シジ! おい、シジがやられた!」
無くなった足の部分を抑え悲鳴を上げる男、そして私の隣でゆっくりと上体を起こす者がいる
「ふぅー」
気だるそうにため息を付き、右手には大剣が握られ、それを杖代わりにして立ち上がった。そしてそのまま敵がいる方に向かって歩き出す、その時ついでと言わんばかりに左足を失い倒れた敵の胸に
大剣を突き立てた。
胸を突かれた男は小な声を出し、口を大きく開け、驚いたような顔をしたまま動かなくなった。
「フェ、フェルド気が付いたのね!」
「あの男‥‥‥‥まだ生きてたか、おい! 最後の仕事をするぞ」
「何だよ弱ってるじゃないか、さっさと終わらせようぜ」
「くっそ! よくもシジを!」
「フェルド待って、逃げるのよ! 駄目!」
私の言葉に反応せず、ゆっくりと敵の方に歩いて行こうとする
今のフェルドにこれだけの人数を相手に出来る訳が無い、私が止めてもフェルドの足は止まらなかった一歩二歩と歩みを進める、せっかく意識が戻ってもこのままでは殺されてしまう
今にもまた倒れそうなフェルドだったが、その体に変化が現れた。
黒い煙のような物が現れたかと思うと、その煙は濃い霧に変わりフェルドの体に纏わり始め‥‥‥異形の姿に変えていった。
赤黒い鎧が全身を包み、全てを飲み込もうとするその禍々しい姿は、目で捉えただけで命を喰われる感覚を受ける
ハルツールに住む者だったら、誰もが一度は恐怖したあの姿に
ああ‥‥これがあの時映像で見た‥‥‥‥
「グラースオルグ」
ヒュン!
風を切る音がした時、フェルドはその場には既におらず、襲撃者の一人の胴を真っ二つに切り裂いていた。
ドサリと切り離される上半身、切られた襲撃者は何が起きたのか分からず
「へっ?」
と声を出した。そしてそのまま動かなくなる
その場にいた誰もが、何故コレがこの場にいるのか理解出来なかった。誰もが動けず立ちすくみ、声すら出せない
フェルドは立て続けに剣を振るい、声も出せず動けもしない無抵抗の襲撃者達を、次々に切り裂いていく、今この場には大剣を振るう音と、体が真っ二つになり土に落ちる音以外存在しなかった。
誰もが茫然とし、自分の体が別れるのを待っているだけだった。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
フェルドが7人目を切った時、一人の男の悲鳴でその場にいた者全員が我に返り
「う、うわぁぁぁ!」
「い、嫌だー!」
一目散に逃げだした。
「嫌ぁぁ! 来ないで!」
次に目を付けられた襲撃者は女で召喚者だった。女は自分とフェルドの間に召喚獣を呼び出す、現れた召喚獣は『クルプ』全体的に青い色で手足が無く長い、まるで太いロープの様な召喚獣
目の前に出た召喚獣にフェルドは一言だけ
『ヤタ』
その言葉を切っ掛けに、私を覆うように土がせり上がり、私はその中に閉じ込められた。そして聞こえてくる大きな音と振動、私はあまりにも大きな音に耳を塞ぎ、体を丸めその恐怖に耐える。
しかし、それは一瞬の出来事、私を覆っていた土はサラサラと落ちるように崩れていく、さっきまでそこに居たはずの女召喚者そして召喚獣は、土が崩れ落ちる時にはもう存在していなかった。
ただ砂埃だけがゆっくりと舞っていた
そしてフェルドはその場から逃げ出した敵に対し、何かを放つ、それは魔法とは言えない別の物。死へと誘う黒き混沌の塊
それを放った瞬間、黒い無数の塊だった物が形を変え、唸り、黒き人骨にその姿を変え、逃げまどう襲撃者を次々と飲み込んでいく、飲み込まれた者達はその肉片一片すら残す事を許されなかった。
それでも運よく逃げられた数人に対し、フェルドは追撃を加える
「行け」
黄色魔法陣が浮かび上がり、中から勢いよく召喚獣が飛び出す、私が館から逃げる時に乗ったあの4本足の黒い召喚獣、その召喚獣の上には大剣を持った者が乗っており、逃げた者達に対し向かって行く
私は目の前で起こった事が信じられず、ただその場に座り込んでいた。
「リテア様‥‥」
その言葉で我に返り、恐怖で身を震わせる
顔を上げるとフェルドがゆっくりと私の方に歩いてきていた。その姿はさっきの黒い鎧姿ではなくいつものフェルドに戻っていた。
「おっと‥‥‥‥」
ガクリとバランスを崩し膝を付く
「フェルド!」
私は直ぐに彼に駆け寄った
「リテア様お怪我は有りませんか?」
「大丈夫、大丈夫だから‥‥‥うっ、う‥‥」
「リテア様?」
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
私はフェルドに抱きつき大声で泣いてしまった。今まで我慢していた物、抑えていた物が一気に溢れ出る
「みんな! みんな死んでしまったの! 館の全員も‥‥サムも‥‥ごめんなさい、私のせいで貴方の部下も死なせてしまったわ!」
部下ですか? とフェルドは少し考えたが
「いいえ、リテア様のせいではありませんよ、それよりもお辛い時に側にいられず申し訳ありませんでした」
「皆いなくなってしまったわ‥‥私の元からいなくなってしまった‥‥フェルド! 貴方はどこにも行かないわよね! お願い助けて! 私を助けてよ! 貴方竜騎士でしょ!? おとぎ話に出てくる竜騎士みたいに私を助けて‥‥‥私を、一人にしないで‥‥‥‥」
フェルドの胸に縋り付き涙を流す、流れた涙はフェルドの服にシミを作り出す、私の情けなく、そして子供じみたお願い。
フェルドは流れる涙を優しく指で拭き取り、私に対し笑顔を向けた。
「‥‥竜騎士は、一生涯国に忠誠を誓う誇り高き者達だと聞いております‥‥‥ならばこのフェルド、これからはリテア様だけの竜騎士として、生涯忠誠を捧げることをここに誓いましょう」
その笑顔は、フェルドが私に対して初めて見せた笑顔だった。




