↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/260

92 リテア・ネジェン ③


「フェルドって素敵ですよねぇー」


「はぁ?」


 自分の体を自分で抱きしめ体をくねらせる、「プリンプリン」と音が聞こえそうなくらい女性らしい体つきのマルロン、何かを妄想しているのか? 何となく想像は付くが、若干顔を赤く染めている


「お付き合いされている女性とかいるんでしょうか?」


「さあ?」

 他の男性達と違い、彼女の体をいやらしい目で見てこないフェルド、その事でフェルドに好感を持ち、事あるごとに私にフェルドの話をしてくる。

 フェルドをどうやったら出し抜けるかを毎日考えている私にとっては、聞いているだけでストレスが溜まる

 

「あの方はどんな女性が好みなんでしょうかね‥‥私は結構体には自信あるんですけれど」

 私の目の前で、自分の胸を掴み少し上に持ち上げる


 ‥‥それは私に対する嫌がらせなの?


 『生命の契約』期間が今年で終わったから、あと何年かすれば貴女のように私もなるはずなんだから、そうすればダイモのようなこの細い体でいるのも今の内なの!

 それにしても、男に体を見られるのが嫌とか言っておきながら、やっぱり自分の体の事を自分でもそんな風に思っていたのね‥‥


 でもねマルロン、フェルドは貴女の体をいやらしい目で見てこないんでしょ? だったら貴女の体には興味ないって事にならないかしら?


「そんなに気に入っているなら、夜中にでもあの男の部屋に行ったらいいじゃないの」

 少し相手にするのも面倒になったので、なげやり気味に言って見る


「えっ!?」

 驚いた顔をした彼女は、こっちを振り向き私の方を見つめていた。そして‥‥‥


「なるほど‥‥‥」

 彼女は小さく言葉を発した。





 ◆◇◆


 空には雲一つ無い快晴、その下で片手を上に上げ何かしている男がいる、私の護衛フェルド・ガーン

 この男はかなりの奇行が目立つ、そして今もその最中である

 フェルドが空に掲げている腕の先には、不自然な雲があり、快晴なのにそこにだけ雲が存在していた。


「フェルド、貴方はいったい何をしているの?」

 私が背後から問いかけると、腕を下げ2度深呼吸をしてから振り向き


「雲を作って雨を降らそうとしているんですが、中々上手くはいかなくて‥‥」

 フェルドの額には大粒の汗が光っていた


 馬鹿なのこの人?

「雨?」


「はい、途中までは上手くいくんですが‥‥女神の力でしょうか? 無理やり解除されるんです」

 残念そうにそう言った。



 女神にしか出来ない事を何故やろうとするのか? 天候を操るなど出来るはずがないのに、その内バチが当たりそうだ。

 何故雨を降らせようとするのだろうか、水が欲しいなら『水』魔法が使えるんだから、魔法で出せばいいのに


「何故そんなことを?」


「魔法の練習になるんです」


「‥それだけ?」


「それだけです」


 大した理由ではなかった。

 「雨を降らせたい」

 これは出来るはずがない。女神が管理し、雨の恵みを私達に下さっているのに、人如きが出来るはずがない

 

「雨を降らせるためにまず雲を作る」

 何を言っているのかさっぱり分からない、雲は恵みが無くなった場所を探しその場に恵みを与える為の、いわば女神の意思の様な物、女神の意思そのものをを作れるはずがない


「‥‥フェルド、貴方はいつか女神の罰が下るかもよ?」

 冗談ではなく本当にそう思う


「それは有りえませんね、女神マシェルはとても美しく優しい方ですし、女神サーナは同じく美しく‥‥少し怖いですが多分優しい方だと思います。この程度の事では怒ったりはしません」


 まるで見てきたと言わんばかりの言い方だ。この男は本当に大丈夫なのだろうか? 頭が‥‥


「何にせよ、女神の意思に逆らう事が無いようにするのね」

 そう言ってその場を立ち去る事にする、私の後ろから


「はい」

 と聞こえたが


「ん?‥‥逆らう、女神の意思に逆らう‥‥」


「なるほど‥‥」

 小さい声でフェルドはそう呟いていた。






 ◆◇◆◇


「今日の事、抜かりないな?」


 リテア・ネジェンの元護衛、サムがその会話を聞いたのはたまたまだった


 今日は仕事が非番で、他の非番の同僚と一緒に飲みに行き、まだ帰るような時間では無いが、少し飲み過ぎてしまいこれから家に帰る所だった。

 少し喉が渇いたので自動の販売機から買い、商品を取り出したまでは良かったが、それを落とした挙句、拾おうと思ったら足で蹴飛ばしてしまった。


 どんくさいな俺も‥‥


 酔っぱらっているせいか、中々商品を掴むことが出来ず、その間にもコロコロと転がる商品を追いかけたが、結局拾う事は出来ず、壁にぶつかりようやく止まった。そして壁にぶつかり止まった商品を取ろうとしゃがんだ時、その声が聞こえてきた


「今日の事は抜かりないな?」

「大丈夫だ朝になれば失踪、もしくは誘拐という事で片づけられるだろう」

 

 声は男性の声で、少し距離が離れていたため全ては聞き取れなかったが、会話の所々が耳に入る、標的とか物騒な事を言っているが、自分には関係の無い話しだし、酔っぱらっているせいか関わりたくないと思ってしまい、商品を手に取り立ち上がりその場を去ろうとした。


「次期代表がいなくなれば、私達の方もやりやすくなるからな」


 次期代表!?

 一瞬顔を上げようとしたが、それを抑え息をひそめる、所処聞こえる会話から自分が護衛を務めていたリテア・ネジェンに危険が迫っていると分かった。

 その後も話は続いたが、サムはそっと顔を上げ会話をしている者達の顔を確認した


 タスブランカの情勢が、少し騒がしいとサムも少し感じてはいたが、ここまでとは知らなかった。

 この場合直ぐにでも報告すべきだろうが、会話の主の一人は、タスブランカ防衛部隊の制服を着ている者が一人いた。


 あの男は防衛部隊のNO2の‥‥


 サムは仕事柄、警察や防衛部隊などと関わりを持つことが多い、そして見た事がある顔がそこにあった。その男はタスブランカ防衛部隊のトップだった。


「リテア様‥‥」

 サムは気づかれないようゆっくりとその場を後にする


「どこに‥‥どこにこの事を報告したら‥‥」

 防衛部隊のトップがいるという事は、通報しても揉み消される恐れがあると感じたサム、酔っぱらったふらつく頭も、緊張で徐々に鮮明になってくる、頭が回り出し考える事が出来るようになってきたサムは、自身の職場である警備会社を思い出す


「そうだ‥‥社長に、社長なら!」



 ◆◇


「ふっ、あのフェルド・ガーンも、まさか深夜に館を抜け出すとは思わないでしょ?」

 口の端を吊り上げ、少女がするには似つかわしくない笑い方をする


 ここ2日程、脱走もせず大人しくしていたリテアは、今日の脱走に成功を感じていた。今日脱走した理由としては‥‥‥


 

 


「リテア様! 私今夜フェルドの部屋に行こうと思うんです!」


 脱出計画を練っている最中、マルロンが決心した顔でそう言って来た。


「一応聞くけれど‥‥何しに?」


「何しにって! べ、別にそこまでは考えてません! 告白です、フェルドへの思いを伝えに行くだけです!‥‥フェ、フェルドがどうしても今と言われたら‥‥それも仕方がないと思いますが‥‥‥‥」


 もう最後まで行く気満々だなぁと思うのと同時に、最近の若い子は積極的だなと感じた。


「‥‥そう、頑張ってらっしゃい」


「が、頑張ってなんて! ‥‥‥‥はい! 頑張ります!」


 ふんふん! と鼻息が聞こえそうなくらい興奮? 状態のマルロンの顔を暫くポケーと見ていたが、そこで気づく


 これはイケる

 マルロンが体を張ってフェルドを足止めしてくれるだろう、あわよくば朝までフェルドは動くことが出来ない、性的には動いているだろうが

 

 ・・・・


 ・・・・


 林の中をひたすら走りながら、今日という日に感謝する、そしてマルロンにも感謝しかない、どうかマルロンにはこのままフェルドと結ばれて欲しい


「今なら応援するわよマルロン」


 はあ、はあ、と息遣いは荒いが、リテアの顔は笑顔だった。


「はははは、ありがとうマルロン! 私は頑張るから貴女も頑張りなさい! フェルド私の勝利よ、貴方もマルロンと一緒に朝まで頑張る事ね!」


 勝利を確信し、笑いが止まらない



「マルロンがどうかしたんですか?」


「どうかしたってマルロンは‥‥‥‥」


 ・・・・


 ・・


「え?」

 私が進んでいる前方から人影が現れる

「‥‥‥‥嘘、何でいるのよ‥‥マ、マルロンはどうしたのよ!?」


「マルロン? 何かあったのですか? そんな事よりも‥‥流石に深夜に出歩くのはどうかと思うんですが」

 

 目の前にいたのはマルロンが抑えている(肉体的に)はずのフェルドだった。

 少し眠そうにしているフェルドは


「日中であれば散歩で済みますが、夜中では通用しませんよ? お年寄りがよくする徘徊になりますから、ただし‥‥抜け出そうとしているのでしたら、現タスブランカ代表に報告しなければなりませんね」


 フェルドに対してそれほどは思っていなかったが、ここまで来ると流石に恐怖を覚える、ことごとく脱走を見破られ、私はこの男からは逃げられないのではないのか? 絶望を感じる


「‥‥だ、脱走じゃないわ、徘徊していただけよ」


「流石にご自分の口から徘徊と言うのは、どうかと思いますが?」


「‥‥‥‥帰るわよ」


「はい」


 今回も失敗してしまった。完璧だと思ったのに‥‥それよりもマルロンは?


「フェルド、マルロンとは会わなかったの?」


「会いませんでしたけど、リテア様が出て行ったのを見たのでついてきたんですが、その間も見てませんよ」


 もしかしたら‥‥出てくるのが少し早すぎたか? マルロンに悪い事をしてしまったわね




 ◆◇


 調理担当の男は深夜にも関わらず調理場に向かっていた。

 一流の店で働いていた男は、元タスブランカ代表の推薦でこの館で働いている、次期代表の調理番というのは男にとっても大変名誉な事だったのでこの話を受けた。

 そして男にはその時悩みがあり、自分の料理に対して少し行き詰りを感じ、この機会に何か新しい事をするきっかけとして、丁度いいと思ったからというのもある。

 しかし、この館に来てもきっかけが無かった、いつも道りの事をいつも道りにするだけの日々、男は悩んでいた。

 

 そんな時来たのがフェルド・ガーンという男、人や家畜が本来食べないような物を食べたがる、いわゆる味覚に異常がある人間だった。

 どんな極端に味付けしても「美味しい」と言ってくる男に、調理担当は困惑したが、同時に何かを掴めそうな感じだった。

 フェルド・ガーンのように、一定の人間にはそう言った味付けを好む者もいる、フェルド・ガーンほど極端では無いがいない事はない、ならその人達でも食べられるような食べ物、そして普通の味覚をもった人でも美味しいと思えるような極端な味付けと言うのを作れないだろうか?

 と考えるようになっていた。


 そして就寝直前、いきなり頭に思い浮かんだアイディアを試す為に調理場に来ていた。

 男は思いついたアイディアを試す為、まずは調理場の灯りのスイッチを入れた‥‥‥‥




◆◇



「おい、本当に大丈夫なんだろうな?」

 そこには黒ずくめの服装をした人間が10名ほど


「大丈夫だ、今の時間はこの館の人間は全員寝ている、それに渡されたこの魔道具は『探知』魔法に引っかからないらしいからな」


「それって‥‥マシェルモビアで作られた物じゃないのか? だとしたら‥‥‥」


「マシェルモビアで作られたかどうかは知らないが、今からする事はタスブランカに取って必要な事なんだ、例えマシェルモビアから渡ってきたものでも使って成功させる」


「ああ…そうだな、そうだった」



 今からリテア・ネジェンがいる館に忍び込もうとしている者達は、反ネジェン派の一派だった。

 これから館に忍び込み、リテア・ネジェンを攫う予定でいる、その時館に住む他の者達には手を出さない事を言われている、それは事を大きくしないため、あくまでもリテア・ネジェンの失踪、最悪の場合でも誘拐で話を抑えておく為だった。

 もちろん連れ出されたリテア・ネジェンに命は無い、誰にも見つからない場所で処分されるだろう。仮にもし、他の者に見つかった場合は殺せと言われている。その者がリテア・ネジェンを誘拐したという事にするため


 黒ずくめの人間の一人が手を上げると、5人は館の周りを、そして残りの5人は館の中に侵入を開始する。

 この10人の他にも、もし何かがあった場合を考え、館の周りには数多くの人間が潜んでいた。


 侵入する5人は調理室の方に向かい音を立てずに近づいて行く、調理室は館の住民が就寝している場所から離れており、多少の音が出てもバレないと報告を受けており、そこから侵入するようにと指示を受けていた。


 通常では市場に出回るはずの無い、鍵開けの魔道具。それをカギ穴に差し込むと


 パスン!

 と多少大きな音がしてカギが開く、黒ずくめの者達はカギが開いたのを確認し、ゆっくりと中に侵入した。が‥‥‥‥



 パッ


 急に周りが明るくなり

「誰ですか貴方たちは!」


 一人の男が自分達を見てそう叫んだ。


「見つかった!」

 5人の内2人が即座に飛び出し、調理場にいた男に切りつけた


 ザシュン!


「ぐっ!!」


 ドスッ!


「ぐっ゛!!」


 腹と背中を切り付けられ、そして突き刺された男は冷蔵庫に向かって倒れ込む


「リ、リテア様‥‥‥‥」

 倒れる寸前、最後の力を振り絞り、冷蔵庫の後ろに隠れていた非常用のベルを思いっきり拳で殴った。


 ジリリリリりりり!!!!!!

 館内に響き渡る非情ベルの音


 リテア・ネジェンがこの館に移る時、最新型の冷蔵庫を入れることになったが、以前の物と比べ大型になっており、そのせいで非常ベルが隠れた状態になっていて通常では見える事が無かった。

だが調理担当は自身の職場であるため、この部屋の事だったら隅々まで把握していた。


「しまった! やられた!」

 部屋の配置、非常ベルの位置などはあらかじめ知ってはいたが、冷蔵庫の後ろに隠れていた非常ベル、その場所まで知らなかった黒ずくめの者達は、響き渡る音に驚く


「撤収するか!?」

「駄目だ! 今日を逃したら次は無い! 次期代表をこの場で殺すしかない」

「館の他の奴らはどうするんだよ!?」

「この際やるしかないだろう!」




 ◆◇


 マルロンは一人、フェルド・ガーンの部屋の前に立っていた。

「すぅー、ふぅー」

 大きく深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる、彼女は今体の線がクッキリ出るような服装をしており、何故か手には枕を持っていた。

 そんなに暑い訳ではないのに手の平からは汗が滲みだしている


「私はいい女、私はいい女」

 呪文のように自分に言い聞かせ自信を付けている。


 実はマルロン、フェルド・ガーンの正体を知っていた。

 彼女は本が好きで小説をよく読む、その中でも過去の竜騎士が現代によみがえり、現代の女性と恋に落ちるという設定の話が好きで、自分の部屋には何冊もその手の小説がある。

 そしてもちろん、現代の竜騎士と言われているウエタケ・ハヤトの事も知っていた。彼女の部屋にはグラースオルグとして撮影したチョコレート販売のためのポスターもある。通常の値段の5倍の値で他の人から譲ってもらった物で、それを毎日眺め自身の妄想に浸っていた。


 そんな彼女が初めてフェルド・ガーンを見た時、そのめずらしい黒髪と髪型からまさか‥‥と考えていたが、暫くしてそれも少しずつ確信に変わる。

 フェルドが来てから館には変わった鳥が住み着いた。マルロン自身見たことも無い鳥で、白を基調としたとてもキレイな鳥であった。


 たまたまその鳥に目が行った時、館の外に向けて飛び立った。暫くしてフェルドがリテアを連れて戻って来るのが見える、どうやら脱走したらしい、その日から何気なくリテアを見ていると必ずその鳥が少し離れた場所からリテアを見ていた。

 そしてマルロンは思い出す、現代の竜騎士と呼ばれているウエタケ・ハヤトは召喚者であり、鳥の形をした召喚獣を契約している事を‥‥


 その日からマルロンは、フェルドにカマを掛けた質問を何度かし、その話の内容からフェルドガーンがウエタケ・ハヤトだと確信した。


 


 お父さん、お母さん、今度のお休みの日には私の婚約者を紹介するからね!

 意を決してフェルドの部屋のドアをノックする


「フェルド‥‥フェルド起きてますか?」



 返事がない、もう寝ているのか


 ドアノブに手を掛けるとカギは掛けて無い、ゆっくりとノブを回し扉を開け部屋の中に入る。

 部屋の中は暗く、カーテンの隙間からの星明りで何とか見える程度、その灯りを頼りにしベッドの横に移動する


 大丈夫、私には両親から貰ったこの体がある、世の中の男性の9割が振り向く体を両親から貰った。この体があればフェルドだって‥‥‥


 ちなみにこのマルロン、自身の体には絶対的な自信があり、自分の体に振り向かない男は全て同性愛者だと思っている


 マルロンはフェルドを起こそうとゆっくりとベッドに手を伸ばす


 ん?


 何も無い‥‥別の場所をさわってみる


「あれ?」

 

 ベッドの上にはフェルドの姿が無かった


「フェルド?‥‥」

 どこかに出ているのか? と思った時



 ジリリリリリリ!!!


 館内に非常用のベルの音が響き渡った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。