6 魔法の習得
別れは突然やってくる、日本での生活がいきなり終わったように慣れ親しんだ初等部のクラスメイトとの別れも突然だ、もうすぐ皆で卒業を迎えるはずだったが俺だけ一人先に卒業になった、
初等部最終日にはみんな笑顔で送り出してくれた、コトンちゃんだけは泣いていたけど。
今まで役所職員寮の自分の部屋から30分程かけて初等部に通っていたが、今度は職員寮隣の役所内の一室に通うことになった、移動時間がゼロになったので他のことに時間を割くことができるのは結構嬉しい、
ここで今していることは、引き続き語学の勉強とこの世界の一般常識と世界の歴史、そしてどんな職業があるのか、その職業に就くにはどういう工程を踏めばいいのかだ。
語学の方はここに来た時から教えてくれていた人がそのままつく、一般常識その他はミャマーさんが教えてくれることになった
まず一般常識としてこの世界の地図を見せてもらったがぱっと見、横に太らせた東日本ぽいなーと思った
大きな大陸が真ん中にデンとあって周りに小さい島々が浮かんでいる、その大陸の南東方面が千葉の房総半島から東京湾にかけて形がそっくりだった、ん?この白い印は・・
「あのー、ミャマー?」
「質問かな何だろう」
「この地図で等間隔にある白い印は?」
「これは移転門だよ、これを使うことによって移転門から移転門へ一瞬で移動できる」
「へ一瞬で‥‥実際使ってみないと信じられないけど、で、なんで大陸の真ん中部分だけその印がないの?」
そう聞くとミャマーさんは少しだけ表情を引き締める
「このハルツール国と北のマシェルモビアは戦争中でね、古い記録によると7千年ほど前から、今この瞬間も小競り合いをしていると思うよ、その歴史の中でもう戦いはやめようって時があったんだ、
では具体的にどうすればいいかってなったとき、大陸中央部の移転門を撤去して緩衝地帯にしよう、てことになってね女神に許可をいただいて撤去をしたんだよ」
この世界の戦争というのは移転門を奪い合う陣取り合戦のようなものだという、相手国の門を奪いそれを本国の門とつないで、大量に兵や物資を送り込む、常に国境が隣り合わせだったため当時の被害は甚大だったらしい、そこでマシェルモビアの王がハルツールの王に提案し緩衝地帯を作ったという
「でも結局今でも続いているんでしょ?戦争」
「そう、移転門を撤去して緩衝地帯を作ったあとね、ハルツール国の王族、関係者がすべて暗殺されたんだよ」
「えっ・・・なんで」
「その当時はマシェルモビアが我が国に、かなり際どい所まで押されていたんだ」
「・・・・・・・・あーなるほど」
「うん、だからこの戦争は今でも終わってないし、どちらかが潰れるまで亡くならないと思うよ」
この国には王がいない、なので代表者を出し合衆国のような体制になっている
両国にはその国にしかない魔法がある、ハルツールには魔力で衝撃を弾く魔法、マシェルモビアには潜伏隠蔽の魔法、その国にしかない理由はそこにしか契約の魔法陣がないから
この地にある魔法陣はすべて女神から送られたものであり、人はその魔法陣で契約して初めて魔法を使うことが出来る、
マシェルモビアは国土の防衛が危うくなると、ハルツールの王に平和と停戦を呼びかけ緩衝地帯をつくり窮地を凌いだ、しかしそのあと潜伏の魔法を使用し王族の暗殺を企てた。
平和ムード一色、お祭り状態だったハルツール国は探知の魔法結界を簡単に突破され王族が暗殺された、そういう経緯もあり、ハルツール国のトップに立つものは自分の身を自分で守れるよう探知の魔法に長けているものが就くことが多い、
暗殺によって王族を殺害されたハルツール国は、緩衝地帯を突破し次々にマシェルモビアの都市を蹂躙、人々を惨殺していった、それには戦闘力を持たない子供も含まれていた
戦争中すでに疲弊しきっていたマシェルモビアの軍だが、移転門が無い緩衝地帯のせいで補給がうまくいかないハルツール軍を何とか退けることができた、しかし両国の仲は壊滅的な状態になってしまった
「さて、丁度お昼になったしこのくらいにしようか、午後は魔法の契約に出かけるから職員玄関で待っていてくれ」
「おおー! ついに魔法が使えるのかー!」
ミャマーさんはフフフっと微笑ましそうにしながら部屋を出ていく
「みんなでーパナンを食べたいなー」
魔法契約と聞き、ごきげんで職員食堂に行く、今日の日替わりランチは乾燥させた果物が入ったパナンと、細切りの肉と野菜の入ったスープだ。
パナンとは畑でとれるソフトボールほどの大きさの作物で、それの皮をむき種を取り専用の調理道具に入れ、適量の水と共にあとはスイッチON、とても甘く出来上がりはレアチーズケーキのようなしっとりとした出来上がりになる、この世界の主食だ
こちらは乾燥させるとカロ〇ーメイ〇のような触感になり保存食にもなる栄養価も高く万能食材だ、甘いパナンなので付け合わせの食べ物なんかは、甘くないものが付くことが多い今日は塩の効いたスープだ、この世界の食べ物はなかなか美味しいものが多く個人的にかなり気に入っている、大根に似た味のダイモや、インド料理に出てくるナンにそっくりのパンのようなものもある、米があれば最高だとおもうが、聞いたところそういうのは無いらしい、残念だが我慢するしかない。
午後はミャマーさんが運転するオート3輪に似た4輪の自動車で魔法契約に向かう、世界に一つだけしかない魔法陣もあれば、世界中どこにでもある魔法陣もあるという、今回向かうのは複数の魔法陣が集まった場所らしい
この移動中にこの世界に来て4年目にして初めて知った事実があった
「今日もいい天気だねー」
「ハヤトはしょっちゅうそのことを言うねお気に入りの言葉なのかい?」
「いやーだって今日みたいな天気か、雨がしとしと降るかの2種類しかないでしょ?荒れた日とか見たことないし」
「荒れるとは? 君がいたところはそんなに過酷な所なの?」
「ん?過酷っていうかほら、風が吹き荒れたり雷が落ちたり、えーっと(あれ?雪って単語教えてもらってないような)ほら氷の結晶が落ちてきて(冬って何て言うんだろう)んー辺りが真っ白になってね、凍えるような寒さになったりとか」
「あれ? ハヤトの世界では魔法がないと言ってたよね」
「ないよ」
4年間暮らしてこの土地には冬がない穏やかな場所なんだなーと思っていたが、冬どころか冬という言葉すらない場所だった。
しかも季節という言葉もない、この世界の気候は一定で一年中同じ気温・湿度を保っているたまに雨が降るくらいだ、強風や雷はあるが一部の標高の高い山の頂上付近でしか観測されていない、その山は立ち入り禁止区域になっており誰も入ることはできないようになっており、山頂付近は魔力の吹き溜まりと言われ恐れられたいる。
ミャマーさんは俺の世界の山頂でもないのに落ちる雷、台風の話、あたり一面真っ白になる冬の話を興奮気味に聞いていた、多分頭の中ではパニック映画みたいなのを想像していると思う。
「さあ着いたよ、ここは魔法陣が7つもあるお手軽ポイントなんだ、火・水・風・土・氷・雷・癒し、の7つだ、人によってはいくつも契約できる人もいるけど、中には一つも契約できない人もいるからね、もしもそうなっても気を落としたりしないでね」
魔法陣がある場所には職員の人がおり、カギの掛かっている扉がある。魔法契約ができるのは18歳からとなっており、勝手に子供たちが入らないようにするためだそうだ
人やカギを設置する理由はロクなことがないから、遊びで人のうちに放火したり、人に向かってぶっ放したり・・・うん、子供ならやりそう
「この魔法陣に魔力を流せばいいんだね?」
「うん、そうだよ、流し方は分かっているね? じゃー火の契約からしようか」
「了解」
魔法陣の中心に入り両手を胸に頭を下げる
『ブワン』と魔法陣の周りから膝丈ぐらいの炎が上がる、体の中に何かが入ってきたような感覚がする
「おお、やったねハヤト魔法の適正があったみたいだ、さあ次の魔法陣に」
続けて水・風・土・氷・雷・癒し、の魔法陣で契約するどれも膝丈ぐらいまでその魔法の特徴になる現象がおきる、癒しの場合は魔法陣が光っただけだった。
・・・・
・・
「んーっ・・全部契約できるとは思ってなかったよ、ハヤトは本当に魔法に対する才があるみたいだね」
順番に契約して行ったが、俺はどうやら適性があったようで、全ての魔法陣と契約が出来てしまった。
「全部契約できる人っていないの?」
「いないかな~、見たこと無いし‥‥知らないところでいるかもしれないけど‥‥‥でもな~」
うーん、うーんとしばらく唸っていたミャマーさんがさっそく外で試してみようと言い、一緒に建物の外に出る
「ここならいいだろう、前に水晶を渡したよね魔力を上げるためのやつ、それと同じように魔力を流すんだ、まずは指先から火を出してみようか、人差し指を出してそこに魔法が発動するようにイメージする、そうそういい感じで流れているよそこで詠唱するんだ」
詠唱が必要とは聞いていなかったが何故だか知っていた、契約時に頭の中に入ってきたのだろうか
『炎よ・・』
魔力が指先に集まり詠唱で具現化する、ライター程度の火が出る、炎というにはおこがましいが指先から出る火をみて全身に震えが走る
「おおぉ、おお、スゲェー魔法だよ、ミャマー見てよこの腕、鳥肌が大変だよ」
「ああ、とっても気持ち悪いことになってるよ」
興奮状態のまま次々に残りの魔法を発動させその全ての発動を成功させる、気分は大魔法使いだ。
今、地球とこの世界どっちに住みたい?と聞かれたら間違いなくこっちだ、地球の食べ物とかゲームとか未練はないか?
ある訳がない食べ物はそこそこ上手いしゲームよりこっちの世界の方がゲームだ
「ミャマー、『癒し』だけは怪我とか実際ないと使えないよね」
「うん、そう・・・あぁ、じゃぁこの僕の指のささくれを直してみてよ」
「ささくれも行けるのか、万能だなぁ」
ミャマーさんの指のささくれに集中し詠唱する
『癒しよ・・』
魔法を発動したつもりだったがミャマーさんのささくれが治ることはなく、少しだけ自分の手が光っただけで発動が終わってしまった
「あれ? 不発?」
「治ってないねもう一度やってごらん」
「うん・・・『癒しよ・・』」
詠唱と同時に手が光っただけで2回目もささくれを直すことが出来なかった
「・・・契約できなかったのかな」
「いや、発動は確認できたから契約自体は成功していると思う、治るイメージの不足とかじゃないかなと思うね、ま、用練習だね」
「そっかー練習か」
「それと魔法のことだけど、慣れると詠唱は必要なくなるからね」
ミャマーさんはそう言うと、こぶし大の大きさの火の玉を作り数メートル先の地面にぶつけた、
「ドン!」と音がして地面の土をえぐる
「凄い! 魔法使いっぽい」
フフッっとドヤ顔しつつ穴の空いた地面を土の魔法で元に戻すミャマーさん
「魔法は自分の好きな形に書き換えられる、イメージしてそれに合った詠唱を付け加える」
『炎よ・立ち昇れ』
一瞬だけ集中し詠唱するとそこには3メートルほどの火柱があった
「まぁこんな感じだね、これだって練習を重ねると詠唱は必要なくなるよ」
「ふわぁあ・・はぁぁぁあ・・・・すごいよミャマー凄い!これだよこれ、これが魔法だよ! 俺が望んでいた物だよ! かっこよすぎだろミャマーカッコイイよ!!」
「えっ?ああ、そう?そんなに凄かったかな?
「尊敬する人は? って聞かれたらミャマーって答えるよ!」
若干食い気味にそう答えると
「そ、そぉ? ま、まぁ本気を出すともっとすごいのが出来るんだけどね」
テレ顔のミャマーさんがそんなことを言い出す
「是非!」
「わかった!よーく見ておくんだよ」
その後調子に乗ったミャマーさんは次から次へと魔法を放ち、地面を穴だらけにし爆音を轟かせ砂埃をまき上げる、契約施設の近くでやっていた物だから、施設からと近所に住む人たちからの苦情が来る頃にはミャマーさんはすっかり魔力を使い果たしヘロヘロになっていた
苦情で頭を下げまくっていたミャマーさんだが、顔にはやり遂げたという誇らしげな表情を浮かべていた。
魔力がすっからかんになったミャマーさんは外の魔力を集め、荒らした地面を直していく、その時なにやら考え事をしているようだった、役所に帰った時この苦情の件で上司に怒られるのを心配しているのだろうか?
帰りの途中終始無言だったミャマーさんは急に
「これからもう一か所回ってもいいかい?」
「いいけど今度はどこに行くの?」
「召喚の契約魔法陣のところに行ってみようと思うんだけど」
「召喚!?」
魔法だけでも最高なのにさらに召喚とか
「行くよ! 召喚魔法とかも使えるようになれるんでしょ?」
「契約出来たらね、でもできる人は本当に一部の適正のある人だけだから、まぁ、出来たらいいなぐらいの気持ちでいた方がいいよ」
着いた場所はそこそこ立派な施設であり、さっきの魔法を契約した場所と比べ管理ではなく警備されている場所だった
「一般市民は立ち入り禁止だからね」
そう言うと、警備員らしい人に話をつけ中に入っていく
「こっちだよ」
中に入ると魔法陣が一つ、かなり大きく特殊な形をしていた、そして魔法陣の色は黄色だ
「ここで契約できる召喚獣は「イデラム」、伝言・情報などを離れた相手に伝えることが出来ます」
担当の人がそう説明してくれる、壁には魔道具で召喚獣イデラムの姿が映し出されていた
うーん虫っぽい、F1カーみたいな姿をしてるなー、伝言と情報か・・虫の知らせとかそんなのかな
「魔法陣の前で跪き手で魔法陣に魔力を流してください、召喚獣が出てきた場合は契約の儀式を」
伝言ねぇ‥‥あれしか思い浮かばないんだけどな~
言われたとおりに魔力を流す適正の無いものの場合は何の反応も示さない、ただ俺の場合は魔法陣全体が黄色く光った。
「きた!」
ミャマーさんが興奮気味に叫ぶ、この施設の担当のひとも「おっ!」と控えめに驚きの声を出す
光が魔法陣の上の方に伸びていき、魔法陣の中に煙のようなものが充満する、よくは見えないが何かが集まって形になっているように見える、体感にして30秒ほどだろうか、
魔法陣の光が消え、消えると同時に煙のようなものがゆっくりと外に流れ出す
その場にいる3人が固唾を見守る中ゆっくりと煙がなくなっていき
「クルッポー」
「「「えっ?」」」
三人の声が重なった、目の前にいたのは真っ白な鳩だった、後ろにいる二人はしばらく口をパクパクさせた後
「何だこの鳥は?」
「どこから入ってきた」
などと混乱しているようだ、でも俺には何故か分かるこれは間違いなく召喚獣だ、目の前にいる鳩は鳩特有のカクカクした動きで首を曲げたり傾げたりしながらこちらを見ている
この姿でイデラムって名前は合わないよなーそう思い、先ほど教えてもらった契約の儀式をする
契約の儀式をしようと鳩に向かって手を伸ばした時「えっ?するの?」と後ろの二人は驚いた感じだった、鳩の頭に右手をのせ
『力を欲す、召喚獣よ共に立ち我と契約を果たせ、ポッポ!』
瞬間、手のひらに魔法陣が浮かび上がり「召喚獣ポッポ」は光の粒になって魔法陣に吸い込まれていく。
「契約出来ましたよー」
と後ろを振り返ると
「あれが召喚獣?あんなの見たこともないんだが」
「あ、あんな召喚獣今まで・・こんなことは・・・」
ミャマーさんが驚きの声をあげ、担当の人がアワアワ言ってる、イデラムという虫型の召喚獣が出てくるのが常識なのに、出てきたのは白い色のした鳥、しかも名前は「ポッポ」と勝手に決められ、しばらく二人はあーでもないこーでもない、どーいうことなの?と暫く騒がしかった
◆◇◆
「失礼しました」
ガチャリとドアを閉める、自分の席に座って「ふーっ」とため息に近い呼吸を吐き出す
「こってり絞られたようだなミャマー?」
「まーね」
と苦笑い、ハヤトの魔法契約時に調子に乗って魔法を打っていたのを上司に怒られていたのだ。
「施設や住居の隣でドッカンドッカンやるからだよ」
「しょうがないだろう?カッコいいとか尊敬するとか言われたんだよ?いいところを見せたいと思うのが当然じゃないか」
「やりすぎなんだよお前は、というかお前の担当している子結構面白いことになってるんだろ?教えろよ、仕事が終わったら一杯飲みながらさ」
「教えられる範囲でならいいよ、上に怒られて僕も今日は飲みたい気分だからね、しかも教えられることはかなり楽しい内容だよ」
「期待してるよ」
ミャマーの同僚はそう言って自分の席に戻っていく
ミャマーは自分の机の引き出しから上(国)に上げる報告書を取りだす、
ハヤトは彼の証言によると、ここではない別の世界から来ていると言っているが、その証拠を示すものは少ない、証拠と思われるものはハヤトが倒れていたすぐ側にあったひしゃげた金属製の物、乗り物というのは彼の証言で分かったが、不思議な構造をしており彼の許可を得て解析しているが未だによくわかってはいないので、まだ別の世界があると断定も出来ない。
その彼には国からの監視が付いておりそれがミャマーの役割になっていた
ミャマーは今日あった出来事を報告書に書き込み、自分の印を押す、そこには
『ウエタケ ハヤト 召喚者の適正アリ』と書かれていた