50 ソルセリー家 前編
サコナ・ソルセリーは、ソルセリー家の三女として生を受ける、遥か昔、女神により直接魔法を与えられたこの家系は、代々その時代ごとの支配する国に仕えていた。
今現在、ソルセリー一族はハルツールに籍を置いている。
サコナは幼いころから父親に、「ソルセリー家の人間として、恥ずかしくない態度を常に取れ」と厳しく教えられていた。
ソルセリーの家系は特殊で、例え4人兄弟がいたとして、次世代にその『血』を伝えられるのは、兄弟の中で一番最初に子を授かった者が次世代に『血』を残すことが出来る、サコナの父は次男だったが、一番最初に結婚し子を授かったので、サコナの父の子達、つまりサコナを含む3姉妹が次世代の『消滅』魔法の担い手となる。
サコナの父親は4人兄弟で、父親以外の兄弟は既に戦死を遂げている。
「兄弟は名誉の死を遂げた、だから私は誇りに思う」
幼いサコナもその父親を見て、戦死した叔父・叔母の事を誇りに思うようになっていった。
ソルセリー家は軍により手厚い保護を受けており、サコナも今まで何の不自由をしたことはない、欲しい物があったらすぐに何でも買ってもらえた。
サコナは三人姉妹の三女で、上に二人の姉がいる、長女のミュール、次女のソルシア
・・・・・・
「お姉ちゃん待ってよー」
「サコナ、そんなんだと立派な軍人にはなれないよ」
長女のミュールが仕方ないと、足を止める。他の家の子と遊んだり女の子らしい遊びもせず、遊ぶと言ったら姉達と一緒に軍人ごっこをするのがサコナの楽しみであった。
軍人ごっこと言っても自分に合った重さのリュックを背負い、少し遠出をし、その先で保存食のパナンを食べるいわゆるハイキング
「お姉ちゃん達が速いだけだよ、サコナ疲れちゃった」
その場で座り込む、サコナはまだ余裕があるが疲れたアピールをする
「全くサコナはだらしない」
やれやれとため息をつく
「ミュールお姉ちゃん、そろそろお昼だよここらへんで休もうよ」
「あら、もうそんな時間? 仕方ない、ソルシアがそう言うんだったらここでお昼にしようか?」
「「 やったー! 」」
言っていることは厳しいが、サコナとソルシアには甘いミュールと、サコナと何かと考えが合うソルシア、サコナは二人の姉が大好きだった。
いつもいるわけではないが、たまに帰ってくる父親、今回はどんな任務でこんなに活躍をした。
など、自分の武勇伝をサコナ達に聞かせてくれた、三姉妹は目を輝かせ父親の話を聞いていたし、いつまでもこんな幸せが続くとずっと思っていた。
だが
サコナが軍大学に入学したその年、父親は戦死した。
大規模な戦闘で敗走し、部隊を逃がす為に『消滅』魔法を使いしんがりを父親が務めたという、父親の遺体はまるで拷問でもあったかのような様だった。
それでもキレイに修復したのだろうが、顔の原型は無く欠損している部位もあった、既に軍に入隊をしている長女のミュールも葬儀には出席をし、軍大学4年のソルシア、軍大学に入学したばかりのサコナに、母は‥‥‥‥
「3人共、お父さんは立派に自分の責務を果たしたの、貴方たちもソルセリーの名に恥じぬように努めさなさい」
母は涙も流さずそう3人に言った。父はソルセリーの名を汚すこと無く名誉の戦死をしたのだ、その時のサコナはそう信じていた。
・・・・・・
サコナが軍大学を卒業し部隊に配属されることとなった。
部隊と言っても通常の部隊ではなく、『破壊の一族』のためだけの部隊で、同じ隊には二人の姉も配属されている。
「サコナもこれで一人前の軍人になれたのね、おめでとう」
「貴女は意外と出来る子だから大丈夫だよ」
「ええ、もちろんよしっかりと責務を果たして見せるわ」
大好きな二人の姉と、また一緒にいれることが嬉しかったサコナ、次世代に子を残した父とは違い、まだ3人とも子供どころか結婚もしていないので、作戦に駆り出されることもなく後方待機の状態が長いこと続いた。
軍からは直接言われないものの、見合いの話が幾度となく3人に打診があった、しかし、何不自由なく、幾分我がままに育った三姉妹は、くる話くる話をことごとく断った。
「ソルシア、サコナ二人ににお見合いの話がきているわ」
「姉さん何で私たち二人だけなの? おかしいでしょ」
「そうよ、ミュール姉さんじゃなく何で私たちなの?」
「だってこの人顔がタイプじゃないし、だから二人にあげるわ」
次女のソルシアが見合いの写真を受け取り、チラリと見たあとサコナに渡す
「私もいい、サコナにあげる」
チラリと見るとサコナは興味を失い、無言でテーブルの上に置いた
三姉妹は、やれ顔が悪いとか、やれ家柄がとかで結婚どころか男にも興味を示すそぶりも見せない、あまりにも長い間そういった話が無かったので、実家にいた母親も心配して3人に手紙を送ったりもしていた
『‥‥3人もいい年だし、そろそろ結婚した方がいいと思います、お母さんも早く孫の顔が‥‥』
「母さんからまた手紙が来ているんだけど」
「内容は?」
「いつもと一緒、あ、でも孫の顔が見たいだって」
「そう言ってもねー、いい男がいないのよねー」
「そうね、仕方ないね」
「「ハハハ!」」
上の二人の姉はそう言ってはいるが、実は結構焦っているのをサコナは知っている、サコナも含めてだが三姉妹ともかなり理想が高い、そしてソルセリー家としてのプライドがそれに拍車を掛けて邪魔をする、ソルセリー家と同等かそれ以上の家柄でないと納得できない、そして彼女らはズルズルと婚期を逃しつつあった。
いつまでも仲の良い三姉妹一緒にいれると思っていたが、彼女らは軍人もちろん戦場に駆り出され命を落とすこともある、その仲の良い三姉妹に終わりの時が近づいていた。
◆◇
「ソルシア、いい? ソルセリー家の人間としてしっかりと任務を果たすのよ、この任務が終わったら、天使ネクターが美味しいって認めた喫茶店に行くんだから、絶対に帰ってくるのよ、じゃなかったらお仕置きが待ってるから」
「わかってるよ、姉さんとサコナの方もしっかりと任務を果たしてよね」
大陸東部にマシェルモビアが拠点を建設しているとの報告があり、ソルセリー三姉妹は前線に駆り出されることになる、主な任務は敵拠点の破壊、拠点はまだ完成されていないとのこと
軍はこの破壊作戦で2つの作戦を講じた、一つは敵拠点の破壊、これは長女のミュールが受け持つ、それと同時にこの敵拠点へと資材を運ぶための中継地点を次女のソルシアが受け持つ、ソルシアは軍艦に乗り、海から大陸に上陸そして西に向かい中継地点の破壊を遂行。
サコナはもしものための予備として、長女のミュールに同行することになった。
次女ソルシアが担当する中継地点は資材の一時保管用でしかなく、兵はそれほど配置されていないと予測、しかし万が一のためにハルツール軍は一個中隊を派遣する
長女ミュールが担当する、今回の主な目的である敵拠点の破壊には連隊が派遣される、万全の体制で軍もこの任務に当たった。
部隊の半分は目的地手前で待機、そして目的の場所までは少数で移動する、これは『消滅』魔法を使用する際、魔法が発動するまでその範囲から脱出しないとこちらも被害が及ぶから。
もし大部隊で移動した場合、混乱を招き撤退が遅れ自軍にも被害が及ぶのを防ぐためである。
それと、陽動の為の部隊も複数用意する。
軍はこれで作戦が成功すると思っていた、しかし、実際は違った。
まだ完成されていない敵拠点には、作業員が多く、兵自体はまだそれほどでもないだろうと軍は考えていた。
だがこの時既に敵拠点には旅団規模の兵が集結していた。
マシェルモビアは『消滅』の魔法の事を考え、地下にも巨大な基地を建設、むしろ地下の方がメインであった。基地の出入り口も無数ありどこからでも敵の後ろを取れるように通路を建設している。
そうとは知らず軍は敵拠点に向けて進軍を開始する、そして進軍の最中、最悪の報告が軍に入った、すぐさま姉のミュールとサコナにも耳に入ることになる。
・・・・・
・・・
・・
「ソルシアは本当に駄目な妹だね‥‥、私との約束も守れ無いとか失望だよ、あとでお仕置きしてあげなきゃ‥‥。」
「‥‥‥‥」
報告があったのは野営時、ソルシアが乗る軍艦がマシェルモビアの軍艦に撃沈されたと中隊長から聞かされた。
ソルシアが乗った軍艦はマシェルモビアの『潜伏・隠蔽』の掛けられた軍艦により奇襲を受け爆発、生き残りを救助しようにも『潜伏・隠蔽』を解除した時、敵軍艦の数があまりにも多く、救助出来なかった。
場所はまだ我が国の領海内だったので、竜翼機を飛ばさず『探知』もしていなかった。完全にハルツール海軍の失態であった。
まだ大丈夫、といった考えがこの結果を呼んだ。
戦争をしているので、いつかはこうなると頭の中では分かっていた、しかし実際そうなってみると、心の整理が出来ず、二人の姉妹は星明りの照らす中ずっと下を向いたままだった。
◇◆◇
「破壊の一族を守れ! 後方にいる部隊と合流するんだ!」
「駄目です中隊長、囲まれています!」
「無理にでも突破する! 一族を中心に入れろ‥‥突撃!」
次女ソルシアを失っても軍は敵拠点の破壊を決行した、そして拠点破壊の部隊は窮地に立たされている、敵部隊が後方に現れ奇襲を受けていた。敵拠点まではまだ距離がある場所で前後左右を囲まれた状態になっている。
「サコナ遅れないで!」
「分かってる!」
中隊長自ら先頭に立ち、敵軍の壁に穴を開けようとするが。
「あ‥‥グッ!」
それでも敵の数が圧倒的であり、敵兵を3人切り伏せた所で中隊長は真横からの攻撃に倒れた
「た、隊長! ‥‥お、お前達怯むな! そのまま進めぇ!」
「「「おおっ!!」」」
敵を突破するだけでかなりの兵を失ったが、何とか完全に囲いこまれる事だけは防いだ、だが、このまま都合よく逃げ切れるはずはなかった。
「召喚者!」
隊長の代わりに指揮権を引き継いだ副隊長が、3人の召喚者に叫ぶ、その声に頷いた3人は部隊の後ろに回り召喚を行った。
守られるべき召喚者だが、この場合『一族』を重視しなければならない、召喚者の3人もそれが分かっていて敵を防ぎに向かう
「ソルセリー姉妹はこのまま撤退しろ! いいか、これは命令だ! お前達『一族』を絶対に本国に帰還させろ、いいな!」
走りながらそう言い残し、副隊長は自ら、そして何人かが足止めに向かうため、後方に向かった召喚者達の元に走った。
「姉さん! 副隊長まで!」
「サコナ後ろを見ないで! 前を見て走りなさい!」
後方では魔法の音、武器がぶつかる音そして召喚獣の雄たけびが聞こえていた。




