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46 休暇 ③

 世の中にこんな可愛い子がいるとは


「ずっと会いたかったよネクター」

 俺が今できる、最高の笑顔でネクターの名を呼ぶ


「あれ? さっきと態度が違う!」


 約2年半ぶりぐらいにネクターと再会した、ネクターは女性の姿をしており、今まで見てきた女性の中でダントツに可愛かった。

 姿を見ているだけで頬が緩んでしまう、しかし残念なことに、着ている服装が男物だった。前回会った時と同じ服装なのに、何故ネクターと気づかなかったのか? 俺一生の不覚。


 これで女性用の服装だったら、どれほどの破壊力を持っているのか‥‥‥


 ‥‥‥いや、待てよ


 男物の服装、これは男性の姿だった時のネクターと同じものだった。

 ってことは‥‥下着も男性用なのか? ブリーフ派なのか? もしくはトランクス派なのか? 考えると少し興奮してくる、女性の姿をしたネクターが男性物の下着を


「ハッ!!!?」


「は? 何?」


 上は! 上は着けているの? 男性物の服装だから当然上は‥‥付けてない!


「ねぇ? さっきから何か変な事考えてない?」

 半目で睨んでくる


 変な事? ‥‥全く考えてないな、下着はどうなっているか真面目に考えているだけだし


「変な事なんか何も考えて無いけど?」

 どうかしたの? と不思議そうに答えてみる


「そう? 嘘は‥‥‥‥ついてなさそう、だね」


「俺がネクターに嘘をつくはずがない」


「ごめんね、変に疑っちゃって、それより懐かしい仮面を付けているんだね、八百年くらい前に流行った型だよね」


 へー、そんなに古い物だったのか、よい買い物したな

「懐かしいってことは、この仮面って何かは知ってるの?」


「うん、結婚している人同士が、新しい恋人を作る為に付けていた仮面だよ、それを付けた人たちが大勢の人達が集まってパーティーをするんだ。最近は目のとこだけ隠す仮面とかが流行りだったと記憶してるけど」


 ‥‥不倫パーティーに付ける仮面でした


 この仮面を見た人によく

「その仮面は?」

 とか聞かれていたけど、その人たちが言いたかったのは

「その仮面は何ですか?」じゃなくて

「何で不倫パーティー用の仮面を付けているのか?」って意味だったのかもしれない


 なぜこの人は不倫用の仮面を付けて出歩いているのだろう? そう思われていたのかな? だとすると赤っ恥どころか変んな人扱いを受けていたのかもしれない。


 何で周りの人は教えてくれなかったんだろ?


「それはいいとしてさ、この前の喫茶店行こうよ、あれ結構おいしかったんだよね」


 2年以上前の事を、『この前』って言っちゃうこの天使は、やっぱり長く生きてるんだなーと思った。時間の感覚が人とは違う


「分かった一緒に行こう、俺が提案した新しいメニューもあってね、これが結構おいしいんだよ」


「ホントに? じゃあすぐ行こう売り切れちゃったらガッカリだから」


 ネクターは待っていられないと言わんばかりだ、俺はミラの骨の入った小瓶を見つめ

 

「また来るよ」

 小さく呟きその場を後にした。


 ・・・・・・


 ・・・・・・


「この前の時と店が変わってる‥‥」


 俺も最初見た時は驚いたが、ネクターも同じように驚いていた、俺達の周りにはネクターに祈りを捧げる人たちで、人だかりが出来ていた。


「ちょっとゴメンねー、この店に用があるから」

 人だかりを掻き分けるように店に入っていく


 カラン  カラン


「い、いらっしゃいませ!」


 店の外が騒がしかったせいで、俺達が来ることが分かっていたらしく、オヤスがドアの前で待機していた。


「どうぞこちらへ、個室の方へご案内します」

 外の席もそうだったが、店内もなかなかの賑わいを見せていた、店内にいたお客がネクターに向かって祈りを捧げている、そしてそのまま個室の方へと案内された


「苦パナンのセットと、グースセット、それにトロンアイスを二つね」

 ネクターの分まで注文をする、出来る男を演じないと。

 注文の最中、ネクターがピクッと反応した、


「いいの?」

 ネクターが首を傾げて聞いてくる


「何が?」

 首を傾げるネクターは可愛い


「いや、グースって言ったよね自分で、メニューにもグースって乗ってるし‥‥」


 そのことか

「全く気にならないけど」


「そう‥‥君がいいなら別にいいんだけど」

 トロンアイスか~楽しみだな~、なんて言いながらニコニコしている、全てにおいて可愛いまさに天使、実際天使だけど。


 以前から、今度ネクターに会った時にこうしようと決めていたことがある、それは、徹底的に女性の扱いをすること


 前にどこで見たのかは忘れたけど、歌舞伎の世界では、男性が女性の役をする女形と言われる役どころがあるという、もちろんその逆の男の役、立役ってのがある立役の人は、女形の人と一緒に仕事をして行くうちに、いつの間にか普段でも女形の人を、本物の女性と同じに扱うようになってくるという

 具体的には重い物を持ってあげたりとか


 女性だけの有名な劇団で、お宝図鑑歌劇団でも同じことが起きるという、男役の人が本当の男のように振る舞い女役の人を気遣ったりとか


 ネクターは男の姿にもなれるし、目の前にいるように女の姿にもなれる、しかし心は男寄りだ。

 だが、徹底した女性扱いをしたらその内、心も女性に近づくのではないか?


 そう思い、部屋に入ったらネクターの座る椅子を引いてやろうと考えていたが、残念なことにこの部屋の椅子はソファーだった、最初から計画が頓挫してしまう形になってしまった。


 それはそれでいいとして、お墓参りをした時に現れたネクターに、丁度いいから一つだけ聞いてみたかったことがある、こんなのは本来聞いてはいけないのだろうけど‥‥


「ねぇネクター」


「ん? 何かな?」

 ニコニコした顔のままコチラを向く


「さっき俺がお墓参りをしていた人って、もう生まれ変わることが出来ているか分かるかな‥‥」

 その問いにネクターの顔はスッと真剣なものになる


「人の魂は死んだら消滅するよ、生まれ変わりなんかしないんだよ」


 えっ?‥‥‥‥


 慌てて即座に扉の方へ視線を移し、生命探知を掛け周りに人がいないか確認をする


 これ、聞かれてたらまずいやつだ


「大丈夫だよ、音が漏れないようにしているから」

 ネクターは少しだけ笑う


「生まれ変われると信じているから、人はそのまま消滅できるんだろうね」


 ちょっとだけ分かったら嬉しいかな~、ぐらいの気持ちで聞いただけだったのに、とんでもないことを聞いてしまった、教会に知れたら世の中がひっくり返るかも。


「人の魂はね、とても脆いんだよ、一旦肉体から離れると、もう一度肉体を得る力は残ってないんだ。その地点で本人がもう十分だと思ってしまったら、魂はそのまま大気に霧散してしまう、そうやって今度は生きている人達の役に立つんだよ、こうやってね」


 そう言い、ネクターは自分の指先ににユラユラと揺らめく小さな炎を出して見せた


 ‥‥‥‥?


 ‥‥‥‥

 

 ‥‥‥‥!!



 あっ、どうしよう‥‥さっきよりもトンデモナイ事を聞いてしまった。

 じゃあ大気中にある魔力ってつまり‥‥‥‥


「そ、そんなこと他の人に知れたら本当にまずいんじゃないの」


「そうだね、大変なことになるだろうね~」


「何で俺にそれを教えるの!? マズイでしょ!?」


「そお? だって君は元から考え方が違うでしょ? 1年で生まれ変わるって信じて無かったみたいだし、だからさっきお墓で、また来るよって言ってたでしょ?」



「失礼します」

 その時ちょうどドアがノックされ、注文していた物が運ばれてきた、聞かれてないか? と心配したが、目の前のネクターがニコッとしたので大丈夫だろう。


 

 死んだら魂は大気に霧散する、つまり極端な話、そこら中に散った魂があるってことか、の神ならず、八百万の仏みたいな‥‥‥でも魔力になるからその例えは間違っているか。


 そうか、生まれ変わったりはしないのか‥‥


「やっぱり美味しいねこれ」


 いつの間にかネクターは食べ始めていた、ご満悦のようだ。俺も二日連続の苦パナンサンドを口にする


 あれ? 昨日と違う! これは‥‥美味いぞ!


 理想の程よい甘さの苦パナンサンドを口にした、昨日の今日で味を変えてくれたのか、凄いなオヤスは、あとでお礼を言っておこう、お礼よりも儲けになるようなことの方がオヤスは喜ぶかな?


「ねぇ、君のは味が違うの? グースセットって言ってたよね」

 いつの間にか食べ終えたネクターが、今度は俺のを狙っているようだ


「甘さが控えめの‥‥、超控えめのやつだよ」


「へぇーちょっとだけ食べさせてよ」

 

 いいよと、皿ごと目の前のネクターに差し出そうとしたところ、ネクターは「サッ」と立ち上がり、俺の隣に移動してきた


「あーん」

 大きな口を開けて待っている


 えっ! いいんですか!?


 目を閉じ口を開けたまま動かないネクター、目を閉じたネクターの顔を絶対に忘れないよう、脳に焼き付けるようにしながら苦パナンサンドを口に持っていく、唇のどんな動きも見逃さないよう集中する、ネクターの口が閉じられるエロさを凝視しながら、今日一日で一番幸せな時間を過ごしていると実感した。 


 が‥‥‥


「べぇぇぇぇぇぇええ!」

 ネクターの口から苦パナンサンドが吐き出される、ギリギリまで近くで見てい俺はもろに仮面にかかってしまった


「にがーい! あっ! ごめん!」


「大丈夫大丈夫、ほとんど仮面に掛かっただけだから」

 とは言ったものの、仮面の目の部分は元々空いているので中にまで入って来ていた、『洗浄』を掛けようとしたが、ネクターはかなり慌てていたのか、俺の仮面を外し、自身の持っていたであろう布で俺の顔を拭きだした。

 拭いてもらうと幸せな気分になるので大人しく拭かれている。


 暫く、ごめんごめんと、顔を拭いていたが

「‥‥ねえ、何で君からマシェルの匂いがするの?」


 マシェル?

「マシェルって女神マシェルの事?」


「うん、そ‥‥威圧は! 何で威圧が出てないの?」


「威圧がでてない? そう言われても俺には分からないんだけど」


 ネクターは不自然なほど俺に近づき、顔を寄せてきた、段々と顔が近づいてきて、そして俺の唇とネクターの唇が‥‥


 チューなの? ここでチューしちゃうの? 俺もネクターの方に顔を寄せそして唇に‥‥


 触れる寸前にネクターは俺の額に自分の鼻を押し当てた、そしてクンクンと匂いを嗅ぎだしている


 違うだろうなーとは思ったけど! 分かってたけど! あっ、でもこれもいいかも!


「‥‥マシェルに威圧を解除してもらったの?」

 なんて言いだす、マシェルにって言われても


「女神マシェルに会ったこともないのにどうやって‥‥実際の顔も知らないのに」


「一昨日か昨日あたりだと思うけど、心当たり無い?」


 一昨日か昨日ねぇ。


 ‥‥‥‥


 ‥‥‥‥まさかね


「ゆ、幽霊なら見たけど」


「どんな姿だった?」


「長い黒髪で、黒のロングドレス来てて、体が少し透けてい━━」


「それマシェルだよ、そうか、だから昨日から謹慎受けてたのか」


 今、謹慎って言った? 神様が? 冗談だろうか、それとも何かの隠語かな


「マシェルが来て直接威圧を解除していったんなら、それで大丈夫? なのかな‥‥」


 あの幽霊が女神マシェルなの!? 本物なの!? いや、それとは別に気になること言ってた

「威圧を解除ってどういうことなの?」


「そのままだよ、君からはもう威圧が出てないんだよ」



威圧が出てない? あれほど努力してもどうにもならなかったあの威圧が? これで普通の生活が出来るようになるのか?

 

「もう威圧が出ることは無いってことでいいんだよね?」


「そうだよ」


 あぁ‥‥、やっと、やっと解放される日が来たのか‥‥

 これで何不自由ない行動が出来るのか、そういえば今日、他の人に怯えられた記憶が無い、威圧は‥‥消えたのか、そうか‥‥


「ネクター、女神マシェルにどうかお礼を伝えてほしい、ありがとうございますって」


「分かったよ、でもいいの? 君兵士でしょ、威圧があった方が色々便利だと思うけど?」


「いや、普通の生活にも困っていることがあったから、助かるよ、本当に助かる」


 ほろりと涙がでそうになった、女神マシェル、明日から毎日教会に行ってお祈りをしよう、女神マシェル


 あ! そうだ


「あの、この国での敵国はマシェルモビアって名前なんだけど‥‥、その‥‥

 以前からちょっとだけ気になっていた事があって、「マシェルの兵」なんて言い方していたけど、それってどうなんだろう? 「モビアの兵」とかって言った方がいいかな~と思ったんだけど」


「そのことか、結構前にもおんなじこと言われたけど、マシェルはまったく気にしてないよ」


「あ、そうなんだ」


「君だってグースって言われても気にならないでしょ?」


 まぁ、ね


 ・・・・・・


 その後トロンアイスが出て来て、最初は


「トロンてあの美味しくないやつだよね」

 なんて言っていたけど、一口食べたら絶賛していた


「また一緒に来ようよ」

 と、テンション高めに言ってくるほど喜んでいた


 アイスを食べ終わった時

「ところでさ、さっきも聞いたけど、マシェルがこの格好で君に会いに行けって言った理由とか知ってる」


 と言われたので

「それはね俺が教会でお願いしたからだよ、それを叶えてくれたんだね、ただ、出来れば今流行りの露出が激しい可愛い服だったらもっと嬉し‥‥  あばばばばばばば!!!!!」


「君‥‥だったんだね」


 ネクターは思いっきり威圧を当ててきた


 ◇◆◇◆◇


 参った、完全に押し切られてしまった


 ハルツール軍、参謀の一人タクティアは自身が使っている一室の机の上に伏せていた。


 『破壊の一族』その最後の一人を軍は、最前線に配置し敵要塞の破壊に使用する事を決定してしまった。

 ハルツール軍の最後の切り札、本来なら、そうやすやすと最前線にだすようなことはしない、しかもその一族の最後の一人を前に出すなどと‥‥‥


 タクティアは猛反対したが、前線で運用することを望むものが多く、数で押し切られてしまった。


 この世界での最大の破壊力を持つ魔法を扱える一族、しかし発動には色々と問題があり、実際は抑止力位の効果しかない、ただ今回の決定は、ハルツールが持つ最大の抑止力さえ失ってしまう事態になる可能性がある


 タクティアはその事で頭を悩ませている、しかしそのせいで、本来のタクティアなら疑問に思ったであろう案件がもう一つ、机の端の方にその報告書が弾かれるようにあった。



『召喚獣消滅の件について』  


現在、マシェルモビアの兵に攻撃され、一時的に召喚出来なくなった召喚獣が、再度呼び出せない状態が続いている召喚者が、数人確認されている‥‥‥‥




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