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「兄さんよく飽きないでやるよね、めんどくさくない?」
「全然、この時間が一番楽しいんだよ、ハヤトもたまには自分のやつ位やったらどうなの?」
「手が汚れるしめんどい、どっちみち兄さんがやってくれるでしょ?」
「お前ねぇ・・・まぁやるけれども」
目の前では、「三度の飯より好き」という自分のバイクを整備している兄がいる
一度乗ったら、ホイールやらマフラーやらを隅々までキレイにしないと気が済まない、乗るよりも、いじる方がいいらしく、バラして組んではニヤニヤ、洗車しては周りを一周して「フフッ」なんて笑っている、気持ちは分かるが気持ち悪い。
俺のの原付バイク(スクータ)も、お世話になったりしているので、気持ち悪いとかは絶対言えない、言ったとしてもとくに気にしたりはしないだろうけど。
子供のころから心臓が弱く、すぐに息切れしたり痛みがでたりする、分かっていることは、鼓動が不規則というのと原因は不明ということ、医者からは一生この心臓と向き合わなければならない、と言われ、小中学の体育の授業は見学のみ、小さい頃は同年代男子の友達と一緒に外で遊ぶことがあまりできなかった、おのずと自分の居場所は室内になる、そうなると外で遊ぶよりも中で遊ぶことの多い女子と一緒にいることになるんだけど・・
バイクのブレーキ辺りをいじくってた兄さんが、そういえば・・といった感じで話しかけてくる
「来週の連休にさ、洋子がくるってよ」
「またかよ! この前きたばっかじゃん!」
「旦那の会社も休みだしせっかくだからーとか、父さん母さんの顔が見たいーとかだって」
「義兄さんの方の実家に行けよ、なんでウチにばっかり来るんだよー」
「まあ、そう言うなって、旦那の方の実家だと姑とかなんとかでアレなんだろう?」
「何か庇ってるように聞こえるけど、兄さんは洋子が帰ってきてうれしいの?」
「んー、迷惑」
「でしょ?」
今この家にいる家族は、両親と4つ上の兄、そして俺こと現在大学生の『上武 隼』の全部で4人、お爺さんも一緒に住んでいたらしいけど、小さい頃のに病気で亡くなったらしく覚えてはいない、やればできる、気合で何とかするっていう考え方をする人で「大和魂」が口癖だったみたいだ。
兄さんはそのお爺さんの影響を強く受けたらしく、気合で何かをする時、誤魔化すときなんかは「大和魂」を使っている。
そして、今は結婚して家を出て行った、7歳年の離れた長女の洋子だ。
外で遊ぶことができない自分の遊び相手になるのは、洋子が一番多かった、遊び相手といっても洋子からしたら自分は玩具だったと思う。
着せ替え人形といった方が合ってるかもしれない。
まだ幼稚園児で、いつも遊んでくれるお姉ちゃんのことが好きだった頃、じっと俺を見ていた姉が「はっ!」っと思いついたかのように自分の部屋に戻ったかと思うと、姉が子供のころ着ていた服をタンスから取り出して来て「これを着てみて」と言われ、
スカートをはかされ、母の化粧道具で化粧させられた『かわいい』『かわいい』と姉は喜んでくれてる、そこまで喜んでくれたら自分も何だかうれしくなってくる。
そしてその女装した俺を散歩に誘った、大好きなお姉ちゃんと二人で外に出られるのだから、うれしくてうれしくてたまらない、二人ともニコニコ笑顔で歩いていた・・・が、そこでバッタリ会ったのが、同じ幼稚園の中村君、目が合った瞬間中村君はビクッ!としてしばらく固まった後
「オトコオンナだー!!!!!」
と大声で叫びダッシュで走って行ってしまった、何が起こったか分からずパニックになってしまい、大泣きに泣いてしまった自分を見て
姉は大爆笑していた。
その時ぐらいから『洋子』と呼び捨てで呼ぶようになった。
洋子は何かにつけてその時のことをほじくり返す、両親や親戚なんかがいる場所で
「ハヤトは女装が好きでねー」
なんて言ってくる、俺が二十歳になった今でもだ
「お前がやらせたんだろうがぁぁぁぁぁ!!」
と、洋子に掴みかかり顔面を何度も何度も殴りつける、ごめんなさいをしても許さない、
倒れた洋子を今度は蹴りつける、それはもう何度も何度も何度も・・・・・・・
という妄想をしつつ、苦笑いしかできない自分が悔しい、そんな度胸もないしぃー胸も苦しくなるし、このほかにも色々と洋子関連の話はある、
兄さんも秘蔵の助兵衛な本を見ているのを見つかって、家族の団らんの時にでバラされたり、下半身だけ裸の時に部屋に入られ、何をシテイタかまでは分からないが、家族の団らん時にバラされたり
、そんな訳で、兄さんも洋子のことが苦手だ「ああゆう感じのおばちゃん、ウチの会社にもいるんだよね」蒸し返されるたんびにボソッと俺に言ってくる、要するに俺も兄さんも姉である洋子が好きじゃないってことだ。
[ちなみになハヤト、その日俺いないから」
「なんで?」
「一週間の出張だよっ」
「トーチャンカーチャンと俺だけか、間違いなくターゲットなっちゃうじゃん」
「こういうときは大和魂で乗り越えろー」
「そんな便利な魂持ってないし、はぁ・・・俺もどっかに行きたい」
兄から耳を塞ぎたくなるような報告を受けてフラフラとその場を後にする
今から気が重い「はぁ・・」もうため息しか出てこないよ
「はぁ・・・」
兄が出張に出かけ、同じ日に親戚の結婚式で両親が泊まりで出かけて行った
平日に結婚式とはどうなんだろう、結構多いのかな?
ともあれ、今は夜の23時、家に一人きり何をするにも自由だ、とりあえずコンビニおにぎりで腹ごしらえ、そして兄の部屋に侵入してゲームでもしょうか
長男特権で兄の部屋には娯楽が多い子供のころからあれこれ買ってもらっているし、社会に出てからは自分の給料で色々買いあさってる、この家のテーマパークだ。
一方俺の方は現在大学生、親からの小遣いでやり繰りしている、コンビニのバイトをしたことがあったけど、あれはあれで結構きつかった。
レジ打ちだけだったけど、しゃがみ込みたくなる位辛かった、俺の体のことを知りつつ雇ってくれた店長も
「そこまでだとは思わなかった、人手が足りないからいてくれると有難いけれど・・でもね・・」
と、やんわりとお断りされたことがある、4時間でバイトをなくしてしまった。
そう考えると、この先自分は仕事が見つかるのか、見つかっても出来るのか分からず不安になってしまう、
ともあれ今は、『上武家のテーマパーク』こと兄の部屋で、音楽を聴きながら雑誌を読み漁っている。
バイク好きの兄らしくバイク関連の雑誌が多い、自分も兄の影響かバイクが好きでページをペラペラとめくっては、「あっ いいなこれ」「これもなかなか」などと独り言を言ってしまっている
「あーやっぱり大型いいなー、就職して給料もらったらローンでも組んで買っちゃおうかなー、自動二輪の免許も取らなきゃいけないし、でも就職かー‥‥‥んー」
あれ‥‥、兄さんが今いないから少し借りて乗っても、バレないんじゃ‥‥
・・・・・・
・・・・
・・・
体が全く動きません、死後の世界というものでしょうか、顔が少し左の方を見ていて動かそうとしても動かない、痛みはあるようで無いような気がする、頭を打った気もするしそれで痛くないのかも
目の前に見えるのは、一言で言ったら、『少し開けた森』だ、申し訳程度の花も少々咲いている
目の前の交差点の信号が赤だったので、ブレーキを掛けたのに効かなかった、
確か、兄さんは出張に行く前にブレーキをいじっていたな‥‥
交差点で轢かれたのに今いる場所は森、もう天国しかない、生まれてこの方悪いことなんかしたことないし、バイクだって盗んだんじゃなくて借りたんだし、そうだよ悪いことしてない、してない
そう、自分に言い聞かせて・・・・・あぁ・・・無理だなー、無理があるなー、
兄さんに申し訳ない、大事なバイクを壊された上に、弟の死んだ原因が自分のバイクだもんなー
「ブレーキさえちゃんとしとけば」とか思い悔やんだりするのかな。
ごめんね兄さん
いろんなことが頭の中でグルグルと回ってていた時、胸の上に何かが触れている感じがした、とても暖かくて少し心地よい、自然と目を閉じ息をゆっくりと吐く
んーなんだろ、お迎えかな? 天使とか、女神様とか、できれば美しい女神様なんかだと嬉しいなー
そして、そっと胸から手が離れていく、もっと触って欲しかったので少し残念に思う、出来れば顔だけでも見たいと、まぶたを開き首が動かないので目だけで右をみた
そこには目が大きく、野性的でとても健康そう、顔色は緑かかっていて艶々している、彫りが深くて、頭に2本角がある筋肉隆々な方がそこにいた
ん・・・・あー知ってる、これって鬼だよね、
地獄じゃないですか‥‥
無免で勝手に兄のバイク乗ったのがダメだったの?たったそれだけで地獄行き? そりゃーないよ神様、ちょっとあんまりじゃないですかね、厳しすぎませんか? 一回です、よたった一回、それだけです、ちょっと借りただけですよ
じっと俺のことを見ていた鬼? が、手に持っていた木材をゆっくり振り上げる
その丸太っぽいのどうするの?振り下ろしたりしないよね
神様助けてお願いしますもう悪いことしませんから
俺が神様に懇願していた時、鬼の腕が
ボッ!
と破裂する、そして、ビチャ!っと少し暖かい液体が、俺の口元から額にかけて飛び散った、
うわ、何か飛んできた
鬼は、大きな悲鳴を上げた後、俺から目を離し何やら走っていった。
そのあとに響く声らしいもの、何かの爆発音、悲鳴、金属音などが次々に聞こえてくる
そうこうしているうちに、俺の体から力が抜けていくような感覚がし、視界が暗くなっていく、
もう眠くなってきたような‥‥ここって結局‥‥
意識が遠のき始めた瞬間
「F&0b”! G<*e6UⅢD?」
と女性の叫び声が耳に届いた、そして俺の胸の辺りが光ったかと思うと、体の中にお湯を入れられた暖かい感じがしてくる、そして一気に体中に駆け巡った、暗くなっていた視界も瞬時に見えるようになった。
目の前には先ほどの鬼ではなく、茶色で長い髪で、今まで見たこともない整った美しい顔立ちの女性がこちらを見ていた、年は20代前半だろうか?
これはあれだ、天国に間違いないだって目の前にいるのは間違いなく
「・・・女神さま・・・」
そう言葉を口にした俺の意識は深いところに落ちていった。