18 初めての魔物
移転門より北方に向かい、2日間かけ2つ目のキャンプ地に到達、そのままその日はキャンプ地で夜を明かし朝を迎えた。
キャンプ地の周りには魔物避けの簡単な柵がある、キャンプ地は砦・要塞などと違い、通路的な役割を持っているのと、周りに出没する魔物は弱い物ばかりとなるので、堅固な壁などは必要ない。
それ以前に寄りつく事が無い
そして敷地内にはテントが並ぶ宿泊用、武器などの貯蔵、医療施設など、その中で一番大きなテントには簡易の司令室があり、カナル隊の隊員はその前で待機している。
ボリボリ‥‥‥‥
「ほーら! 取ってこい」 ワオン!!
「へー、可愛いもんだな」 ナデナデ
目の前では、オル&トロスに癒されたい人たちが集まり、ワイワイしていた。
棒を投げ取ってこさせる者、それを見て「賢いなー」と感心する者、ひたすら撫でまわす者、これから戦場に行く兵士たちにとっては、こういった時間も大事なのだろう、心を落ち着かせるという意味では。
ボリボリ‥‥‥‥
カナル隊長が、詳しい任務の内容を聴くために簡易指令室に入る際
「ここで待機するように」
と言い残してテントの中に入っていった、契約をしてから三日ほど召喚しっぱなしのオル&トロス、最初俺の足元にまとわりついていたが、そのうち飽きたのかキャンプ地内を走り回り出した、見た目の可愛さのせいか、キャンプ地にいる他の部隊の人たちが集まり出し、目の前のワイワイに繋がる、
別にそれはいい、うちの召喚獣で和んでもらえるならいくらでもしてもらいたい。
ただ残念なのはその中にウチの隊員も含まれていることだ。
ここで待機しろと言われた筈なのに‥‥あのワイワイの中に混じっている、勝手に遊び惚けてもいいのだろうか規律もへったくれもない、俺という新人がいるのにこれは教育上どうなんだろうか。
「ハヤトはダイモが好きなのですか? 生でそのままかじっている人は初めて見ましたよ」
ボリボリ‥‥‥‥
待機と言われたのに、その場で普通にダイモを食べている俺も大概だとは思うが、
ちなみにダイモとは、バナナのように皮がむけ、中身はまんま大根。
「故郷にある野菜の味に近いんですよねコレ、まぁ、故郷でもそのまま生でかじる人はいませんね」
隣にいるタウロンが俺のことを不思議そうに見てくる、
バサッ
テントの入り口が開き、隊長が出てきた。
『サッ!』っと隊員たちが位置に戻ってくる、俺も『サッ!』っと、食べかけのダイモを『収納』に隠す、ここで大誤算、口の中に食べかけのダイモが残っており、できるだけ音を立てずバレないように咀嚼する。
ゴックン!
「よし、お前たち今回の任務が決まったぞ、とは言っても最初から決定していたがな! これよりカナル隊は第2キャンプ地より西方に移動、座標は2-4-349-1020だ。
魔物を殲滅しつつ、今回の目的地である洞窟を調査、場合によってはそこで発生した魔物の処理、質問は?」
・・・・・・
「よし、無いな! 準備が出来しだい出発だ」
準備の方はほとんど済んでおり、念のための確認だけすませ第2キャンプ地をあとにした。
目的地までは大体300㎞、軍用車で移動できる道があれば2日程で付くが、魔物の食滅もある為、徒歩で移動をする。
片道余裕をもって徒歩で10日ほどの計画だ、洞窟の調査の任務はそこそこの頻度で出されているらしく、そのため野営をするための開けた場所が所々にあるらしい、無い場合は自分らで木を切り倒し確保する、出てくる魔物も弱い個体が多く任務としては楽な方にあたる。
「ハヤト、隊列の説明をするぞ」
「お願いします」
キャンプ地をあとにして、しばらくしてからカナル隊長が行軍について説明した
「まず隊の先頭はオリバーが担当する、そのすぐ後ろにはタウロン、タウロンは『探知』魔法が使えるから魔物の索敵を担当する、索敵出来る範囲は50mだ。
オリバー、タウロンから10mほど後方にお前と回復魔法が得意なニーアが付く、その左右に10mほど離れたブライとミラだ、お前の後方10m離れ俺が付く、移動時には常にこの形で行く」
「了解しました」
召喚者と回復魔法を使えるものを、守るような陣形を保ち隊は西に進んでいく事になる、隊列を組んだカナル隊は目的地に向け移動をしていった。
・・・・・
・・・
途中休憩中のタウロンが
「私たちにも、ついにこの隊列を使うことが出来る日が来たんですね」
感慨深いものがあるという感じだった、それは他の隊員も同じのようで、オリバーの目尻からは一滴の涙が頬を流れていった。
西へ西へと進み、初めての魔物との戦闘になったのは4日目のこと。
「前方に反応あり、数1」
タウロンの探知魔法に反応があった、周りは森、視界が極端に悪い、姿勢を少し下げゆっくりと前に進んで行く、森に入った時点であらかじめ『収納』から武器を取り出しているので、右手には軍から支給された刀がある。
緩衝地帯には魔物がいる、当然その魔物との戦闘がある、当然分かっていたが、実際に今それが行われようとなると、体は震え、それが止まらない。
武器を持つ手に汗が滲み手から滑り落ちるような感覚を味わい、何度も武器を握り直す。
「心配しなくても大丈夫だから」
隣にいるニーアが二カッと笑う。
「最初は皆大体そうだから」
焦ることもなく、ただ歩いているだけのニーア。
ガサッ!
前方、オリバーの前の茂みから小さな生き物が飛び出したのが見えた、それをオリバーが剣の腹で叩き落す。
バチン!!
と音がし、小さな生き物は地面に転がる、それをタウロンが細身の槍を2本取り出し、ソレの腕に向かって2本とも突き刺した。
更にもう2本取り出し、今度は両足に突き刺す
「ギャアアアアアアアア!!」
断末魔に近い悲鳴を上げる小さな生き物、俺はその声に耳を塞ぎたくなる
「ハヤトこっちに来てください」
「ね、大丈夫だってでしょ、ほら行くよ」
タウロンに手招きされ、ニーアにパンと背中を叩かれ、4本の槍が突き刺されている物のそばに寄る、そこで苦しんでいたのはゴブリンだった。
ゴブリンとは、体は黒みがかった緑色で人間の5歳児ほどの大きさを持つ、雑食であり、雑草から腐った肉まで何でも食べる、石やこん棒、中には刃物を用いて狩りをしたりもする、
家畜や子供などが狙われることも稀ではあるが起こることがある、集団で行動することが多く、囲まれると大人でも危ない。
ゴブリンは、両腕両足を槍で地面に縫い付けられギャーギャー騒いでいた、すると俺の目の前にカナル隊長が一本の剣をだしてきた。
「ハヤト、やれ」
俺は渡された剣を受け取り
「わかりました」
ブスッ! グリッ!
受け取った剣をそのまま心臓に刺しそのまま捻る、ゴブリンは一瞬だけ声を出した後、暫く痙攣していたが、すぐに動かなくなった。
未知の生物に対しての恐怖を抱いていたが‥‥
弱っわ! 雑魚じゃないすか、びびって損したよ
そしてゴブリンを刺した剣をカナル隊長に返した。
しかしカナル隊長は剣を受け取りもせずポカンと口を開けたまま動かない。
?‥‥ああ、そうか
『洗浄』
魔法で剣に付いた血を洗い流す、『洗浄』は武器や防具をキレイにするだけではなく、自分の体もキレイに出来るので、軍人だけではなく、一般の国民にも必要と言えるほどの魔法だ、これが出来ることで風呂が必要なくなる、部屋を借りる時なんかも風呂があると高くつくので、この魔法が契約出来る人は生活費を安く抑えることが出来る。
「すいません気づかなくて」
キレイになった武器をカナル隊長に差し出す、使ったら洗って帰さないとね。
「‥‥あ、いや‥‥そうじゃなくて‥‥随分あっさり殺すんだな」
「え? もうちょっと苦しませた方が良かったですか?」
「いや、そうじゃないが」
「違うよハヤト」
後ろで見ていたニーアが、ヒョイっと俺の横に出てきて説明してくれた
「ゴブリンはね、新兵にとっての最初の殺しなんだよ」
その言葉で何が言いたいか理解できたが、そのままニーアの話を聞く
「見た目が人っぽいから、ゴブリンで慣れろってことなんだよね、そこで躊躇したら反撃を食らうかもしれないし、マシェルの兵だったら尚更だからね、てか、ホントあっさりやったね、あたし達でも最初はためらったのに」
「魔物の殲滅が今回の任務だったし、別に殺すことにためらいは無いですよ」
「それは人でも同じことが言えるか?」
隊長が問いかけてくる
「うーん‥‥」
人を相手にか‥‥‥‥
目を閉じ考えてみる、ゴブリンを刺した時の感触はまだ手に残っている、それを人に対して同じことが簡単に出来るのか?と問われると‥‥結論は分からないだ。
「まだ経験してないからなんとも言えないですね」
「そうか‥‥、これから魔物の命をいくつも消して行くことになる、場合によってはマシェルの兵、つまり人の命も奪う機会ももしかしたらあるだろう、だがなハヤトこれだけは最初に言っておく、命を奪って楽しいと思うような人間にはなるなよ? 命で遊ぶな、そういう人間は最後、必ず狂う。そして、もし命を取らなければならない時が来たら‥‥‥‥決してためらうな」
「隊長の言っていることは何となくは分かりますよ、今は戦闘には不慣れだから、そんなことを考えるようにはならないと思いますけど、もしそうなりそうだったら一言指摘してください」
「わかった」
隊長は真面目な顔で頷く、こんな事を言ってくるのは実際にそんな人間がいた、ということだろう、実際に俺は狂った人間を見たことは無いが、何となくは想像できる、日本にいた時テレビなんかで連続殺人犯とか、そういった犯罪とかがニュースで流れるたびに、こんな人間にはなりたくないと思ったもんだが。
それと似たようなものだろう。
死んだゴブリンの死体を焼き、処理をした後、カナル隊は更に西に向かって移動をする、移動5日目あたりから少しずつ魔物に出くわすことが多くなっていった、ゴブリンはもちろん、小型のオークから、角付きの四足歩行の魔物まで、単体はもちろん群れを組んで襲ってく者も増えてきた。
集団で足の速い魔物となると、隊列の外、つまりオリバーや他の隊員だけでは処理しきれなくなり、隊列の中、俺やニーアがいる所にも魔物が迫ってきた。
「ハヤト! 一匹抜けたぞ!」
足の速い四足歩行魔物が俺の方に突撃してくる、軍学校の剣技の授業とは違い攻撃に制限は無い、授業では危なすぎて使えなかった魔法も使える、周りに仲間がいるから大きい魔法は使えないし、炎弾など射出系の魔法には仲間に当てないよう注意が必要だが‥‥‥‥
こういう魔法は問題なく使える。
魔物が俺に狙いを定め走ってくる、あと距離にして4m、走ってくる魔物の前足が地面に着く動作をする瞬間に、『土』魔法で地面をピストンのように急激に隆起させた。
本来、前足を着くはずだった地面が突然盛り上がるのだ、これを人間にやったら、腰の悪い人は一発で駄目になるだろう。
これで完全にバランスを崩した魔物は、体制を崩したまま慣性の法則でそのまま突っ込んでくる、俺は体を半身ずらし魔物を切り伏せる
ザシュ!
真っ二つには出来なかったが、体を半分ほど切られた魔物は血しぶきを飛ばし、その場で息絶える
「へぇー、やっるぅー!」
ニーアが称賛してくれる
俺はというと
「またどうしようもない物を切ってしまった‥‥‥‥」
健康な成人男性なら一度はやって見たいセリフと動作、ここで鞘にカチャリと刀を納めたいが、『収納』があるから鞘が必要ない、そこだけが本当に残念だ、残念で仕方ない。
つい先日、カナル隊長に「命で遊ぶな」と言われたばかりだったのを思い出し、ハッ! とするが、このネタを分かる人がいない事に気づき、ホッとする
危ない危ない気を付けよう
その後も、目的地に着くまで魔物たちとの戦闘を何度か経験した、一番の見せ場だったのは、1体のゴーレムと戦ったときだろう、敵と認識したものが近づくと襲ってくるが、動きが極端に遅く、普通に歩いてでも逃げることが出来る、恐ろしく硬く魔法が効きにくいので、倒すのも面倒だと普段は素通りしていたそうだ、しかし、一度敵と認定されるとどこまでも追ってくる
夜、野営しているといつの間にか追いつかれていることもありとても厄介な魔物だ、今回はどうしようかと悩んでいたので、召喚獣での攻撃を俺が提案し、受理され、コスモでの攻撃をした。
パァーン!!ガラガラガラ!
たった一撃だった、コスモの角の一突きでゴーレムは上半身が弾け飛び、そのあと下半身が崩れ落ちた
「「「 すげーぇ!! 」」」
初めて召喚獣の威力をみた隊員達のボルテージは最高潮に達した、そこからだった
「おい! ハヤト、あの魔物相手にすげー魔法見せてやるよ!」
「いやいや!! 私の山をも砕く一撃で粉砕してやろう!!」
「山ではなくゴーレム相手に使ったらどうです?」
「ゴーレムだと刀が折れるから駄目だ!!」
「ちょっと待ってよ! さっきあんた達が魔物を倒したんだから今度はあたしの番でしょ!?」
「お姉ちゃんの必殺技見ててよ! ハヤト」
それぞれがコスモに触発されたのか、明らかにオーバーキル狙いの攻撃で楽しそうに魔物を狩りだした、その中にはもちろんカナル隊長も含まれている。
自分の刀に炎の魔法を纏わせ、巨大な火柱のようになった刀を構え、魔物に突撃する隊長の顔はとてもいい笑顔をしていた。
「命で遊ぶな」と言っていた人と、同一人物だとはとても思えない




