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100 草


 砦攻略が完全に完了し、タクティア以外は休暇を貰えることになった。

 

 あの砦事態に敵兵はあまりおらず、穴が開いてしまえば案外簡単に制圧できた。

 ただその後に問題が発生する、あの砦の中には小型の集魔機があり、性能もかなりの物だという事が判明した。

 集魔機とは、言って見れば発電所であり、大気中の魔力を集めそれをエネルギーにする、通常の集魔機はドーム球場並みの大きさがあり、どんなに小さくしても直径が100mは切らない、それが直径20mの小型の集魔機が敵砦の中にあったのだ。

 その事で政府と軍は大慌てになっている、マシェルモビアの技術に負けているからだ、あんなのが量産できるようになるとハルツールに勝ち目は無いらしい。


 砦攻略後はその小型の集魔機を分解し運び出す為、かなりの兵士が動員される事になった。しかし、それを取り返そうとするマシェルモビアとの戦闘もあり、中々休暇が取れなかった。


 そしてやっとの事で貰えた休暇、かなり久々だ。


 タクティアも本部に入り浸りだが

「明日のお昼には抜け出せそうなので、一緒に食事しませんか?」

 と言ってきたが、今日の朝になって


「すいません今日の食事は無しでおねがいします、と言いますか暫くは抜け出せそうにないんです」


「そんなに忙しいの?」


「いえ、仕事の事では無くて、私の兄の子が来年、軍学校に入る事になりまして、その手続きとか私がやる事になったんです」


「へぇー、タクティアの家って代々軍の家系とかなの?」


「そんな事は無いですよ、兄弟では私だけですから」


 その内一緒に仕事するかもね、など冗談を交わしつつ、俺の中でかなり心配な事をついでに聞いてみた。


「それで‥‥‥あのさ、俺の使った魔法のせいで集魔機壊れてたでしょ?」

 家に雷が落ちて電化製品が壊れるがごとく、拠点にあった集魔機も壊れていた、もしかして俺なんかの罰とか受けるのかな? と心配になっていたが


「それは無いですね、ハヤト隊長は心配する必要ありませんよ」


 タクティアのその言葉で一安心、今日の夜はぐっすり眠れそうだ。


 

 さてさて、タクティアも暫く缶詰になっているし、珍しく武器や防具の修理は無し、手の怪我も完全に完治、となると‥‥やらなければいけない事は‥‥無い


 だったら!


 ならば行くか、タスブランカへ!


 現タスブランカ代表の印が押された書類を持ち、バギーに乗り込んだ。

 目指すはサーナタルエ移転門、そこからタスブランカの移転門に移動し、2つの召喚獣の契約を果たしに行く

 契約する召喚獣の名前は『クルプ』と言われている青い色の蛇と、『ネルコ』と言われる真ん丸のスライムのような召喚獣、どうカスタムしてやろうかと前からずっと考えていて、既にまとまっている。


 バギーのエンジンを掛け

 

 カチと音が鳴り

 

 アクセルを吹かす


 スーっと進んだ。


 乗るたびに思うけれど、音が無くて少々寂しい

 キュキュキュ! ブオン!!

 なんて音が出て欲しいが、仕方がない、魔力で動いているんだもん


 ・・・・


 ・・・・


 『コー』

 とタイヤと道路の摩擦だけが聞こえる中、移転門に向けて走り出す、サーナタルエ移転門まであと少しの所で信号に捕まり待っていると、俺の横に一台の車が止まった。


「お父さん! あれ見て! ちっちゃーい!!」

 横の車から子供の声が聞こえる、バギーの事を指しているんだろうけど、よく言われる事なので特に気にしなかった‥‥が


「おっ! ホントだな、おい! そこの小っちゃいの!」

 大人の声が聞こえる子供の父親だろう


 かなり乱暴な言い方にカチンときた。誰もが恐れる首無しのデュラ子でも召喚して脅かしてやろうか? と思い、その大人の顔を確認するために横を見ると


「よお! ハヤトどこか行くのか?」


「‥ベルフ!?」

 横に止まった車の窓からは、髭面の男が陽気な顔で手を上げていた


「ちょっと止まって話でもしないか?」


「ああ分かったよ」

 まさか休暇中に偶然会うとは思ってみなかった。


 車が止まれるスペースを見つけバギーを止めると、俺の後ろに止めたベルフの車からワラワラと子供が沢山降りて来た。


 いっぱいいるなぁ~


 子だくさんとは聞いていたが、降りて来た子供だけでも5人はいた


「こんなとこで会うとは思って無かったぞ」


「俺もだよ」


「おっと、俺の家族を紹介するよ」

 ベルフは順番に家族を紹介してくれた。

「こっちは俺の妻の━」

 夫がお世話になってます、いえいえこちらこそと、当たり障りない挨拶をかわし


「こっちが6男の━」

 一番大きい子だったから長男かと思ったら、まだ上がいたらしい‥‥いったい何人いるんだろう、やたらと目がキラキラしていて少し興奮しているようだ。


 ここにいる中で一番小さい子は4歳の女の子、更に2人下にいるらしいがあまりにもまだ幼いため、今日は祖父母の家にに預けてきたらしい。


 家族を紹介されるのは別にいいんだけど‥‥こんな時どういった顔をしたらいいのか正直分からない、というか反応に困る。

 まあ、それなりの対応をすればいいんだろうけど、なので当たり障りない対応をしておこう。


「ハヤトは今日どうしたんだ? 買い物か? 俺は家族と一緒に遊びに行くんだが」


 なるほど家族サービスってやつだね、大変だ。


「俺はこれからタスブランカに行って、召喚獣の契約をしてくるんだよ」


「「「召喚獣!!」」」

 家族全員一斉に叫んだ。

 びっくりしたな


「お父さん召喚獣の契約見たい!」

「僕も」

「私もー」

「ああ、お父さんも見たいぞ! という訳だ。ついて行っていいか!?」

 付いてくるの?


「‥‥どこかに行く予定だったんじゃないの?」


「そんな事よりも召喚獣の契約の方が面白いだろう! 前回一度見た時は少し肩透かしだったからな!」

 ベルフが言っているのは、大陸深部にあった召喚の契約魔法陣の事だ。あの時は大きすぎて魔法陣の上に現れなかったし、一人では召喚出来ない物だったからね


 興奮しているベルフを、奥さんが止めに入る

「あなた、同じ部隊の隊長さんでもあまり無理にお願いしたら‥‥」

 言い方からして、奥さんは元々行く予定だった所に行きたいんだろう


「ん? それもそうか、どうだハヤト駄目か?」


「特に駄目では無いけど、ベルフも元々の予定が━━」

「いいんですか!?」

 ベルフの奥さんが俺の言葉の上から被せてきた。


「え? ええ‥‥」


「でしたら見学させていただきます! ほらあなた達車に乗って! 召喚獣契約の見学に行くわよ!」

「はーい!」

「やったー!」


 ベルフの奥さんも見たかったようで、そそくさと車に乗り込んで行った。


「よし、ハヤトさっそく行こうか!」


「うん」


 バギーに乗り移転門に向けて出発する、後ろから付いてくるベルフの車から騒がしい声が聞こえる、歌を歌っているようだけど何の歌だろう?


「「‥‥‥‥!‥‥‥みんなでパナンを食べたいなー!」」


 ああ‥‥初等部で歌わされたあの歌か、あまり思い出したくない歌だな、俺の黒歴史が呼び覚まされる




 ・・・・

 

 ・・・・

 

 


 ハルツールの移転門からタスブランカの移転門に移動し、召喚獣の契約の建物にたどり着いた。


「ここが召喚獣を契約する場所ですか!?」

 ベルフの6男、名前は‥‥忘れた。が聞いてくる、顔を少し上気させているせいか少し赤い


「そうだよ」

 さっきパナンの歌を聞いたせいか、あまり思い出したくない事が思い出され、何となく子供と距離を置きたい気分になる、そのせいか返事も素っ気なくなってしまった。


「ははは、こいつはお前に憧れていてな、将来はお前みたいな軍人にになるっていつも言っているんだよ」




 ‥‥俺に憧れている?

 

 なら話は別だ!


「そうか! 俺に憧れているのか! なるほど、見れば見るほど賢そうな子だな! なれる、なれるぞ君は、一流の軍人になれる、俺が保証する、いいか? お父さんとお母さんのいう事をよく聞いて、そしてよく勉強するんだ、無事に軍人になれたら俺の隊に入れてあげるから頑張るんだぞ!」


「はい!!」

 6男は嬉しそうに大きな返事を返してくる


「ハヤト、急に態度が変わってないか?」


「俺はファンを大事にするからね、一人一人の声援が俺を更に一段上の存在へと昇華させてくれるからな」

 ベルフの6男は、さぞ俺が凄い事を言っているんだろうと思っているのか? 尊敬、まさに尊敬のまなざしだった。


 ファンを大事にする俺は、6男の手を引き建物の中に入って行った。


「あっ、これ許可証です」





 ・・・・


 ・・・・


 

「クル‥‥プ、お父さんクルプだって!」

「ほう、よく読めたな偉いぞ」

 ベルフ一家が文字の勉強中


 本日最初の召喚獣は『クルプ』青い蛇の召喚獣、説明に書かれている事は読むまでもなく、デカい蛇

 巻き付いたり、牙の先から痺れる液体を注入したりと、まんま蛇


 しかし、俺は「おもしろ召喚者」と呼ばれた男、ただの召喚獣とは契約はしない、黄色に輝く魔法陣に触れ、魔力を流す


「お前達、ほら始まるぞ!」

「もう少し下がりなさい、危ないわよ!」


 後ろ、うるさいっすよ


 形はもう決まっている、名前も決定している。

 召喚獣はある程度の要点を抑えればかなり好きな形に変える事が出来る、そして今回は蛇、蛇といったらアレしかない、あれ意外に思い浮かばない

 

 日本の神話に出てくる8本の頭を持つアレに!


 魔力を流している時、フッっと頭にツチノコが思い浮かんだ。

 イヤイヤイヤ!! ダメダメ!

 無し! ツチノコだけは無し!


 何とか振り払うため、ゲームなどで出てくるあの姿を強く思い浮かべた。

 よし! 行ける!


 魔法陣の中が黄色の煙に包まれ、その煙が消えると‥‥‥‥

 中からは小さな光の粒がフワフワと浮かんでいた。


 よし、成功


「ハヤト、またその小さいのが出たな、コレもアレか? デカくてこの建物に入りきらないとか、人数がいないと召喚出来ない奴なのか?」


「高さが20mくらいかな? 一応一人でも召喚できるよ」


「なら早速見せてくれよ」


「いいよー、その前に契約だな」

 名前はもちろん『オロチ』




 ・・・・


 ・・・・


「召喚、『オロチ』」


 地面に魔法陣が現れ、地の底からゆっくりと召喚獣がせり上がってくる


「「「おおおお!!」」」

 ベルフ一家も大興奮


 緑色の8本の首を持つ大蛇、神話のヤマタノオロチをイメージして契約した。蛇の中では最強ではないだろうか? 体が大きく、尚且つ一本一本の頭からは強さや、何となく神々しさが伝わってくる


「嫌だァァァァァァ!!」


 あまりの迫力にベルフの一番下の子が泣きだした。それは俺にも分かる、俺も同じくらいの年だったら泣いただろう、それくらい迫力のある姿だった。




 ‥‥になるはずだったが、思っていたのとちょっと違った。

 頭は8本あったが胴体が無い、土から直接8本の頭が生えていた。少し遠くから離れて見てみたら多分


 『草』

 にしか見えない、大きな草だ。

 ユラユラと揺らすその頭は、風が吹いて揺らめく葉っぱにしか見えない、近くから見たら迫力があっていいと思うんだけど、胴体が無い分‥‥‥‥そうだねぇ、やっぱり草だね。


 どうしてこうなったか? 少し考えてみたが、どうやらツチノコを振り払うため、ゲームで出てくるヤマタノオロチをイメージしたのがまずかったと自己判断する。

 ゲームで出てくるヤマタノオロチは、その8本の頭で連続攻撃をしてくる、その頭を1本1本叩くか、8本同時に倒さないといけなかったりする。

 火力は強いが、ヤマタノオロチの胴体はどう書かれているかと言えば、地面や水の中に埋もれていたりして姿を現さない、尚且つ、ゲームの中のヤマタノオロチは、ほぼその場から動かない


 やってしまったか?

 と思ったけど、とりあえずは聞いておく


「そこから動けるか?」

 『オロチ』に問いかけてみると、8本の頭は同時に首を横に振った


 やっぱ草だった。



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