表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
依頼人  作者: AIAMAAI
4/18

-4-

「いらっしゃい」

 出迎えた春樹とともに部屋に入ってきた永承に声をかけたのは、瑠璃旺の妻、藍華であった。瑰の祖母である藍華は、矍鑠として品が良く、如何にも高級住宅街に住む老婦人の趣に満ち溢れていたが、眉間に深く刻み込まれた皺には、気苦労の多い人生であったことを物語っている。

「お久し振りです」

「皆さんがお待ちよ」

「すみません。出遅れてしまって」

「早く行って。これ以上待たせたら」

「はい」

 軽く一礼してダイニングを抜けてリビングへ行く、永承。

「コーヒーをね」

 藍華は、オープンカウンターにリフォームされた広々としたキッチンで、ディナーの準備を手伝っている孫にさり気なく告げた。

「はい、お祖母ちゃん」

 この孫こそがインターホンを通して瑰に散々言われた若い女性その者である。彼女の名は、藤木蕾。司法試験に現役合格し、大学卒業後、法律事務所に就職した弁護士で、瑰の異母妹だ。

 蕾の母親が、瑠璃旺の住居を訪問してきたのは、蕾が中学生の時であった。娘を進学させたいから、あなたの孫のために援助して欲しいという依頼だった。瑠璃旺は、娘の存在を知らぬ一人息子に代わって、その依頼を承諾した。そして、当時大学生だった瑰は、祖父母からその話を聞かされ、蕾と対面した。降って湧いたような出来事ではあったが、三人兄弟の末っ子の瑰は、妹ができた喜びと、賢く聡明で人懐っこい蕾を、何の躊躇いもなく兄として受け入れた。蕾が異母妹であることを知る者は、瑠璃旺と藍華と瑰の三人だけである。

 リビングにやってきた永承に、一成が問い掛けた。

「お前が遅れるなんて、珍しいこともあるもんだな。何かあったのか?」

 永承は、押し黙ったままその問い掛けには答えずに、口の片方を上げて苦笑し

「今夜は厄介になります」

と、瑠璃旺に挨拶をした。

「座りなさい」

 瑠璃旺に促されて、永承は長ソファの空席に着いた。その横には琢磨と基季が座っている。

 蕾が、コーヒーカップを乗せた盆を持ってやってきて、

「いらっしゃいませ」

と、永承の前にカップを置いた。

「新顔だな」

「俺の秘書だ」

「秘書?」

「藤木蕾です。どうぞ宜しくお願いします」

ニコリと微笑んで小首を傾けて挨拶した。

「無職のお前に秘書」

永承の言葉を遮るように、

「頼まれたのさ。虫がつかぬように見張ってくれってな」

と、瑰が透かさず言い放った。

「誰に?」

「祖父さん」

「遠縁の娘でな。宜しく頼むぞ」

「はい」

と首を縦に振って、カップを柄を掴んだ。その手の甲に血が滲んでいた。それに蕾と瑠璃旺が気付いた。蕾は素早くその場を立ち去った。

「手、怪我してるぞ」

「え?」

瑠璃旺に言われて、永承は手の甲を見た。擦り剥いたその傷から出血していた。

「あ、気付きませんでした」

「蕾」

瑠璃旺が呼びかけるや否や、蕾が救急箱を持って駆け戻ってきた。

 手の甲に絆創膏を張りながら、

「気をつけろよ。手は大事だからな」

瑠璃旺が言うと、

「はい、気をつけます」

永承が済まなそうに言った。

「ありがとう」

 瑠璃旺に言われて、蕾は救急箱を持って再びその場を立ち去っていった。

「口にすれば、気持ちは楽になるぞ」

瑠璃旺にそう言われても、永承は沈黙したまま何も言わなかった。

「何があったんだ?俺達で手助けになるなら」

 一成が促すように口にした途端、永承がその重い口を開いた。

「世話になった人から仕事を頼まれた」

「仕事?どんな?」

 瑰に言われて、永承は淡々とした口調であらましを話し始めた。一同は、顔を寄せるように近づいて永承の話を聞き入った。

「お前に頼みたいんだ、瑰」

「俺に?」

「俺は他に仕事があるからな」

「その仕事請け負うが、俺一人じゃな」

「助太刀するぜ」

 一成が言って、美里が畳み込むように言った。

「私も手伝うわ。野郎二人よりもその方がいいでしょう」

「そうと決ったら」

「お祖父さんも手伝って頂けますか?」

「ああ」

 永承に言われて、瑠璃旺が嬉しそうに頷いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ