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リビングに置かれた真新しい八人掛けの応接セット。その長ソファに瑰と一成と美里が並んで座り、大きな応接用テーブルを挟んで向かい側の長ソファには、一人分の席を空けて、琢磨と基季が並んで座っている。下座の一人用のソファに座っている桜井春樹が、
「俺じゃないっすよ」
口を尖らせて、責めている瑰に反論した。
桜井春樹は最年少の大学生。安アパートで一人暮らしをしていた一年前に瑰と出会い、老夫婦だけで暮しているその身を案じた瑰に、下宿を勧められ、春樹はそれに従った。
「お前でなきゃ、他に誰が言うんだ?この秘密会合を」
「シークレットだったのか」
一成が、春樹に味方するように口を挟むと、
「何時からだ?」
琢磨が、追随するように訊ね、
「あんな可愛い子を隠していた、瑰、お前が悪い」
基季が、一発食らわすようにほざいた。
「美里、お前だけは俺の味方だよな」
助け舟を求めるように瑰が言うと、
「そうね、私は……。どっちづかずの中立派だけど、ここはやはり、蕾ちゃんの味方」
と、美里が深く考え込んでいるかのように装ってあっさりと言い除けた。
「ものの見事に振られたな、瑰」
琢磨が言って、一同が一斉に笑った。
小さな諍いがもとで袂を分かち離れ離れになった盟友達の孫が、三十年の時を経て現今、こうして当時のままにこの家に集まってきている。その何とも言えぬ不思議な縁を感じ、上座の一人用のソファに座っている瑠璃旺は、感慨深そうに客達の顔を一人一人眺め廻していた。
「わしだ。蕾に話して聞かせたのは」
「ええッ?祖父さんがッ?何でッ}
瑠璃旺の思いもよらぬ突然の意外な発言に、瑰が吃驚りしたように言った。
「勘の鋭い子だからな、何れはこの集まりを知ることになるだろう。そうなる前に言っておいた。お祖母さんの手伝いもさせたくてな。大変なんだぞ、一人でこれだけの人数分のディナーを作るのは」
あっけらかんと言う瑠璃旺をあっけらかんと見つめている、瑰。
塀に沿って走ってきた小回りの利く普通車が、梠和家の門の前で停止した。
運転席のドアが開いて、永承が降車してきた。
咽喉の渇きを潤すようにコーヒーを一口啜って、カップを受け皿に戻しながら
「何かあったのか?いつも真っ先にやってくる永承が、こんなに遅れるなんて」
瑰が言うと、一成がそれに応えるように言った。
「それなら電話があるさ。あれで几帳面な性格だからな」
「だよな」
「電話してみたら」
美里のその言葉を受けて、
「春樹、電話してみろ」
瑰が、春樹に促した。
「はい」
と、携帯電話をポケットから取り出そうとした時、インターホンのベルが鳴った。
インターホンのモニター画面には、険しい顔付きで立っている永承が映っていた。
「来ました」
一同に声をかけて、春樹は部屋を飛び出していった。
自動的に開いていく門から、普通車が走りこんできて、玄関脇に並んで駐車された四台の車に横付けするように停まった。同時に玄関扉が開いて、春樹が顔を覗かせた。
「皆、心配してますよ」
「来てるのか?」
「はい、全員」
「そうか、悪かったな」
と慌てて玄関の中に入った永承は、扉を閉めた。