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9. 無理、無理、無理

 一瞬、切れ長の瞳に優しい光を浮かべた宇佐見君が私に向かって手を差し伸べる姿が見えた気がした。

 それと同時に顔から火が出るような羞恥が湧き起こる。


「無理、無理、無理!!!」《好きだけど、無理!!!》


 反射的に両手を握りしめ、顔を真っ赤にさせながら私は叫んでいた。


 私を見たシュア君は目を丸くしながら大笑いする。

 ここ笑う場面じゃないでしょ。


「霧島さん、思念パワー強すぎ。言葉に載せた気持ち、国中に伝わっちゃたよ。」

 皇子のこと本当に好きなんだねえと言いながら、私を温かい目で見るのやめてください。それもクックって笑いを堪えながら。

 強烈な好きという気持ちと一緒に恥じらい、もどかしさが入り交じったムズムズする感情が伝わってきたって言われても困るよ。


 今までの会話の中で一度もはっきりと言葉に思念を載せることが出来なかった私なのに、あまりの羞恥のせいか思いっきり叫ぶがごとく思念を撒き散らしたらしい。それも国中の人に伝わるくらい。シュア君は思念パワーで吹き飛ばされるかと思ったとか言うし。

「初めてでサポート無しで次元ゲートを通れるくらい思念パワー持ってるんだから、十分フィアンセになる資格あるんだけどね。あ、別にフィアンセだから結婚しなくちゃならないってこともないから。この国、娯楽が少ないから王族は国民にイベントを提供するのが義務みたくなっているんだよ。誰が皇子のフィアンセになるかは今一番の話題だよ。種族、能力は問わないし、国民に気に入られたら更に良いけど。まあ、気楽に考えてよ。」

 そうは言っても、片思い歴は長いけど彼氏がいたこともない私がいきなりフィアンセなんて想定外。おこがましい。

 だいたい宇佐見君だって単なる知り合いがフィアンセになるなんて納得できないでしょうに。だから今までフィアンセいなかったんじゃないの。

 そもそも大勢の人の前で告白めいたことしてどんな顔してあえばいいの?

 自分が好きでない子から好きって言われたって困るだけでしょ。避けられるようになったらどうしよう。

 大きな溜息をつく私。


「じゃ、僕、もう行くから。…そうそう、さっきの言葉、皇子にも聞こえているよねえ。まだ誕生日まで時間あるからフィアンセの件、ちょっとは考えてね。」

 手をひらひらと振りながらシュア君は花壇の方へ去って行った。


 宇佐見君に避けられるようになっても、今は頼るしか無い。屋敷でお世話になるしかない。

 再び歩き出して丘に登ると森の切れ目から遠くに街並みが見えた。あそこにも私の思念伝わったのだろうか。あんなに遠くだよ。ははは、まさかねえ。

 大きなビルもないし、ここ裏月は見た目が中世の地球だと改めて思う。

 私はゆっくり歩いて屋敷に戻った。



 そろっと扉を開けて屋敷に入る。

「戻りました。」

 小声で話す私に声が掛かる。

「▽▽○×。」《お帰りなさいませ。》

 ちゃんと何言っているか理解できる。

 わお、黒いワンピースのメイド服に白いエプロン…メイドさんだ。シュリさんもワンピースだったし、洋服の方が仕事しやすいからかな。

 獣耳だ。かわいい。思わず目がいくよ。

 でも、メイドさんは私を見て、頬を染め温かい目を向けて来ているような…。気のせいと思いたい。

 他からも温かい視線を感じる。早く自分の部屋に行こう。


 そういう時に限って会っちゃうんだよね。会いたくない人に。

 BAN!!

 大階段を昇り終わったときに一つの部屋の扉が開いた。

 扉から出てきたのは宇佐見君でした。思わず視線をそらす。さっきシュア君に私は大勢の前で盛大に宇佐見君に告白めいたことをしたと言われたんだし。うわあ、何話そう。

 固まる私に近づいてくる。


「霧島、お前、シュアの頼みちゃんと断ったみたいだな。」


 思わず視線を戻すと目があった。やっぱり伝わっていたんだ! 切れ長な目が笑っている。宇佐見君は全然動じていないよ。

 告ったことに触れないのは良いことなんだけど、私は本人を前にしてただただ恥ずかしい。直接でないにしろ、告白なんて初めてしたし。再び目をそらして足下を見る。そしてコクコクと頷いた。


 もうそれからどうやって自分の部屋に戻ったのか覚えていない。

 昼食も夕食も食べたのだけど、宇佐見君の顔は恥ずかしくて見られないし、声を聞いているだけで赤面してしまった。まわりにいる人たちも温かい目でまだ見ているし。

 …ただ時間だけが過ぎていった。













「」は普通の会話と私が聞こえる言葉。《》は会話に載せた思念。『』は裏月語。

ちょっとわかりにくくて申し訳ないですorz


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