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6. 一日目の夜から朝

 食事で郷愁を誘われるとは思わなかった。


 ドレッサーの横のドアを開けるとトイレとお風呂のような場所があった。

 ウオッシュレットこそ無いが水洗だ。上下水道完備のようだ。中世くらいの建物と思ったが現代と殆ど変わらないのかな。

 石けんの香りがすごくいい。人工的な香りではないのが良い。癒やされる。柔らかい花の香りだ。でも何の花かはわからない。

 灯りはランプ。優しいひかりだ。

 そして早々とちょうど良いスプリングのきいた広いベッドで私は眠りについた。



 ぐっすりと一眠りした後、ふとなぜか目が覚めた。物音ひとつしない深夜という時間だ。カーテンがわずかに開いている。

 引きつけられて窓へ近づく。

 庭が明るい。月明かりのせい?

 外を見上げれば、夜空に見えるのは青い地球…。

 それもまんまる。よくTVで見かけたようなきれいなきれいな地球。こんな地球を生でみられるなんて。感動ものだわ。見とれるってこういうことなんだ。

 改めてここが地球ではなく、月であると理解する。

 結構大きい。重力も3分の2あるし、地球との位置関係も私の知る世界とは違うようだ。

「宝石みたい。」

 気がつけば思わずつぶやいていた。

 そしてそのまま眠くなるまで静かに私は青い地球に魅入られていた。



 =Pi,Pi,Pi=

 スマホのタイマー音が聞こえる。

 ベッドの中で大きく伸びをする。手足を思い切り伸ばしてもベッドの端には当たらない。

 タイマー、6時15分前にセットしたんだっけ。宇佐見君と走るために。

 そうだ、スマホの電源切っておかないと1週間充電持たないよねっと。

 顔を洗い、こっちに持ってきたサブバックからジャージを出して着替える。寝るときにも着けていたパワーリストはそのままだ。違和感なく寝ちゃったな。


 部屋を出て、大階段を降りれば玄関ホールだ。誰かに会うかとドキドキしていたけど、人が動いて働いている気配はあるが誰にも会わない。

 木製の立派な玄関ドアを押し開ける。

 ちょっと肌寒いけど朝日が照らして気持ちいい。

 ドアから階段を5段ほど降りて地面だ。

 手首、足首を回して、膝の屈伸。宇佐見君を待つ。


「すまない。待たせた。」

 玄関ではなく建物の裏手の方から宇佐見君登場。うっすら額には汗が浮かんでいる。そして手には昨日私に向かって振り下ろされた剣…

 うわあ、剣光ってるね。小学生の時に宇佐見君、剣道習っていたよなあと思い出した。

 剣を鞘に入れて私の横に立つ。あれ、宇佐見君もジャージ姿だ。学校のではないんだね。某有名ブランドの■イキのマークがある。剣ってどういう風に身につけているのか気になる。

「おはよう、宇佐見君。」

「ああ、おはよう。」

 私がジャ-ジ姿に微笑めば、こっちの服より断然動きやすいとのこと。あー確かに。生地とかそうかもね。


「マラソンは大丈夫か?」

 …宇佐見君は持久走大会では1等を獲るほどの実力の持ち主だった。彼の知る小学生の私は運動に関しては目立つことがなかったもん。運痴ではないけど、まったくの普通レベル。実力の差は大きい。

「部活で毎日15分くらいは走っていたよ。ゆっくりで良いなら大丈夫。」

「何部?」


 わあ、きたよ。この質問。ちょっと躊躇しちゃうんだよね。


「演劇部。」


「…演劇部って、走るんだ。」

 へえって言うその視線が痛い。どうせ役者って器量では無いですよ。

 役者は体力勝負なんです。体力作りには走るのが一番なんです。だから文化部なのに走ったり、ストレッチしたり、腹筋するんです。腹式呼吸するんです。

 心の中で色々叫んだ。ジト目で見上げてね。

「演劇部ね。だから感情に同調しやすいのか。でも感情を載せるのは…」

 フムフムとなんか小声で宇佐見君が呟いている。


「早く、走りに行こうよ。」

 話題を変えたくて声をかける。

「あ、ああ。」



 早朝の澄んだ空気の中を走るのは思っていた以上に気持ちの良いものだった。

 空気が薄いせいか呼吸は大きくしないとならないが、重力が少ないせいか身体は軽い。パワーリストを着けているが負担は少ない。宇佐見君が私に合わせてゆっくり走ってくれていると思うけれど、いつもより楽に走れている。

 宇佐見君のちょっと後ろをついて行く感じで走って行く。

 自分から宇佐見君の今の生活については質問してはいけない気がして、ただ無言で走って行く。

「疲れたら言ってくれ。」

 気遣ってくれるけど、思っていたより会話は弾まない。想像と現実は違うって。

 屋敷から遊歩道のように林を抜け、庭園の横を通り、丘を登って下り、どんだけこの家の敷地って広いのかと思う頃、再び屋敷が見えてきた。ゆっくりだが30分ほど走ったろうか。


 徐々にペースダウンしてスタート地点に到着。

 止まったとたんに汗がドッと出てきた。

「結構走れるじゃん。」

 爽やかなイケメン笑顔で宇佐見君が笑いかけてくる。褒められた! 思わず自分の顔が赤くなるのがわかる。赤面です。

「ここだと身体が軽いから。」

 これだけ言うのがやっとです。肩で息してますよ。


 ポケットからだしたタオルハンカチで汗をぬぐっていると、シュア君が飲み物を持って現れた。やっぱり普通の人間にしか見えない。

 レモンのような柑橘系の味のする水を渡してくれる。

「二人とも、お疲れさま。皇子、食事はお言いつけ通りに準備しております。…本当に僕たちも同席でよろしいのですか?」

「ああ。その方が霧島も良いだろうし、色々話もしやすい。ラジェールには驚くだろうが。」

 宇佐見君が私を見遣る。

「霧島、7時に朝食だ。シュリが迎えに行く。ラジェールは見た目が思いっきり獣人だ。お前、驚いても受け入れるタイプのようだから大丈夫だろう。部屋には戻れるか? それならまた後でな。」

 宇佐見君は淡々と言葉を重ねると、重厚な玄関にスタスタと戻っていく。走った後なのに復活早っ。

 獣人にいよいよ会うのだね。あー、ホントに2次元やファンタジーとか大好きで良かった。おっしゃるとおり、驚いても叫んだり拒否ったりはしませんよ。


 残りのレモン水をグッと飲み干して、私も自分の部屋へと戻る。

 いよいよいわゆる獣人との対面だ。何系かな? ドキドキしたまま、着替えてシュリさんのお迎えを待っていた。







キリのよいところまで書いたらいつもより長くなってしまいました orz


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