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10. 尽きない悩み

 胸いっぱいでお腹がいっぱいなのかもよく分からないまま自室に私は戻っていた。

 ちなみに今日の夕食のメインはクリスマスの時によく見る鶏肉のモモ焼きみたいなものだった。プリプリした食感と肉汁たっぷりで美味しかったのは覚えている。バゲットも香りよく絶品だった。


 ソファで特大の枕のようなクッションを抱きしめる私。

「はあ。」

 時間が経つにつれ羞恥より申し訳なさが押し寄せている。しょうがない事だったけど、ただ自分の感情を宇佐見君に押しつけてしまった。

 彼が全然動じていなかったのは、好意をぶつけられることに慣れているせいなのか、または私のことを何とも思っていないせいなんだと思う。どっちも残念なことだけど。

 宇佐見君に避けられなかったのに私が避けてしまうなんて本末転倒だよね。よくよく考えれば、私、宇佐見君に対してすごく失礼なことしたんだ…

 無意識に私はクッションに額をグリグリと押しつけていた。


 =knock,knock=

「透子ちゃん、入ってもいいかしら?」

 シュリさんが登場です。再びトレーを持って。

 トレーに載ったティーカップにはミルクティーが入っていた。

 その結果、飲み頃温度のミルクティーで私は癒やされました。悶々とした気分がやっとホッコリしましたよ。良い仕事しますね、シュアさん!

「落ち着いたようね。普通に考えれば、思春期真っ盛りの女子が自分の意思に関係なく告白すれば動揺しちゃうわよね。」

 大きく頷く私。

「だから明日はシュアに街を案内させることにしたから。練さまの顔、まだちゃんと見られないでしょ。気分転換してきてね。」

 シュアさん、ナイスフォローです。

 お土産でも買ってくれば会話の糸口になるとアドバイスもくれます。さすが才女です。


 言葉は気軽に話しかけてきているけど、私を気遣って心配してきていることは伝わってきている。感情が伝わってくる。

「獣に近い獣人は匂いや音に敏感だからその人を見ているだけで相手の事がわかりやすいし、力も強いし、運動機能も高度なものを持っているわ。ここ裏月ではそれがない人型はその分思念が強くて思念パワーで補うことができるの。王族はその中でも思念パワーは最強よ。まあ、王族の始祖は神獣ユニコーンとの伝説もあるくらいだし。因みに私とシュアはキツネ系獣人。私達レベルになると意識的に獣耳を隠したりできるのよ。」

 そう言ってシュアさんはとがったキツネ耳をあらわにして私に見せてくれた。うわっ、頭に本当にくっついている。

 手を伸ばし触れさせてもらえば温かい。モフモフだあ。わずかにシュアさんが恥ずかしそうに身をよじった。


「思念を載せる会話に慣れている私達は余分な感情は言葉に載せないから、透子ちゃんは見ていて微笑ましいわ。練さまもそうだと思うわよ。」

 優しいシュリさんによって落ち込んだ気持ちはちょっぴり浮上したのであった。




 翌朝、ちょっと迷ったけど今日も走りにいくことにした。

 宇佐見君の態度は何も変わらないのに私だけいつまでも恥ずかしがっているのは自意識過剰なんじゃないかと思ったからだ。

 地球に帰還した宇宙飛行士ほどではないだろうけど、筋力低下は嫌だし。宇佐見君の顔をがっつり見なければ動揺はしないだろうと思う。


 屋敷の玄関前でストレッチをしていると宇佐見君の登場です。ちょっと疲れて見えるのは気のせい? 軽く頭を下げながら、おはようと声をかける。

「いつもの様子に戻ったみたいだな。」

 髪をかきあげながら口元にちょっと黒い笑いをたたえた宇佐見君。

 か、かっこいい。思わずがっつり見てしまった私の顔は真っ赤です。そう、私好みの顔を彼は持っているんだよ。あわてて顔をそらす私。

「戻ってもいないか。」

 ぷぷぷと声が聞こえてきそうな含み笑いしながらしゃべらないでよ、と心の中で突っ込んでおく。

 そっぽを向いたままの私を置いて宇佐見君は「行くぞ。」と言って走り出した。


 おなじみのジョギングルートをスローなペースで黙々と二人で走る。

 林を抜け、庭園の横道から庭園の中へと入っていく。あれ、今日は違うルート?

 芝生スペースに入り込み、宇佐見君は座り込むと寝転がり腹筋を始める。

 じっと見ていれば、お前もやれと言う感じであごで彼のそばを示される。

 はあ、筋トレね。

 腹筋は30回もしたろうか。久しぶりでお腹が痛いよ。私が止めてもまだしている…100回はしてるよね。

 宇佐見君が真面目な人なのは知っているけど、真面目というより自分をいじめるのが好きな人とは知らなかったよ。ああ、今度は腰ひねりながらの腹筋だ。すごーい。

 お前はそれで終わりなのかという視線をもらったが無視無視。私は腹筋割れなくていいんです。久しぶりだからこのくらいで勘弁してください。


 一通りの腹筋が終わると宇佐見君はストレッチを始めた。これなら私も同じようにお付き合いしますよ。

 身体を動かしながら宇佐見君は話を始める。


「今日はシュアと街に行くと聞いている。屋敷から出る際の注意をしておく。もちろんシュアが護衛に付くから心配はないけど、裏月での獣型化できない人型が注意しなくちゃいけないことがある。」


 ふむふむ。それで。


「単なる迷信なんだが、獣型化できない人型を食らうことで人型化できない獣人は思念パワーを増やす事ができると言われている。」


 えっ。


「ほとんどの獣人は食っても思念パワーは変わらないって分かっているんだが、その迷信を信じている奴がたまにいるんだ。だから純粋な人間だとばれないように注意してくれ。」


 ええっ。


「ここ、恐いところじゃないって言ってたよね。」


 顔色が変わるのが自分でわかる。


「成人に近づくほど思念パワーは強くなる。だから襲われるのはたいてい年端もいかない幼子だ。俺もかなり狙われて、だから中学卒業まではほとんど向こうに居たんだ。ちょっと今色々忙しくて、街に一緒に行けなくて悪いな。まあ、今のお前の身体能力なら襲われても逃げられるはずだ。」


 そんなことを言うとスクッと立ち上がり宇佐見君は再び走り出す。その背中を追いかける私。

 心細くて泣くような女の子じゃないけど、命の危険が迫れば涙がこぼれるんだよ。ひえー。待ってよお。置いていかないでよお。












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