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ラスト・シスターズ  作者: 片側文庫
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ミサキ・ゴーズ・インサイド(3)

 白い光の筋が瞬き、それを追うように黒い影が線のように乱舞する。

 光が鋭く瞬くたび、周囲を取り囲んでいる怪物が次々に切断されていく。

 その数は十や二十に下らない。百、二百と光のもとに群がり、影を追って自らの腐った手足でそれを掴もうとする。

 だが彼らの手がその躍る影を捉えるより常に一瞬早く、それは揺らめくように消え去って、またその一瞬後にすかさず立ち上って、怪物を銀色の輝きと共に斬殺していった。

 光は線のようであり、糸、もしくは雷光と言ってもいいかもしれない。

 人の目に映るのはそれほどの刹那の時間であり、視界の濁った、視力の低下しきった怪物たちがそれを捉えられるはずもなかった。

 獣の咆哮とともに影に飛びかかった、あるいは駆け寄っていった怪物は皆がそうやって斬り倒され、勢いを失くして沈黙していく。地面には無数の残骸が、まるでゴミのように転がっているが、それらは全てそうした怪物たちの末路に他ならなかった。

 集団は今、その影を中心として円状に広がっている。影が揺らめき光が瞬く、その中心にだけはぽっかりと穴が空いている、後は無数の、蠢く怪物がいるばかりの円。

 大きさでいえばその影は集団の中では最も小さく、あと一歩でも怪物の歩が進んだなら押しつぶされてしまいそうなほどに頼りない。だが、戦闘が開始されてから三十分、その一歩を踏み出した怪物は一体として存在していなかった。

 影は美咲、光は彼女の刀だった。

 自分に向かって突撃してくる数多の怪物に対して一歩の後退もしなかった美咲は、加えて先手を取って優位に立とうともしなかった。

 ただ漫然と、左手に握った手榴弾をつまらなさそうに前方へ放り投げただけで、後はじっと正面を見据えながら、怪物の濁流に飲み込まれるのを待っていた。

 美咲の放った手榴弾で倒れた怪物など、物の数にも入らない。

 密集しているため普通一般の状況よりも効果は見込めるかもしれないが、それでもせいぜい二十に足りない程度。全体の総数を考えれば減らした内にも入らないだろう。

 炸裂音を聞こうが四散する同族を見ようが決して止まらない彼らは、ほどなくその勢いのままに、美咲の姿を集団の中へと飲み込んでしまった。

 影と閃光の乱舞が始まったのは、それと時を同じくしてのことだった。

 目では追えない美咲の姿は影にしか映らず、目に止まらない刀の閃きは光としてしか認識できない。

怪物の波はその場に滞留するかのように円となり、美咲は上下前後左右全ての方向から襲い来るそれら全てを、避けては斬り、かわしては斬っていった。

驚異的な反射神経、運動能力、体力、判断能力、全ての力が混然一体となって美咲を運動させている。怪物はその翻る髪の毛一本ですら掴むことは叶わず、手を伸ばした順からその首を落としていった。

影の動きは鈍ることなく、円を構成する怪物の量は徐々に減っていた。

切断された怪物の残骸を構わずに踏みつけながら、美咲は踊るように刀を振って、その度に一体一体、怪物の軍団が数を減らしていく。

 残骸が幾重にも折り重なって新たな地面となりかけていた時、美咲が振り下ろした刀が唐突に折れた。既に半分を超える数の怪物を斬っている。過剰な負荷に刀身が耐えられなかったようだった。

 慌てた様子もなく、それをあっさりと手放す。地面を蹴りあげ死骸を蹴散らすと、埋もれていた別の武器が姿を見せた。

 拾う前、美咲は腕を一閃させて何かを投げつけた。鈍く光るナイフだった。

 腰に巻いたベルトから、美咲は次々にナイフを取り出しては怪物の頭をめがけて投げ続ける。さきほどの一瞬で少し小さくなっていた美咲を取り囲む輪が、それでまた元の大きさへと戻っていった。

 それを確認してから、美咲は再度地面を蹴りあげる。跳ね上がってきたのは、全体が錆びきった大型のスコップだった。

 先端は土を噛むために尖っていたが、その部分は少し欠けてしまっている。先端部分だけではなく持ち手、支柱に至るまで全てが金属製で、それがもれなく錆びてついているために、独特な匂いを発していた。

 全高は美咲よりも頭一つ分小さいくらいで、かなりの大きさと重量がある。

 それを軽々と片腕で持ち上げ、そして美咲の攻勢は再開された。 

 刀に代わる、新たな武器だった。

 そしてそれが美咲の足もとに転がっているという事。それは戦闘が開始されてから、美咲の立ち位置が全く動いていないという事を意味する。

 数に物を言わせた怪物の攻撃をすべてかわしながらも、なお未だに一切の移動をしていない。

 その光景から想像もつかないほど、美咲は優勢だった。

 持ち物が凶器から道具になっても、その攻撃の鋭さに変化はない。斬撃の代わりに繰り出される殴打によって、怪物の頭部が次々に粉砕されていく。

 周囲には骨の砕ける音と肉の破れる音が響き続け、時間を追うごとに怪物の咆哮する音が徐々に徐々に小さくなっていく。

 やがて夕日が大通りを照らし始める頃、ついに最後の一体が後ろ向きに倒れ伏して周囲の残骸と同じになり、後には一つの息も上がっていない美咲が、ただ悠然と構えて立ち尽くしているだけとなった。

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