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甘いケーキを貴方に……

作者:

私はいつもの様にケーキを売る、甘くて美味しいケーキを。


誰のため?それは勿論お客様の為。

……建前はね。ホントは貴方の為、なんだよ?




   ***   




「彩ちゃーん、ケーキ棚に移しといてー。」

「はーい。」


私は今出来たばかりのケーキを運びながらそれらを眺める。クリームがたっぷり塗ってあるロールケーキ。見てるだけでほっぺたがとろけそうな位美味しそう。お客様に綺麗に見せるように角度を整えて並べる。


私こと月島 彩がこの店で働き出してもうすぐ一年が経とうとしていた。

元から甘いものに目がない私は大学入学後にたまたま通りかかったこの店に心奪われ、即日面接、即日合格を果たした。

それからはせっせと働き、今じゃこの店の看板娘って感じ?


大体週4日で働いてる。シフトが代わったりするけど土曜日だけは必ずバイトに出る。どうしてかって?それはあの人が来るから。


いつも土曜日、午後6時に。


カランカラーン。


「いらっしゃいませ、優さん。」

「はい、いらっしゃいました。」


榊 優さん。初めて出会ったのは3ヶ月位前かな?……私の一目惚れ。名前通りの優しい瞳にやられました。

優さんは毎週必ず午後6時にやってくる。ケーキを買いに。


「今日のお勧めはどれかな?」


「えっと……あっ、今出来上がったロールケーキなんてどうですか?」

「おっ、美味しそうだね。」


ガラスケースを眺める姿は新しい玩具を欲しがる子供みたいに可愛らしい。1つ年上らしいけどちょっと子供っぽいところも惹かれる。


「よしっ、じゃあロールケーキ2つね。」

「……はーい。」


2つの理由は簡単、1つは自分の、も1つは………彼女の。

いつも『2つ』って言われると胸がキューって締め付けられて痛くなる。なんだかそれが二人の『証』みたいで切なかった。いつもケーキに問いたいもの。


『二人はどんな顔をして貴方を食べてるの?』


って。

店から出ていった優さんを眺めながら、私は小さく溜息を吐いた。




   ***   




あれから2ヶ月、毎週やってくる優さんに私はケーキを売り続ける。いつもの様に『2つ』。

最近は雨がよく降る様になった。梅雨のせい?それとも私の心を映してるの?


今日も土曜日が来た。あの人には彼女がいる。そんなのわかってるのに……会いたい。

時計の針が真っ直ぐになる。いつもの様に扉が……開かない。珍しいな、遅れるのかな?

私はテーブルを拭いたり、ケーキを運んだり、お客様にケーキを売ったりしてたけど優さんが来るのを心待ちにしていた。


けど……この日は結局優さんが店に現れることはなかった。


次の週、その次、そのまた次も優さんはやってこない。私は足りない頭をフル回転させていた。

私、なんかしちゃったかな?それともケーキに飽きたのかな?………まさか事故!?

考えれば考えるだけ泥沼に入っていく感じ。今の私の頭の中はメレンゲを作るみたいにかきまぜられてる。

ねぇ、どうして来ないの?髪型変えたんだよ?ルージュも新しい色にしたんだよ?

全部、全部優さんに見せるために。少しでも何か言ってもらいたい、たとえ優さんに彼女がいても………会いたいよぉ。

私は彼女がいる優さんに心底惚れてしまったみたい。優さんに溺れてる。




   ***   




優さんがこなくなって1ヶ月が経ちました。相変わらず私は土曜日にバイトを入れてる。もしかしたらもう会えないかも、という一抹の不安を胸に溜め込んで。

そんな不安を拭い去ってくれたのは夏の夕方、勿論土曜日。

外では夕焼け放送が流れ、小学生達が大通りを駆けてゆく。私は看板にライトを灯しながらそんな微笑ましい光景を眺めていた。

小学生が走って行くほうからゆっくり歩いてきた人物に、私の呼吸が止まりそうになった。


「やぁ、久しぶり。」

「ひっ、久しぶり、ですね、優さん。」


ちょっとつっかえながら挨拶を交わす。優さんはやっぱり何も変わっていなかった。

私は優さんを店に誘導してガラスケースの向こう側へ戻った。


「今日のお勧めは?」

「今日ですか?う〜ん……」


ケーキのことより優さんと話をしたいのに……なんて思いながら並んだケーキを確認する。


「あっ、これこれ。最近店長が作ったオレンジムースのケーキ。夏蜜柑を使ってるんですよ。」

「へぇ、夏蜜柑か。俺蜜柑好きなんだよね。」


嗚呼、今すぐにでも私は蜜柑になりたい。


「じゃあこれを…1つ。」

「………はい?」

「いや、だからこれを1つ。」

「??」


私の頭の中はパニックを起こしている。


「?、どうしたの?」

「あのぅ……どうして1つなんですか?」


私の問いに少しだけ眉をピクッとさせた。


「………別れた。」

「………え………」


そのまま沈黙が続いてしまった。どうしたらいいかわからずにとりあえずケーキを箱に入れる。

ケーキの代わりにお金をもらって優さんは入り口へ向かう。

彼の優しそうな目に少しだけ寂しさが残っていたのに気付いた。


「あっ、あのっ!!」


気づけば私は叫んでいた。


「きょ、今日はここで食べていきませんか?」


優さんはポカンとしていたけど少ししてから笑みを浮かべた。


「じゃあそうしようかな?」




   ***   




店長さんの気遣いで私はバイト中なんだけど、今優さんの向かいに座っています。

甘いミルクティーを飲むわけでもなく、ストローでかきまぜる。氷のカランッて音だけが鳴った。


「………別れたのは1ヶ月前なんだ。」


丁度優さんが店に来なくなった日。


「確かに前々から別れそうな雰囲気だったんだけどさ。」


ハハッと自嘲気味に笑う顔を見るのは少し切なかった。


「………え、と。なんで……彩ちゃんが泣いてるのかな?」

「………え?」


私は無意識のうちに泣いていたらしい。私の涙は雫となってケーキの上に落ちる。


「……ほら、泣くなよ。」


優さんは私にハンカチを渡した。涙を拭いながら、不謹慎だけどちょっといい匂い……なんて思ったりして。


「さぁ、こんなしけた話はおしまい!!ケーキ食べようぜ!!」


私は黙って頷いた。今日のケーキ、店長さんは失敗したのかな?ケーキなのに……しょっぱいや。




   ***   






「美味しかったよ。」

「そうですか、ありがとうございます。」


私は一番の営業スマイルを作ってみせた。


「それじゃ。」

「待って!!」


帰ろうとした優さんを引き止める。


「また……一緒にケーキ食べてもらえますか?」


優さんは笑顔だった。


「勿論。」




あれから3ヶ月。私は今日も土曜日のバイト。

どうしてかって?それは待ってる人がいるから。ちょっと前までと時間は違うけど。

閉店前の音楽が鳴るころ、いつもの様に彼がやってくる。


「お待たせ、じゃ行こうか。」

「はーい。」


私はケーキの箱を持ち、彼の隣に向かって歩く。ケーキはもちろん2つ。それが今の私と彼の『証』だから。


「今日のケーキは?」

「今日はねぇ、やっぱり秋だからモンブラン!!」

「いいねぇ。モンブラン好きだよ。」

「じゃあ………私は?」

「もっと好きだよ。」

「えへへー。」


彼の腕にしがみつきながら頬の筋肉を緩ませる。今の私達は甘いケーキにも負けないくらい甘甘な愛を育んでいる。



私は今、毎週土曜日、彼の家でケーキを食べる。

昔ケーキに聞いたよね?多分いまの貴方ならこう答えるよね?


『私は今、貴方と貴方の大好きな人に食べられてますよ。』


ってね。

タイトルに合わせておやつの時間に投稿です(笑)

楽しんで頂けましたら幸いです。感想、評価、お待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] 絶対このハナシのケーキ屋があったら、行きたいくらいです! とても感動しました!! 「サクラの愛のカタチ」もスキでしたが、短編のこちらも中々だと思いました。 次の作品も期待しています。 あ、…
[一言] ケーキとカップルを組み合わせたいいお話ですね☆ 個人的に惜しいところを上げさせて頂くとしたら、ケーキにちなんだ告白シーンが欲しかった・・・かも。 これからも頑張ってください♪
2006/09/21 17:18 退会済み
管理
[一言] 読み終わってなんだか嬉しくなれる小説でした。 なんとなく「あまーい!」って叫びたくもなりました(笑)
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