異世界の精霊王に嫌われてカカシにされた俺が、始まりの村を守った話
仕事が終わらない。パソコンの文字を追いかけて、文字を打ち込み、内容について会議をして、伸びをする間もなく次のタスクをこなす。
俺は中堅になってきた。30歳。まだまだ出世していきたい。そのためには与えられる仕事を誰よりも上手く丁寧にこなさなければいけない。
「尾形さん、頼む」
頼み事は極力引き受けてきた。嫌いな奴の仕事は奪うつもりで。
……しかし、無理がたたったようだ。家に帰ってベッドに潜ったところで意識が遠のいた。深い眠りにつくのだろうなと感じながら、目を覚ました先には、
「目覚めたか。勇者が待っておったぞ」
フサフサのたてがみを持った光るライオンが居た。元気に泣いている赤ちゃんを運んでこう言う。
「お前は前の世界で死んだ。私、精霊王エメダレイがお前をこの世界に呼んだのだ。今からこの子の世話をしてほしい。将来勇者になる子だ」
……なんで俺なんだ。
「報酬は? 異世界では何が手にはいるんだ」
「勇者の世話を見たという名誉がある」
それだけのために、労働はしたくない。粉ミルクもよだれかけもない異世界の衛星管理で子育てなんて無理だ。
そう言うと、エメダレイは機嫌を悪くして、
「ならば畑にでも立っておけ。役立たずめ」
と怒って俺に魔法をかけた。
身体が動かない。影を見てみると、四肢部分が十字に伸びていた。コレはまさか……、
「カカシにされた!?」
話せるようだ。
エメダレイは、カカシの俺を咥えると、始まりの村の畑に差した。村人が物珍しそうに集まってくる。
「あらまぁ。見窄らしいカカシだこと」
「石投げてやらー! えーい!」
カカシには痛点が無いらしい。俺が『やめろ』と言うと、気味悪く思った数人が離れて行った。しばらく眺めていた人も、関わらないように存在をすっとぼける様になった。
そこへ、一羽のカラスがやって来る。カラスの言葉がなんとなく分かった俺は、カラスに問いかけた。
「この村、雰囲気悪いな。大丈夫なのか?」
カラスは頭を傾げたかと思うとカッカ笑ってこう言う。
「大丈夫。じきに魔王軍が攻め入って焦土と化しますよ。そのときにはまた死んでほかの異世界に呼ばれるんじゃないですか」
「カラスは異世界を行き来出来るのか?」
「まぁ一応」
俺はこの情報を伝えるべきか迷った。村の人間に良いイメージがない。こんなダサい村。燃えた所で悲しくもならないし。放っておくか。
「……ねぇ」
小さな女の子がカカシの俺の足元に走って来た。俺にウサギのぬいぐるみを引っ掛けて笑いながら言う。
「コレでさみしくないね!」
少女の笑顔は、俺のすさんだ心を浄化するほど強力に心に響いた。
(仕方ない。この子のついでに村を救ってやろう)
俺は走り去っていく女の子を見てそう誓った。しかし、カラスに協力を要請したら断られた。
「どうして無償でやらなきゃいけないのカァw」
なるほど。俺もエメダレイを怒らした理由は、カラスの様ななめた気持ちだったからかもしれない。
チュンと、スズメが鳴いていた。話しかけてみると興味津々に話を聞いてくる。スズメには『小さなものが大きな物を倒す』という謎の信仰があり、快く話にのってくれた。
横でハトが「クックックッw」と嫌味ったらしく鳴いていたが。
さて。
スズメとカカシだけで何が出来るのか。相手は魔法や協力な武器、強靱な体力を持っている。それにこの村人のまとまりの無さからして、総勢で戦うという選択肢は無いに違いない。
──だったら。
「米を好きなだけ食べていいとチュン?」
「ああ。憎まれっ子、世にはばかるだ。住人だけでも避難させるんだ。食糧が無くなればここから離れるだろう」
「でも、カカシさんはどうやって逃げるチュン?」
俺は正直、次の異世界を経験してみたかった。精霊王の思惑通り、一生カカシは気持ち悪いからな。
「ほら余計なこと考えずにいっぱい食え。夜のうちにな」
「やったぁチュン♪」
夜。
動かぬ身体で月明かりを感じたら、少しだけ高尚なものになれた気がする。腹を満たしたスズメには、舌を切られないように、遠くに隠れるよう命令しておいた。
朝になり、米がダメになっているのを見て、当たられたのが当然カカシの俺だ。話せるのに、威嚇もしなかったのかと村人たちの怒りが爆発している。
「ふん、こんなとこ。もう住めんわい!」
村長が肩書を捨てて村を出ていった。困った村人たちも大勢出て行く。不思議なことに、彼らの影の頭上には角のような寝癖が見えていた。
カラスが言っていた魔王軍は、何時まで経っても来ない。そこで俺は気づいた。
「始まりの村は、実はもう、魔王軍に乗っ取られていたのではないのですか」
俺の推測は当たっていた。
カナリの魔王軍が入り込んでいて、実質始まりの村を支配していたのだ。豊かな穀物を狙って。
残った村人たちと話していると、繁みからエメダレイが現れた。勇者の男の子を連れて俺の前で止まる。
「その調子だ。この子が勇者として目覚めるまで、賢いカカシで居てくれ。頼んだぞ」
(は?)
そう言うとエメダレイは勇者の男の子を咥えて東に向かって駆け出した。光の粒子が眩しい。
「ふざけるなぁあー!」
このあと魔王軍は何度も襲ってくるが、事情を知った村人が男を着せ替え人形にさせたりして、魔王軍をビビらせて追い返している。
その功績が認められて、カカシ化は解かれた。未だにエメダレイはムカつくが、勇者の男の子は立派に成長したらしく、魔王討伐の獲物を俺にもくれた。
また、俺は他の異世界に行く。久々に仕事がしたくなったからだ。誰かの仕事を奪い、出世する感覚を味わいたい。
現実では未完結で終わった、俺の『完璧な仕事』を魅せてやる!
おしまい




